戦闘訓練終了後、私は壁に貼り付けてた透ちゃんと気絶してた尻尾くんを助け、モニタールームに戻っていた。
それにしても、やっぱり跳躍からのウェブで引っ張り上げてパンチは万人に通用する気がする。誰だって宙に浮かぶとかびっくりしちゃうよね。ヒーロー科の人でも通用するのはいい事知ったな。
「さて、今の戦闘訓練の講評を行うが……まず、今回のMVPは間違いなく雲嶋少女だろうね。一対二という圧倒的不利な状況を覆し勝利を収めた! ヒーローらしい勝利と言えるね」
ナンバーワンヒーローからのお褒めの言葉、特にファンというわけでもないが、うれしい。
「しかし、無駄な動きがあったね。はい、それがなにか分かる人!」
無駄な動き……屋上を見に行ったこととかだろうか。よくよく考えれば間取り見ればわかることだったしな。四階から更に続く階段ない時点で分かってたことだった気がする。
うーん、意外と思い当たらないもんだな。
「よし、それじゃあ、八百万少女!」
「はい、雲嶋さんの行動で無駄だと思われるのは、戦闘中の行動です」
「え、私戦闘中が一番自信あったんだけど……」
「はい、確かに、一対二を覆したのは見事でしたが、わざわざ相手の得意分野で戦ったことや、途中尾白さんの攻撃を大げさに回避していたことなど、それらは改善すべきかと思いますわ」
ぐうの音もでない。でも、得意分野で勝ったり、大げさに回避したりするのって、かっこいいじゃんね。ヒーローはみんなに安心感を与えるための仕事だぞ? 全く、一つ言ってやろう。
「その通りでした。改善します。はい」
勝てん。
授業が終わり、後は帰るのみとなった私。やけにオールマイトが急いで戻っていってたけど、なんかあったのかな。
もちろん着替えは女子更衣室だった。慣れない。
出久は保健室だろうし、訪ねてみようかな。あーでも、治癒にも疲労が溜まるとか言ってたし、今は横になってるだろうし、邪魔しちゃ悪いか。
あれ、なんか切島くんこっち来てない?
「なあ、俺たち、今回の戦闘訓練の反省会を講評とは別にやろうと思ってんだけどよ、一緒にどうだ?」
そう言って後ろを指差す先には、セロハンテープの人や三奈ちゃんが集まっていた。
「いいよ、特に予定も……まあ、ないしね」
「おお! あのすっげえ戦い見せてくれた雲嶋が参加してくれるなら百人力だぜ!」
「別に、反省会もできるとは限らないけどね」
なんか、思ったより期待されてる? 私そんなに人にアドバイスできるような感じじゃないんだけど。
まあ、私はアドバイスしてもらうだけでもいいか。
反省会に参加させてもらった私はみんなの話を聞いていた。
「八百万のあの個性の使い方は流石だったな。なんつーか、流石万能個性! って感じだったわ」
そう言うのはセロハンテープの人、名前は瀬呂くん。
たしかに、百ちゃんの個性はすごい万能だった。戦闘向き個性じゃなかったもぎもぎ男子改め峰田くんも武器を渡したことで戦えるようになっていた。
扉を開けないようにしたり、物を作れるってだけで出来ることがたくさん増えることを実感した訓練だった。
「切島の個性も、防御と攻撃どっちにも活かせる万能個性だったよな。漢って感じの戦い方で俺も憧れたぜ!」
こちらは砂藤くん。彼は単純な増強型で、近接戦闘で活躍していた。体が単純に大きいというのは有利に直結する場面が多いのでうらやましい。
「そうか? なんか照れるな。けどよお、やっぱりみんな一番印象に残ってんのは雲嶋じゃねえか?」
「確かにねー! 雲嶋の個性って、いろいろすごかったよね!」
「なんだあの身体能力は! おまけに糸みたいなのも出してたよな」
「え、えーと……、私の個性は蜘蛛女っていうやつなんだけど、いろいろ説明したほうがいいかな」
みんなが一斉に頷いたため、説明をすることにする。
身体能力全般の向上。両手首からのウェブ発射、ウェブの強度など。
そして、性別に関することも。
「私の個性はまず、身体能力全般の向上、蜘蛛糸の発射に、危険感知、壁に張り付いて登る。それと、異形型に分類されるのが一つ、かな」
「おいおい、いろいろありすぎだろ……というか、蜘蛛糸とか、俺の存在意義……スパイダーマンみてえだし……」
「安心しろ、瀬呂。俺も同じだぞ……」
二人に生まれた共通点から友情が芽生えてる。友情を芽生えさせるきっかけを作ったと言えば聞こえはいいが、劣等感を感じさせただけじゃないか。これ。
「二人には私より上回ってる部分あるでしょ! 巻き取りもできるんだから、テープ使った移動だけで言えば私より優れてるでしょ? 砂藤くんは、その巨体の時点で私よりリーチが長いし、関係ないよ」
精一杯励ましたつもりだが、二人はため息をついてしまった。まずい、これは謙遜を通り越しただるいやつだった。
「ご、ごめん! ほんとにごめん!」
「まあまあ、二人とも、それぐらいにしてさ! 他の話もしようよ! ほら、えーっと……」
三奈ちゃんが取り持ってくれた。ありがとう。ほんとにありがとう。
あ、けど、残った話題って異形型に分類されてる、女になったって話じゃん。
「あー、残った一つなんだけど……」
みんなが、気になった様子で私を見てくる。緊張するわ。
「私って、もともと男だったんだよね。今は女なんだけど」
みんなの好奇心でいっぱいだった表情が固まる。峰田くんは特にそれが顕著だ。お前私の体舐めまわすように見てたもんな。
『ええええ!?』
一拍置いてみんな叫んだ。けど、三奈ちゃんは教えてたじゃん。なんで一緒になって叫んでんの。
「ええっと、女子には軽く話してたんだけど、私中学一年生の時に男から女になって、その時に今話した身体能力向上に蜘蛛糸発射に壁張り付きっていう個性も使えるようになったんだ」
「はー……遅咲きの個性なのか?」
「うん、多分。何かが原因であとから発現したんだと思う」
「色々もりもりだな……」
話してると、背にしてた教室の扉が開く。
振り向くと、そこには片腕をアームホルダーで固定した出久がいた。
「出久! その腕大丈夫?」
「あ、八菜さん。うん、リカバリーガールに手当てはしてもらったから……体力がなくなっちゃうって言って治癒はしなかったけど」
「緑谷! お前の訓練熱かったぜ! 背負い投げしたときなんかは痺れたぜ! あ、俺は切島だ! よろしくな!」
「う、うん。よろしく、切島くん」
そして、みんな出久に自己紹介していく。人気者じゃん。よかったね。
「そうだ、かっちゃんは?」
そういえば、いないな。まあ帰ったんだろうけど。
「爆豪くんなら帰ってたよ、さっき」
「わかった、ありがとう。えっと、またあとで!」
いや、どこいくねん。
なんか爆豪くんと話しに行くんだろうけど、因縁のやつかな。がんばれ出久。応援してるぞ。
お茶子ちゃんとかが見に行ってるけど、反省会終わり次第私は出久の荷物準備しとこう。着替えもしなきゃいけないみたいだったし。
というか、片腕使えないなら着替えるの大変そうだな。
「あー、それじゃあ、反省会続けていこう! 反省会っつーか、みんなの個性を褒め合うだけになっちまってたし、改めてやってこーぜ!」
リーダーシップがすごいな、切島くん。うーん、確かに、反省会ではなかったよな。
反省会かあ、でも、講評で大体済んでるよな。強いて言うならこれから強くなるために必要なこととかを考えるぐらいか。
ぱっと思いつくだけで、出久はまず個性で自壊しないよう力の加減ができるようになるのは大前提だ。
切島くん、砂藤くんとかは、個性を使用したときの戦闘スタイルをさらに開拓すれば強くなることは間違いない。
カラス頭くんなんかは個性が色々応用利きそうな感じだしもう少し別の活かし方があるんじゃないかと思う。
割と色々思いつくが、どれも具体的ではない。私は教師に向いてないな。絶対。
全部これからの雄英のカリキュラムで解決するようなことだろうし。なんも思いつかんな。
出久だったらこういうのもすぐ思いつくんだろうけど。やっぱり知識は力だな。私もそういうの調べようかな。
その後も反省会がしばらく続いて、じゃあお開きにしようかとなったところでちょうど出久も帰ってきた。
着替えを手伝おうか聞いたけど勢いよく拒否された。
私が男子更衣室で着替えられないのは私が男子に見られるからであって男子を見るのがいやだからじゃないんだけどな。もとは同じ性別だぞ。
結局、出久の着替えが終わった後、私たちは帰路に就いた。出久の荷物も私が持ってる。これも遠慮してたけど荷物持ちぐらいさせろって。別に中漁らないし、漁ったところでじゃん。
「出久、今日の戦闘訓練だけどさ」
「う、うん。なにかな」
「ヒーローを目指す以上危険に身を置くのは仕方ないとしても、個性を制御できずに怪我をするのはやめてよ。その、さ。私、心配しちゃうから」
「うん、ごめん……。そうだね、早く僕も個性の制御をできるようにならなきゃ」
「頑張れ。私も、手伝えることがあったら手伝うから」
「ほんと!? ……ええっと、じゃあ、質問してもいいかな」
「質問ぐらいなら全然構わないよ。答えられるかは別だけどさ」
「えっと、八菜さんって増強型の個性もあるんだよね……その個性って、どんな感覚で使ってるの?」
私の感覚か。なんというか、私のは使うっていう感じじゃないんだよな。勝手に身体能力が常時上がってるっていう。もはや異形型なのでは?
「使ってる、というより私は勝手に力が強くなってるというか……。強いて言うなら常時使ってるって感じかな。常時使ってるから力を抜いて日常生活は過ごしてるよ」
と言って、出久の方を見ると、ぶつぶつ呟いてる。どうした。
「砂藤くんや僕みたいに何かのタイミングで発動するんじゃなくてずっと体に作用してるのか……確かに、それなら力を抜くだけで加減ができる……ん? なら予め体全体に使って出力を下げておけば急に出力調整をする必要もないのか。けど、ヴィランを殺しかねないような力にならないように瞬間的に出力を上下させる訓練も必要だけど、とにかく出力を調整するってコトなら予めやっておくのが簡単そうだな……」
「あー、出久? いつもの出てるよ」
「はっ! ご、ごめん!」
「別にいいけどさ、どう? 役に立てた?」
「うん! すごく! ありがとう。考えが浮かんだよ」
「そっか。ならよかった。他に何かあったら教えてね」
「あー、……じゃあ、もう一つだけお願いしてもいいかな」
「なに? 滅多にないお願いだし、何でも聞くよ」
「ありがとう。ええっと、僕に戦い方を教えてほしいんだ」
戦い方。戦い方?
まあ確かに、戦闘訓練ではまともに爆豪くんと殴り合ったりはしてなかったけど、それは個性の制御が利かないせいだし。仕方ないんじゃないだろうか。
「個性が制御できたところで、その後の動き方が分からないままじゃだめなんだ。僕はもっと、焦らなきゃいけないんだ」
「別に、私の戦い方なんて大した価値もないから教えてもいいけど……どこでやるの? 近くに道場とか無かったよね。個性使用可能のところって言ったら全然見つからないし」
「ああ、それなら雄英に申請を出せば運動場を貸し出してくれるはずだよ」
「へー。そうなんだ」
「……八菜さん、ヒーロー科のパンフレットに書いてあったはずなんだけど」
「え、ああ。うん、そうだね。ちょっと試したみたいな」
「八菜さんって、嘘つくとき耳をぴくぴくさせるよね」
「えっ」
私も知らんぞそんな癖。なんでそんなこと知ってんの。
耳をぴくぴくさせるみたいな癖恥ずかしすぎる。なおしたい。
というか、私嘘ついたらすぐばれるの? マスク必須やん。存在価値あったよ。マスク。
「ま、まあ! とにかく! じゃあ、個性の制御と動きの特訓に付き合おうかな」
「ありがとう! じゃあ、それの申請は明日僕が出しておくね」
「おっけー。けど、私うまく教えられるか分かんないから」
「大丈夫、八菜さんに教われるってだけでうれしいよ!」
なんだそれは。別に、本職でもないんだからうれしがるポイントはないと思うが。
まあ、頼ってくれたからにはそれに応えられるよう頑張ろう。
私の戦い方、といっても基本的にスパイダーセンスに頼って攻撃を躱して距離を詰めて殴るだけだからな。ウェブを織り交ぜたり、その場にある物を活かして戦ったりすることはあるけど。
うーん。出久にはその場にある物を活かす戦い方と攻撃の躱し方と殴り方とか教えればいいかな。
変な殴り方してたら手が痛くなるし。私もそうだった。
その後もあれこれ考えたり話したりしながら私たちは帰宅した。
翌日、私と出久が登校していると、校門の前に人だかりができていた。なにあれ。
テレビカメラみたいなやつを持ってる人がいたり、マイクを持ってる人がいたりしてるから、あれはマスコミの人たちかな。
でも、なんの用できてんだ。
「すみません! 教師としてのオールマイトについて聞いてもいいですか!?」
なるほど、確かにナンバーワントップヒーローが教職に就いたらそらこうなるか。
でも、マスコミには私は恨みがある。下着を放送したことだ。許さん。下着があったよ~ぐらいでいいじゃん。なんで下着の写真まで写ってんだよ。結局一回も履いてないけど恥ずかしかったわ。
というわけで、質問には答えない。
「すみません、急いでるので!」
出久の手を引いて強行突破する。追ってこようとするが敷地内に入った瞬間追ってこなくなった。なんだ? ゲームの安全地帯か何かか?
「なんであいつら急に追ってこなくなったんだろう」
「雄英バリアってやつのおかげだと思うよ。学生証とか、通行許可証とか持ってない人があそこ通ろうとしたら門が閉まって警備システムが作動するらしいから」
「へ~」
「ほんとに何も知らないんだ……」
私としては出久と一緒にヒーローになりたいってのとヒーロー免許取らなきゃいけないっていうので雄英通ってるからなあ。そこまで雄英自体には興味ないかも……ってのは落ちた人たちに失礼か。やめとこう。
さっさと教室に向かおう。
教室に入ってちょっと。今日のホームルームが始まった。
相澤先生が爆豪くんと出久に注意してた。そうだそうだ。もっと言ってやれ。私もめちゃめちゃ言ってやった……か?
怪我するの心配だからやめてとしか言ってない気がする。
まあ、いいか! 分かってくれてそうだし!
それで、今日は学級委員を決めるらしい。うーん、学校らしい。
みんなやりたがって手を上げまくってた。あの爆豪くんもだ。
なんでこんなにやりたがってるんだろう。学級委員ってめんどくさいことやるイメージしかないんだけど。
あ、飯田くんがみんなを鎮めてる。すごい、完全に委員長じゃん。多数決で決めようとしてるけど、飯田くんも手をそびえたたせてる。やりたいんじゃん。
え、みんな多数決のとき自分に入れんの? それ話が成り立たなくなるから禁止じゃないの?
結局多数決になったけど、やっぱり私は飯田くんに入れた。イメージあるし。
お、結果だ。
「ぼ、僕三票!?」
出久が三票入ってる。人望の勝利。対して飯田くんは一票だけだった。私以外入れなかったらしい。残念……。
結果としては、出久が三票で委員長、二票の百ちゃんが副委員長になるらしい。
いや、出久緊張しすぎでしょ。大丈夫なんだろうか。私心配です。
昼食時。
私は教室でご飯を食べていた。弁当勢なので、食堂で食べなくてもいいのだ。
今のところ食堂で食べたのは寝坊した日だけだ。
私は手作りと食堂でも差が感じられないし、なんならメニューによってはそんな手間がかかるものこんな安くていいの? ってものもあるので、朝早起きして作る意味もないのだが、母さんからの花嫁修業だという圧に負けている。
誰とも結婚するつもりないんだけど。
教室でお弁当を食べていても、全然人がいないので寂しい。
仕方がないので一人で黙々と食べる。食堂で買ったもの食べてるわけでもないのに席を取るのは申し訳ないからって思ってたけど、これからは食堂で食べようかなあ。
スパイダーセンスが反応する。
微弱ではあるが、確かに反応している。
直後、校舎内に警報が鳴り響く。
スパイダーセンスが反応しているものと同一のものだろう。
ここはプロヒーローが教師を務めている学校だ。大事にはならないだろう。
しかし、そう思っても。
勝手に反応する方向へ向かうこの足を止めることはできない。
何かあってからでは遅い。
知ってるんだ、そんなことは。
過去の後悔を後に活かさないやつはバカだ。
私はそうなりたくない。
スパイダーセンスの反応する方向に走る。廊下は幸い食堂に行っている人ばかりで混みあっていなかった。
反応する方向に走った結果、その先にあったのは職員室だった。
職員室に反応している原因はあるらしい。
扉に耳を当てる。なにやら話し声が聞こえるが、よく聞こえない。
突っ込むべきか、突っ込まず様子を見るべきか。
もし中にいる人物が侵入してきたヴィランで、職員室に爆弾を仕掛けていたら。
しかし、安易に突っ込むと、何が起きるかわからない。なにか、バレずに侵入する手段はないのか。
辺りを見渡していると、壁の天井際に通気口があるのを見つけた。
……汚いけど、いくか。
通気口に入り、職員室の方向に這いずっていくと、ちょうど、天井の通気口から中の様子を把握できる。
中に先生は誰もいなかった。しかし、黒いもやを全身に纏っている人と、全身に手がついている男であろう謎の二人組が机の上に置かれていたであろうプリントを手に何か話している。
耳を澄ませると『ダイジョーブ!』うっさ!
おい! 耳を澄ませようとした瞬間大声を上げんじゃねえ! 耳いった!
あれ、二人組どこ行った? さっきまで居たよな。
……。
逃げられた?
やっちまった!
くそ、仕方ないから何の資料を見てたか確認するか。
そう思い、通気口を出ようとするが、後ろにうまく戻れない。
こんな狭いところを這いずるなんて初めての経験だったしなあ。
どうしよう。
この目の前の職員室の天井の通気口壊して出るしかないけど、備品を壊したって怒られるよな。
入試ヴィランと同じミスはしないぞ。
なら、私が取るべき行動は一つ。
職員室に先生が戻ってくるのを待つ、だ。
三十分たったぐらいで、相澤先生とマイク先生が職員室に戻ってきてくれた。「助けてー!」と叫ぶと、二人とも肩をビクッとさせてた。そりゃそう。声がなんか響いてるし、上から聞こえるんだもんな。
私は、ミッドナイト先生に後ろから足を引っ張ってもらうことで救出された。
よくよく考えて、どんな間抜けだよ私。
「雲嶋……お前、なんで通気口なんかに入ってた? 俺はお前のことを何の理由もなしにあんなところに入って出れなくなるバカだとは思っていなかったんだが……」
「違うんです。相澤先生。これには深いわけが……」
「ああ、だろうな。じゃあ、そのわけを話してもらおうか」
「はい……」
そして、私は事の顛末を話した。
通気口に入って出れなくなった間抜けな事情しか知らなかった呆れた表情が、話をしていくうちに真面目な表情に変わっていったのはすこし面白かった。
「雲嶋、つまりお前は侵入してきたヴィランを目撃したんだな?」
「はい」
「けど、何を話してたかは聞き取れなかったと」
「はい」
「なんの資料を読んでいたかは分かるか?」
「デスクの位置なら」
「よし、ちょっとこい」
そう言って、相澤先生に連れられて職員室のヴィランたちがいたデスクの位置を伝える。
「……明日のUSJについてか」
「USJ?」
「ああ、嘘の災害や事故ルームの救助訓練についてのプリントが読まれた形跡がある」
「すごい誤解を生みそうな名前してますね……」
「……まあ、気にするな。それで、雲嶋」
相澤先生が改めてこちらを向いてくる。
「今回の侵入に関しては誰にも口外するな」
「大体わかりますけど、なんでですか?」
「ああ。理由は二つある。一つは、生徒たちの余計な不安を煽らないため。二つ目は……」
「雲嶋も朝登校してくるとき見たと思うが、マスコミは今オールマイトが教鞭をとっていることに大興奮だ。今不祥事が発覚すると雄英だけじゃなく、オールマイトの信用問題になってくる。マスコミってのは想像もさも事実のように語るからな。オールマイトが関係あるんじゃないかだとか、好き勝手に言われてしまうと平和の象徴が揺らいでしまう」
「なるほど、了解です。……ちなみに、相澤先生はマスコミが嫌いなんですか?」
「ああ、まあ、嫌いだな」
「すんごく共感します」
食い気味に返答すると、相澤先生はちょっとびっくりしてる。でも、すごくわかります。大嫌いです。許してないもん。私が悪いところなんてなかったはずだ。
「……何があったか知らないし、俺が言うのもなんだが……マスコミには媚びを売る方がヒーローをやっていくなら楽だぞ」
「そうかもしれませんけど、私は彼ら彼女らを許さないんです。絶対」
「本当に何があったんだ」
相澤先生との話が終わった後、私は教室に戻ってクラスの話し合いの続きを聞いていた。出久ガッチガチじゃん。
なんだ、急に前置きして。
え、飯田くんを推薦? なんでなんで?
食堂であんなにみんなをまとめることができたし?
へー、すごいな。ん? どうやってまとめたんだ。
非常口のポーズみたいになって? 叫んで?
ふんふん。見てみたかった……な?
叫んだ?
お前か。あの時叫んでたの。
結局、飯田くんが委員長を務めることになったが、百ちゃんの立場よ。百ちゃんに哀れみのグーサインを出しておいた。百ちゃんが私に気づくと感激したように目をキラキラさせてた。かわいい。恋愛対象的なそれではないけど。
その日の授業はそのままなんやかんやで終わることとなった。
いつもなら、これで帰っていたのだが、今日は出久と特訓がある。
「出久、運動場使用の申請出しておいてくれた?」
「うん、許可も下りたから、今日からやれるよ」
「おっけー、じゃあ、ジャージに着替えて集合ね」
ジャージに着替えて申請していた運動場に行くと、出久は既に待っていて、何か集中している様子だった。
「あー、集中してるところ悪いんだけど、出久。私が来た! ってやつだよ」
「わ! 八菜さん。ごめん、個性の制御を試してたんだ」
「張り切ってるね。で、どう? できそう?」
「うーん、ちょっと苦戦してるかな……」
「まあ、慣れるしかないしね。とりあえず、出力を調整するんじゃなくて、個性を全身に張り巡らせる感覚を練習したらどうかな。個性の感覚が分からないから何とも言えないけど」
「張り巡らせる……。うん、わかった」
そういうと、出久は目を閉じて息を吸う。すると、出久の全身に赤いクロスの模様が浮かび上がってくる。これが、出久の個性が張り巡っている証拠なのだろうか。
スパイダーセンスが反応する。
「ちょ、ストップストップ!」
あぶねえ、こいつ暴発させかけてたぞ。
「はっ!」
「ちょっと、気を付けてね? ストップはかけるけど、何があるか分からないんだからさ」
「う、うん。ごめん……けど、これで張り巡らせる感覚っていうのは分かった」
「よし、じゃあ、次はその張り巡らせる量を減らす……力を抜く感じかな。やってみよう」
出久が再び集中する。すると、同じ赤いクロスが出久に浮かび上がる。しかし、すぐに赤いクロスは消える。
「出力が弱すぎたかな。もう少し強くていいよ」
「うん!」
何回か繰り返した後の何回目か。赤いクロスが消えてまた失敗かと思った後すぐに出久の体の周りに緑色の電撃のようなものが見えるようになる。
「……うん、成功じゃないかな。それで動ける?」
「まだ、慣れてないけど……!」
「よし、じゃあ、次はそれを維持することに慣れよう。大きな成長だ」
出久をその状態で走らせたりしながら、慣れさせる。
弱い出力でも、私の個性覚醒直後ぐらいの身体能力向上はしてる。
出久の個性の今の出力を5%程度だとすると、今の私を出久の個性の出力に当てはめると15%程度だろうか。
「よし、じゃあ、その状態で戦い方の練習をしていこう」
「うん! よろしくお願いします!」
「それじゃあ、まず、私が戦闘中気にしていることなんだけど、まず前提として敵の攻撃。これはもちろん攻撃を躱すため。他にも誰かを守って戦うときなんかは守っている人に流れ弾が当たらないようにしたりしなきゃいけない」
「なるほど……」
「まあ、出久にそのあたりの周りを見たり観察したりする才能があることを知ってるから心配はしてないんだけど」
実際、ヒーローノートなんかを読んでみるとすぐわかるが、私が十回見ても気づかなかったことを一回見ただけで気づいたりしている。観察眼には侮れない部分がある。
「多分他の人と違うなって思うのは、周りにある物を気にして戦ってることかな」
「周りにある物……」
「そう。例えば、そこに転がってるコンクリートの塊」
「塊……? どう見ても普通の奴にしか見えないけど」
「うん。普通のだよ。けど、どんなものでも利用できるんだよ。例えば……」
コンクリートの塊にウェブを発射し、それを振り回して投げ飛ばす。
「ちょ、ちょっと! 危ないよ!」
「こんなふうに、飛び道具になったりね。出久の個性なら、投擲物として使える」
「うん。まあ、よく理解したよ……」
「これ以外にも、敵の意表を突く戦い方として、敵に追われて行き止まりに追い込まれたとしても、その行き止まりの壁で壁キックしてそのまま反撃に移ったり。周りを観察するって重要だよ」
「そっか……うん。わかった」
「よし、じゃあ、最後に殴り方だけど。殴る瞬間の拳を構えてみて」
「うん」
そう言って、出久は爆豪くんの大振りの右ストレートのような拳を構える。
これでもいいが、折角増強型で、出久の体格はすばしっこさを活かせる体格なんだから、大振りなんかじゃなくもうちょっと動作が少ない殴り方のほうがいいと思う。
出久にあれこれ口を出していくが、あまりよくならない。なんでここで壊滅的になるんだ。というか、今思い出したけどそのフォームオールマイトみたいだな。爆豪くんというよりオールマイトへの憧れが邪魔してる感じがある。
いくら言ってもダメなので、直接腕を握って指導することにする。
「これは、こういう……あれ? どういうだっけ」
私も分かんなくなった。あるよね、人に教えてると自分が分からなくなること。
背中側から腕掴んだほうが分かりやすいな。
「ちょ、八菜さん!? な、な、なにやってんの!」
「何をやるって言ったって、指導でしょ。別に汗臭いのとか気にしなくていいから。もともと同性だったんだぞ」
出久はそれ以降もぶつぶつ言っていたが、何がそんなに嫌なんだ。聞いてみると、嫌というか、うれしいというか……と要領を得ない答えを返された。わからん。
結果、出久の殴り方のフォームはよくなったので丸く収まったことにする。
「よし、じゃあ、いよいよ実践していこうか。私との戦闘だ……と行きたかったけど、なんかもう無理そうだね? どうしたの、そんなに顔を赤くして」
「ほとんど、八菜さんのせいだよ……」
なんで私のせいにされてんだ。ふざけんじゃないぞ。
「まあ、いいか。じゃあ今日は終わり! 実戦はまた今度ということで」
「は、はーい……」
そして、今日もまた出久と帰宅した。話してたら、あって初日かそれぐらいのきょどり方してたけど、なんでだよ。目線そらされたりするし。
それにしても、今日のヴィランは明日のUSJについてのプリントを読んでいたんだっけか。
それを読んで何をするかは大体予想がつく。
相手の内情を調べるということは、つまり、なにか用事があるから調べてるんだろうな。ぱっと考え付くあたりで襲撃、とかだろうか。
まあ、思い過ごしで終わるのが一番なのだが。
もし仮に、襲撃されたとしても私がみんなを守ろう。力があるんだ。
大いなる力には大いなる責任が伴う。
この言葉を胸に。
プロフィールで一話取ったりした方がいいですか?
-
とれ
-
とるな
-
後書きで済ませろ