しかしヒーロー資格試験の直前に全
そんな出久の前に現れたのは……
◆
僕ヒロはにわかで、それでも良いと思う人向けです。
空いた時間でちまちま書いていたので続ける予定はないです。
後ちょっとだけ「ブラックブレット」。
昔からヒーローに憧れていた。 憧れて、夢見ていた。 文字通り身の丈に合わない儚いものだったかもしれない。
けどチャンスが来た。 このチャンスを手放さないために必死に努力した。 辛い事や相入れない思想、死ぬほど痛い思いもいっぱいあった。 でもそれと同じかそれ以上の出会いや笑顔になる事もあった。
そんな充実した日々が続いて1年、また1年と月日と比例するように成長していく自分を実感して。 いつかきっと……立派で、誰にでも胸を張って誇れるヒーローになれると思っていた。 けど……
——ヒーロー制度廃止に関するお知らせ
《中国の軽慶市での報道以来、数々のヒーローや伝説を輩出し、長きに渡るヒーローとヴィランとの戦いにおいて多大なる実績をあげてまいりました我が国の《ヒーロー制度》ですが、最大勢力の指定敵団体組織の実質的崩壊という現状を踏まえた協議の結果、当初の役割を終えたものとし、本日をもって廃止を決定しました。
これまでヒーロー制度をご支援いただきました国民の皆様におかれましては、我が国の厳しい財政事情も併せまして、何卒ご理解を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
※なお来月末に予定しておりましたヒーロー資格試験も中止となりますので、併せてご了承の程を宜しくお願い申し上げます。》
その一枚の通知が……終わりを告げた。
夢も、憧れも、紡いできた友情、拙いながらも守り抜いた大切な人、積み重ねてきた努力、何もかもを燃やし尽くし……全てを、灰と化してしまうかのように……
◆ ◆ ◆
半年後——
「ハッハッ!」
閑静な住宅街、緑色の髪をした少年が息を切らせながら走っていた。
「——そこの君! 待ちなさい!!」
「誰が待つかよバァーーカッ!!」
少年は家の屋根から屋根へ飛び移る小学生程の男の子を追いかけていた。 男の子は眼下にある少年を罵倒し嘲笑いながら逃げていた。
「ッ……あの子の個性は《質量変化》。 自分か接触した物体の重さを増減させることができる……!」
走りながら携帯端末で追いかけている男の子のプロフィールと同時に地図で付近の地形、天気予報を確認し、確保する算段を考える。
(よしっ……!)
作戦が決まり、少年はデコピンをする容量で右手で4本の指を丸め親指で押さえる。 男の子は個性の力で軽くなる事で飛んでいる……少年は男の子が大きく飛び上がる瞬間を見極め、
「はあっ!!」
その瞬間を狙い少年は指弾を放った。 その風圧によって突風が巻き起こり、男の子はその突風によって簡単に吹き飛んでしまった。
「うわぁああああぁぁ!?」
個性による飛ぶ瞬間、男の子の体重は羽のように軽くなる。 その瞬間を狙ったようだ。 少年は狙った方向に飛ばしており、人の往来が少なく遮蔽物が少ない河川方向に先回りし。 クルクル回転しながら個性の影響でゆっくりと落ちてくる男の子を優しくキャッチした。
男の子は目を回しながら気絶しており、その間に少年は両手に手錠をかけた。
この手錠は最近開発された元ヒーロー『イレイザーヘッド』の個性《抹消》の力が込められた手錠である。 これをはめられた人間は個性が使えなくなるため、あらゆる場面で使われるようになっている。
手錠が効果を発揮し、抱えていた男の子の個性が消えると少年の腕にズシリと重さが入るがそれでもまだ小学生の体重、苦もする事なく優しく地面に下ろし端末で連絡を入れ。 しばらくしてパトカーが到着した。
「ご苦労でした。 後はこちらにお任せください」
「よろしくお願いします」
警察官に男の子を渡し、パトカーに乗せると走り去って行った。 それと入れ替わるように刑事と思われる男性が少年に近づく。
「ご苦労だったな。 しっかし、思い切ったことをしたな? 無傷で確保する要請だっていうのに、顔に似合わず大胆な事をするじゃないか」
「今日は強い風が吹かない事や付近にこの河川がある事は確認していましたし、後は自分とあの子がどこにいるのか把握できればそう難しいことじゃありませんよ」
「やれやれ。 元がつくとはいえ流石は“雄英”ってところか……」
「…………」
「っと、すまねえ。 卒業はしていたな」
「いえ、気にしないでください」
刑事は少年の着ている服を見る。 それはヒーローとして活動するために仕立て上げられたコスチューム。 しかし今となっては使う機会はなく、それでもとコスチュームを少年は私服風に仕立て直して使用している。
未だに情けなく夢を引きずってしまっていると思われてしまうが、それでも少年はこれだけでもとこの服を着て仕事を行っていた。
「さて、これで依頼は完了だな。 それじゃあ……」
「——あっ! しまったぁーー!?」
「ん?」
いきなり少年は左腕の腕時計を見ながら叫ぶ。 そしてすぐに踵を返し再び全速力で走り出した。
「この後スーパーの特売だった!?」
「あ、おい!」
刑事が止めるままなく少年はものすごい勢いで走り去ってしまった。 伸ばした手を頭にやり、ポリポリかきながら刑事は息をはく。
「やれやれ……あれがヒーローを目指せなくなった若人の末路か……やらせないねぇ」
刑事はまるでこの変わってしまった世界の情勢の中を必死に走るように去る少年……《緑谷 出久》の背を見送った。
◆ ◆ ◆
依頼を終えスーパーの特売から帰ってきた出久は、罰が悪そうな表情をしながらデスク前に立っていた。 そのデスクには髪の長い女性が不機嫌そうに腕を組みながら、少し高そうな黒革のイスに座っていた。
「それでぇぇ? 依頼が完了したにも関わらずぅ?? もやしの特売があるからとそっちを優先して報酬をもらい忘れたとぉ〜???」
「は、はい……」
「全く……特売があるなら私にも教えて欲しかったわ」
「一袋いりますか、ねじれさん?」
「ここでは社長と呼びなさい」
苦笑い気味に戦利品である二袋のもやしを差し出そうとすると、トンと軽く振り下ろされた右拳が机を揺らし側に置いてあった“波動ねじれ社長”と書かれたネームプレートが軽く浮き上がる。
怒ってます、という感じだが……あまりそうは見えず、だがそうしなければ示しがつかないので体裁的にそう見せているように見えた。
出久はスーパーの特売で手に入れた戦利品を持ちながらスーパーを後にし……そこで依頼完遂による報酬をもらい忘れた事を思い出した。 急いで刑事にその件について電話をかけたのだが、
『急いで帰るもんだがらボランティアだと思ったわぁあーーはははははっ! まあサービスとして今回は一つ、また頼むぞーー』
と、言って一方的に切られてしまった。 そのため、今回の依頼料はなしである。 異議を唱えればいいかもしれないが、完全に出久のミスということで溜息を吐きながら肩を落としてしまった。
彼が働いているこの職場は《波動民間警備会社》。 主に個性に関する揉め事を処理、解決する事を生業にしている。
夢半ばで途絶えてしまった出久は2、3週間自宅で閉じこもってしまった。 それでもと就活はしたものの全滅……そんな中出久に手を差し伸べたのが、新たに民間警備会社を立ち上げた“波動ねじれ”だった。
彼女も雄英を卒業しヒーローとして輝かしいスタートを切ったが……ヒーロー制度の廃止によって途絶えてしまった。 しかし、彼女はへこたれる事も挫折する事も、ましてや諦める事もせず立ち上がった。
そも彼女が民間警備会社を立ち上げた理由としては、
「立ち上げたのはいいけど、上手くいかないわねぇ……」
「今思い返せば、ヒーロー関係の勉強しかしていませんでしたから……いきなり会社を経営をしろってのも難しい話かもしれません」
「最終学歴は一応高卒になってるけど、それだけでどうしろって言うのよねぇ〜……」
当時の出久の学年は雄英高を半ば退学のように卒業し、最終学歴は高卒となった。 加えて母校である「国立雄英高等学校」は廃校が決定し、在学生は普通の高等学校に散らばるように転校する事になった。
卒業生だった出久たちはもちろんだが、在学生の後輩たちもこのヒーロー制度の廃止はとても衝撃的で心境は複雑だろう。
「そりゃあ、ヒーローを目指してたんだから似た職種はある。 人命救助等の訓練をしてきたんだから、職種もそれに合わせて警察やレスキュー隊などに就職できればよかったんだけど……」
「みんな、考えることは同じですからね……建設や土木工事系、肉体労働系もすぐに埋まっちゃいましたし」
ヒーローを目指した者がそれ以外の職種を狙うとなるとどうしても多くの者と被ってしまい、 1日も待たずに定員が埋まってしまう。 その狭き門を通れたのも今年の卒業生だけを見れば3割にも満たない。 溢れてしまった残りはなんとか就職したか、今もなお就職活動を続けていた。
そして、そんな出久の過去の面接風景の一場面——
『戦闘スキルには自信があります!』
『ではなにかの資格をお持ちですか?』
『!!?』
残念ながら、世の中そう甘くはなかった。
日ごとに深刻化していく敵組織崩壊不況を背景とした超就職氷河期。 そんな中、出久のような元ヒーロー志望者に対する需要などほぼ皆無に等しかった。
『特技は《デトロイトスマッシュ》です!!』
『で、その《デトロイトスマッシュ》が当社において働くうえでどんな役に立つと思いですか?』
現実は非情だった。
会社にとって必要なのは腕っ節じゃない。 特に毎日スーツを着て仕事をするような会社では。 それは自分以外の同級生も同様だった。
(ヒーローを夢見ていた。 けど、ヒーローは救うことが出来ても、その人数は少ない……それに対して、ヒーローコスチュームを作っている開発者のマシンはどこでも、多くの人々を救える。 そう思うと……)
実際、事故災害が起きてから救助できる人数や効率はそれほど良くない。 むしろ事前に事故を防止するようなヒーローの技術職の方々……雄英のサポート科以降のクラスの生徒がこの時代の激流について行けていた。
雄英でトップを行っていたヒーロー科が一転して最底辺となった。 たった一つ“ヒーロー”という職業が消えただけでここまで世界は変わってしまった。
「はぁ……」
今日の収入が無くなり、罰として出久は事務所の玄関前を掃除していた。 といっても、基本依頼が無ければこれ以上特にやる事も無く、ほぼ毎日閑古鳥が鳴いていた。
そもそもこの警備会社の事務所の立地が悪い。 出久が働く《波動民間警備会社》は4階建てのビルの1番上にある。 一見すれば上に上がるのが少し面倒そうなだけなのだが……問題はその間の階にある他の同ビルの同居人たちだ。
1階は空いているが、2階はキャバクラ、3階はヤのつく自営業……4階に上がる前に2階で吸われたり、3階でビビって追い返されたりで物理的に依頼が届かなくなっている。
故に、依頼の請負は主にメールで、他には特殊な
「よっと……」
ゴミ出しに地上に降り、ゴミ捨て場にゴミ袋を置き一息吐いていると、
「——おい」
振り返るとそこには上下黒いジャージ姿の出久と歳の近い少年がいた。 フードを目深に被っており顔はよく見えずズボンの片ポケットに手を入れており、もう片方の手には 1枚の紙が握られており出久の第一印象は少しガラの悪そうな子だった。
「えっと……もしかして、ここに依頼をしに来たのかな?」
「ん」
まだ拙い社交辞令で要件を聞こうとすると、少年は持っていた紙を無造作に出久に差し出した。
「面接に来た」
「え、ええっ!?」
紙はどうやら履歴書のようだが少しくたびれているが、それ以外にも出久は驚愕する。 お世辞にも月給が高くなく依頼が無ければ基本暇でちょっとブラックなこの職場に面接に来る事に驚いてしまう。
「何か文句でも?」
「えっ!? いや、無いですけど……」
「ならとっとと連れて行け」
彼は少し高圧的な態度を取る。 同級生から面接と履歴書地獄を聞いていた出久にとって、彼はとても面接に来るような見かけと口調ではないが……出久は彼を事務所まで案内した。
「あ! 来たわねぇ! ようこそ、《波動民間警備会社》に!」
どうやら知り合いのようで、ねじれは笑顔で彼を迎えた。
「来てやったぞ」
「社長。 この人は……?」
「ちょっとした知り合いよ。 ここでバイトをしないか誘っていたのよ。 さ、こっちに来て」
「ん」
ねじれに案内され、2人は奥の部屋に行った。
(あっ、これ……)
ふと、出久は手に持っていた先程の子の履歴書が目に入る。 勢いに流されてそのまま手に持っていた出久は興味本位でその履歴書を見ようと視線を落とすと、
名前 : オール・フォー・
志望動機 : オール・フォー・ワン(父親)が死んだから。
過去の経歴や住所は書いておらず、名前と証明写真、志望動機だけ短くそう書かれていた。 しかし、その名前は出久にとっては悪い意味でよく知る名前だった。 そして、性別の欄には……“女”と、書かれていた。
(えっ……えぇぇええええええっ!?)
バッと履歴書から顔を上げ、ねじれと共に消えた部屋の方を向き、
(あ、あの子が…… あの“オール・フォー・ワン”の……娘ぇええっ!?)
心の中で、学校を出てから久しくなかった驚愕の絶叫をした。
◆ ◆ ◆
ヒーロー試験を目の前にしてほぼ全てのヴィラン組織が掃討され、ヒーローになれなかった緑谷出久は、都内の町外れにある小さな民間警備会社《波動民間警備会社》に就職。ヒーローから民警となった出久は大した仕事もなく極貧な毎日を送っていた。
そんな出久の平凡な毎日は、バイト希望でやって来た少女との出会いをきっかけに、再び大きく変わってしまった。
「今では食べて肥えて物を作る……農場の牛になった気分ですわ」
「こんな葡萄もどきで、どうすればいいって言うんだよっ!!!」
「ケロ……これも時代の流れケロ」
「足が速くても、それが個性である以上大会には出られない。 あってないようなものさ」
「
「僕はヒーローになれなかった。 でも、君なら……真の意味でヒーローになれると信じている」
「ヒーローがヒーローであり続けるには
「善と悪、秩序と崩壊のバランスは私がコントロールする! 私こそがヒーロー制度だ!!」
「こっちに来いよ——-デク」
「離せよデク。 私は……
「
「誰かの犠牲の上に立つ平和なんかいらない! そんな犠牲を許すようなら……僕がヒーローをぶっ飛ばしてやる!!!」
「——緑谷少年。 君がヒーローだ」
次回、ヒーローになれなかったのでしぶしぶ就職を決意しました。
ピロリン、ピロリン♪
「らっしゃいませー」
《働くヴィランくん》