元蜘蛛男で現蜘蛛女のヒーローアカデミア   作:りてらしー

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お気に入り400行ってました。ビビりました。


蜘蛛女の雄英初日

 出久と私が雄英入試で気絶して数日。今日か明日に雄英に合格通知、もしくは不合格通知が届くようである。

 私の場合は、不合格通知は逮捕状と同義である。

 出久は、試験ではロボットを二体しか殴り壊せなかったようで、失敗してしまった、と泣きながら落ち込んでいたので私も同じだよ……と慰めておいた。

 結局、お互いに慰め合って終わった。

 

 筆記試験は自己採点で合格ラインを越していたのであまり不安ではないが、問題は実技試験である。

 (ヴィラン)ポイント自体は他の受験生より多く稼げていたと思うのだが、問題は最後の気絶である。

 試験が終わるまでの二分間、私はずっと気絶していたようで、試験監督の先生が私を起こしに来てやっと目が覚めた。

 (ヴィラン)のいる市街地で普通ヒーローが気絶なんてしてしまえば、それは命取りになるだろう。

 (ヴィラン)ポイントで実技試験の点数は決まるようだが、それ以外の観点から減点なんてことも十分ありえるだろう。

 私は今、人生で一番恐怖している。

 

「ただいま~、八菜。届いてたわよ」

 

「おかえり、母さん。って、届いてたってまさか……」

 

「雄英からのよ。多分合格通知でしょ」

 封筒を母さんから受け取る。

 

「別に、合格通知って決まったわけじゃないけど……」

 

「あなたなら大丈夫よ。信用してるもの」

 

「信用って、母さん……。ありがとう、ちょっと不安が和らいだよ……。あー、えっとさ、自分の部屋で見てきていいかな」

 

「好きにしなさい。結果は変わらないわよ」

 結果は変わらないが、あなたは不合格なので逮捕です。だなんて書いてあったら、それを母さんに見られたら大変なことになる。

 

 自分の部屋に戻り、封を開ける。

 中に分厚いコインのようなものが入っていたので取り出す。

 スイッチのようなものを押すと、何やら光と音が鳴りだしたので、慌てて机に置いてみる。

 すると、オールマイトのホログラムが映し出されて、オールマイトが喋り始めた。

 

「やあ! 雲嶋少女。君には内緒で伝えていたが、今年度から私は雄英の先生を務めることになった!」

 

「さて、本題に移るが、君の入試の成績は、筆記試験は合格基準ラインを大きく超えていた。しかし、問題は実技試験の方だ」

 くそっ、やっぱりそうじゃないか! 終わりだもう! 

 

「実技試験の(ヴィラン)ポイントは90P! 他の受験生より大きく超えている。そして、私たちが見ていたのはそれだけにあらず!」

 やっぱり! 終わった! 

 

「ヒーローたるもの、人助けをどのような状況でも忘れてはいけない! 救助(レスキュー)ポイント、70P! 君の場合、他の受験生の(ヴィラン)狩りを自分のポイントにならない程度に支援していたことや、他の受験生が逃げ出した0P(ヴィラン)に独り立ち向かったことが決め手になったようだ」

 

「合計! 160Pで首席合格!」

 え!? マジ!? 私本当に合格な上に首席合「と、言えたらよかったんだが……」

 

「残念ながら、君は最後の二分間、気絶してしまったね……あれが大きく減点されてしまった! ヒーローたるもの人助けを忘れてはいけない! そして、私たちが守るべき人たちは、私たちが思っているより私たちを見ている! 私たちが攻撃を一つ喰らうたびに人々は不安になるんだ。気絶するなんて姿、絶対に見せてはいけない」

 上げて落とすなよ! わざわざ! ひどすぎる! 有頂天だったのに! 

 

「減点も合わせ、合計70P。大幅な減点だが、それでも合格だ。おめでとう!」

 

「上げて落として上げるなよ! 胃に穴開くかと思ったわ!」

 思わず叫んでしまうが、私の声は向こう側には届かない。

 細かい書類は、中に入ってるから、読んでおいてね。というようなことを言っていたが、今言われた出来事に頭が追い付いていない。

 

 私が、合格。

 上げて落として上げられたのは不満だが、実感がわいてくると段々嬉しくなってくる。

 三年前までは私は男で、何の力も覚悟もなかった。あるのは、無力感ただ一つだけ。

 そんな奴がここまでこれたのは、力が手に入ったからだけじゃない。

 出久が、友達になってくれて、ヒーローとしての在り方を教えてくれたから。

 

 私は、ヒーローになってこれからたくさんの人を助けなければならない。

 今まで助けられなかった償いをこれからしていかなければならない。

 力がないと言って逃げてしまった償いを。

 決意を胸にする。

 

 私は、合格通知を手に部屋を出る。

 母さんの言う通りになったよ、と言うために。

 

 

 ────────────────────────────────────

 

 雄英高校入学。

 それまでに、出久と電話でお互いに合格したことを祝い合ったり、担任の先生に褒められたり、出久が爆豪くんに珍しく反抗の態度を示したり、色々あった。

 私は今、家の玄関に立っている。

 

「それじゃあ、母さん。行ってくるね」

 

「うん、行ってらっしゃい。八菜。恥をさらさないようにね」

 

「何を心配してるのさ、母さん。心配しなくても、そんなことはしないよ。それじゃ、行ってきます」

 雄英高校の女子用制服を身に着けて、家を出る。

 新鮮な感じがする。

 

 

 駅で出久と合流し、雄英に登校する。

 

「うーん、やっぱりでかいなあ。雄英」

 

「うん、校舎自体も大きいし、入試で使ったような市街地の場所もあるんだから、すごいよね……」

 そんなことを言いながら、廊下を歩き、教室のでっかいドアを開く。

 教室に入ると、いきなり爆豪くんの声と、実技入試の説明の時に質問してた人の声が聞こえる。

 

「机に足を掛けるな! 先輩方や机の製作者方に申し訳ないとは思わないのか!」

 

「思わねえよ! お前どこ中だよ!」

 流石ヒーロー科だな。あの爆豪にも日和らず注意してるぞあの人。

 あ、なんかこっちくる。というか出久に用があるみたい。

 それに合わせてクラスの人たちの視線がこっちを向く。

 出久が隣にいるせいで私も見られてるような感じがするので出久を前に突き出す。

 

「えぇ?! ちょっと、八菜さん……!」

 眼鏡のあの人は出久が用があるようだし、仕方がないだろう。そっと目を逸らす。

 出久と眼鏡の人の話を横から聞いていると、眼鏡の人は飯田くんと言って、実技試験の会場が出久と同じだったそうだ。

 それで、実技試験の構想に気づいているとかなんとか言っていたが、多分気づいてないよな。落ち込んでたし。

 

「あーそのもさもさ頭は! 出久君だ!」

 確か、この子は受験の日の朝に出久を助けようとしてくれた子だ。

 ちらりと出久を見ると顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。

 肘で小突いておく。

 

「よかった、合格してたんだね! パンチすごかったもんね!」

 パンチがすごかったらしい。まあ、ロボットを個性なしで素手で破壊するぐらいだし、そりゃすごかったんだろうなあ。今度見せてもらおうかな。

 

「えっと、出久君のお姉ちゃんみたいな人! 合格してたんだね! よかった、顔見知りがどっちも合格してくれてて。ちょっと不安だったんだぁ」

 

「うん、私も不安だったから、うれしいな。これからよろしく……。ん? お姉ちゃん?」

 

「お友達ごっこしたいんだったら他所いけ……ここはヒーロー科だぞ」

 なんか寝袋に入った人がいるんだけど。

 

「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね」

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 担任の先生ってことはこの人もプロヒーローなのか。でも、自他ともに認める出久の反応が薄いな。ヘドロ(ヴィラン)のときもそうだったけど。

 

「早速だけど、これに着替えて外出ろ」

 そう言って、袋から体操服らしきものを出す相澤先生。

 飯田くんがてきぱきと袋を受け取ってみんなに渡し始める。

 

「更衣室があるから、そっちに移動して着替えろ。それじゃあ早く来いよ」

 と言って、相澤先生がどこかに行こうとしていたので、追いかける。

 

「あの、すみません。相澤先生」

 

「お前は……雲嶋か。どうした」

 

「えっと、着替えに関してですが、少し事情がありまして……」

 

「あー……なるほどな。わかった。空き教室を案内する。そっちで着替えてこい。……確認だが、ヴィジランテ活動はもうしていないだろうな」

 

「はい、していません。それじゃあ、案内お願いします」

 

「……そうか。お前はまだヒーローの卵。個性を使用して人を助けることは認められていない。これからもしないように」

 

 相澤先生にヴィジランテ活動について知られていることが判明しつつ、空き教室を案内してもらい、体操服に着替える。

 その後、運動場に向かう。

 私が運動場に着いた頃にはみんな揃っており、私が一番最後だった。

 

 相澤先生が言うには、入学式やらガイダンスやらをすっ飛ばして今から個性把握テストをするらしい。

 

「実技入試成績トップは爆豪だったな。中学の時、ソフトボール投げは何mだった」

 気絶さえしなければなー! 私が呼ばれてたのになー! 

 

「……67m」

 

「そんじゃ、個性使ってやってみろ。円から出なきゃ何でもいい」

 すると、円の中に入って爆豪くんはボールを投げる瞬間に爆発させ、爆風をボールに乗せていた。今更ながら、手は痛くないんだろうか。痛くないんだろうけど。

 

「まず、自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 それに対して、楽しそう! やら流石ヒーロー科! やらの声が飛ぶ。まあ、今まであんまり使えてこなかったんだから楽しいかもしれない。

 

「面白そう、か。ヒーローになるための三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい」

 

「よし、八種目トータル成績最下位の者は、見込みなしとして除籍処分としよう」

 

 みんな驚いて、理不尽だと抗議する人もいるが、効果はなし。

 私は気絶さえしなければ首席合格だったので! 最下位にはならないと思うが、出久が心配だ。

 ヒーローになれないとは絶対に思わないが、無個性である以上身体能力や攻撃手段で他に比べて不利になることは間違いないだろう。

 出久を見ると、冷や汗だらだらだった。

 大丈夫だろうか……。

 

 50m走は、身体能力のおかげで4秒で走り抜け、これに適した個性であろう飯田君といい勝負が出来た。もっと鍛えていればもっと速くなっただろう。少し後悔。

 握力測定では514kgを、立ち幅跳びでは身体能力を活かし52mを叩き出した。ほぼ無限に飛んでいくやつもいて立ち幅跳びに関してはあんまりだった。

 反復横跳びではちっちゃい男子が丸いのを使い跳ねていたのを見て、私も跳ねやすいウェブをボール状でいくつも作り出し、真似してみた。

 体格の差もあってか、彼ほどの記録にはならなかったが、十分な好記録を出せた。

 ボール投げは二回あったので、二種類の投げ方を試してみた。

 まず、普通に投げてみる。500m。

 次は、ウェブをボールにつけ、ハンマー投げの要領で投げ飛ばしてみる。753m。

 記録が向上したので、投擲物をウェブでぶん投げる戦い方はありかもしれない。

 私が大記録を出すたびに周りがざわついていたのは少し楽しかった。承認欲求が満たされた。

 出久を助けようとした女の子は、∞という大記録を叩き出していた。すごい。

 

 出久の番がやってくる。今までも出久の様子を見てきていたが、やはり他の人と比べ、大記録は出せていない。

 何やら今までとは様子が違い、何かをしようとしている目をしている。

 飯田くんと爆豪くんが何やら言っているが、出久なら何とかするだろう。

 

 ボールを大きく振りかぶり、出久は投げた。

 それと同時に、相澤先生の髪が逆立ち、目が赤く光る。

 

「46m」

 測定する機械の音声が鳴る。

 前のめりの姿勢から出久の表情は窺えないが、体が強張っている。何か失敗したのだろうか。

 

「な……今、確かに使おうって……!」

 

「個性を消した」

 

「つくづく、あの入試は合理性に欠けるよ。お前のような者も合格できてしまう」

 

 ……。待て、個性を消したということは、出久には個性があるのか? しかし、そんな話は全く聞いていないんだが。内緒にされてた? 

 出久が相澤先生の個性やヒーロー名について喋っているが頭に入ってこない。

 

「見たとこ、個性が制御できないんだろ。また、行動不能になって助けてもらうつもりだったか?」

 

「そんなつもりじゃ!」

 相澤先生が布で出久を引き寄せてなにやら話している。

 というか、こんな話を聞いて爆豪くんは落ち着いてるのか? いや、そんなわけないか。私の個性で聴覚も強化されているようだ。スパイダーセンスに頼っていたからわからなかったが、五感そのものが強化されているみたいだな。

 あ、円の中に戻っていった。なんか、さっきより覚悟決まった顔してないか? 

 また、出久がボールを振りかぶる。さっきと同じ。

 ボールが、手から離れる。その瞬間、出久の右手の人差し指が赤黒く腫れあがる。それと同時に、ボールは彼方にすっ飛んでいく。

 

「そんな、出久に個性が……?」

 思わず口から洩れてしまう。

 そのとき、スパイダーセンスが反応する。

 

「コラァ! どういうことだ! 訳を言え! デクてめぇ!」

 そう言って、爆豪が手から爆破の個性を発動させながら走り始めた。

 

「あー、前にもこういうことなかったっけ?」

 爆豪くんの背中にウェブを発射し、動きを止める。

 すると、相澤先生が個性を消してくれたのか、爆豪くんが爆破をしなくなった。

 

「ったく……何度も何度も個性を使わすなよ……俺はドライアイなんだ!」

 クラス全員が個性すごいのにもったいないと思った瞬間だ。

 

「雲嶋、もう離してやれ」

 はい、と答えながらウェブの粘着質をなくす。

 そして、出久が爆豪くんから逃げるように小走りでやってくる。

 

「出久……言いたいこと、聞きたいことはいろいろあるけどとりあえず指見せて」

 

「う、うん」

 出久の手を取り、指を見る。

 赤黒く腫れていて、今にもちぎれそうな感じもある。痛々しい……。

 

「とりあえず、気休めにしかなんないけど糸でぐるぐる巻きにしとくから」

 そう言って、出来るだけ薄く伸ばしたウェブを出し、ぐるぐる巻いていく。

 

「八菜さん……ごめん、個性が発現したこと黙っちゃってて」

 

「いや、気にしてないよ。どーせ、言うタイミングを逃したとか、忘れてたとかでしょ? それに、無個性であることが悪いってことじゃないけど、嬉しいことじゃん」

 

「うん、発現したのがいつかは、ちょっと覚えてないけど」

 

「そっか……おめでとう、出久。これで、ぐっとヒーローになりやすくなったね」

 

「ありがとう、八菜さん」

 その後の体力テストは、特筆すべきことは特になかった。精々長座体前屈で計る機械をウェブでぶん投げたら流石にダメだと怒られたぐらいだ。ごめんなさい。

 出久は個性の反動による痛みに耐えながらやっていたせいか記録が下がっていたけれど……。

 遂に結果発表だ。

 私は一位。出久は、最下位だった。

 これでは、出久は除籍ということになってしまう。

 どうしよう、直接抗議に行くべきか……。

 

「ちなみに、除籍は嘘な」

 は、嘘? 

 

「君たちの個性を最大限引き出す合理的虚偽」

 相澤先生がにやりと笑う。

 

「そんなの、当たり前じゃない。ちょっと考えればわかりますわ……」

 と言うのは、ポニーテールの女の子。

 そっかあ……嘘だったのかあ……。マジっぽい顔だったけどなあ……。

 

「教室にカリキュラムなどの書類があるから、戻ったら目を通しとけ」

 

 

「緑谷は、保健室でばあさんに治してもらえ。明日からはもっと過酷な試験が目白押しだ。覚悟しとけ」

 

 

 

 個性把握テストを乗り切った後、出久に付き添い保健室へ向かった。

 リカバリーガールに出久が指を治してもらっている間、私は出久の突然発現した個性について考えていた。

 私の怪力を優に超える自壊するほどの超パワー。指一本で私の記録に並んだ。あれがもし、体全体を使っていたなら、どこまで記録が伸びていたのだろうか。想像もつかない。

 私は、あの女の子が言っていた、パンチがすごいという発言に素のパンチをイメージしていたが、それは間違いだったようだ。

 もし、出久が超パワーを操ることが出来るようになったなら。その時は彼の憧れであるオールマイトをも超えるヒーローになれるんじゃないだろうか。

 

「八菜さん、終わったよ」

 

「ああ、うん。わかった。リカバリーガール、ありがとうございました」

 

「気にせんでいいのよ、ただ、怪我はあんまりしないでほしいねえ……入試でも、そんなだったろ」

 そう言って、出久を見る。

 

「あー、えーと……善処します。はい……」

 善処じゃなくて絶対だよ! とリカバリーガールに怒られている出久はいつもより縮こまって見えた。

 

 

 保健室を出て、主に出久がヘロヘロになりながら下校するとき、後ろから話しかけられた。私たちに、というか出久に。

 

「緑谷君、指は治ったのかい?」

 

「ああ、うん、しっかりね」

 

「えーと、それで、そっちの緑谷君と一緒にいる女子は……」

 

「ああ、私は雲嶋 八菜。自由に呼んで」

 

「そうか、雲嶋君。俺は、飯田 天哉。これから三年間よろしく頼む」

 

「うん、よろしく」

 すると、また新しい声が聞こえてくる。

 

「おーい! お三方ー!」

 後ろから、例の女子が走ってくる。

 

「君は、無限女子」

 

「麗日 お茶子です! 飯田 天哉くんに、雲嶋 八菜さん! それと、緑谷……いずくくん? でくくん?」

 

「あー、デクっていうのは……」

 

「ちょ、ちょっとぐらい僕が話すよ」

 緊張しまくっている出久の代わりに話そうとするが拒否される。別に無理しなくてもいいのに。

 

「えっと、それでね、デクっていうのはかっちゃんがバカにして、それで……」

 いや、その緊張の仕方ならやっぱり私が説明したほうがよかっただろう。なんで無理してるんだ。

 飯田くんが「なるほど、蔑称か」と理解したところで、麗日さんは「ああ、そうなんだね、ごめん!」と謝っている。いい人だなあ。流石ヒーロー科。

 

「でも、デクっていうのも頑張れって感じで、好きだ! 私」

 

「デクです!」

 おい。

 爆豪くんとなんかあるっぽいから触れずに出久で通してきたのに、女子に一言言われただけでそうなんのかよ。腹立つから小突いとこ。

 

「えっと、雲嶋さんは何て呼べばいいかな……」

 

「別に、好きな呼び方でいいよ。雲嶋さんのままでも、八菜さんでもちゃんでも。あだ名をつけるでもいいし……」

 

「じゃあ、八菜ちゃんで!」

 

「わかった、よろしくね麗日さん」

 

「私だけ下の名前呼びって距離感じるから八菜ちゃんもお茶子でいいよ。飯田くんは飯田くんって感じだよね!」

 

「そ、そうなのか……?」

 

「えっと、みんな三年間よろしくね!」

 

 四人で帰っていると、私の個性の話になった。

 

「八菜ちゃんの個性ってどんなの? 私とか、飯田くんとか、デクくんとかはすごい分かりやすい個性だけど……。八菜ちゃんのはいろんなのがあるよね」

 

「うん、実際いろんなことが出来るよ。怪力、危険察知、五感が人より良くなったり、両手首からある程度性質とか形状とか硬度が自由な蜘蛛糸を出せたり……あーあと、最後に出来ることというか、代償というか……」

 

「代償? そんなのがあるのか? 緑谷君のは分かりやすいが、雲嶋君のは全くわからないな」

 

「あー……あの、言いにくいんだけど……性別が変わること、なんだよね……」

 

「と、言うと……女性から男性になるということか?」

 

「違う、そうじゃないんだ……」

 

「じゃあ、まさか……」

 

「うん、私、もとは男で、女の子の体になってるんだよ」

 

「ええ!? そんなに可愛くてスカートにも慣れてるのに!?」

 

「可愛いかどうかはともかく、スカートは今年で四年目になるからね。そりゃ慣れるよ。最初はすんごく恥ずかしかったな……」

 

「四年前に性別が変わった……ってことは中学一年生の頃か。大変だったな、雲嶋君」

 

「まあ、大変なこともあったけど、そんなに苦ではなかったよ? 出久がいたし」

 

「デクくんが?」

 

「あ、ちょっと待ってよ八菜さん、なんかその流れは恥ずかしいよ……」

 出久が顔を赤くしてる。さっきのストレスを今ぶつけよう。小突いたけど。

 

「静かにしててよ、別に減るもんじゃないんだしさ」

 

「うぅ……」

 

「出久が中学一年生の時に友達になってくれてさ。それから今までずっと仲良くして来てるんだ。おかげで学校も楽しかったし、出久には助けられたよ」

 まあ、胸をちらちら見られたりしたけど。というか最近は視線を感じることが多くなってきたけど。

 話は逸れるが、私は自分でもだいぶ大きい方だと思う。そのせいで街を歩いていると、視線を感じることが多い。

 ちらちら見てくる出久程度なら慣れたんだけど、じーっと見てくるのはまだ慣れてない。恥ずかしい。小さい体格のあの男子とかいい例だ。

 

「へー……。ああ! そっか、だからあの時着替え女子更衣室に来なかったんだね!」

 

「うん、男子更衣室にいるわけにもいかないし、かといって女子更衣室にいるわけにもいかないしでね」

 

「性別が変わるって、苦労が多そうだね……」

 

「まあ、そうだけど。その苦労を埋め合わせるぐらい他のできることは便利だよ」

 

「そうだな、50m走で俺のタイムに追いつきそうになっていたのを見て驚いたよ」

 

「うん、もうちょっと鍛えてたら追い抜けてたんだけどね……悔しいなあ」

 

「俺も、速さでは負けないように努力しなければな」

 

 

 

 その後も、個性の話や、中学校の頃の話や、これからの話などで盛り上がった。

 駅で飯田くんとお茶子ちゃんと別れ、出久と二人になる。

 

「よかったね、出久。友達ができて。しかも一人はガールフレンド」

 

「が、ガールフレンドって、八菜さん! そんなんじゃないのは分かってるでしょ!?」

 

「はいはい、冗談だよ。でも、本当に友達ができてよかったね。私に友達ができないのはともかく、出久に友達ができないという事態にならなくてよかったよ」

 

「そんな、八菜さんだけなんて……。ありえないよ。麗日さんも、飯田くんも、八菜さんのことを友達だと思ってくれてるよ。絶対」

 

「……うん、そうだね。嬉しいな。友達が増えるって。そういえばこんな感覚だったや」

 出久と友達になってからそれっきりの感覚。懐かしい。

 話題が途切れて、静かになる。

 

「出久」

 

「どうしたの? 八菜さん」

 

「これからも、改めてよろしくね」

 

「……! うん! よろしく! 八菜さん!」

 

 決意を新たに。大いなる力は大いなる責任が伴う。

 責任を共有できる友の誕生は喜ばしいことだ。

 私は、これからの高校生活が楽しみになった。

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