「知らない天井だ」
目を覚ました直後に、そんなテンプレセリフを吐きながら体を起き上がらせる。筋肉痛かなんなのか、体が動かしにくい。
多分ここは病院だろうけど。なんで病院にいるんだっけ。整理しよう。
まず、USJのヴィラン襲撃事件で親玉格の死柄木弔と戦ってたら、脳無とかいう正真正銘の化け物が出てきて、ボコられて気絶したんだっけ。
いや、確か出久が助けに入ってきて、えーと、あれ? 脳無の拘束から脱出して、脳無と死柄木を撃退して、脳無と殴り合った後オールマイトが助けに来てくれたんだよな。
その後すっげー体調悪くなって気絶したんだっけ。
うーん、なんか抜けてる気がする。
でも、実際このぐらいしかないよな。
というか、私はなんで脳無の拘束解けたんだろう。完全にパワー負けしてたのに。
あ、いや、なんか力が強くなったんだっけ。火事場の馬鹿力的な感じの。
でも、急に強くなるわけないよな。なんなんだ。
考えてると、病室のドアがノックされる。
「雲嶋さん、入りますよー」
看護師さんだろうか。
私が今まで眠ってたことは知っているだろうから、念のため、とか、社交辞令、的なあれで入室の挨拶してるんだろう。
じゃあ、ここのタイミングで返事したらびっくりするんじゃ?
「はーい、どうぞー」
「失礼しまーす……えっ」
看護師さんが病室に入ってきて起き上がっている私を見て目を見開いた。
いたずら大成功である。
「ちょ、ちょちょちょ、せ、先生! 先生呼んできます!」
とんでもなく慌てながら病室を飛び出していった看護師さん。そんな慌てることだろうか。
私が気絶してから一晩たったぐらいだろう。ヒーローという職業がある昨今、私のような事例山ほどあると思うのだが。
二週間経ってた。
私、気絶してから二週間目を覚まさなかったらしい。そりゃ体も動かしにくいわ。
逆に目を覚ましたのが奇跡だったらしい。よかった。
よくわかんないけど、後遺症みたいなのが残るらしく、痛覚がなくなった。
まあ、痛覚ならいいや。戦ってるときに痛みで怯むことがなくなったと思えば、プラスだろう。
軽い検査が終わった後、すぐに母さんはお見舞いに来てくれた。
「八菜! 大丈夫? 体調は?」
「体調は大丈夫だよ。えっと、来てくれたのはうれしいんだけど、仕事は? ほっぽりだしてきちゃったの?」
「バカ、仕事なんかより八菜のほうが大事なんだから、気にしなくていいの」
照れくさいというか、普通に照れる、というか。
「えっと、ありがとう。それと、心配かけてごめんなさい」
「謝らなくていいのよ。八菜。謝ることなんて、何一つないんだから」
「そ、その、母さん……。そんな、全肯定みたいな感じ、慣れてないから愚痴の一つや二つぐらい言ってくれたっていいんだけど……」
「あら、そう? なら、もう心配させないで。本当に、怖かったんだから。また、失うんじゃないかって」
親が不安だとか怖いとか、ほんとは子供に言っちゃいけないんだけどね、と母さんは笑っているが、今のが多分本音なんだ。
本当に、母さんには心配をかけてしまった。
これからは母さんを不安にさせないようにしないといけない。
一人息子、というか、一人娘だし。
そのためにも……
「後遺症は痛みが感じづらくなるぐらいらしいから、気にしないで」
実際は全く感じないんだけど、まあいいだろ。
あ、多分A組のみんなも心配してくれてるだろうから、みんなには後遺症は全くないってことで通しておこう。心配してくれてるだろうからっていうのが自意識過剰じゃなきゃいいけど。
「それは大丈夫なの!? 日常生活に不便とか……」
「ないない。あ、母さん。私の着替えとか諸々一日分持ってきてくれないかな。明日まで検査入院みたいなんだ」
「……わかった。また持ってくるわ」
「ありがとう。母さん」
さて、明日まで入院ってことだし、暇だな。
あのUSJの後どうなったか気になるし。私が今生きてるってことはオールマイトが負けたってのはないだろうし。
というかあのヴィランですらオールマイトは勝つのか。やっぱりすごいな。
連絡先知ってるのお茶子ちゃんと飯田くんと出久しかいないけど、お見舞いに来てくれそうなのは出久だけかなあ。
スマホを母さんに持ってきてもらったら出久に電話かけよう。
母さんに着替えとスマホを持ってきてもらって今日は帰ってもらった後の夜。私は出久に電話をかけることにした。
「もしもし、いず──」
「八菜さん!? 目が覚めたの!?」
耳に当てていたスマホから大音量が響いてきて思わずスマホを耳から離してしまう。
「声でかいよ、出久」
「あっ、ごめん……。よかった、八菜さん目が覚めてたんだね」
「うん、ついさっきね」
「えっ、ついさっき!? てっきり、八菜さんの事だから連絡忘れてただけかと思ってたや……」
おい。私のことなんだと思ってんだ。
「でも、ついさっき目が覚めたってことは、ほんとに二週間寝たきりだったんだね……」
「あー、まあね。ただ、体調とかは何も問題ないよ。後遺症とかも特にないしね」
「そっか。よかった……」
そういえばこれ電話でよかった。対面してたら嘘バレてたな。
「ところで出久。明日まで入院で暇だからさ、もし明日時間があったらあの事件の後何があったか教えてほしいな」
「別にいいよ。ちょうど明日土曜日だしね。それに……」
「ううん、明日また言うよ」
「? よくわかんないけど。じゃあ、明日ね。待ってる」
「うん、それじゃ」
そう言って、電話を切る。
なんか言いかけてやめたことってなんなんだろうか。
まあ、明日教えてくれるらしいからいいけど。
暇だな。
お茶子ちゃんにもメッセージだけ送っとこう。
『おはようございます』
と送ると
『八菜ちゃん!? 起きとったん!?』
とメッセージが帰ってきた。
『クラスのみんな心配しとったよ! 大丈夫なん?』
やはり心配していてくれてたらしい。出会って数週間も経たないのにいい人ばかりだ。爆豪くんがその中に含まれるかは知らんけど。
『大丈夫だよ。特に後遺症なんかもないし』
『そうなんだね! よかった。あ、クラスのグループチャットでも連絡しておいた方がみんな安心するんちゃうかな』
え。
『グループチャットなんてものができてるの?』
『あれ、招待されとらんの?』
いい人ばかりだと思ってたけど、そうでもないのかもしれない。
お茶子ちゃんにグループに招待してもらい、クラスのみんなに生存報告をした翌日。
出久が私の病室を訪れていた。
「やっほー出久。元気そうでよかった」
「八菜さんこそ。元気そうだね」
「うん、体調不良なんてありませんとも」
耳は動いていないはずだ。
「よかった……」
「まあ、私の体調はどうでもいいからさ。USJの襲撃事件について。オールマイトが脳無と戦い始めてから何があったか教えてほしい」
その後、出久はベッドの横の椅子に座り、ゲートから見たこと、と前置きしてから話を始めた。
オールマイトと脳無が戦い始め、すぐに拳のラッシュの打ち合いが勃発したらしい。まあ、それが一番倒せる確率が高かっただろうし。
そして、無事に脳無のショック吸収の限界を超えてぶっ飛ばしたらしい。流石だな。
その後、黒霧とかいうあの黒もやの私の個性の拘束を死柄木がぼろぼろにして、黒霧の個性で逃げて行ったらしい。
うーん、死柄木を拘束しておかなかったのは私一番の失敗だな。気絶ぐらいしてくれるだろうと高を括っていたのがだめだった。反省。
しかし、死者はなし。軽傷者は何名か。そして、重傷者は私一人。
死者はおらず、重傷者も私以外はいなくてよかった。
結果を見ればヴィランが大量に襲撃してきたにも関わらず上々の結果ではないのだろうか。
「そっか、よかった」
よかった、と私が口に出すと、出久は顔を俯かせる。
「……どうしたの?」
「八菜さん。昨日、電話で言いかけたことがあったよね」
「ああ、そういえばあったね」
「それについて、話したいんだ」
「八菜さん、ごめん」
「僕が、もっと強かったら、君が無理をせずにすんで、八菜さんを助けられたはずなんだ」
「僕が弱かったせいで、八菜さんにけがをさせちゃった。本当にごめん。助けられるチャンスはあったのに、それを物にできなかった」
「八菜さんが脳無に拘束されていたとき、僕が無暗に飛び出さずに、策を考えられていたら、君が無茶をする必要がなかったかもしれない」
「本当にごめん」
出久の謝罪。確かに、その通りではある。
もっと強かったら、あの時こうしていれば、私も怪我をしなかったかもしれない。
けど、そんなのは所詮たらればの話でしかないし、何より……
「それ、出久の責任?」
「え……?」
「いや、心の底から思うんだけど、それって出久の責任じゃないよね。私が怪我したのって出久のせいじゃないし。ヴィランが悪いんだし」
「でも、僕が弱かったせいで……」
「それを言うなら私が弱かったせいで脳無にぼこぼこにされてたんだよ。私がもっと強かったら脳無を倒せてた」
「出久さ、少し自意識過剰じゃない? 全部を自分のせいだと思い込んでさ。出久の言ってること、あの場にいた全員に当てはまるからね」
出久が、涙を流し始める。
「あ、えっと、言い方きつかった! ごめん! 言い過ぎた! あー、えっと」
出久の頭を抱きしめて撫でる。
「色々言っちゃったけど、伝えたかったのは、出久のせいじゃないよ。ってこと!」
「それにさ、出久はあの時飛び出したことを後悔してるみたいだけど、私が脳無の拘束を解けたのって、きっと出久のおかげなんだよ」
「出久が飛び出して、助けようとしてくれたから、諦めかけていた私に勇気をくれたから」
「私はあの場でもう一度、
「出久があの場で飛び出して私を助けようとしてくれなかったら、私はここにいなかったと思う」
「だからさ、謝らないで。むしろ、私が感謝をするほうだよ」
「ありがとう。出久」
その時、病室のドアが開かれた。
「いやー、この辺り初めてくるから、迷っちゃったよ~……えっ」
お見舞いの品を持ってきてくれたであろうお茶子ちゃんが、病室の扉のそこにいた。
「お、お邪魔しまし──」
逃げ出そうとするが、そうはいかない。
抱いていた出久の頭を放し、ウェブを発射し、無理やり病室内に引きずり込む。そして片手で開かれたドアにウェブを発射し閉じる。
「お茶子ちゃん、勘違いしないでほしいんだけど」
「ああ、うん、わかってるよー」
「わかってないでしょ!出久からも言ってやって!」
その後、十数分にわたる説明の末、お茶子ちゃんの誤解を解くことに成功した。
「なんだ、そんなことだったのかー…。」
「よかった、誤解がとけて…脳無と戦った時より死の恐怖を感じたよ」
「でも、デクくんのそれは自意識過剰だよ!私たちにだって責任はあるんだから!」
「うん。ごめん…。八菜さんも、ごめん」
「別にいいよ。あと、クラスのみんなに責任は一切ないから。責任はヴィランにあるよ。なんにも君たちは悪くない。むしろよく軽傷者だけで済ませたと言えるぐらいだぞ」
まあ、責任は私にもあるんだけどね。
みんなを守るとか考えておきながら、全然守れてなかったなあ。
始めから脳無に皆殺しの指示を出されていたらみんな殺されていただろう。
「そういえば、私二週間寝たままだったわけだけど、学校の予定って直近でなにかある?何も知らないんだよねー」
出久とお茶子ちゃんが固まる。
どうした。
「どうした?なんか嫌な予定でも思い出した?」
「いや…」
「そのぉ、八菜ちゃん…」
「な、なんなの?そんなに溜められたら怖いよ」
「八菜さんって、雄英体育祭は流石に知ってるよね」
「うん。流石に知ってる」
「それ、明日です」
なぜ、神は明日まで寝かせておいてくれなかったのか。
おお、神よ。なぜこのタイミングで私を目覚めさせたのか。
私、病み上がりの体全然動かない状態で参加するってマジ?というかまず、参加していいの?
プロフィールで一話取ったりした方がいいですか?
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とれ
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とるな
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後書きで済ませろ