才囚学園生徒、17人目の超高校級   作:御簾障子

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 遅くなってごめんなさい。




はじめまして超高校級 1

 ヒト アガタ

 

「さて、どうするかい? とりあえず人影は見えないから、ここから移動する必要はありそうだけどネ」

「そう、だな。・・・・・・。左手の大きな建物に行ってみないか? あの中になら、誰かいそうだと思うんだが」

「賛成だヨ。あそこの城壁らしきものも気にはなるけど、あからさまに太い道が続いているからネ。重要なのは多分そちらだろう」

 

 真宮寺さんと並んで歩く。その大きな建物までは、そこまで遠くはなかったがある程度警戒しながら進む。

 ・・・・・・特に何も起こらなかった。誰か他の人も見つからず、あのヌイグルミも現れない。周囲に監視カメラのようなものもなく、柵や木が道の両端に並んでいる。そんな普通らしい景色の中に、コンクリートの塊や、正方形の近未来的なコンテナがいくつかあるのは謎だが。

 

 ・・・・・・ガチャッ ガチャガチャッ

 

 建物の扉を開けてみようとしたが開かない。中に何かあって開閉を邪魔しているというよりは、鍵のかかっているような感触だったので、素直に諦めた。押す引くスライドしてみるは全て試しはしたので、開け方が間違っているということはないと思いたい。

 

「ンー、これは、一時的に閉まっていると見るべきだろうネ。外の街路樹や建物も、ある程度人の手が入っていそうだから、一番大きなここが手つかずとは考えにくい」

「裏口を探すべきか? これが表玄関とすると、ここまでの大きさならあるだろう。そちらなら開いているんじゃないか」

 

「他の入り口みたいなものはあっちにあったけど、そこは開いていなかったよ」

 

 急に掛かった声に顔を向けると、左の道から、とても背が高く筋肉質な人が出てきていた。茶色のブレザーは制服に見えるし、おそらくおれたちのような、超高校級の一人なんだろう。眼鏡に、崩さずしっかりと着た、落ち着いた色のブレザーと、並べてみれば大人しそうな特徴ではあるが、実際は背と体格やうねった長髪で、威圧感がある。

 

「ごめんね、急に話しかけて。困っていそうに見えたから」

「いや、情報はありがたいヨ。一回りするのは大変そうだからネ。その場所はどうだったのか、教えてもらってもいいかい?」

「えっとね、今、ゴン太が来た道をそのまま辿ると、途中でカフェのテラスみたいなところがあって、そこに扉があったんだ。でもゴン太の力でも開かなかったから・・・・・・。それに、そこの近くにもう一つ建物があったよ」

 

 裸足の大きなその人は、その巨躯と筋骨隆々さからは普通の人はあまり想像しなさそうな人柄だった。穏やかな話し方に柔和な表情。最初に感じた威圧感はすぐに解れた。

 

「そうなのか、ありがとう。・・・・・・。そういえば、貴方の名前は?」

「あっ、ごめんっ! 最初に名乗らないのは紳士じゃないね。忘れちゃってたよ、聞いてくれてありがとう。

 名前は、獄原 ゴン太で、超高校級の昆虫博士なんだ。

 今は虫さんを探してて・・・・・・。虫さんを見てないかな?」

 

 よく見れば、肩から下げているのは鞄ではなくて虫籠だった。だが空っぽだ。確かに、よく考えてみたら一匹も虫を見ていない気がする。木や草は多いが、反して虫がいないように見えるのは少しおかしい、のか? おれはわざわざ注目していなかっただけだろうし、そのうち見つかると思うが。

 

「・・・・・・。いや、申し訳ない、見ていないな。今気がついたばかりだから、まだ周囲を見れていないんだ。見つけたら教えようと思う。

 それに、おれも遅れていた。おれは飛登 県。超高校級の合唱部だ」

「僕も名乗っておくヨ。真宮寺 是清。超高校級の民俗学者サ。宜しく頼むヨ。

 ここはもう君が調べてくれているなら、僕たちは他の場所に行くヨ。手分けした方がいいだろうからネ」

「それならとりあえず、こことは逆方向に行こうと思うが、獄原さんはどうするんだ?」

「ゴン太はもう少しここで虫さんを探すよ! 探し終わったら他のところにも行こうかなとは思ってるけど」

「そうか。なら、ここで失礼する。教えてくれてありがとう。こちらも何かあったら教えにくる」

 

 獄原さんと別れる。優しそうな人だった。しかしあの体格は正直なところ羨ましい。物凄く羨ましい。下に目線を向けて自身の腹を見る。薄っぺらい。腹筋が割れるどうこうのレベルですらない。背が獄原さんとは15センチは違うが、おれがそのまま伸びても絶対にああはなれないことはわかりきっている。せめて、せめて標準的な程度で十分だから体格が欲しい。筋肉が欲しい。むしろ贅肉でも問題ない。20センチ近く下の妹より軽かったあの絶望は二度と味わいたくはない。

 

「・・・・・・どうしたんだい? 体調でも悪いのかな?」

「顔に出ていたか。いや、体調が悪いわけではなくて、考え事を。・・・・・・その、獄原さんの体格が羨ましいと思ったんだ。心配させてすまない」

「顔に出ていたと言うよりは、どんどん君が俯いていったからネ。無表情のまま沈んでいったから余計に悪いのかと思ってサ。何もないならよかったヨ。

 それと、彼についてだけど・・・・・・。まあ、僕も筋肉がある方ではないし、気持ちはわかるヨ」

 

 顔には出ていなかったらしいが、急に俯き始めているのもそれはそれで不味い。気をつけようと思う。

 それにしても真宮寺さんはそう言ってくれたが、真宮寺さんもおれよりはよっぽどがたいがいい。・・・・・・羨ましい。

 

 

 

 真宮寺さんと軽く話しながら歩を進める。次は寄宿舎から出たときに目に入った、白い城壁のようなものへ向かう。異質ではあるが、この状況自体が異質なのだから、むしろ似つかわしいのかもしれない。

 そこに続く細い道を思い切り塞いで、前述の正方形コンテナが四つほどあったが、道を外れて迂回して通った。その前になかなか立派な藤棚があったが、どう考えても西洋風の城壁あるいは城門の近くに何故公園にあるような藤棚があるのか。ますますここのコンセプトがわからない。あの熊だか何だかわからないヌイグルミといいこの乱雑さといい、これらの設計が同一人物なら、あまり趣味は合わないだろう。おれも美的センスには欠片たりとも自信はないが、これは稀なものだとはわかる。

 

 コンテナの脇を通って、城壁に目を向けると、そこには先客がいた。あちらは城壁を見上げていて、こちらに気づいていないようなので、声を掛けた。

 

「はじめまして。そこの人、少しいいか?」

「ん? おお、なんだ、いいぜ! そっちも、超高校級の誰かだろ? 状況は同じってわけだ」

 

 振り返ったのは、赤紫蘇のような色のコートを片腕だけ通して羽織り、何故か足元はスリッパを履いている、顎髭が特徴的な先程の獄原さんとは別の意味で高校生に見えない人だった。そして、背はおれと同じくらいか、少し高い。

 何故ここまでおれよりも高い人ばかりなのだろう。真宮寺さんといい、獄原さんといい、この人といい。そこまでおれは小さい方ではないと思っているし、むしろ同年代なら背の高い方に分類されると思っていたのだがそれは驕りだったらしい。別におれが他より多少小さいからといって特に不便がありそうでもないが、何となく物悲しい。・・・・・・いや、そんなことを考えている場合ではなかった。

 

「ああ。超高校級の合唱部。飛登 県。そして、こちらが」

「超高校級の民俗学者、真宮寺 是清サ」

「おう、そうか!

 オレは、宇宙に轟く百田 解斗だっ! 泣く子も憧れる超高校級の宇宙飛行士だぜ! よろしくな!」

 

 両拳を突き合わせながら百田さんは言う。宇宙飛行士。なんと言おうか、スケールが大きい。泣く子も憧れる、というのも納得する肩書きだ。知らなかった。宇宙飛行士は高校生でも選考に参加できるのか。気象予報士の資格などと同じようなものなのか。完全に振り向いている今だから見えるが、コートの裏地は宇宙のような柄だった。

 

「おや? 宇宙飛行士試験は確か大学卒業が必要だったような気がしたんだけど、いつの間にか変わっていたんだネ」

「それで間違ってねーよ。本来なら大学卒業資格が必要だな」

「なら留学でもしていたのかな? 日本にはスキップがある学校がないからネ」

「いーや、そうじゃなくてな。知り合いに偽造して貰ったんだ。ま、色々とな」

 

 選考には普通参加出来ないらしい。危なかった。間違った知識を覚えてしまうところだった。

 それにしても、偽造なら・・・・・・。

 

「犯罪じゃないか? 普通に話していることからして、ばれたのだとは思うが」

「おう、結局はバレたな! そりゃもうエライ目に遭ったぜ。だけど上の連中が面白がって採用してくれたんだ。もちろん試験の結果が十分だったってのもあったけどよ。今は訓練生だな。十代では初なんだぜ」

「・・・・・・ん? 待ってくれ、終わった後にばれたのか? しかも十分な成績を残して?」

「そういうことだな。それがどうしたんだ?」

 

 何人も受験生が来るとはいえ、宇宙飛行士は定員が少ない。狭き門だ。勿論重要な役職でもある。それの身辺検査はそんなほいと抜けられるようなものではないだろう。

 そして百田さんは、大学卒業が最低条件であるはずの試験を、そんな特例を取っても構わないと上役から判断されたというわけで。つまりその結果は、並大抵のものではない。

 

「すごいな。相当精巧な偽造だったんだろう。父の知り合いにできそうな人もいるがそこまでのものとなるとなかなか無いと思う」

「それに圧倒的な成績だったんだろうネ。規則を曲げても欲しいと思うほどに。感嘆するヨ」

「おお、そこまで言われると照れるな。

 っと、そうだ。本題に戻らねえとな。って言ってもこの城門のことだろ? 扉は完全に閉まってて開かねえな。扉も壁も固くて破れそうには無い。抜け穴っぽいのも無いぜ。おそらくそこの六角形が関係してくるとは思うけどな。まあ多分こいつは真面目に侵入を防ごうとはしてないだろ」

「どういうことだい? 理由を聞かせて欲しいな、興味深いヨ」

「ほら、この壁見てみろよ」

 

 そう言いながら百田さんは白い壁を叩いて示す。

 

「よく見りゃわかると思うが、手がかりになるものが多い。窓みたいな物とかな。壁自体もレンガかどうかはわからんが組み上げがレンガ式でその間が凹凸になる。かえしもそこまで大掛かりじゃねーし、登ろうと思えば道具なしでもある程度いけるだろ。それに何よりも、高さだ」

「そうか、外を囲っているあの巨大な壁に比べれば、乗り越えてくださいと言わんばかりだな」

「本当に阻みたかったら妥協はしないだろうしネ。飾りみたいな物なんだろう」

「だから逆にわざわざ越えなくていいだろうと思ってよ。重要なもんはないだろうし、下手に入って出て来られなくなったらことだ」

 

 成程。わかりやすいし納得がいく。それにしても、ここも潰れるとなると後は一方向しかない。寄宿舎から出て右側。太い道のもう一方。

 

「教えてくれてありがとう。助かった。もう一つ聞きたいんだが、誰か他の人を見ていないか? こちらはあそこの大きな建物の近くで、獄原さんという人にしか会えていないんだが」

「うん? オレはそいつには会ってねーな。その代わり、女子二人に会ったぜ。ここから見て、左側。そこに植物園みたいなものがあってな、そっちに向かってたぜ。多分お前らとは入れ違いになったんだろーな」

 

 次の目的地が決まった。

 

 

 

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