風雷のヒーローアカデミア   作:笛とホラ吹き

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仮免試験 その4

「あ……ヒーロー!腕を怪我したんだ、お願いだから救けてくれぇ!」

「救けてくれ、とっても痛いんだ!」

「うるせえ、いちいち騒ぐな!腕の怪我なら足は無事なんだろ、救護所は向こうの旗の所だから自力で行ってこいや!」

「へっ?……はあああァ!?」

 

 風華が重傷者の元へ西に東にと駆け回る中、爆豪は一次試験の時と同様についてきた2人を伴って会場を散策していた。

 敵の襲撃による大規模テロというシチュエーションであるのなら、必ずどこかで再びの襲撃が行われるはず。爆豪はその時が来たら真っ先に突撃して全員ぶち殺してやるという腹積もりであったが、その最中では当然だが、風華が優先順位的に後回しにした軽傷の要救助者と鉢合わせる。助けを求めてくる彼らに対して、バッサリと切り捨てる対応はなんとも爆豪らしいと言えなくもないが……ヒーローがしていい態度や口調ではないのは明白である。

 

「ホント相変わらずだなお前」

「自己流貫きすぎだろ……見えてないだけで大怪我してるのかもしれねえんだぞ」

「るっせえ!だったらてめェらが救護所まで送り届けてくればいいだろうが!ただ俺についてくるだけで済ますくらいならそれくらいやっとけ!」

「いや、お前もやれよ」

 

「我々の設定は救助優先度の低い軽傷者……!」

「まさか……彼はそれを瞬時に見抜いた上で、我々に『自分で動け』と……!?」

 

 切島のツッコミに対して、爆豪は宙へ飛んでいくことで抵抗の意志を示す。飛ばれていっては仕方がないので、切島と上鳴は爆豪の発言を都合よく解釈してくれているHUCを自分達で連れていくことにしたのだった。

 

「すいませんね。アイツ、これからまた敵が襲ってくるかもしれないって神経質になってるんスよ」

「あの言動は俺達が代わって謝罪します」

「成程……シチュエーションを考慮した上で未知の脅威に対する警戒を怠っていないということか」

「でも、あの言い方はないな」

 

 救護所まで案内される傍ら、彼方へと飛び去っていった爆豪のことを2人のフォローありきで採点するHUC達。本人の性格や重きを置いている事柄に加えて、状況判断能力や要救助者への言動などヒーローとしての対応力。それらを考慮した上で彼らが下した結論は……

 

『あまりにも態度が悪すぎるため減点』

 

 であった。

 

 それを横で聞いていた切島はまぁそりゃそうだよなという感想を抱き、上鳴はこれでも少しは柔らかくなってんだよなぁと、かつての切れたナイフのような爆豪に思いを馳せるのであった。そんな要救助者の前で関係ない別のことを考えていた上鳴が、救助活動に集中していないと減点を食らうのは……それは別の話である。

 

 

 〜

 

 

「いくよ轟君!『45%』……セントルイススマッシュ エアフォース!」

「うぼあァ!?吹っ飛ばされるゥ!」

「……ナイスだ緑谷。穿天氷壁!」

「なんだこれ……氷!?通れねえよ!」

 

 試験の最中、襲撃する敵役として現れたプロヒーローギャングオルカとそのサイドキック達。セメントガンを片手に救護所を破壊してやろうと襲いくる彼らを迎え撃ったのは、ちょうど負傷者を送り届けて近くにいた緑谷と轟であった。

 緑谷のスマッシュで発射されるセメントごと吹き飛ばし、開いた隙間に轟が分厚い氷の壁を展開して進路を塞ぐ。肝心のギャングオルカには氷を掘り進むことで突破されていたが、即席のコンビはなかなかの立ち回りで襲撃を抑えていた。

 

「無理矢理でも距離を取らせ、進路を塞ぐ……いい連携だが、それを突破された時のこともちゃんと考えているのか!?」

「当然ですよ……緑谷!」

「『30%』……!デトロイトスマッシュ!」

「ほう、成程な!だがまだ甘い!」

 

「ウッソだろ……あのでけえ氷砕きやがった」

「ギャングオルカもなんで、生き埋めにされそうってのに冷静でいられるんだよ!?」

 

「破片になったとはいえ、元の大きさを考えればまだまだかなり大きな氷塊だったのに……それを破壊するとはなんて馬鹿力だ!」

「お前が言えることか、それ?」

 

 氷の壁を突破して、作戦は第二第三と用意しておく必要があることを指摘するギャングオルカ。轟はすかさず緑谷に指示を出し、緑谷もそれに応えてデトロイトスマッシュで氷の上側を砕き割る。崩れた氷の破片が雨のようにその下にいたギャングオルカに降り注ぎ、彼を生き埋めにせんとする。

 だが、ギャングオルカにとってはまだまだ対処可能な範囲内。自身の頭上に降ってくる氷だけを的確に攻撃して破壊し、生き埋めにされることを防いでみせた。そのパワーに驚愕する緑谷に、轟は自分を棚に上げて何を宣うのだとツッコミを入れる。

 

 ここまで立てた戦術は軽々と突破されてしまっているが、2人はそれほど焦ってはいなかった。別にここでギャングオルカを倒す必要がある訳ではないし、足止めして救護所の方に向かわせなければそれで十分であると考えていたからである。

 

「試験終了の条件は時間経過かそれ以外か……明言はされてないけどなんにせよ、まだ救助作業が終わってない以上は絶対にここを突破されてはいけないんだよね。轟君、もっと気合を入れていこう!」

「ああ……今はこっちに関心を向けてもらってはいるけど、簡単に対処できるって思われたら無視して救護所の方に行きかねないからな。とはいえ氷壁は簡単に砕かれるし、どうしようか……」

 

「別に、戦えるのは君達だけじゃないんだよね!」

 

「うわっ、傑物の……真堂さん!?だったよね?

「加勢に来てくれたのか」

 

 ギャングオルカをどうやって足止めするかを2人が思案していると、コソコソと氷壁の後ろから抜け出そうとしていた敵の取り巻きが崩れた地面の下に叩き落とされる。下手人は民間人の救助を他の受験者に任せて加勢に来た真堂であった。試験の前に自己紹介された時のことを思い出し、小さく彼の名前を呼ぶ緑谷。

 朧げにしか覚えられていなかったことに僅かに表情を歪める真堂であったが、そのことは気にしないことにしてギャングオルカに向き直る。その後ろから着いてきた加勢の受験者も合わせて、これで数の上ではかなり有利を取れるようになった。

 

「ふむ、人数が増えたか……これを突破するのは簡単ではないな」

 

 この後の動きを思案するギャングオルカ。緑谷達はその場から動かない彼にも警戒を緩めず、根気よく事態を好転させる隙を窺っている。

 棒立ちとはいえ、考えなしに向かっていったって返り討ちに遭うだけ。戦うならば、数の有利と個性の多様さを活かした戦術を絡めて。そうして膠着状態が続く中──それを破ったのは空から飛んできた爆撃機であった。

 

 虚空に煌めいた赫いスパークと共に戦場へ飛び出した爆豪は、ギャングオルカの頭部に向けて汗が溜まりに溜まった掌を翳す。それを脅威と感じ取ったギャングオルカは咄嗟に腕でガードし大ダメージを防ぐも、大きく後方へと吹き飛ばされた上に左腕の自由を失ってしまった。

 

「むっ……!?」

「何をボーッと突っ立ってやがんだァ!?」

「かっ……かっちゃん!?」

「数だけ集めといてよォ……動かなきゃあ意味ねェだろうが!ちったあ身体動かせ!」

 

 敵の襲撃発生時、爆豪はその地点からは真反対とも言える遠方にいた。参戦を間に合わせようと爆破を繰り返して飛行するも、その距離はかなり開いており到着までは相当時間がかかる。

 

 ──もしかして、自分が戦場に辿り着くよりも、試験が終わる方が早いのでは?

 

 頭をよぎるその可能性。終了条件は通達されていないためいろいろと予想できるが、「所定の時間が過ぎる」というのは普通にあり得る。もしもそうだとしたら、試験が始まって既に30分を超えている以上終了を告げられる可能性はかなり高い。爆豪も少なからず焦りを覚えたその時だった。赫いスパークを全身から迸らせながら、縦横無尽に奔走する風華を見つけたのは。

 風華は当然電力を出し渋ったが、この試験中ほぼ何もしていないも同然の爆豪が不合格になるくらいならと渋々電力を分け与えた。戦闘に間に合って介入することができたなら、少なくとも何もせずただほっつき歩いていたという評価はされなくなるだろうと考えたからである。

 

「天合万雷……雷上動の瞬間移動か!」

「よく電力分けてもらえたな」

「救助はもう、終わりかけだったんだよ。そうじゃなきゃ断られてただろうな」

「何にせよ……心強い援軍だ!」

 

「……もう終わり、か」

「え?」

「お前達、撤退するぞ」

「オッケー、シャチョー!」

 

 部下達に撤退の命令を下し、ギャングオルカは自ら開けた穴から帰っていく。その動きに困惑し一瞬警戒が緩んだ緑谷であったが、それを轟が身振りで咎め締め直させる。敵が背中を見せたとて、ヒーローは安心してはいけない。どんな時でも『最悪』を想定し、不測の事態に備え続ける。今回の場合は撤退すると見せかけての奇襲だ。

 構え直した刹那、会場中にけたたましいブザーの音と目良による試験終了の合図が響く。配置された全てのHUCが救助されたことで、試験の終了条件が満たされたためである。

 

「終わりか……最後のHUCは、連れてくるだけでよかったんだね」

 

 最後の一人となったのは、風華が連れてきた救護所から最も離れた所にいたHUCであった。重傷という訳でもなかったし、意識もハッキリとしていたので救助を後回しにしていたのだ。他の優先すべき要救助者を全員救助し終えたのでようやく連れてきてみれば、それが最後の一人で試験終了のトリガーであったという訳である。

 

「鳴神さん、お疲れ様でした。赫災領域(レッドゾーン)を維持し続けた上での縦横無尽の救助活動、とても大変だったでしょう……って!鳴神さん身体のヒビが広がってますわよ!?どれだけ無理しましたの!?」

「ああ百、お疲れ様。……ちょっと無理したかな。赫災領域の制限時間を少し超過しちゃったや。もっと手際よくやれてれば、こんなことにならずに済んでよかったんだけどね……」

 

 赫災領域を酷使し続けた反動……風華の左半身を蝕む亀裂は、僅かな時間制限の超過によりその規模を大きく広げていた。頬の辺りで止まっていた裂け目の端が、今は唇の先にまで届く。赫い電光と飛び散る身体の破片を供とする亀裂の広がりは、その勢力を左手の指の先まで広げたところでようやくその侵攻を止めたのだった。

 赫色に染まったヒビは、その奥に本来見えるはずの風華の身体を映さない。まるでその先にはもう何も存在していないかのように、それだけが存在感を醸し出していた。

 

 赫災領域を解除して少し時間を置けば、ある程度はヒビも回復して塞がるのだが……それでも全てが塞がる訳ではなく、左目や耳の周りに首筋など一部には残り続ける。

 

「……もっと何か、根本的な解決が必要だね」

 

 使い分けをすることで、制限時間を伸ばすことはできる。しかし、それでは時間制限を超過すると身体をヒビに侵食されて、その部分が消えてしまうという問題を解決したことにはならない。

 今回は僅かな超過で済んだため、ヒビが少し広がった程度で済んだ。しかし実際の現場なら、もっと大規模な事件や災害はザラにあるだろう。その時に赫災領域の時間超過をしたせいで自分が消えてしまうなんて、自分にとっても救けを求める人達にとっても洒落にならない。

 

 ……研究所なら、職員さん達と一緒にいろいろアイデアを出し合えたんだけどなぁ。

 

 この制限を丸っ切り取っ払えるような、根本的な解決策が必要だ。しかし、今の風華は個性研究所のような存分に個性を振るえる環境にいない。自分では考えつかないようなアイデアや、専門的な目線からアドバイスをくれる研究者もいない。赫災領域をこれからも使っていくのならば、解決策には自力で辿り着く必要がある。

 正直なところ、考えてみてもあまりいいアイデアは浮かんでこない。思いつかないのなら仕方のないこと。風華は頬を張って思考を切り替え、合否発表の場へと向かうのだった。

 

 

 〜

 

 

「皆さん長いことお疲れ様でした。これより合格発表を行いますが……その前に一言。今回の採点方式についてですね。我々公安の審査員とHUCの皆さんによる二重の減点方式で、あなた方を見させていただきました。つまり……危機的状況の中で、どれだけ間違いのない行動を取ることができたのかを見ていたということです。合格の方は五十音順で名前が載っていますんで、今の言葉を踏まえた上でどうぞご確認くださいな」

 

 目良による二次試験の採点方式の説明を聞いたところで、その後ろにあったモニターに合格した受験者の名前が映し出される。モニターの中にきっとあるであろう自分の名前を探し、誰もが羅列される名前を追いかけていく中で──

 

「あった。わたしの名前……」

 

 ──その中にある『鳴神風華』の名を、風華は見つけ出すことに成功した。

 仮免試験、見事合格である。

 

「み、み、みみみ……緑谷出久あったあ!」

「俺もあった!」

「俺もだ!」

「私も!」

「私も合格ね」

「……あったな」

「当然だろ!」

 

 A組のみんなも、次々と自分の名前がモニターにあることを確認していく。一人、また一人と自分が合格していることを確認し、最終的に21人全員が合格していることが確認されたのだった。

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