元蜘蛛男で現蜘蛛女のヒーローアカデミア   作:りてらしー

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蜘蛛女のやらかし

 出久と友達になったあの日から二年。私は結局、中学校生活を並行してのヴィジランテ活動をずるずると続けてしまっていた。

 これに関しては少し言い訳をさせてほしい。ふとしたら頭の中に助けを求める声が響いてくるんだ。

 ちょっと前のヘタレていたころの私ならともかく、今のヒーローを志している者としては無視ができない。

 そんな感じで、個性の使用を続けていると段々個性の使い方が分かってきた。

 

 まず、蜘蛛糸についてだが、どんな性質かを意識しながら発射することである程度発射時の蜘蛛糸の性質を操作できるようだ。

 粘着質な蜘蛛糸や、丈夫さに重きを置いた蜘蛛糸などを出せる。

 一度に発射する蜘蛛糸の長さや形なども操作出来るようで、いろいろなことに使える。

 例えば、蜘蛛糸を硬くして丸めて発射するようなことも可能だし、使いやすい飛び道具として重宝している。

 他にもネットの形を意識して、しばらく溜めてから発射すると、大の大人一人が寝転がっても大丈夫な蜘蛛の巣が作れたりする。

 ただ、リミッターを超えて使いすぎると疲労がどっと溜まり、その翌日の学校は居眠りを何回もしてしまうようなことが起きてしまった。反省。

 

 他にも、怪力は日常生活で不便がないような力加減をすることが出来るようになった。これでドアノブを壊したりなんかしない。

 怪力は、なんとなくだが、日々パワーアップしているような気がする。これ以上に強くなった場合、また力加減を考えなければならない。強くなれるのはうれしいが、そこだけは不便だ。

 

 蜘蛛糸の話に少し戻るのだが、ヴィジランテ活動をしているうちに不便だと感じることが一つ出てきた。

 それは、移動手段だ。

 遠くに行かなければならないときには走るだけじゃ遅すぎるのだ。

 それに、警察や、地元ヒーローから逃げる時も不便だし。

 今のところは捕まってはいないがいつ捕まってしまうかハラハラしながら活動している。

 捕まらないは大前提なので、至急、この問題を解決する必要が出てきたのだが、意外とすぐに考え付いた。

 蜘蛛糸で移動すればいいのだ。

 初めてヴィジランテ活動をしたときの戦闘で、蜘蛛糸でパチンコの要領で飛び出したことを思い出したのだが、それをいろいろなことに応用できるのではないかと思ったのだ。

 例えば、ビルの外壁に蜘蛛糸を引っ付けて、振り子運動の要領で移動したり──振り子運動のことはそのまま呼ぶとダサいからウェブスイングと名付けた──、伸縮性に特化させた蜘蛛糸で蜘蛛の巣を作ってトランポリン代わりにして高いところに移動したり。

 これを考え付いたおかげで活動範囲が大きく広がった。

 

 幸い、蜘蛛糸は数時間後には自然に消えるので街へ大きな迷惑はかけていないはず……だ。多分。そんな話を聞いたらすぐにやめよう。

 

 そんなこんなで、私はヴィジランテ活動をしながらも中学校生活も並行する生活を続けていた。

 二年間やってきたが、それは決して苦ではなかった。

 ヴィジランテ活動は、違法とは知りつつも助けた人が安心した表情でお礼を言ってきてくれるのはうれしかったし。

 ただ、サイズの合うズボンを買わなくなってしまったからと、割と有名になり始めたころに、スカートでの活動が世間に出回った時はやばかった。スパイダーマンではなくスパイダーウーマンの証明をしてしまった。

 ネットではそのネタでしばらく騒がれていたし、ウェブスイングをしたときのパンチラ画像なんかが出回ったときは絶望した。男のパンチラなんてうれしくないだろ。やめとけよ。恥ずかしくなる。

 その画像が出回ったときからはきちんとスパッツを履くようにしている。何と勝負していたかは知らないがこれで私の勝ちだ。

 

 中学校生活では、二年生からクラスが一緒になった出久がいて、毎日一緒に遊んだり話したりしててとても楽しかった。ただ、二年間でそこそこ大きくなった私の胸を時々ちらりと見てくるのは恥ずかしいしすぐにスパイダーセンスで気づいちゃうからやめてほしい。私も男だったから気持ちは分かるから黙っておいたけど。

 

 そんな二年間を過ごした私は、遂に中学三年生になる。

 進路を本格的に考え出す時期だ。

 もちろん、私はヒーロー科志望だ。どこを目指すかはまだ決めていないが。

 出久もヒーロー科志望だろうから、出久の決めたところに行こうかとは思ってるけど。

 あれ? そういえば私って、母さんにヒーロー科志望なこと伝えてたっけ。

 ……。

 

「伝えてない!」

 まずいぞ、私史上最大の忘れ物かもしれない。こうなったらすぐに伝えよう。

 リビングに行くと、母さんがいた。

 

「ちょうどよかった、母さん。少し話したいことがあるんだけど、いいかな」

 

「なによ、八菜。急に改まって。あ、もしかして恋愛相談?」

 

「違うよ、私ほど恋愛しにくい個性もないでしょ」

 キャーキャー言ってるのを無視して話を進める。

 

「私の進路の事なんだけど」

 

「知ってるわよ、ヒーロー科志望でしょ?」

 

「え、なんで知ってるの?! まだ言ってなかったのに」

 

「だって、八菜って家のテレビを見てるときはヒーローに関するドキュメンタリー見てたじゃない。私はてっきりヒーローになりたいんだろうなって思ってたんだけど」

 確かに、見てたがあれはスパイダーセンスが反応しても助けなかった人たちがきっとヒーローに助けられたと思い込むためにみてたんだけど……。

 まあ、それなら話が速い。

 

「うん、その通りだよ。どこのヒーロー科に行こうかは特に考えてないんだけど……」

 

「どうせ件の出久君と同じ高校でしょ? 出久君に聞いてきなさいよ。どこに行くの? って」

 

「なんでそれまで知ってるんだよ母さん! もしかして個性?」

 

「そんなわけないでしょ、私の個性はただの手に物が張り付きやすくなるだけの液体みたいなのを出せるだけなんだから。八菜の考えることが全部わかるのはあなたの母親だからよ。自分の子供の考えることぐらいすぐわかるわ」

 全部を見通されてる気がしてなんとなく恥ずかしいな。

 

「まあ、八菜がどこの高校に行こうとも、やりたいことが間違ってさえなければ応援するわ。母さんはいつでも八菜の味方だからね。いつでも頼んなさい」

 

「母さん……」

 思わずほろりと来てしまいそうだ。

 

「恋愛相談とかもね!」

 前言撤回だ。

 

 ──────────────────────────────────────────

 

 三年生になってしばらく、いつもと同じように朝のホームルームが始まり、いつもと同じように、担任からの話が始まる。

 

「お前たちも三年生と言うことで、本格的に進路について考えていかなければならない……まぁ、みんな大体ヒーロー科志望だよね!」

 え、そうなんだ。思ったよりヒーロー科志望する人多いんだな。

 その時、クラスメイトの一人が声を上げる。

 

「センセエー、みんなとか一緒くたにすんなよ。俺はこんな没個性たちとは仲良く底辺にはいかねーよ」

 確か、爆豪とかいうやつだ。出久に度々絡んでたから私も少しだけ話したことある。ほんの少しだけど。

 

「確か爆豪の志望校は……雄英だったな」

 みんながざわめく。無理もないな。私も驚いてる。急にしゃべりだしたらぎょっとされるから静かにしておくけど。

 なんか出久縮こまってない? 気のせい? 

 机に飛び乗りながらなんか言ってるな。

 偏差値79の高校で模試Aとかオールマイトを超えてナンバーワンヒーローになるとか高額納税者ランキングに名を刻むとか言ってる。

 すごい国のためになる野望だな。素晴らしい。

 

「確か……、緑谷も雄英志望だったな」

 あ、出久が固まった。

 みんなが噴き出して、笑いはじめる。

 いや、先生も生徒の志望校勝手に言っちゃダメでしょ。なにやってんだか。

 なんかスパイダーセンスが反応してるんだけど、この状況だと出久に危険が迫ってるのか? 

 出久を見ていると爆豪が出久の机に近寄って、右腕を大きく振りかぶっていた。

 流石にこれは見て見ぬふりはできないので爆豪の右腕に蜘蛛糸を発射する。

 

「あぁ!? なんだおい! 蜘蛛女ァ!」

 

「いや、暴力は流石によくないかなあって思って……」

 

「……ッチ、離せよ、クソが」

 あれ、なんか思ったよりすぐに引き下がったぞ。

 蜘蛛糸の粘着力を下げる。

 

「あーえーと、みんなもさ、ヒーロー目指してるなら力のない人を笑わないほうがいいと思う、よ? 多分そこって、ヒーロー以前の問題で、人としての問題だと思うんだけど……」

 ……。空気めっちゃ冷えたんだけど。もしかしたら、三年生になったらもっと友達増えるんじゃないかと思ってたんだけど、希望は潰えたな……。

 まあ、出久が友達でいてくれるだけで充分だしな! うん! 悲しくなんてない! 

 

「あー、とりあえず、ホームルームを終わるぞ~。しっかりと進路について考えておくように!」

 先生は逃げるように教室から出て行った。

 

 

 今日も今日とて中学校の一日が終わった。今日もいつもと変わらず、出久と一緒に帰ろう。

 

「出久、早く帰ろ」

 

「うん、そういえばさ、今日登校してくるときに見たあの事件覚えてる?」

 

「あー、うん。あのでっかい(ヴィラン)のやつでしょ?」

 

「そうそう! あれ、もうニュースサイトのトップになってたんだ!」

 熱心に話す出久を見ていると、やはり、熱意がすごいなと感じる。

 二年間出久と過ごしてきたが、ヒーローのイメージというか、在り方は出久という人間にぴったりと合っている。

 困っている人がいれば助けに入る。誰かがいじめられていれば目を泳がせながらも助ける。

 私が知っている中でヒーローと言えばと言われればオールマイトやエンデヴァーよりも先に、緑谷出久という人物が出てくる。

 それぐらいには底なしのお人好し。

 

「おい、デク。それに蜘蛛女。何してやがる」

 なんか手下を引き連れてまた絡みに来たんだけど、出久は爆豪に何したんだ。私はともかく。

 

「ど、どうしたのかっちゃん?」

 

「こっちが聞いてんだコラ! 何してんだァ!」

 

「え、えっと、今朝の事件のヒーローについて話してて……将来ヒーローになるときに役立つかなって、このノートにまとめてたりしてるんだ!」

 出久が鞄からノートを取り出す。

 それを爆豪がひょいと摘み上げ、そのまま爆破。

 というのをしようとしていたのをスパイダーセンスで察知したので事前に防ぐことにした。

 摘み上げた腕を鷲掴みにする。

 

「ちょっと、何しようとしてるの」

 

「またてめえか、蜘蛛女……」

 ほんとにヒーロー志望なのかってぐらい睨みつけてくるな。

 

「だって、ノート爆破しようとしてたでしょ。よくないよ。そのノートは出久の努力の結晶だ。返して」

 

「蜘蛛女、てめえあんま調子に乗ってんじゃねえぞ!」

 

「かっちゃん! やめて!」

 出久が制止したが聞かずに爆豪が私に殴りかかってくる。女子にも容赦ないな。中身は男ではあるけど。

 大きく踏み込んだ右の大振りだ。超高速で動く個性の(ヴィラン)に比べたら何ともない。

 ヴィジランテ活動をしてる私と天才と言えどもなんの訓練もしていない中学生だったらそりゃ私が勝つよね。

 体を横に逸らして拳を避ける。

 仕方がないので正当防衛ということで個性を使わせてもらう。

 

「申し訳ないけど、拘束するね」

 まず、無防備な右脇腹に向かって右手から糸を発射する。発射した糸を掴み、下方向に引っ張る。

 私が回避したことで驚いていたのかあっけなく体勢を崩し、床に倒れる。

 そのタイミングで蜘蛛糸を爆豪に乱射する。

 すると、出来上がったのは床に貼り付けにされた蜘蛛糸まみれの爆豪だ。

 なんか、容姿と声のおかげで貧弱だと勘違いされて油断してくれるんだよな。助かる。

 

「あー、落ち着いたかな。爆豪くん」

 

「クソが、蜘蛛女ァ! 剥がせえ!」

 

「なんも落ち着いてないじゃん……。じゃあ、私たち帰るから。じゃあね。あ、そこの二人は爆豪君の蜘蛛糸剥がしてあげてね。多分ねっばねばだから剥がすのにそこそこ時間かかると思うけど」

 まあ、先に暴力振るおうとしてきたのはあっちだし、セーフだよな。うん。やりすぎな気もしなくもないけど……。

 

「それじゃ、帰ろっか。出久」

 

「え? あ、う、うん」

 そうして、私たちは教室を後にする。

 

「ごめんね、八菜さん。僕のせいで……」

 

「出久のせい? 私が余計なことしただけだから、気にしないでよ。それに、なんもケガとかしてないし」

 本当に怪我も何もしてないのだから、大丈夫なのに。やっぱりネガティブだな。

 

「それに、私は謝罪よりお礼を言ってもらう方が好きだよ。謝らないで」

 

「う、うん。ごめん」

 

「謝らないでって言ったのに……」

 

「あ、うん、えっと、ありがとう。朝のときも」

 

「どういたしまして……、そうそう、お礼のほうがいいね」

 喋っているうちに、いつもの高架下に入る。

 

「うん、そういえば、八菜さんの動きすごかったよ! 手慣れてた感じがした!」

 

「そ、そうかな。ほとんど初めてだったんだけど……」

 

「そうは見えなかったよ! そういえば、前々から思ってたんだけど、八菜さんってヴィジランテのスパイダーマンって知ってる? ヴィジランテだからほんとはいけないんだけど、この辺りを主に活動してるヴィジランテでね、ヒーローが見つけられないようなところで助けを求める人を全員助けててすっごいかっこいいんだよ! スパイダーマンとは言ってるけど実際は僕らぐらいの年齢の女の子じゃないかって噂されてるんだ。ジョークを言いながら(ヴィラン)を倒してる映像があるんだけどそれがかっこよくて……」

 

 まずい、出久はヴィジランテも調べていたらしい。しかもスパイダーマン知ってるぞこいつ。いつバレるかは時間の問題だな。

 というか、恥ずかしいな。これが褒め殺しか。

 

「ソ、ソンナヴィジランテガイルンダネ! スゴイナ! ソ、ソレデ、スパイダーマンガドウシタノ?」

 

「あ、う、うん。それで、スパイダーマンは力が強かったり、蜘蛛糸らしきものを発射してたりして、八菜さんにとてもよく似た個性だから、もしかしたら参考になるんじゃないかなって!」

 それ、私です。雲嶋 八菜本人なんです。

 

「ソ、ソウナンダ! アリガトウ! ミテミルヨ!」

 

「うん! 是非そうしてほしいな! それでね、スパイダーマンは……」

 話をつづけようとしたので慌ててストップをかける。

 

「あ! そういえば! 出久って雄英志望だったんだね!」

 

「う、うん。そうだよ」

 

「じゃあ、私も雄英志望にしとくね」

 

「へー、八菜さんも雄英志望にする……え?」

 

「いや、ヒーロー科に入ろうとは思ってたけどどこの高校に行こうかとかは全く考えてなかったからさ。出久と一緒のところに行こうと思ってたんだ」

 

「そんな、僕に合わせるみたいな感じで選んじゃっていいの?」

 

「いいんだよ。ただ、雄英か……偏差値79だっけ。大変そうだな」

 偏差値79なんて私がギリギリ届くかどうかの数字だ。爆豪のすごさを改めて実感する。

 

「うん、でも、オールマイトが進学した高校だから。僕も行きたいんだ。それで、ヒーローになりたい」

 やっぱり、出久は熱意がすごい。私一人だったら絶対そこら辺の高校のヒーロー科で満足していただろう。

 

「よし、じゃあ一緒に頑張ろう!」

 

「うん、よろしくね。八菜さん」

 話しながら、ゆっくりと歩いているときに、突如スパイダーセンスが反応した。

 助けを求める声ではない。つまりは、自分の周りに迫る危機。

 

「どうしたの? 八菜さん」

 

「気を付けて、出久、何か来てる」

 

「え? それって……」

 出久が何か言いかけたとき、後ろのマンホールからドロッとした液体が出てきていた。

 

「出久、逃げて。多分、これは(ヴィラン)だ」

 

「そ、そんな……八菜さんも逃げようよ!」

 

「流石に、出久をおぶって逃げられはしないから、時間だけ稼いで私も逃げるよ」

 

「そ、そんな……」

 

「ほら、早く。下がってて」

 マンホールから完全に出てきた(ヴィラン)に向かって私は我流の構えを取る。

 

「Mサイズの、隠れ蓑……!」

 

「ねえ、下水道から出て来たけど、そのドロッとした体ってもしかして? ばっちいからこっち近寄らないでくれると嬉しいな」

 (ヴィラン)と戦うときは少なからず恐怖を感じる。私はそれを紛らわせるために軽口を叩くことにしている。

 ドロッとしたヴィランはこちらに飛び掛かってくる。思っていたより速い。

 右側に思いっきり飛び回避する。空中にいる間に丸めた硬いウェブを乱射するが、ドロッとした体には一切通用しなかった。

 

「ねえ、その体の中にゴミとか入ったらどうなんの? 内臓にダメージ行かない? まず内臓あるの? ねえ、無視?」

 

「てこずらせるな、このガキ……!」

 そうこう言っているがどうやってこいつを倒したものか。蜘蛛の巣ネットで捕獲しようとしても貫通するのがオチだろう。

 

「八菜さん、やっぱり、僕……!」

 逃げたはずの出久の声が高架下に響く。

 

「出久!? 逃げてって言ったでしょ!」

 思わず、後ろを振り返ってしまった。(ヴィラン)が目の前にいるというのに。

 ヘドロの(ヴィラン)はこれをチャンスと思ったのか、気づいたときにはもう私にまとわりついていた。

 まずい、呼吸ができない。

 

「いず、く、にげろ、!」

 

「や、八菜さん!」

 出久がヴィランにバックを投げつけようとした。

 その時、マンホールのふたが勢いよく開き、その勢いのまま天井にぶつかる。

 なんだ、新しいヴィランか? 

 いや、スパイダーセンスは反応していない。

 

「すまない。遅れてしまった……。だが、もう大丈夫」

 この声は、誰もが聞いたことがある。

 

「なぜって?」

 なんの根拠もないのに、声だけでも安心ができる。

 いや、もはやその声、存在が安心の根拠であろうか。

 

私が来た

 

 ああ、よかった。助かった……。

 オールマイトが、来た。

 私は、オールマイトの放った拳から生まれた風圧とその風圧でヘドロが離れていくのを感じながら、風圧で私も吹っ飛ばないように壁に手をつけた。

 すごいな、風圧だけでどうにかしてる……。

 

「八菜さん! 大丈夫?」

 

「うん、私は大丈夫だよ。出久もなんか怪我とかしてない?」

 

「僕は平気だよ。八菜さんのおかげで。それより、ごめんね、僕のせいでさっきは……」

 

「いいや、大丈夫。私のことを助けようとしてくれたんでしょ? それより、さっきも言ったけど謝られるより、お礼を言われる方が好きだからさ、謝らないで?」

 

「う、うん……。ありがとう、八菜さん。また助けてくれて」

 

「どういたしまして。で、えーと……」

 私が振り返ると、ホンモノのオールマイトが立っていた。

 

「やあ、少年少女。さっきはすまなかったね。一般人を(ヴィラン)退治に巻き込んでしまった……。普段ならこんなことはないんだがね、オフで、新しい土地だったから、浮かれちゃってたのかな? HAHAHA!」

 

「とりあえず、その(ヴィラン)をボトルに詰めるのを手伝ってくれるかな、少年少女!」

 

 

 

 

 ヘドロヴィランをボトルに詰め終わった後、出久とオールマイトは何か話している。

 何を話してるんだろ。

 あれ、なんかオールマイトがこっち来るんだけど。

 

「雲嶋少女! 君が(ヴィラン)と私が来るまで戦っていたそうだな!」

 やばい、怒られるか? 

 

「個性を人に危害を加える目的での使用は国からの許可がないとしてはいけないと知っているだろう?」

 

「はい、ただ、緊急事態だったので……」

 

「うん! 私が巻き込んじゃったせいだからこの件に関しては不問ね!」

 

「はい、すみま……え? 不問でいいんですか?」

 

「いいよいいよ! 見てる人、私たち以外いなかったでしょ! セーフ!」

 それでいいのかナンバーワン。まあ、私にとっては得だけど。

 

「ただ、雲嶋少女。君は本当に今回が初めてかい?」

 

「と、言うと?」

 すると、オールマイトは急に腰をかがめて私の肩に腕を回し体に寄せてくる。なんだ急に。

 

「雲嶋少女、君、ヴィジランテのスパイダーマンとして活動してない?」

 やっべバレた。

 

「イ、イヤ、ナンノコトダカ……」

 

「ここだけの話、私は来年から雄英高校の教師を務めることになったんだけど、それにあたってここら辺で活動してる指定(ヴィラン)団体とかの情報を聞いてたんだよね。それの中にヴィジランテでスパイダーマンって言うヴィジランテがいて、印象に残ってたんだ。マンって名乗ってるのに女の子らしいからね。どういうギャグセンスなのかと」

 

「ソ、ソウナンデスネー」

 

「それで、個性とかも聞いてみたんだけど糸を発射したり、怪力だったりするらしいね。それでね、今緑谷少年に聞いたんだ。雲嶋少女の個性について」

 

「ハ、ハイ」

 

「聞いてた話とよく似てるんだけど、どういうことかな」

 

「グ、グウゼン、カナー……」

 

「何も話してくれないなら、警察に行こうか。詳しくはその後で……」

 

「ああ、待って、話します! 話しますから!」

 

 俺は、オールマイトに洗い浚い吐くことにした。くそ、今日は厄日だ。

 

「全く……確かに、それで助けられた人がいるかもしれない。けれどね、個性の違法な使用はどうしても認められていないんだよ」

 

「はい……すみません……」

 

「これからの活動はもうやめるように。私は黙っておくから」

 

「え? 黙ってくれるんですか?」

 

「ああ、ただ、一つだけ条件がある」

 

「条件ですか? な、なんでもやります!」

 黙っててもらえないと、ヒーローになれないからな。なんでもやるしかない。

 

「条件はね、雄英高校に合格することだよ」

 なんで雄英がそこで出てくるんだ。

 詳しく聞いていくと、要はこういうことらしい。

 

 雄英は将来有望な子供たちが正義感を暴走させたヴィジランテとして、犯罪者扱いになるのがもったいなく感じているらしい。

 だから、雄英は未成年のヴィジランテを見つけた場合はヴィジランテ活動を公にしない代わりにヒーロー科の生徒になってもらう取引をしているらしい。

 ただ、他の人と同じように雄英の入試は受けてもらうらしい。しかし、受からなかった場合は警察に突き出されるのだとか……。

 

 いや、脅しだろ。

 そう思ったが、これを嫌だと言ったら俺はただの犯罪者になる。

 それに、もともと雄英は目指していたし、目標は変わらない。ただ、受からなかった場合が想定していたよりひどいことになるだけだ。

 ……。プレッシャーが……。

 

「分かりました。その条件で受けます」

 

「うんうん、よかった。私も有望なヒーロー志望を失うのは悲しいからね」

 

「よし、それじゃあ私はそろそろ時間がないから行くよ。頑張れよ、雲嶋少女。緑谷少年も、頑張れ! それじゃあな、少年少女!」

 オールマイトがすごい勢いで飛び立っていった。

 

「出久、私、死ぬかも……あれ、出久?」

 

 そこに出久の姿はなくなっていた。




現状維持が今のところ多いのにすごい長くなっちゃった
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