元蜘蛛男で現蜘蛛女のヒーローアカデミア   作:りてらしー

9 / 22
更新遅くなりました。作者が受験生なので更新はしばらく遅くなります。


蜘蛛女の戦闘訓練

 雄英高校の午前は必修科目。ふっつーの授業だ。あのプレゼントマイク先生ですら普通だった。イメージに合わないよ…。

 お昼は大食堂でおいしい料理を安価で頂ける、らしい。

 らしいというのは、私はまずく無ければ全て美味しいと思って食べられるので、ファミレスとかのご飯と差が感じられない。感じられたらうれしさが増すんだろうけど。ちょっと悲しい。

 そして、午後は遂にヒーロー科特有のヒーロー基礎学の時間だ。

 

「私が…ドアから普通に来た!」

 画風が違いすぎて普通じゃない気がするけど。

 

「私の担当はヒーロー基礎学。ヒーローの素地を作るため様々な訓練を行う科目で、単位数も最も多いぞ!今日やることは戦闘訓練!」

 あ、爆豪くんが喜んでる。好きそうだもんな。

 

「そして、そいつに伴って…こちら!」

 オールマイトが壁を指差すと、壁から棚がせり出してくる。すごいハイテクでかっこよくもあるけど普通にロッカー置けばいいだけじゃない?かっこいいけど。

 

「入学前に送ってもらった個性届と、要望に沿ってあつらえたコスチューム!」

 

「着替えたらグラウンドβに集まるんだ!私は先に行って待っておくからね!」

 

 そう言ってオールマイトが教室から出ようとしていたので慌てて追いかける。この状況にデジャブを感じる。

 

「すみません、オールマイト。少し聞きたいことが…」

 

「雲嶋少女か!どうした?」

 

「私の個性の関係で、女子更衣室で着替えることが難しいので、今空いている教室を教えていただきたいのですが…」

 

「ん?どうしてだい?別に体が特別大きかったりするわけでもないだろう?」

 

「もしかして、私の性別について把握していないんですか、オールマイト」

 

「せ、性別?」

 

 相澤先生は把握してくれてたのに!新任教師め!くそっ!

 

「…私は個性のせいで13歳の頃に男の体から女の体に変わりました。なので性自認というやつはほとんど男です」

 

 オールマイトが驚いた顔をしてる。ほんとに知らなかったのか…。

 

 

「え、ということは、雲嶋少女は、雲嶋少年で…?ということは、緑谷少年の恋は叶わぬ恋なのか…?

 

 なんか最後の方小声でなんか言ってなかったか。まあいいけど。

 

「どっちでもいいですよ。というか多分周りが混乱すると思うので少女でいいです」

 

「あー…わかったよ。すまなかったね雲嶋少女。それで、空き教室だが…本当はよくないんだろうが、とりあえず1-Aの教室で着替えてくれるかな。雄英に来たばかりで使っていい空き教室がどこかわからないんだ」

 

「分かりました。じゃあ、着替えてきます。ありがとうございました」

 

 新任教師感がどうしてもあるオールマイトとの会話を終え、教室に戻る。

 それにしても、これから三年間毎度毎度相澤先生やらオールマイトやらとこんな会話を繰り返さなきゃいけないんだろうか。

 中学校の頃はもはや私専用着替え用教室みたいなのが用意されてたからよかったんだけど。

 うーん、交渉してみようかなあ。でも私から行くの厚かましいよなあ。

 そんなことを考えていると、教室の前にヒーローコスチュームが入っているケースを二つもって立っているお茶子ちゃんが目に入る。なにしてるんだろ。

 

「お茶子ちゃん、なにやってるの?早く着替えて行かないと、遅れちゃうよ?」

 

「なにやってるのって、八菜ちゃんを待ってたんだよ?」

 

 一体何を言っているんだお茶子ちゃんは。昨日言ったばかりじゃないか、私は男子更衣室女子更衣室どっちにもいかないと。

 

「あー、昨日も言ったけど、他の女子に気持ち悪がられたらいやだし、どっちの更衣室にも行かないことにしてるんだ」

 

「他の人たちに許可なら取ったよ?」

 

 思い立ったが吉日すぎやしないだろうか。というか、気遣いの鬼だな、すごい。

 

「個性関係の話をしたらみんな二つ返事でOKしてくれたよ?あ、勝手にしちゃまずかったかな、ごめん!」

 

「い、いや、別にそれはいいんだけど…ほんとにOKしてくれたの?全員?」

 

「うん、驚いてた人はいたけどみんなOKだったよ」

 

 いや、いい人ばっかなのは分かってたけど、いい人ばかりすぎるだろ、ヒーロー科。

 君たちもっと警戒心持ったほうがいいよ。男はオオカミって言うよ。まあ、正直に言って今私に性欲とか、そういうのないんだけど。

 

「え、うーん、それでもなあ…」

 

「八菜ちゃん、いやなの?」

 

「いや、というより、申し訳なさというか、罪悪感というか…」

 

「別に、私たちが気にしてないんやからいいんよ」

 

「うーん…まあ、確かに、三年間空き教室を探してってするの手間だしなあ…んー…」

 

「八菜ちゃん!早く着替えんと、遅れちゃう!早く着替えいこ!はい、これ八菜ちゃんのケース!」

 

 そう言って私のコスチュームケースを渡してくる。いや、持ってるってことは決定事項だったじゃん。回避不可だったじゃん。

 ということで、私はほぼ強制的に女子更衣室で着替えることになった。なんでやねん。

 

 

 女子更衣室に着き、中に入ると、他の女子は着替えている真っ最中だった。そこそこ時間がたっているはずだが、初めて着るコスチュームだからか、みんな手間取っているようだ。

 私がいることに気づくと、一斉に声を上げる。

 

「あー!個性把握テスト一位だった人だ!」

 

 ピンク色の子が話しかけてくる。

 

「あ、はい、どうも。雲嶋 八菜です。よろしく」

 

「そんな硬くなくていいよ~!私は芦戸 三奈、よろしくね!」

 

「うん、わかった。よろしくね三奈ちゃん」

 

 …まて、なんで私は自然に女子更衣室で着替えてた女子と話してるんだ。

 

「ああ、ごめん!隅向いて着替えるから!ごめんね!」

 

「別にいいんじゃないのかしら、誰も雲嶋ちゃんのことを嫌だとは思ってないと思うわ」

 

 どことなくカエルっぽい女子がそういうと、他の女子もみんなそうだよ!と言って来る。

 そして、その流れでみんな自己紹介をして来る。

 カエルっぽいのは蛙吹 梅雨ちゃん。耳からイヤホンコードが生えてるのは耳郎 響香ちゃん。

 透明で見えないのは 葉隠 透ちゃん。ポニテのは八百万 百ちゃん。

 こうして改めて考えると女子って少ないな。

 じゃなくて。

 

「あー、一応みんなに聞いておきたいんだけど、本当に私ここにいていいの?一応言うけど体が女になっただけで中身は別に男だったころの人格だからね?」

 

「いいよいいよ!きっと!だって、立ち振る舞いを見てる限り男子には見えないし!それに、今もじろじろ見てくるような感じじゃなくて、目を見て話してくれてるし!」

 

 ごめん、透ちゃん。顔がどのあたりか把握してないや。

 

「うん、まあ、性自認が男ではあるけど、完全に男ってわけでもないんだよね」

 

「雲嶋さん、お話もいいですけれど、そろそろ着替え始めたほうがいいんじゃないでしょうか」

 

 時計を見ると、確かに集合時刻まであともう少しだ。

 

「そうだね、百ちゃん。ありがとう」

 

「百ちゃん…新鮮な感じがしますわね…」

 

 お礼を言うと、なんか呟いてる。別に、割とありふれた呼び名だと思うけどな。

 さて、そろそろほんとに着替え始めなきゃまずいな。

 

 

 

 

 

 

 

 着替え終わった私は、お茶子ちゃんとグラウンドβへの通路を移動していた。

 比較的、私のコスチュームは着替えやすくて早く着替え終われて助かった。胸の部分が意外ときつかったから改善の余地ありだな。要望だそ。

 

「私、ファッションセンスとかそういうの一切ないんだけど、お茶子ちゃんのコスチュームかわいいっていうのはわかるよ」

 

「ありがとう、けど、思ったよりぱっつぱつになってもうて、恥ずかしいな」

 

「それを言ったら、私もだから。気にしない気にしない」

 

「うん、まあ、私のよりすごいよね。そのマスク、ちゃんと見えてるん?」

 

「ばっちり見えてるよ。それに、このマスク、一応取り外しできるし」

 

 私は、被っていたマスクを剥ぎ取った。

 

「うーん、なんか、そっちのほうが親しみやすい気がするけどなあ」

 

「いーのいーの。こっちのほうが私は好きなんだ」

 

 そう言って、改めて自分のコスチュームを見る。

 体に張り付いてくる白と黒を基調としたコスチュームは動きを阻害せず、とても動きやすい。ヴィジランテ活動の時の服装とは段違いだ。

 二の腕辺りから肘の辺りにまでピンク色の生地に、水色で蜘蛛の巣をデザインした模様が入っている。

 水色の厚底サンダルのような靴も履いて、撒菱対策もしている。

 また、フードもついており、フードの内側にも同じ模様がある。

 マスクも用意してもらっていて、それには視界確保用の目の部分もついている。

 伸ばしていた髪は、切るのもめんどくさかったし、違和感があるので、スーツの内側に入れることにしている。なんか不便があったらどうしよう。

 手首からのウェブの発射を阻害しないために手首の辺りには特殊な加工がされているようで、何も身に着けていないときと同じように、ウェブを自由に発射することが出来る。

 言ってしまえば、私のコスチュームはアメリカコミックスパイダーマン原作の、スパイダーバースに登場したスパイダーグウェンそのままである。

 お茶子ちゃんにも言ったが、私にファッションセンスなんてものはない。ならばと、コスチュームの案に何かないかと思い、ヴィジランテ活動で名前を使わせてもらったスパイダーマンについて調べていると、女性のスパイダーマンがいるではないか。

 真似するしかねえ。

 このコスチュームがもしアメリカコミックの方のスパイダーマンファンの目に触れれば大歓喜間違いなしだろう。いいファンサービスだ。私のファンじゃなくてスパイダーマンのファンだけど。

 そういえば、このスーツを身に着けるにあたって、不安だったのがスーツ越しに壁に貼り付けるかどうかだったんだけど、私の個性はどうやら布越しだったり厚底サンダル越しだったりしても十分通用するようだ。できるかなと思って試したらできた。

 人間その気になれば何でもできるって嘘じゃなかったんだな。

 それにしても…。

 

「やっぱりこれ、すごい落ち着くなあ」

 

 ヴィジランテの時の身バレの危険を防ぐための相棒のフード。スカートはないけど代わりに顔を見られないマスク。

 ヴィジランテ活動にはもってこいだ!

 

 

 いや、待て。

 今まで私が顔を隠してきたのって、ヴィジランテだったからだよな。

 別に、これからする予定なのはヴィジランテ活動じゃなくて、法で認められたヒーローとしての活動だよな。

 顔、隠さなくてよくね?

 

 まあ、別に、フードは単純に落ち着くしいいか。

 マスクは必要なくなったけど、いつか使える機会もあるだろう。ファンサってことにしとこ。

 

 あ、男子が合流してきた。

 みんな、ヒーローって感じがするな。

 お茶子ちゃんのとは違った、セロハンテープモチーフのヘルメット被ってる人もいる。おしゃれ。

 

「みんなかっこいいコスチュームやね。爆豪くんなんて、手に手榴弾つけとるよ」

 

「ほんとだ。あれってなんか意味あるのかな」

 

 意味がなかったら動きにくくしてるだけな気がするんだけど、爆豪くんに限ってそんなことはないと思う。

 そういえば、出久のコスチュームどんなのなんだろう。

 オールマイトが好きらしいし、似たような感じかもしれない。

 そうこう考えてる間にいつの間にか通路を出る。

 通路を出ると、オールマイトが待っていて、恰好から入るのも大切なことだとか、今日からヒーローだと実感するとか言ってるけど、実際コスチュームを着てるだけで気合いは入る気がする。何より動きやすいし。

 

「あ、デクくん?かっこいいね、地に足ついた感じ!」

 

 いつの間にか出久が来ていたようだ。どんなコスチュームを着ていることやら。

 振り返ってみてみると、緑色のジャンプスーツと、マスクを身に着けた出久がいた。

 マスクからは角みたいなのが生えてるし、歯をイメージしたであろうプロテクターのようなものがついている。

 

「出久、オールマイトに似たような感じだろうとは思ってたけどそれはあまりにも…」

 

 そう思い、笑いを堪えているオールマイトと出久を見比べる。

 角、歯があまりにも似すぎてる。

 

「えぇ!?これ、そんなに分かりやすいの!?」

 

「うん、とっても」

 

「そ、そうなんだ…というか、麗日さんと八菜さんのコスチューム、すごいね。えっと、その…」

 

「ちゃんと要望書けばよかったよ、パツパツスーツんなった…八菜ちゃんもだから、少し恥ずかしさは軽減されたけど」

 

「私の要望したスーツが普通は恥ずかしいみたいな言い草辞めてよお茶子ちゃん。私これ大真面目に出したんだから」

 

 会話している間も、出久はちらちら顔以外の部分を見てくる。ぴっちりスーツ系が好きなのだろうか。

 別に、私のを見る分には構わないが、他の人のを見るのは危ないのでやめたほうがいいと思う。

 やめないと、あそこのもぎもぎ男子みたいになってしまう。お前すごいな。そんなじろじろ眺めるか普通。

 他の女子に気づかれるともぎもぎ男子のこれからが危うくなるので少し注意しとくか。

 

「あー、もぎもぎ男子くん、じろじろ眺めるのそれぐらいにしときなよ。あんまり見すぎると気付かれるから」

 

「えっ!?お、オイラ、なんも見てねえよ!言いがかりはやめろよな!」

 

「いや、小声でヒーロー科最高って言ってたのも聞こえたし、私の個性視線も感じ取れるから胸とかお尻とかに視線が向いてたの分かってたからね」

 

 もぎもぎ男子くんが顔をこわばらせる。可哀想に、と思ったがそうでもないな。今もじろじろ胸見てるし。

 けど、もぎもぎ男子くんの状況としてはショックが大きいかもしれない。

 入学早々女子の一人に性欲魔人であることがバレたというのは、確かにきついかもしれない。

 

「あー、黙っとくからさ、もうやめときなよ?」

 

 もう私にばれたことを理由に変態行動が振り切れたらびっくりだけど、そんなことは万に一つもないよな。

 もぎもぎ男子くんの未来に、合掌。

 

 授業が本格的に始まる。

 屋内のほうが凶悪ヴィラン発生率が高いだとか、2vs2のヒーロー役、ヴィラン役に分かれてビルの中で戦闘訓練を行うだとか。

 でも、2vs2だと一人余るんですけど。誰がハブられちゃうんだろうか。

 あ、みんなから質問攻めにあってオールマイトが困ってる。新任教師って感じがする。

 その後、オールマイトがカンペを読みながら状況説明を始めた。カンペにも新任教師を感じる。大変なんだなあ。

 戦闘訓練の勝利条件は相手チームを捕縛すること、もしくはアジトにある核兵器を守ること、奪うこと。

 飯田くんが、チームをくじ引きで決めることに関してとやかく言ってる。あ、出久が意図を説明してる。そんなこと気にするんだ、すごいな。適当に受け入れるつもりだったわ。

 あれ、1人余る話されてないんだけど。

 

「あー、オールマイト、すみません、私からも一つ質問いいですか?」

 

「なんだい?雲嶋少女」

 

「A組って、21人なので、2vs2だと、一人余ることになるんですけど」

 

「えっ、あー、そうだね、一人余るけど…」

 

 どうしたんだオールマイト。まさか気づかなかった訳じゃあるまいな。

 

「そういえば!みんなは相澤くんの個性把握テストを受けたんだったね。テスト1位が一人でどこかのペア二人を相手することにしよう!」

 

 そういえばって、することにしようって、気づいてなかったじゃんかよ、危なかったな。他の先生も、どんな授業をするつもりか聞いてあげればよかったのに。

 ん?というか個性把握テスト一位私じゃないか?

 

「じゃあ、私がどこかのペアを相手すればいいんですね。わかりました」

 

「雲嶋少女が一位だったか。わかった、そうしてくれ!…ン?雲嶋少女のコスチューム、どこかで見たことがあるような…」

 

「あー、私のはアメコミのスパイダーマンっていうヒーローのコスチュームを作ってもらいました。個性がそっくりだったので」

 

「ああ!スパイダーマンか!懐かしいなあ、アメリカに留学したときに少し見たよ!今時の子も知っているんだね」

 

「どっかで見たか聞いたかで知ったんですよね。どこで知ったんだろう」

 

 思い出そうとしても、全く思い出せない。なんだっけ?

 

「確か、小さいころ、なのかな…?」

 

 まあ、いいか。

 さて、話もそこまでに、チーム決め及び対戦相手決めのくじ引きを行う。

 出久はお茶子ちゃんとチームになっていた。顔を赤くしてんじゃないぞお前。

 爆豪くんは飯田くんとだった。すっごい相性悪そうな二人だけど。

 他にもいろんなペアがいたけど、個性把握テストを見ていた限り、全員相手にしたら苦労しそうな個性の人が集まっていた。

 思ったけど、一人で二人相手するのってすごい大変だよね。そら、ヴィジランテやってるときは結構やってたけど、それでもチンピラ上がり程度だったから何とかなってただけだしな。

 ヒーロー目指して頑張ってる人たちの個性を活かした2人がかりの戦い。どう考えても終わってる気がする。

 というかこういうの普通推薦組の人がするんじゃないの?なんで私なんだ。

 まあ、考えても仕方ないか。

 あ、対戦相手決めのくじ引きも始まってる。

 私のくじ引きは後からオールマイトが勝手に決めるらしいからされないらしいけど。

 

「最初の対戦相手は~…こいつらだ!」

 

 そういって箱の中からボールを掴んで取り出したオールマイトはAとDと書かれたボールを取り出した。

 Aは出久ペア。Dは爆豪くんペア。

 

 

 え、因縁あるんじゃないのここ。

 ほら、案の定爆豪くん出久のこと睨んでんじゃん。

 出久はどうせビビっちゃってるんだろうな。励ましといてやるか。

 そう思って、出久に声をかけようとして出久の表情を見ると、出久は怯えておらず、睨み返してる。

 

「成長したんだね、出久…」

 

「八菜さん?!どうしたの、急に?!」

 

 泣き真似をすると、出久は驚いてこちらを見てくる。

 でもさ、ほんとに成長したよ。感動した。

 中学校の頃はビビり散らかしてたのに、今ではビビり散らかずに睨み返すレベルまで…。

 

「出久、頑張ってね。応援しとくよ」

 

「うん、ありがとう。絶対、勝つよ」

 

「え?あ、うん」

 

 出久、そんな感じだっけ?

 あ、会場に歩いて行った。

 心なしか、背中も大きく見える。どうしたんだ急に。

 

 

 出久たちが訓練の舞台のビルに向かっていったタイミングで、まだ訓練に参加しない私たちはモニタールームに来ていた。

 モニターには出久たちヒーローチームの様子と、ヴィランチームの様子が映し出されている。

 今はヒーローチームと爆豪くんが単騎で突っ込んできて戦闘になったところ。

 奇襲の初撃を出久はお茶子ちゃんを庇いつつかわしてる。すごいな、スパイダーセンスなかったらできる気がしないわ。

 爆豪くんがすかさず追撃をかけようとしたところを、出久が背負い投げる。

 あ、お茶子ちゃんがどっか行った。核兵器探すのと爆豪くん相手するみたいな役割分担かな。

 飯田くんは核兵器守ってるだろうけど、お茶子ちゃん飯田くんとタイマンで勝てるのかな。

 

 

 しばらく揉み合ったり、追いかけっこした後、再び爆豪くんと出久が相見える。その間に、お茶子ちゃんは核兵器の位置を突き止めてたけど、何かで吹き出して飯田くんにばれてる。なにやってんだ。

 あ、爆豪くんが例の謎の籠手のピンを抜こうとしてる。

 その時、スパイダーセンスが反応する。

 人の命の危機。

 スパイダーセンスが反応したと同時に、オールマイトが叫ぶ。

 

「爆豪少年!ストップだ!殺す気か!」

 

 爆豪くんがピンを抜いたその瞬間、大爆発が起きる。

 ビルの壁は崩壊し、出久のマスクは全て焼け落ちている。

 

「オールマイト!これは流石に出久の命にさえ危険が及びます!訓練を止めたほうが!」

 

「先生!俺もそう思う!相当クレイジーになってる!」

 

「…爆豪少年、次それを撃ったら強制終了にする」

 

「そんな、オールマイト、本当に危険です!出久が…」

 

「雲嶋少女、大丈夫だ。爆豪少年は変なところで冷静な部分がある。だから、もう少し見ていてくれ」

 

 出久は私たちが話している間も、通信機を通してお茶子ちゃんと何か話している。

 下手したら死ぬのに、早く逃げたほうがいいよ。

 雄叫びを上げた爆豪くんが、出久に襲い掛かる。

 目眩ましと背後を取るための軌道変更を兼ねた爆破で出久のカウンターを避けて攻撃する。

 他の人たちが爆豪くんの今のテクニックのすごさなどを説明しているが、実際めっちゃすごい。空中での体の身のこなしは見習いたいところがある。

 才能マンだとか言ってるけど、あの片腕の爆破で推進力を付けた投げなどを見ると、それがとても分かる。

 出久が逃げ出す、それが正しいと思うし、私も安心する。存分に逃げて核の確保に専念してほしい。

 けど、壁に追い詰められてしまっている。

 出久が、何かを爆豪君に叫んでいる。

 そして、お互いに右手を大きく振りかぶって個性のぶつけ合いへと移る。

 もし、爆豪くんの爆破をもろに喰らったら、出久のあのフルパワーのストレートをもろに当てたら、どうなってしまうんだ。

 

「やばそうだってこれ、先生!」

 

 赤い髪の男子が叫ぶが、スパイダーセンスは反応していない。

 

「…、双方、中…?」

 

 オールマイトが何かを言いかけてやめる。私も、モニターを見る。

 モニターには出久の大きく振りかぶっていた右腕が、アッパーの姿勢になっていた。

 上の階には、お茶子ちゃんが待機している。

 爆破と同時に、出久は拳を振り上げ、いつしかのヘドロヴィランのときのオールマイトのような風圧を発生させてビルの床をぶち抜いていた。

 上で待機していたお茶子ちゃんがその床の破片を無重力で軽くしたビルの柱で飯田くんに野球のように打ち飛ばす。

 飯田くんがそれでひるんだ隙をついて、自分を浮かせ核を確保する。

 結局、戦闘自体はヴィランチームの勝ちだった。けど、ヒーローチームの作戦勝ちだ。

 出久は、個性把握テストの時のように、腕を青黒くさせて、爆破を受けた右腕が煤けていた。きっと、あの威力の爆破ならば火傷もしているだろう。

 

「オールマイト、この訓練はもうすでに終わったはずです。早く、出久を保健室に」

 

「ああ、そうだね、雲嶋少女」

 

 そうして、しばらくすると、救護ロボットがやってきて、出久を保健室に運んでいく。

 付き添いをしようと思ったが、流石に授業中だったのでやめておく。しかし、ひどい怪我をしていた。

 後で相澤先生から何か言われるだろうけど、私からも言っておこう。

 全く、ハラハラさせやがって。

 

 

 爆豪くんは呆然と立ち尽くしていた。

 モニタールームに戻って来てからも、なにやら、いつもと様子が違う。

 しかし、私はどうやら嫌われているようなので、声をかけようにもかけられない。

 他の戦闘訓練が始まりだした。

 あの紅白の人の戦闘訓練は一瞬で終わった。建物ごと凍らせるって何なんだ。範囲でかすぎだろ。

 足凍らせられても気合でどうにかできなくもないけど、戦いたくないな。当たりませんよーに。というか、私じゃなくてあの紅白の人が一人側やればよかったんじゃないのかな。くそ、なんでさっきの私はこれを言わなかったんだ。

 

 結局、他の戦闘訓練を見ていたが、紅白の人ほど圧倒的な強さを発揮した試合を見ることはできなかった。だからと言って、みんなが弱いわけではない。あれが強すぎたんだ。

 さて、ついに次は私の出番だ。

 

「さてさて、お待ちかねの雲嶋少女!どこの組とやるかくじ引きタイムだ!」

 

 そう言ってオールマイトが箱に手を突っ込む。できれば、勝ち目のある組と戦いたいな。というか、私ヒーロー側なのかな、ヴィラン側なのかな。

 まあ、流石にヴィラン側だよなあ。一人ってだけで不利だし。

 

「さあ、雲嶋少女とやるのは…こいつらだ!」

 腕を箱から引っこ抜くと、そこにはIと書かれたボールが入っていた。

 I、というと、例の紅白くんに瞬殺されたところか。あれじゃ成績もつけづらかったろうし、それに、私も紅白くんと戦わずにすんで嬉しい。

 

「それじゃあ、雲嶋少女はヒーロー側だから、ビルの外で待機しておいてくれ!」

 

「はい、わかりました…って、私、一人なのにヒーロー側ですか!?」

 

「ああ、頑張ってくれ!」

 

「頑張ってくれって、そんな…」

 

「そうだぜ、先生!個性把握テストで一位を取ったからって、戦闘もできるとは限らないと思うぜ!」

 

 いいぞ、赤髪くん、その調子だ。その調子で私を援護しろ!

 

「切島少年、確かに普通だったらそうだが…まあ、見ていたまえ!雲嶋少女のすごさは、見ていたらすぐにわかるはずさ!」

 

「見ていたらすぐわかる…ってまあ、あのオールマイトがそこまで言うんだったらいいか!頑張れよ!雲嶋!」

 

「あ、うん。はい、頑張る」

 

「よし、じゃあ、移動開始!」

 

 

 

 

 現在、尻尾くんと透ちゃんがビルの中に入っていった。

 おそらく、尻尾くんのコスチュームが道着ぽかったし、近接戦闘を仕掛けてくるのは確定として。透ちゃんは、いつの間にか確保テープを巻くようなことをしてくるだろうけど…まあ、スパイダーセンスがあるし、問題ないだろう。

 間取りを見るが、ビルは四階建て。核が置いてありそうな部屋は四階に一つ、二階、三階に二つ。大体四階に置いてあるだろう。

『訓練開始!両チーム、頑張ってくれ!』

 

 耳に、オールマイトから訓練開始の合図が聞こえる。まずはマスクを被り直す。

 さて、どこから入ればいいだろう。

 とりあえず、核は上の方にあるだろうという算段を付け屋上からいけないか壁にウェブを発射し、弾力と張力を利用して跳躍する。距離が足りなかったので壁に張り付いて登る。

 屋上についたが、出入り口は残念ながら一切なかった。屋上ぶち抜いて入れないこともないが、核の扱いがどうたらこうたらで爆豪くんは減点されてたし、やめておこう。

 大人しく一階から侵入するしかないか。屋上から飛び降りて、ビルの中に入る。

 撒菱を撒いたりだとかできるような個性を持ってる2人じゃないし、気にせず間取りを見て予め当たりをつけておいた部屋に向かう。

 二階三階はなにもなし。調べてる間に視線を感じること数回。見渡しても姿がなかったことからおそらく透ちゃんの個性であろうことは間違いない。

 

「うーん、やっぱり四階で待ち受けてるかあ…」

 

 相手の作戦としては、部屋に入ったときの死角から奇襲とかだろうか。

 まあ、結局行くしかないんだけど。

 階段を上って四階の部屋の前に行く。

 スパイダーセンスは反応している。やはりここのようだ。

 部屋の扉を開ける。奇襲はまだこない。核の位置はまだ見えない。

 部屋に一歩踏み込んだ瞬間奇襲とかかな。ドキドキハラハラだね。

 じゃあ、乗ってあげようじゃないか。

 

「おっふたーりさーん、あっそびーましょー」

 

 部屋の奥に両手でウェブを発射し、力加減をしていつしかのパチンコキャノンの要領で飛び込み、部屋の奥の壁に張りつく。

 飛び込んだ瞬間、左側に尻尾くんが待ち構えていたのが見えた。そして、右側の何もないところから視線を感じた。透ちゃんだろう。

 

「なっ、そんな動きもできるのか、お前!」

 

「驚いたかい、尻尾くん、さて、核はもらっていくよ?」

 

「轟の戦闘訓練を見て俺らの事舐めてるかもしれないけど、あれはちょっと…相手が規格外だっただけだからな!勘違いするなよ!」

 

「うん、それは私も思う。同情してるけど、勝ちは譲らないよ!」

 

 不安要素のある透ちゃんからやっちゃいたいけど、当たり所が悪かったりしたらまずいし、先に尻尾くんからやっちゃうことにする。

 

「ところで尻尾くん。聞きたいことがあるんだけど…」

 

「…なんだよ」

 

「君、いいコスチュームだね。近接格闘メインかな」

 

「ああ、そうさ」

 

「いいね!格闘技使ってくる相手なんか…おっと危ない、口を滑らしそうになった。まあ、とにかく。君が近接格闘メインなら、それに付き合ってあげよう!君が私に付き合い切れるかは別だけどね」

 

「やっぱり、舐めてるよな!俺らの事!」

 

 尻尾くんが突っ込んでくる。壁から跳び、突っ込んできた尻尾くんの後ろを取る。

 

「舐めてなんかいないさ、ほうら、このと」

 

 喋ってる途中で壁にたたきつけられる。

 

「ごめん、舐めてたかも」

 

 尻尾が鞭のようにしなったのを見た。威力もリーチもすごい。強いな。しかも格闘技も応用してくるのか。

 

「じゃあ、そろそろ本気でやろうか。いくよ?」

 

 尻尾くんの懐に脚力だけで突っ込む。そして腹にこぶしを叩き込む。

 

「どう?反応できた?」

 

 尻尾くんの様子を見ると、普通に立っていた。尻尾を支えにしてたのかな。やっぱすごい。

 スパイダーセンスが反応する。後ろ。

 バク宙しながら背後にウェブを連射する。

 何も見えないところにウェブが人の体に巻き付くようにして空中で止まっている。やはりいたらしい。

 

「きゃっ!?」

 

「やっぱいたんだね。それにしても、透明ってやっぱ脅威だね。今のうちに行動不能にしておこう」

 

 この段階から透ちゃんを減らせるのは棚から牡丹餅。

 ウェブを横に勢いよく引っ張り、透ちゃんを壁に投げ飛ばす。

 体に巻き付けていたウェブがそのまま粘着テープのような役割を果たし、壁に貼り付けることに成功する。

 

「よし、あとは格闘を楽しむだけだね。よかったら楽しんでいってよ…って、やる気満々だね」

 

 透ちゃんを壁に張り付ける一連の動作の間に突っ込んで来ていた尻尾くん。油断も隙もない。

 回し蹴りを放ってくる尻尾くん。大げさに横に側転して回避してみる。すかさず尻尾の追撃が来るので更に跳躍して回避。

 

「いやー、なかなかなもんだね!それじゃあ、次は私のターン来たかな?」

 

「空中から仕掛けられる攻撃なんて…」

 

「近接格闘に付き合うとは言ったけど、ウェブを使わないとは言ってー、ないからね!」

 

 尻尾くんの体に左手でウェブを貼り付け、それを引っ張って空中に浮かせる。そして残った右腕で顔面を殴り飛ばす。

 

「どーよ!私のスパイダーパンチ!いいのはいったっしょ!」

 

 尻尾くんの様子を見る。壁に倒れこんでる。あれ、やりすぎちゃったかな。

 というか、よく考えたらこれって近接格闘でいいのかな。もうちょっとこう、腕と腕がぶつかり合ったりするもんじゃないの?

 

『ヒーロー、WIN!』

 

 あ、終わった。




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