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朦朧としていたおれが、何か箱のようなものから出て、最初に取った行動は・・・・・・、受け身を取ることだった。ガンッと音がして、胴が床に落ちる。咄嗟のことで完全には取れていなかったからか、なかなかな痛みが襲ってきた。ちょうど傷のあたりを強打してしまってはいるが、不幸中の幸いか、頭は打っていない。
起き上がると、近くに硬そうなパイプテーブルがあった。これがもう少し近かったら、頭を打ちつけていただろうことに青ざめる。下手をしたら致命傷だ。
そのぞっとしない発見のおかげか、頭が冷えて、今の異様な状況に思考が追いつく。
ぐるりと見渡すと、ベッドと大型のテレビ、一人がけのソファー、先程のパイプテーブルにデスクと椅子。自分が入っていたのはクローゼットだったらしい。そしてスピーカーが異様に付いた、壁掛けモニター。最後のものを除けば、よくあるワンルーム。家具の色はバラバラだが。ただ、こんな部屋を自分は知らない。クローゼットで目覚めたというのもおかしい。しかもそこには何着も、黄土色のラインの入った黒い長袖セーラー服に、同じ色合いのズボンが入っている。今着ている制服と全く同じものが、である。不気味だ。
誘拐。その言葉が頭に浮かんだ。ドアに手を掛ける。音を出さないよう慎重に・・・・・・、動いた。ドアは開いているらしい。完全に開けはせず、動くことだけを確かめすぐ閉める。
深呼吸。するべきことを考える。件のパイプテーブルの足をとりあえず掴む。そしてドアの方向に向かい・・・・・・。
「おはっくまー!」
「やめてっ! お願いもう壊さないで!」
「ほら、そーっと、そーっと、その手を放さんかい」
「もう後始末はこりごりだぜ!」
「連帯責任ってー、嫌な言葉だよね」
「・・・・・・」
わらわらと湧き出る五体の・・・・・・、何だろうか、これは。一つはロボットのようだが、それ以外はヌイグルミのような形状だ。膝あたりまでしかないサイズ。鼠? いや、尻尾からして熊だろうか。
桃色、青色の二体はおれの両足にしがみつき、黄色はパイプテーブルにぶら下がり、おれの手から引き剥がそうとしている。赤色と緑色はドアの前で仁王立ちだ。
ドアは動いていないのを確認する。ならば、
「・・・・・・たかが素人の即興バリケードに、何故そこまで警戒しているんだ?」
「バリケード用やったんか? 焦ったわ・・・・・・」
「ま、また偽装工作されるのかと思ってたの」
「ヘルイェー! それのせいで地獄の修理デスマーチだぜ!」
危害を加えられそうな気もしなかったので、疑問をぶつけてはみたが、思いの外あっさりと答えられた。ただ具体的なことはわからなかったが。
ドアを重点的に守る二体と、警戒されるパイプテーブル、偽装工作に修理。つまりは・・・・・・、何かの偽装工作に、誰かがパイプテーブルを使って、ドアを壊した、ということだろうか。そして、それをこのヌイグルミたちが直した、と。推測でしかないが。
まあ、誰か、というのがおれではないことは確かだ。覚えはないし、そもそもおれには嘘や偽装は出来ない。しようと考えるわけもない。幼少期、相手を騙そうとしても絶対にバレてきたので、おれが嘘や偽装をするだけ無駄だと知っている。
「ほっ。じゃあ、ここの説明をするわね。部屋の外に出てもらえるかしら?」
「じゃあオイラたちは他に行くね」
「ばーいくま!」
促されるまま外に出る。カラフルなヌイグルミたちは桃色を除き立ち去った。何処から出てきて何処に消えたのだろう。隠し通路でもあるのだろうか。
部屋の外はガラス張りの、ホール、だろうか? 今出てきたドアと同じものが、他に17枚。つまり全部で18枚ある。真向かいにあるドアは太い有刺鉄線で雑に封鎖されているが。
「今の部屋がキサマの部屋よ! ここは寄宿舎なの。キサマら超高校級の17人が寝泊まりするところね! シャワーもトイレもそれぞれの部屋にちゃんとあるわ。勿論鍵もかけられるわよ。
そういえば、ごめんなさいね、キサマの部屋だけ変な位置で。ちょっと、色々、あったのよ・・・・・・。うう、聞かないでちょうだい」
桃色のヌイグルミはしょぼくれながら茸を生やしている。芸が細かい。
今出てきたドアを見ると、その上にドット絵で、黒い
変な位置と謝られたのも納得する。ドアを開けてすぐ階段、しかもその裏だ。利便性は大分悪いだろう。頭が突っかかるほど階段との間が狭いわけではないが、それでも少し不便だ。
「あの向かいの、閉鎖されている部屋は、どうしたんだ?」
「きゃーっ! やめてちょうだい、聞かないでって言ったわよね!? ・・・・・・その、ちょっと扉が歪んじゃって。他にも色々あって。元々17部屋しか使わない予定だったから問題はないのだけれど、うう。・・・・・・失礼するわ! 周りを探索してみてね! 自己紹介は大事よ、ばーいくま!」
言い捨てて、桃色のヌイグルミも消えていった。本当にどうやっているのだろうか。
他の、封鎖されている以外のドアにはドット絵がついている。なら他人の部屋になるのだろう。わざわざ見るものでもないだろうし、失礼だ。他の部屋は見ずに、この建物の外に出てみることにした。
その時、おれの部屋の、隣のドアが空いた。
「ふむ、これはどういうことなんだろうネ。・・・・・・おや、他にも人がいるんだネ。あれらが言っていたことは嘘ではないかもしれないということかな?」
おれよりも背丈のある青年が、ドアから現れた。長く真っ直ぐな黒髪に、ミリタリー、といえばいいのだろうか? そんな学生服を着て、学帽を被っている。長袖の先から見える両手には包帯を巻き、口元は黒いマスクで隠している。
「おれもここでは初めて他の人に会った。はじめまして、宜しく。
「そうだネ。自己紹介は大事なことだ。はじめまして、僕は
確かにおれは、超高校級の肩書きを持ってはいる。他の超高校級に認定された人たちの噂を聞くと、それに比べればずっと大したことはない実績ではあるが。
「ああ、おれは一応、超高校級の合唱部という肩書きを持っている。どうしてわかったんだ?」
「君のところに来たかどうかはわからないけど、動くヌイグルミのようなものが17人の超高校級が集まっている、と言っていてネ。同年代であろう君もそうなんじゃないかと思ったんだヨ。
・・・・・・、そうだ、君だけに言わせるのも不公平だネ。僕も、超高校級。肩書きとしては、超高校級の民俗学者サ」
民俗学。正直に言うと、おれはそこまで詳しくはない。確かフィールドワークが多い、伝承や慣習を様々な観点から調査して、起源を探るような学問だった、気がする。学問の方向性からして、幅広い知識が必要そうだ。相当の知識人なんだろう。
それに、確かにあの桃色ヌイグルミは、超高校級の17人と言っていた。考えてみればその寄宿舎の部屋から出てきた真宮寺さんが超高校級でないはずがない。全く頭が回っていなかった。この混乱する状況でもすぐ考えが巡るのは尊敬に値する。
「浅学で申し訳ないが、確か大量の知識と実地調査が必要なんだろう? それを高校生で、政府に認められる程というのはすごいな」
「そこまで言ってもらえるのは光栄だヨ。まだまだ途上だけどネ。それにしても、民俗学のことを知ってくれているのは嬉しいネ。高校生では家庭によっては難しいし、興味も湧きにくい。存在を知らない人も多い。あまり同好の士がいないのサ。勿論僕は好きでやっているんだけどネ」
「フィールドワークとか大変そうだからな。勝手なイメージではあるが。
そういえば、ここの説明はヌイグルミから聞いたか? 寄宿舎だと言っていたが」
「聞いたヨ。僕の部屋はここだとネ。テレビは電源はついたけど、番組は見れなかった。これ以上ここにいても仕方なさそうだし、外に出ないかい?」
「ああ、賛成する」
一応他にも人がいないかと各部屋にノックをしたが、何処からも返事はなかった。つまり、あと15人の超高校級は、この外にいるのだろう。ガラス張りの自動ドアを通った。
「・・・・・・鳥籠、それに壁かな」
「壮大な建築物だ。よく自重に耐え切れているな、あれは。意味があるのか?」
「多分上空にも何かあるのだろうネ。そうでなければあんな巨大な建築物、作ろうともしないはずだヨ」
見えたのは、周囲を円形に囲う高い灰色の壁と、そこから伸び、湾曲しつつ頂点で合流する、言うなればスケールの狂った鳥籠。しかしそれが捕らえているのは文鳥でも鸚鵡でもなく、おれたち、17人の超高校級。非日常的なそれらは不穏さを醸し出している。
おれは、おれたちは一体何に巻き込まれているのだろう。
飛登の制服は、学生服でいうところのセーラー服というよりは、水夫が着ているようなものに近いと思っていただければ。ズボンですし。黒いけど。