自己満で
今は世界人口の八割が個性と呼ばれる特異体質を持つ超人社会。
そして俺は、個性を持っているのが普通になっている社会で暮らす個性を持っている普通の男子中学生だ。
俺の個性は『蜘蛛』。壁に張り付き登ることができるのと、危険を察知することが出来るだけの、所謂弱個性だ。
そんな個性を持っている俺は、今日もいつもと変わらない一日を過ごす……はずだった。
朝目覚めてすぐに、自分の体の異変に気付く。
のどが変な感じがする。しかも、体はなんだか軽い。風邪でも引いたのだろうか。
しかし今の俺は第二次成長期を迎えつつある中学一年生である。成長痛に近しいなにかだろうと思うことにした。
体を起こしベッドから降り、部屋から出て身支度をしようと思い、部屋の扉のドアノブを握りしめた。
その時だった。
ドアノブがひしゃげ、壊れてしまった。
俺は増強型の個性でもなければ、このドアノブが脆いわけでもない。いつものように普通の力で握っただけだ。
困惑しつつもとりあえずドアを開き部屋を出る。
気になることはあるが、とりあえず歯磨きをしようと思い洗面台に向かう。
洗面台の鏡を見た時俺は驚いた。
なぜなら、そこには自分の知らない人が映っていたのだから。
黒髪は腰のあたりまで伸びており、通りすがった人は間違いなく振り返るような可愛らしい上品な顔立ち。
そして、俺が口をパクパクとさせると、それに連動したようにその人も口をパクパクさせる。
それで、俺は気づいた。
鏡に映っているのは知らない人ではなく、俺なのだ。
つまりは、俺は性転換してしまったのだ。
性転換なんて創作物でよくある話であって、現実でそのようなことが起こったなど聞いたことも見たこともない。
しかし、現在自分自身そうなっている。
頭がパニックだ。
「あ、あーあー」
試しに声を出してみる。誰が聞いても女性の声だ。
胸のふくらみに触れてみる。
自分の体ではあるだろうが、なにか悪いことをしている気分になる。
男だったころにはなかったやわらかさがそこにはあった。
そして、最後に股間に触れてみようかと思ったが、触らずとも分かってしまった。
なかった。
胸にぽっかりと穴が開いた気分だ。穴が開いたのは股間なのだが。
そんなしょうもないことを頭の片隅においやって、どうするべきかを考える。
性別が突如変わるなんてことは個性関係でしかありえないだろうから、個性届を変更する手続きを行う?
いや、先に母さんに報告だ。休日に朝早くから起こすのは申し訳ないがこちらも緊急事態だし仕方ない。
母親の部屋の扉を開ける。今度は、ドアノブを壊さないようにゆっくり、弱く。
力の調節に成功したようで、ドアノブは壊れずに回転してくれた。
「母さん、休みの朝から申し訳ないけど起きて」
「な~に~、八菜。今日は土曜日で私も仕事休みなんだからもう少し寝かせて……」
「母さん、早く起きてよ。ほら、俺の声を聴いてなんか変に思わないの?」
「ん~、なんか声変わりした?」
「男子の声変わりは大抵低くなるよ。ほら、早く起きて」
必死に起こしていると母さんはやっと目を開けてくれる。
すると、母さんは飛び起き……
「はいはい……。って、どちら様ですか!?」
「そんな、テンプレみたいな反応しなくていいから。俺は雲嶋 八菜だよ。正真正銘母さんの息子の」
「そ、そうよね。私は息子しか産んでないわよね……。じゃあ、尚更おかしいじゃない!」
「俺もおかしいと思ってるよ! 朝起きたら体が女の子になってんだもん!」
「そ、それでもねえ……うん?」
母さんが口を閉ざすと俺の顎に両手をあて顔をじろじろと眺めてくる。
「ど、どうしたの?」
「なんだ、八菜じゃない。右目の涙ぼくろで分かったわ。驚いて損した~」
「そ、そんなので判断していいの?」
「いいのよ。八菜のチャーミングポイントは右目の涙ぼくろだからね。それに合わせて本人がそう言ってんなら違いないわ」
「そ、そうなんだ……。うん、で、えーと、なんだっけ」
「体が女の子になったことを私に言いに来たんでしょ?」
「あ、うん。そうなんだ。俺、そうなっちゃって、どうしようかなって……」
「どうしようもなにも、普通に生活すればいいじゃない」
「え?」
「女の子のマナーとかなら私が教えてあげるし、個性届を変更しちゃえばいつもと変わらない生活の幕開けよ? 何も変わらないじゃない」
「た、たしかに……?」
「はい、解決ね! ……それにしても、随分と可愛くなっちゃってまあ」
「ちょっと、やめてよ母さん、一応男なんだから」
「いいじゃない、可愛いんだから。それに、母親からすれば自分の子供は息子でも娘でも可愛くて大切なのよ」
可愛いなんて言われ慣れていないから、ほんとにやめてほしいのだが……
「はい、じゃあ私昼に個性届を変更しに行ってくるから。なんか他に変わったことがあれば後で教えてね。それじゃ、私はまた寝るから」
「あ、うん。おやすみ……」
そう言って、母さんはまた寝息を立て始めてしまった。
やることもなくなってしまったので、先ほど中断してしまった身支度をすることにした。
再び、洗面台の前に立つ。
鏡を見ると、確かに可愛らしい女の子がこちらを見てくる。
これが俺だということをまだ信じ切れていない。
それにしても、可愛い。
男の頃は自分の容姿に自信をもてていなかったが、今なら十分自信をもって生活できるだろう。女の子の体になってよかった点一つ目だ。
「これ、着替えなきゃいけないのか」
女の子に体に早く慣れてしまわないといけない。
服を着替えた俺は自分の変わってしまった個性について考える。
俺の個性はどう変わってしまったのだろうか。
壁に張り付いて登るのが精々の個性がいまや美少女になり力も強くなる異形型と増強型を合わせたような個性になっている。
もしかすると他にもできることはあるかもしれない。
もともとの個性は蜘蛛だし、蜘蛛糸とか。
なんか、掛け声とか、ポーズとかで発射されたりしないだろうか。
「の、伸びろ! 糸!」
言いながら人差し指を立ててみるが何も発射されない。
「まあ、そりゃそうか……」
独り言を言いながら、テレビをつける。
テレビをつけ、偶然やっていたチャンネルは最近人気のロックバンドをまとめた特集番組だった。
ロックバンドの象徴ともいえる手のポーズがあるらしく、それについてちょうど話していた。
手のポーズについて考えていたばかりなので気になってよく聞いてみる。
「中指と薬指を折りたたんで、親指人差し指小指は立てる……」
ポーズを真似してみると、手首から白いものが発射された。
しかし、自分に手首を顔に向けてしまっていたせいで自分に向かって発射されてしまう。
「ふげっ!」などという情けない声をあげてしまった。
顔に発射されたものを手で取ろうとするが、妙にねばねばしている。
「これって、本当に蜘蛛糸なんじゃ……」
テーブルのコップに向かって糸を発射してみる。すると、コップに糸が張り付く。
糸を引っ張り、コップを取ろうとすると、力を入れすぎてしまい、コップが後ろの壁に勢いよくぶつかり割れてしまった。
「やっちゃった……」
掃除しなきゃいけないな、などと考えながら改めて自分の個性について考える。
俺の個性は『蜘蛛』。できることは壁に張り付いて登る。そして、危険を察知すること。
そして、今はそれに加え、増強型のような力、蜘蛛糸発射、そして、女性の体になること。
これでは、俺の個性は『蜘蛛』ではなくて『蜘蛛女』ではないか。
「とりあえず、掃除しなきゃな……」
そして、俺は掃除に取り掛かった。
傍から見ると、家事ができる可愛い女の子ということに言葉にしにくい何かを感じながら。
VRのアバターが女の子だと心も女の子になりやすいという話を聞いて、心は男だから男に興味はない!なんて通用しないだろうと思って書いています。
もう少し一話ごとに長い方がいい?
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短くていいから話数を稼げ
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現状維持
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もっと長く