元蜘蛛男で現蜘蛛女のヒーローアカデミア   作:りてらしー

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女の誕生

 飯田君に轟君、そして八菜さんと一緒にヒーロー殺しと戦ってから丸一日が経過した。

 八菜さんを除く二人は怪我の治療と検査のための入院で済み、命に別状はないらしい。

 

 しかし、八菜さんだけは未だに目を覚ましていない。

 USJ襲撃のときに見たあの黒い霧のヴィランのワープの個性が八菜さんに使われているのを僕は見て、途中まではその場にいた二人もそのことをしっかりと覚えていたはずだった。

 その後、二人にはネイティブを病院へ連れて行くのとプロのヒーローの応援を待つように頼み、その間に僕は八菜さんを探しに行った。

 長い時間八菜さんを探して回ったが、結局見つけることはできなかった。

 

 病院へ移動していた二人の元へ行くと、轟くんの背中には歩けるようになったネイティブの代わりに、気絶していた八菜さんがいた。

 

「轟くん! 八菜さん、いたんだね。よかった……」

 

「緑谷、無事だったか。今までどこに行っていたんだ?」

 

「えっ? 今まで……って、八菜さんがUSJのときのヴィランの個性で攫われちゃったから僕が探しに行ったんじゃないか」

 

 僕がそういうと、飯田君は心底不思議そうな顔をして答えた。

 

「ヴィランに攫われたも何も、雲嶋くんはあの戦いの後気絶してしまって、その後はずっと僕らが介抱していたんじゃないか」

 

 二人は、攫われた事実を忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚める。またこのパターンか、と思うやすぐに自分の体の異変に気付く。

 なにやら体が重い。だるい気分ではないが、動かしづらい。

 風邪でも引いてしまったのだろうか。

 

 ここはどこだろうと辺りを見回すと、腕に点滴が刺さっていることや、入院服に着替えさせられていることにも気づく。

 どうやらここは病院のようだ。

 ああ、そうだった。俺は確か……ヒーロー殺しと戦ってて、そのあと気を失ったんだった。

 

 ここが病院なら話は早い。ナースコールをして看護師さんを呼ばせてもらおう。

 俺が寝かされていたベッドのそばにあるナースコールのボタンを掴んで押す。押す。押す……押せない。

 なんだこれ、やけに硬いぞ。

 

 壊さないかどうか不安になりながら、全力でナースコールを握ろうとしたところで、スパイダーセンスが反応する。

 反応、というよりは無理やり押し付けられているような感覚がする。

 いろいろな言語がまじりあった叫びが頭に直接流れ込んでくる感覚がする。

 しかし、それらの叫び全てに共通するのは、助けてほしい、という願いが込められていることだ。

 

「……助けなきゃ」

 

 腕に刺さっている点滴と体中に張り付けられているコードやらを引き剥がし、病室の窓を開けてそこから街へと飛び出す。

 ウェブを建物に発射し、そのままスイングしようとしたところで、手からウェブがすっぽ抜ける。

 

「はっ!? ちょっ、なんで!」

 

 慌てて建物の壁に張り付こうと、手を壁に沿わせる。すると、減速はしたが、ずりずりと下に落ちていく。

 

「いや、ホントになんでだよ……! 俺が女になる前みたい……俺が、女になる前?」

 

 違う。俺は男だ。いやでも、俺は女になって、出久たちと一緒に雄英のヒーロー科に入学して……いや、出久って誰だよ。

 

「あ」

 

 壁から完全に手が離れ、背中から地面に落下していく。

 風を体全体で感じる。

 これは死んでしまったかもしれない。いや、そんなわけないか。脳無のパンチ受けて俺は立ってたこともある……脳無ってなんだっけ。

 地面が近づいてきているのを横目に、今までの人生を思い出す。走馬灯というやつだろうか。

 

 あったようで、なかったような記憶ばかりが蘇る走馬灯、気味が悪くて仕方がない。

 私は、俺は。

 どんな人生を歩んできたんだっけ。

 

「八菜さんッ!」

 

 緑色の閃光が、俺を受け止めた。

 

「えっ誰、お前」

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院の入院していた部屋に再び戻された俺は、警察から事情聴取を受けていた。

 

「まずは、無事に目覚めたようで何よりだワン」

 

「はァ、どうも……」

 

「それで、怪我人に時間を取るのも悪いから、早速本題に入るワン。君は、ヒーロー殺しと戦闘をした。事実だワンね?」

 

「……ヒーロー殺し? が誰か教えてくれます? 聞くからに物騒っすけど」

 

「そんな、八菜さんまで!?」

 

 犬のおまわりさんの後ろで話を聞いていた緑谷出久と言うらしい男が驚愕の声を上げる。

 

「君、静かにするって条件でここにいさせてやってるんだワン。次騒いだらつまみ出すワンよ」

 

「は、ハイ……すみません」

 

 ハァ、と溜息をついて再び口を開く。

 

「君は、ヒーロー殺しと戦った記憶がない。及び、中学校からの記憶がないワンね」

 

「中学校からの記憶ゥ……? つーか、まだ入学もしてないでしょ俺」

 

「……全く、どうなってるんだワン」

 

「どうなってるも何も、俺が聞きたいんですけど」

 

「……君は、雄英高校ヒーロー科の雲嶋八菜。君は職場体験学習中にヴィランと交戦し、気絶した……そこにいる彼によれば、気絶する前にUSJ襲撃のときのヴィランが君を攫ったらしいが……監視カメラの映像も、証言もなかったワンから、見間違いとかだと思うワン」

 

「見間違いなんかじゃありません! 僕は絶対に見ました!」

 

「……次はないと言ったはずワンよ」

 

「っ、だけど、僕は、絶対……」

 

 なんか言ってるけど、まず初めに訂正したいことがある。

 

「すんません。俺、雲嶋八菜じゃなくて、笹下八菜、なんすけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 スパイダーサック。過去に存在していたプロヒーロー。

 オールフォーワンとの決戦後にデビューした彼は、過去に存在していたアメコミのヒーロー、スパイダーマンのような個性をしていたことをよく覚えている。

 いや、個性だけでなく、立ち振る舞いもスパイダーマンに寄せていたから印象に残っているのかもしれない。

 

 私はヒーローとして、平和の象徴として存在しているとき、必ず笑顔を作っている。

 彼も同じだった。スパイダーマンのロールプレイと言えばそうだったのかもしれなかったが、常にジョークを言い、おちゃらけながら戦っていた。

 

 仕事で、彼が担当していた地域に私が行った際に出会ったことがある。

 その時に、彼に聞いたことが一つある。

 

 ヒーロー名のスパイダー、は分かるが、サック、はどういう意味なんだ? 

 

「……俺の個性からちょっと、貰ったんですよ」

 

 個性から、という発言から、彼のスパイダーは蜘蛛の個性じゃないのか? と思ったが、彼の思い悩んだ顔を見て、その質問をするのはやめておいた。

 

 しばらくして、彼はいつの間にか活動をしなくなっていた。

 メディアや、委員会のほうでも何も言われなかった。

 私も、彼について忘れてしまっていた。

 

 私が彼のことを思い出したのは、今の教え子の中の、雲嶋八菜少女のヒーロー名を見てやっと、だった。




笑っちゃった。
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