才囚学園生徒、17人目の超高校級   作:御簾障子

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 不定期ですみません




はじめまして超高校級 2

 太い道に沿って、植物園があるという方向に進む。百田さんはもう少しあそこを調べるらしい。

 それにしても人が少ない。あのヌイグルミは17人と言っていた。おれを含めて17人と考えても、真宮寺さん、獄原さん、百田さんとこの先にいる二人と、合わせても半分もいかない。

 他の建物にまだいるのだろうか。あの城壁の先しかり、逆方向の建物しかり。行ける場所と、行けない場所。開けるトリガーがあるのだろうか。意味があるのかないのか。少なくとも今は机上の空論にしかなり得ない。

 

 

 

 階段を降りる。その植物園の立地は他よりも低い位置だ。何故ここだけ下がっているんだろう。

 降りた先にはまず円形の広場がある。右側に細い横道。瓦礫で塞がれていて、遠くに見えるのは、一軒家ほどの建物だろうか。駐車場のようなものがついているように見える。左側には、小さな謎の石像があった。デフォルメされた忍者で、狐面を被っている。石像部分は色がついていないのに面は青赤黄色で色づけされているのがアンバランスだ。本当にここの設計者のセンスは意味がわからない。むしろ相談なしで複数人が一斉に各々の場所を設計したと言われた方が納得がいく。

 

「地蔵を気取るならもう少し、こう何かなかったのか」

「道祖神と考えても位置がおかしい。ただの観賞用の石像だろうネ。もしかしたら何か意味があるのかもしれないけど、今は考えても仕方なさそうだヨ」

 

 そういうことで満場一致でその石像は無視することになった。二人だけだが。そして正面に目を向ける。

 

「鳥籠か? 外のものに比べれば小さいが」

「そうだネ。僕もこれもドームというよりは鳥籠に見えるヨ。緑が覆ってるけど、上部はガラスも何も無さそうだ」

 

 扉は動くようだ。まあ百田さんの口ぶりからして中には入れたのだろうから驚くことでもない。これを外側から見るだけで植物園のようとは思えないだろう。

 

「開けるが、いいか?」

「大丈夫だヨ」

 

 大きな扉をゆっくりと開ける。腕力の低さで厳しいかもしれないと扉に手をかけた時思ったが、この大きさにしては軽く動き、安心した。そのまま扉を最後まで押す。

 

「おー! 初めて見る二人だねー」

「・・・・・・あら。はじめまして」

 

 話をしていた二人が振り返る。白い髪の褐色の肌で、黄色のコートを纏った人と、銀髪の、白く長いワンピースに、黒いジャンパースカートを重ねた人の二人だ。

 

「ああ、はじめまして。おれは飛登 県、超高校級の合唱部だ。で、こちらが」

「超高校級の民俗学者、真宮寺 是清サ。宜しくお願いするヨ」

 

 怪しまれてはたまったものではないので手早く自己紹介をする。おそらくこの二人も超高校級なのだろうし、警戒する意味もない。

 にこにこと笑顔が明るい、白髪の人が口を開く。

 

「にゃはははははー! いい自己紹介だねー! 神さまも、ちゃんと名乗るのはいいことだって言ってるぞー。

 アンジーは、夜長 アンジーだよー。超高校級の、美術部なのだー!」

「私も名乗らせてもらうわね。

 私は、超高校級のメイド、東条 斬美よ。どういう状況なのかはまだ把握できてはいないけれど、困ったことがあったらいつでも言ってちょうだいね。私ができることなら、依頼として承るわ」

 

 それに続いて銀髪の人も名乗る。夜長さんに東条さん。

 驚いたのは、夜長さんの服装が、水着だったことだ。腹と足が出てしまっている。コートを羽織っているとはいえ寒くはないのだろうか。腰には工具を取り付けた布をぐるりと巻いているが、それでそこまで変わるはずもないだろう。褐色の肌からして温暖な場所の生まれなのかもしれないが、それだと余計にまずい気がする。心配だが本人は無理しているようには見えないし、他人が言っていいものではないだろう。

 東条さんは夜長さんとは逆に、足首に届きそうな長さのスカートに手首まで覆う長袖。ヒールのついたブーツに黒い手袋と、肌を殆ど見せない格好だ。頭には黒いヘッドドレスをつけている。物腰も含めてメイド、という言葉を正しく具現化したような人だ。上品で格好良い。真宮寺さんもそうだが、同年代とは思えないほど落ち着いて大人びている。

 

「失礼じゃなければ聞きたいのだけれど、神さまが言っている、というのはどう言うことかな?」

「アンジーはねー、神さまの声が聞けるんだー。島の神さまがいつもアンジーの隣にいるからねー」

「! 成程、興味深い。ククク・・・・・・。是非詳しく聞かせて欲しいヨ」

「おー、是清は将来有望だなー。神さまも喜んでるよー」

 

 いつの間にか真宮寺さんと夜長さんが楽しそうに会話している。それを邪魔したくはなかったので少し遠ざかると、東条さんも同じように横に避けていた。

 

「東条さん、今のうちにここのことを聞いてもいいか?」

「ええ。そうね、ここは公園に近しいものだと思うわ。噴水に花壇。ベンチもいくつかあって、どれも綺麗な状態よ。花も外の伸びるに任せたような植物と違ってしっかり手入れされている。軽く見て回っただけだけれど、萎れた花が殆どないわ。そうね、公園と称するには花壇が多すぎるような気もするけれど」

「そうなのか。あれは?」

「あのモニターね。私がここにいる間には何も映らなかったわ」

「おれも他にいくつか見たが映っているところは見たことがない。何に使うためのものなんだろうな」

「ごめんなさい、見当もつかないわ。それは、この状況そのものにも言えることだけれど・・・・・・」

 

「おはっくまー!」

 

 前触れもなく大きな声が響き渡る。あのヌイグルミたちの声だ。軽い音を立てて、噴水のあたりに現れる。今回は青色と黄色の二体らしい。

 唐突さに身体を固まらせていると、東条さんがおれの前に出て庇うように立つ。真宮寺さんと夜長さんは自然体で二体を見下ろしている。

 

「ヘルイェー! さぁて、大事な大事なお届け物だぜ!」

「ああ、キサマラがどっかになんか忘れ物したっちゅー訳ではないから安心してええで。ワイらモノクマーズからの素敵なプレゼントや」

「他の奴らには元々持たせてあるんだけどな、キサマラは目覚める場所が場所だから、壊しちまうかと思ってよ!」

「ワイらの心遣いってわけやな。頭地面に擦り付けて感謝せい」

 

 そう言って短い足でちょこちょこと駆けて来て、おれたち四人に何かを渡す。小さなタブレット型の端末だ。白黒半々にカラーリングされていて、裏面の真ん中には、『才』の字だと思われるデザインが入っている。全員それは同じのようだ。

 画面を押してみると、『飛登 県』と名前が映り、“マップ” “ツウシンボ” などといった項目がある。

 

「これは “モノパッド” やで!」

「超ハイスペックな優れものだぜ!」

「細かいことは時間ないから言わへんけど、大事にした方がいいってのは言っておくで」

 

 他の奴ら? この場にいない百田さんと獄原さんか? それとも、おれたちがまだ会っていない超高校級?

 いや、そんなことは後回しだ。このヌイグルミたちは用がなくなるとすぐ消えるのは経験済みだ。だから、これは今のうちにしておかなくてはならない。

 

 おれはモノパッドを持ったまま、噴水に近寄る。腕を軽く捲る。

 

「なんやなんや?」

「ミーたちになにか用か!?」

 

 そのままモノパッドを持った手で、ヌイグルミたちの方へ、否、それの奥、水が流れている滝にモノパッドを叩きつけた。

 

「へ? ・・・・・・ぎゃーっ! なにしてくれてるんや! さっき大事にした方がいいっていったはずやで!?」

「ミーもそれは覚えてるぜ!? モノスケはちゃんと言ってただろぉ!?」

 

 いや、叩きつけたと言っても水が流れ落ちる部分の壁は更に奥にあるので、追突させたわけではない。ただ水に浸しただけだ。

 

「防水かどうかを確かめておこうと思って。言われただけだと納得できなそうだから試しただけだ。それで壊れても渡した奴がここにいるから直すなり交換するなりしてくれると思ったんだ」

「クレイジーだな! ならなんで振りかぶったんだよぉ!?」

「速めに終わらせないとすぐどこかに行くとわかっていたから、焦ったんだ」

「もう嫌やこいつ・・・・・・」

「しかも筋は通ってなくもないからタチが悪いぜ・・・・・・」

 

 キノコを生やしているヌイグルミ二体を放っておいて、モノパッドを起動する。・・・・・・問題なく動くらしい。色々操作してみたが特に異常はないように思える。

 

「・・・・・・そうだ、ヌイグルミたち、水を被ってはいないか? 被るほどの勢いにはしてないと思うんだが、もしも被っていたら申し訳ない」

「なんやろ、良識はあるんか。むしろなにがなくてその考えに至るんや・・・・・・」

「濡れグマにはなってないぜ・・・・・・」

「・・・・・・もう失礼するで」

 

「ばーいくま・・・・・・」

 

 ヌイグルミたちは消えていった。登場時に比べて大分暗い声だったが。

 

「クックック・・・・・・。面白いネ。これだから人間は素晴らしい・・・・・・」

「どうしたんだ? 真宮寺さん」

「いや、なんでもないヨ。それにしても、今の行動は助かったヨ。確かにあれらの言葉が本当かどうかわかりはしないということを失念していたヨ」

「そうだねー。県のことを神さまは爆笑しながら見てたよー。よかったね、神さまが気に入ってくれたみたいだー」

「飛登くん、大丈夫かしら? 濡れたままなのは冷えるわ。これを使って頂戴」

 

 褒められている気はしないが馬鹿にされているようでもない。東条さんがハンカチを貸してくれたのでありがたく使わせてもらう。今気づいたが、いつも使っているハンカチを持っていなかった。

 借りたものを畳んで返して、お礼を言うと、「気にしないで。メイドだもの、当然よ」と東条さんに言われた。凄い人だ。

 

「そうだ、真宮寺さん。獄原さんにここのことを教えに行かないか? 虫を探すなら花が多いここはいいと思うんだが」

「わかったヨ。今他に出来ることも無さそうだし、知らせに行こうカ」

「アンジーはまだここにいるよー。神さまがこの辺りにいるべきって言ってるからー」

「私はもう少ししてから出ようかしら」

 

 


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