元蜘蛛男で現蜘蛛女のヒーローアカデミア   作:りてらしー

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蜘蛛女の職場体験③

 ヒーロー殺しを見つけたとき、その場には飯田くんに轟くん、それと出久に知らないプロヒーローであろう男性がそれぞれ倒れていた。

 状況を把握した後、ヒーロー殺しを捕縛しようとしたのだけど、

「……みんな動けないってことでいいのかな。分かるのであれば個性の発動条件とかいろいろ教えてほしいんだけど」

 

「個性の発動条件は対象の血をなめること! 発動時間は血液型によって変わる!」

 

「オッケー出久、ありがと。あとはゆっくり休んどいてね」

 

 さて、どうしたものか。

 ぐるぐる巻きにした状態で刃物出せるんだったら拘束でどうにかするのは難しい。

 やっぱり、ぶっとばすのが一番かな。

 

 ただ、増強率が私より強くなってる出久が全力で殴ってもまだ落ちてないヒーロー殺しを弱くなった私でボコボコにできるかは分からない。

 いや、来るとわかっている攻撃にはある程度耐えることが出来るだろうし、その理論で出久の攻撃に耐えられていたのだろう。

 逆に言えば、意識外の攻撃を食らわせることが出来れば倒すことできる可能性は、ある、か? 

 

 いや、よくよく考えれば相手の個性には時間制限があるのだから倒さずとも時間を稼げばいいか。

 

「ハァ……流石にお前も来たのなら他のヤツらを相手取れるとは思えんな……」

 

「それって、敵前逃亡するって意味? どういう動機でやってんのか知らないけど、いいの? 大量キルのチャンスだよ?」

 

「ハァ……俺はヒーローの在り方を正すためにやっている……。確かに贋物を殺すチャンスだが……活動ができなくなっては、元も子もない……」

 

「ヒーロー殺しくんだっけ? 君の求めるヒーローの在り方って実際なんなのさ」

 

 手首から足元に細いウェブを数本発射しておく。

 

「俺の求めるヒーローの在り方……オールマイトのような、見返りを求めずに、己のために力を振るわない、そんなヒーロー……」

 

「ふーん? それ以外はヒーローじゃないってわけなの?」

 

「ハァ……当たり前だ……」

 

 ヒーロー殺しが私を指差す。なに、動けなくする以外に個性に効果があったりする? 

 

「ハァ……スパイダーマン……お前は、見返りを求めなかったヒーローだ……。金銭が与えられるわけでもなく、公的に讃えられることもなく、悪に与したあのヴィジランテとも違う、本物のヒーロー……」

 

「だからそれ私じゃないってば。言葉は通じて話が通じないのがいっちばんイライラするんだよね」

 

 体に力を籠める。

 

「イライラしたからお喋りタイムはここまで! 今からは私が君をボコボコにするタイムだよ!」

 

 地面を蹴り、相手との距離を一気に縮めながら、ウェブを掴み続ける。

 ハイキックで顔面を蹴り飛ばそうとするが後ろに跳んで躱される。

 

「もういっぱアアアッつ!」

 

 後方の地面にくっつけて掴んでいたウェブを思いっきり引っ張る。

 すると、一瞬の石が砕けるような音と共に後方から剥がれたアスファルトが飛んで行く。

 アスファルトはヒーロー殺しの腹に勢いよく命中し相手が怯む。

 

「ミルコ曰く!」

 

 怯んだヒーロー殺しに跳びかかり空中に蹴り飛ばす。

 

「怯んだ隙を逃さずに!」

 

 浮かんだのを追いかけてウェブを両隣の建物に発射しそれを引っ張り跳び上がる。

 

「蹴り続ければ!」

 

 ヒーロー殺しより高い位置に来た瞬間。

 

「絶対に勝てるらしい!」

 

 スパイダーセンスが反応した。

 

「こんな時に脳無!? ああもう、あと少しだったんだから邪魔しないでよ!」

 

 かかと落としのために上げた足を無理やり後ろから飛んできた脳無に向けて横に蹴る。 

 着地する際に、地面に落下したヒーロー殺しの左右の壁にウェブを張り巡らせ距離を取る。トラップと、ちょっとした合体必殺技というやつの準備だ。出久にグッドサインを送っておく。頼んだぞ。

 

 即決着のつもりで最初っから切り札使ったのに、脳無の横槍のせいで手札が一気に限られちゃった。

 脱力感がすごいぞ。やっぱりこれって私の体力の前借りとかそういう話なんだろうか。

 それにしても、よく脳無はここが分かったな。

 やっぱり、私が狙われているのだろうか。

 しかし、それにしても理由が分からない。狙われる理由あるっけ? 

 

「ハァ……やはり、強いな……」

 

 こいつもまだ倒せてないし……。

 けどまあ、そろそろじゃないだろうか。

 

 

「私を守ってくれるぐらい強くなる……みたいな話だったよね。出久」

 

「うん! その通りだよ。今度は、僕が守る!」

 

 私の後方から緑色の閃光が軌跡を遺してヒーロー殺しのもとに向かっていく。

 あれ、速すぎて出久が閃光にしか見えないんだけど。どんだけ強くなってんだあれ。

 飛び出していった出久は私の張っていたウェブに飛び乗り、そのまま跳ね回ってヒーロー殺しを翻弄している。

 ぶっつけ本番の合体必殺技は成功したが、跳ね回ってるスピードが速すぎて内側がほとんど見えないんだけど。あのスピードでヒーロー殺しに突っ込んでいったらどんな威力になるんだ。貫通するんじゃないだろうな。

 あ、どっかぶっとばしていった。あれはしばらく気絶するだろうな。

 

 スパイダーセンスが後ろに反応したので振り向くと、先ほど蹴っ飛ばした翼脳無が帰ってきていた。

 ウェブを発射し、命中するタイミングで地面にたたきつけそのままウェブで地面に拘束する。

 

「雲嶋……大丈夫なのか? お前」

 

「随分疲れているような、そんな感じがするが……」

 

 私の後ろで未だ倒れている轟くんと飯田くんから声をかけられる。

 

「私は大丈夫だけど、そう見える?」

 

「ああ、だが本人が大丈夫だというなら…大丈夫なのか?本当に」

 

「いや、これが終わったらすぐに休んだほうがいい」

 

 うーん、休んだほうがいいんだろうか。結局位置情報を開けず、この辺りにいることにかけてあちこち跳びまわって探しはしてたけども。

 でも、疲労感みたいなのは感じないんだよな。

 

「というか、出久のとこ行かなきゃじゃん。流石にヒーロー殺しもあれ喰らったら気絶とかしてると思うけど、一応ね」

 

 スパイダーセンスにも反応はないし、大丈夫だろうけども。

 

「轟くんは……出久のところ行ってくれる? 私と飯田くんはあの人の怪我とか確認しておくから」

 

「おう」

 

 轟くんはヒーロー殺しと出久のもとへと向かってくれた。

 

「さて、飯田くん。君の怪我の手当ても軽くしておかないとね」

 

「いや、僕は後でいいから……」

 

「はいはい、手出してね」

 

 飯田くんの手を見ると、ナイフが結構深く刺さっていたのか大量に出血している。

 治療系の個性があるわけでもないし、止血して終わりにしておこう。

 

 ウェブを薄く伸ばしていくイメージで、手首から出していく。

 包帯のようになったウェブを患部に巻きつける。

 

「はい。本当に応急処置だから、安静にしといてね」

 

「ああ、すまない……」

 

「私、謝られるより感謝される方が好きだから。すまない、じゃなくてありがとうでいいよ」

 

「そうか、そうだな……。雲嶋君、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 それじゃああのヒーローさんを助けに行きましょうかと歩き出す。

 歩き出す。

 歩き出す。

 

「……どうした? 雲嶋君。立ち止まって」

 

 声が出ない。

 声を出そうとしても音に成らなかった空気が喉から出ていく。

 

「おい、大丈夫か!? 雲嶋君! く──ん!」

 

 意識が遠のいていく。

 意識を完全に手放す瞬間、見覚えのある黒いもやが私を包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、ミルコが一緒にいたとはいえ脳無を粗方蹴散らしてしまうとはな」

 

 老人の声が響く。

 どこだ、ここは。

 

「まあ、失敗作を廃棄できたと考えればいいが…お、目を覚ましたか」

 

「お、こ、こ、どこ」

 

「無理に喋ろうとするな。寿命やら体力やら痛覚やら味覚やらその他もろもろを削って自分の身体機能を増やして活動しておったのだぞ。ボロボロの身体に鞭を打って壊れたらどうするつもりじゃ」

 

 なんだ、何の話をしている。

 頭が回らない。体がだるい。

 

「おや、ドクター。彼女、いや彼は目を覚ましたのかい?」

 

「ああ、先生。体力は回復しとらんが、意識はあるようじゃ」

 

 先生と呼ばれる男が入ってくる。

 スパイダーセンスが反応するが、USJの脳無の程度じゃない。

 身の毛がよだつような、そんな感覚。

 吐き気を催す。

 

「フフフ、苦しいみたいだね」

 

 手首をその男に向け、ウェブの発射のポーズをする。

 その瞬間、体から何もかもが抜けていくような感覚に襲われる。

 なんだ、これは。

 喪失感が胸中を支配する。

 倦怠感が体中を支配する。

 

「無駄だよ。君の身体は今まで代償にしてきたものがすっからかんなのさ。体力を代償に発射するその父親譲りの蜘蛛糸はしばらくは発射できないだろうね」

 

「それにしても、君は面白い人生を歩んできたね」

 

「僕がちょっかいをかけてからというもの、とても愉快だった」

 

「死んだ母親を精神世界で生み出して約十年を過ごしたり、己の人格と身体を二回も消したり、挙句の果てには父親の存在そのものを消したり…」

 

「そういえば、今の君はどうなんだ?過去に自分が男だったことは覚えているのかな」

 

 母さんが、死んでいる?そんなわけはない。

 父親譲り?私に父親はいない。

 過去に私が男だった?そんなはずはない。

 私は生まれてからずっと女だったのだ。

 

「どうやら、覚えていないみたいだね」

 

「やはり、君の個性は面白い」

 

「ドクター、カルテに記入しておいてくれ。彼女の個性は時間経過により代償にしたものの存在を消す可能性がある、とね」

 

「わしにはその話が本当だとはとても思えないんだがね。先生が言うのであればそうなんだろうな」

 

 老人が紙に書き込んでいく。

 

「さて、八菜。短い間だったが、君には帰ってもらおうか。途中経過の確認は終了だよ」

 

 男が私の顔を掴む。

 

「代償は君のここでの記憶。得られる物は…そうだね。君の周りの人たちが君が急にいなくなったことを気にしないようにしておこうか」

 

 再び、意識が落とされる。

 

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