第二種目を無事一位通過した私たち。
出久は個性の出力の調整を間違えたようで、個性把握テストなどの時ほどではないが腕を痛めたようなので、保健室にいった。
雄英体育祭は第一種目、第二種目、第三種目は毎年恒例のタイマンのガチバトルのトーナメントの構成となっている。
そして、第二種目と第三種目の間には昼休憩が挟まれる。
みんな昼食にはほとんどが食堂に行って何か購入して食べている。そして、今日に関しては私もそうなのである。
いつもは花嫁修業だとか言って母さんにお弁当を作らされる私であるが、今日は退院初日で弁当を作る体力がないとして免除されたのだ。
正直、とても楽だった。早起きはしなくてもいいし、冷蔵庫を見て献立を考える必要もない。これからもこれがいい。
しかし、この食堂恐ろしいほどメニューが多いな。
どれでもいいから安いの買っていこう。全部安いけど。
「あ!雲嶋、今日は食堂なんだ!珍しいね」
「三奈ちゃん、それに響香ちゃんに百ちゃん、透ちゃんも」
「やっほ、雲嶋」
「雲嶋さん、今日は食堂で食事されるのでしたら、よければ私たちと一緒に食べませんか?」
「いいの?じゃあ、お言葉に甘えて」
「やっちゃんはメニュー何にしたの?」
あ、私やっちゃんって呼ばれるのか。あだ名で呼び返したほうがいいのかな、
「それが、まだ決めてないんだよね。初めて使うし、メニュー多いしで」
「なんか好きな食べ物とかはないの?」
「うーん、特にないかなあ。男だったころは焼肉とかが好きだったんだけど、今はそうじゃないんだよな」
「わ、ザ・男の子って感じの好物だねえ!」
「性別が変わったことに食の好みの変化でしょうか…?」
「うーん、多分ね」
「それじゃあ、雲嶋の好物を探そう!」
「え?私そんな大食いのタイプじゃないんだけど」
「そこは大丈夫!こちらのヤオモモが大食いのタイプなのです!」
「ちょ、ちょっと!葉隠さん!私は大食いのタイプ、というか、個性の性質上食べなきゃいけないんです。物を作るとき脂質を使うので、食べざるを得ないんです!」
「まあまあ、とにかく、食べるんだよね、ヤオモモ!」
「ま、まあ、食べるのは食べるのですけれど…」
「それで、ヤオモモが注文したやつを雲嶋が一口だけ食べていけば好みの奴が見つかるかもしれないじゃん?」
まあ、確かに見つかるかもしれんけど…
「それ、百ちゃんはいいの?」
「私は構いませんけど…それに、好きなものが見つかるって、すばらしいことですし!」
そんな会話から数十分。百ちゃんから食事を一口貰いながら、体育祭の感想について話し、私もみんなもお腹が膨れたところ。
当初の目的であったおなか一杯食べるという目的は果たされたが、第二の目的であった私の好物を見つけるという目的は達成することが出来なかった。
「なんか、ごめんね。特に百ちゃん。一口貰いまくったのに…」
「いえ!気にしないでください。それにしても、これだけ食べて好きなものが見つからないなど珍しいこともあるのですね。大抵の人はこれだけ食べたら何かしら好みの方向性が見つかると思うのですが…」
「うー、やっちゃんの好きな食べ物ってなんだろう…」
「でも嫌いなものは見つかったよ!辛い物!」
「嫌いなものって見つかってうれしいんでしょうか…?」
うーん、今までは辛い物食べたら多少は味覚がしたんだけど、もう辛いっていう感覚が分かんないんだよな。なんだっけ、辛さって味覚じゃなくて痛覚で感じてるんだっけ。
痛覚無くなったせいで辛い食べ物で一番重要な辛いってところがなくなってすっげーまずい感じになってるんだよな。
「まあ、いつか見つかるだろうし、見つかったら伝えるね」
「こんだけ探して一切見つけられなかった雲嶋の好物ってなんなのかな、楽しみにしてるね!」
そういえば、百ちゃんが大量に注文したやつを耳郎ちゃんと百ちゃんで取りに行ってたとき、上鳴くんと峰田くんが二人に何か話してたんだよな。
なんだったんだろうか。
「あ、みなさん、先ほど上鳴さんと峰田さんから連絡を受けてですね、午後はチアガールの格好で応援合戦をするそうで…」
「ええ…それ、本当なの?」
「相澤先生の連絡だとは言ってたけど…」
うーん、まあ、ありえるっちゃありえるのか?相澤先生の名前を借りることがどれだけリスクのあることかっていうのは初日で分かっただろうし。
じゃあ、この後レクリエーションあるらしいし、その時にあるのかな。
うーん、チアダンスとかやったことないぞ。
レクリエーションのタイミングで、私たちはチアガールの服装に着替えて会場に入場していた。が…
「どうしたA組!どんなサービスだそりゃ!」
騙されてたらしい。というより、相澤先生の名前借りてきてたのかよ。勇気あるなお前。
ウェブを発射し、それをいつものように引っ張り実況席の窓まで跳び、張り付く。
「相澤先生。これの計画犯は上鳴くんと峰田くんです。大声で叫ぶのは流石にこれからが可哀想なのでやめておきました」
「お前…それちゃんと下に何か履いているんだろうな」
「え?普通に下着履いてますけど、どうしました?」
「AH…、雲嶋、お前今自分で報告しに来た内容もう忘れたのか?お前、チアガールの格好だぞ」
あっ。
「失礼しました!」
急いで張り付いていた窓から飛び降りる。
またやっちゃった。個性使うときはスパッツ履いてるか、ズボン履いてるか、もしくはコスチュームのときだけの状況が続いてたから忘れてた!またやっちゃった!!!!!!!
しかもこれ、運が悪かったら放映されてるんだよな。こんだけ観客居たらやばくないかな…。
「く、くううううう…上鳴、峰田め…絶対に許さん…これから生きていけると思うなよ…!」
「なんで百ちゃん以上に苦しんどるん!?」
レクリエーション中、しっかりとチアダンスをしてきた。目の前にいたちゃんと練習してた人の真似して。
さすがにあの打ち上げるやつみたいなのはできなかったけど。服装的にも。
そして、地獄のチアダンスも終わり、今からは第三種目
一回戦は…三奈ちゃんとだ。いい戦いがしたいものだ。
出久は…心操くん?ちゃん?とだ。誰だろう。
いろいろ話があってるが、正直もう疲労で睡魔がやばい。試合前に申し訳ないけど観客席かどっかで少し寝させてもらおう。
ミッドナイト先生によるトーナメントのルール説明が終わった後、私は保健室に来ていた。
「あんたねえ…緑谷って子も大概だと思ってたけど、あんたも大概だね。二週間寝たきりから起きて二日でこんだけ体動かして、それで結果残して、それでまたぶっ倒れて…」
「結果はまだ出してませんよ、ここからです」
「あんた、第三種目出場できなかった奴から怒られそうなこと言うね」
「けど、本当にそうなんですよ…。私、ここから決勝まで行かないといけないので…」
「大きく出たね。でも、そこまで行ったら優勝じゃないのかい?」
「そりゃ、優勝するつもりですけど…とりあえずは決勝なんです」
出久が私を指標にしているの、うれしいしな。決勝で待ってるだなんて言っちゃったし、決勝進出するしかないよな。
「えっと、それじゃすみません、リカバリーガール。出番十分前ぐらいに起こしていただけると助かります…」
「ああ、わかったよ。とりあえず今は体を休めな」
出番十分前に文字通りリカバリーガールに起こされた私は控室で待機していた。なにも、起きなかったからと言ってぶっ叩かなくても…。痛くはないんだけど。
まあ、起こしてくれたのは助かるし、文句は言えないけど。
「さあ、次は今年の体育祭の注目度ナンバーワンの彼女!手首から出す糸で会場を飛び回り、観客に笑顔を与えた彼女の名は…」
「雲嶋、八菜アアアアアアアア!」
控室から入場すると、観客がどっと沸く。マジでこんな観客居る中で戦うの?こんなに人いるの初めてだな。
セメントス先生の個性で作られたフィールドに上る。
「やっほー雲嶋。こんな注目度が違うけど、精一杯戦わせてもらうから!」
「注目度は関係ないよ、三奈ちゃん。けどね、勝つのは私だよ」
お互いを見つめ合う。
「両者、用意は整ったようね。それじゃ、始め!」
ミッドナイト先生の掛け声が聞こえる。
正直、私はここで消耗するわけにはいかない。なので、一発で決めたい状況。しかし、大技を使ってしまえば本末転倒。
なら、狙うべきは…
「雲嶋が動かないなら、こっちから行くよ!」
詰めてきたときの、カウンター!
三奈ちゃんが足から酸を出し、滑ってこちらへ進んでくる。
「悪いけど、もう終わるよ!」
進んできた三奈ちゃんにウェブを発射する。
「読んでたよ、それ!」
三奈ちゃんがスケートの何かの技のようにジャンプし、華麗に私のウェブを横に避ける。
マジか。けど、おそらく、空中制御の技は持っていないはず。つまり、今ならいける!
「じゃあ、それに対応すれば、いい話!」
ジャンプして空中にいる三奈ちゃんにすかさずもう一発ウェブを発射し、着弾したのを確認し、腕を大きく横に振るい、場外に落とす。
「芦戸さん場外!よって、雲嶋さんの勝利!」
再び、観客が沸く。
よし、消耗は少ない。
フィールドを下り、三奈ちゃんのもとへ向かう。
「お疲れ様、結構無理やり場外に出したけど、怪我とかしてない?」
「怪我は大丈夫。ありがとう。それにしても、やっぱり強いね、雲嶋」
「ありがとう、始めのウェブを躱されたのは少し驚いたよ。ただ、あの避け方するなら空中制御の技みたいなのを習得すればいいかもね」
「空中制御、か…わかった。ありがとう!」
「圧倒的な勝利を収めた雲嶋に、もう一度…クラップ・ユア・ハアアンズ!」
「うるせえ、山田」
「マイクって呼べ!」
コントかよ。
また、保健室で寝とこう。
「あんた、試合の様子とか見なくてもいいの?ここまで残るぐらい強いんだろう」
「大丈夫です、力を出せれば勝てる自信があるので…今私がすべきなのは、その力を出せる体を作ることなので…」
「そうかい。じゃあ、また起こしてやるからさっさと寝な」
「すみません、ありがとうございます…」
また叩かれて起こされた。痛くはないんだけどさ。文句も言えないんだけどさ。
次の試合は常闇くんとだった。ダークシャドウは厄介だし、相手から攻めるなんてことして来てもダークシャドウが前方にいるから場外負けに追い込むのも楽じゃない。
今回の試合はカウンター狙いじゃ難しいかもな。
「さてさて、次の選手は、一回戦で圧倒的な速攻勝利を収めたスパイダーガール!なんと彼女、退院から一日も経たずにここにきてます!雲嶋、八菜アアアア!」
ちょ、それ言っていいのか。まあ、いいけど。
控室から出場すると、やっぱり歓声が沸く。心なしか一回戦より沸いてる気がする。
もう一度、フィールドに上がる。なんか、新調された感じするな?
「雲嶋よ、お前が強いことは騎馬戦で組んで直に感じた。だからこそ、お前に勝つ」
「私も、常闇くんが強いことは分かってる。けど、負けないよ」
先ほどと同じように、お互いを見合う。
「両者、用意はいいようね。それじゃ、試合、開始!」
試合が始まる。やはり、常闇くんは機動力が少々欠けているようで、即攻撃はしないようだ。
それなら、私から行こう。
「常闇くん!聞く機会がなかったから今まで聞いてこなかったんだけどさ!その喋り方っていつから?」
ウェブをダークシャドウに向かって低レートで撃つ。
そして、蜘蛛の巣状のウェブを出す準備をしておく。
「質問なら、後にしろ!」
「ああ、ごめんよ、これもう癖なんだよね。それでさ、その個性に名前つけたのはいつなの?」
「質問は後にしろと言っている!会話をする余裕を見せかけているのか!」
準備ができた。
「ああ、これ、時間稼ぎも兼ねてるから。それじゃあ、ちょっと、喰らってくれよ」
低レートで乱射していたウェブに、蜘蛛の巣状のウェブを混ぜて発射する。
今まで発射していたウェブは叩き落とすか、回避をしていた常闇くんとダークシャドウにとって、急に自分を捕らえるネットが来たのはやはり予想外だったようだ。
しかし、流石はヒーロー科と言ったところか、常闇くんはバックステップで回避し、ダークシャドウに蜘蛛の巣ウェブがヒットし、ダークシャドウの身動きが取れない状況になった。
「くっ、一度戻れ、ダークシャドウ」
そうして、常闇くんの胸のあたりから出てきていたダークシャドウは蜘蛛の巣を置いて胸の中に戻っていく。
つまり、今の瞬間は防御ががら空きなわけで。
「そう、この瞬間を、私は狙っていたんだ!」
大きく踏み出し、距離を詰めて、腹のあたりを勢いよく殴りつける。
バックステップの距離と合わさって、吹き飛んだ常闇くんは場外に出た。
「常闇くん、場外!よって、雲嶋さんの勝利!」
よし、順調に勝てている。
フィールドを下りて、常闇くんのもとへ向かう。
「お疲れ様、常闇くん。怪我はない?」
「怪我はしていない。…やはり、お前に負けてしまったか…」
「やはり?」
「ああ、お前の戦いぶりを戦闘訓練やUSJの時、そして、騎馬戦で見た時、勝てないんじゃないかと薄々思っていたが、やはりな…」
「なんだか、買いかぶられてる感じがあるな。私は…いや、なんでもない。とにかく、お疲れ様」
「…雲嶋、俺の分も勝ってくれ…とは言わないが、応援している。頑張れよ」
「うん、ありがとう。頑張るよ」
そうして、会場を後にする。まあ、とにかく今は寝るんだけど。
会場に出た時にトーナメント表見たけど、出久は轟くんにさえ勝利していた。これなら本当に決勝に来るのかもしれない。
というか、見た時に気づいたけど、次の相手は多分…。
「爆豪くん、だよなあ…」
鳴り響く爆発音を思い出して、痛まないはずの胃がぴりぴりと痛くなった。