怨霊に殺されたらTS転生して二度目の人生でも色んな怨霊に絡まれるのだが 作:ササキ=サン
つまり初投稿です。
家族について話をしよう。
まずは母親について。この人がどういった人間なのか。
といっても、俺にはこの人の性格がどうとか、隠れたこういった一面があるとか、そこら辺の機微は正直良くわからない。人間観察の見識に優れているわけでもなければ、積極的に関係を持っているわけでもないのだ。俺が説明できるのは、この人とどのように俺が関わっているのかである。
まずは母親から説明を始めよう。この人は……面倒見がいい。いやまあ、俺がよく知らないだけで、母親という立場にとってそれは非常に当たり前のことなのかもしれないが。
俺自身の自立心と羞恥の心情により、赤ん坊の頃から俺は周囲の人に対して、あまり迷惑をかけないように振る舞ってきた。手のかからない子として色々やってきたが、母親はそれでも俺に対して……いや、藤野聡子に対して積極的に関わろうとしていた。
一人で勝手に絵を描いたり、工作をしたり、虫を観察したりしているのだ。いや、虫とかは危ないか?知らんけど。
とりあえず、俺的には危ないことはしていない。だから、母親は隣でニコニコしながら聡子を見守る必要はあまりないはずだと思う。
母親であろうと、同じ人間だ。俺なら、手のかからない子どもがいたのなら、これ幸いと自身の娯楽に没頭し始めるだろう。だから、俺には彼女の気持ちは理解できない。
ただ、良い人なんだろうなと、そんな感想を抱くことしかできない。
最初の頃は、母親はもっと遠巻きに俺を見守っていた気がする。もしかしたら年齢よりもずっと大人びた様子を見せる俺を、不気味に思っていたのかもしれない。だけど、いつの間にか母親は俺の隣にいた。
『何を描いてるの?』『すごく上手だね』『お母さんも描いてほしいな』『わぁ!ありがとう!』
ああ、本当に良い人なんだろう。俺が母親に抱くのは、そんな感情だ。
だからこそ、申し訳なくなる。俺は彼女の子どもを演じることはできない。俺はあなたの子どもになることはできない。
もっと、前世のようにクソみたいな母親なら、こんな罪悪感を覚えることもないのに。
母親と接するたびに、俺はそんな罪悪感に苛まれる。だから、俺は彼女のことが苦手だ。
ぼっちを拗らせすぎてぼっちに固執している俺には、今更他人に対して親密な関係を築こうとする前向きな気持ちが湧かないのだ。
次に父親について。父親は……まあ、どことなく親近感が湧くオタク系の人間であった。といっても、美人な母親とゴールインしているあたり、親近感が湧くと言っても、俺とは比べ物にならないくらい社会的な勝者なのだろう。
父親としては……どうなのだろうか。個人的には、ゲームをやっているところを眺めていたら、やってみるか?と声をかけてくれるのは、楽しいし助かる(コミュ障並の感想)。友達としてなら上手く関係を築けるのかもしれないが、父親としてどのような関係が築けているのか。……いや、友達も無理か。俺は基本ぼっちだし。
父親は生活面ではあまり関わってこない。面倒を見る……というのは母親がかなり進んでやってくれるので、食事やお風呂、そして寝るときなど、いつもそばにいるのは母親だ。だから、父親が関わってくるのはあまりない。時々ゲームをやらせてもらうくらいだ。それも、割と兄が乱入してくるので、父親とコミュニケーションを取る機会があまりない。
兄と父親が話しているのはよく見るが、姉と父親が話しているのはあまり見ないので、まあ、性別による関わりやすさというのもあるのだろう。もし娘と息子がいたら、俺もたぶん息子より娘の方が話しかけづらさを感じると思うし。まあ、そういう仮定を俺がするのもおこがましい気がするが。
父親に関しては、ぶっちゃけ俺はよく分からない。ただ、悪い人ではないんだろうなっていうのと、たまにゲームをやらせてくれて嬉しい……というのが俺の印象だ。
次は兄について。兄は……まあ、年相応のクソガキ……なんだけど、悪いやつではないんだと思う。カッとなって、つい悪口を言ったり、わがままを言って家族を困らせたりすることはあるが、時間が経てばちゃんと反省して謝れるし、なんだかんだいって不器用な優しさを持っている。
エピソードとしては、俺のおやつを兄がこっそり食べた時があったが、このクソガキ……と思いつつも、まあいいかと放置していたら、後でちゃんと謝りにきて、自分のおやつをくれた。
ちゃんと謝れる子に育っているんだなぁ……と感心したが、同時に後方で母親が見守っていることをみるに、この家庭の教育力が高いのだということを改めて感じる。
最後は、姉について。この家庭の兄弟の年齢は、兄が一番上で、それより一歳年下の姉、姉より二つ下の聡子といった構図であり、姉は兄より年下なのだが……女の子は同年代の男子より大人びている法則の例にのっとって、兄よりもしっかりしているという印象だ。
あの母親の子どもということもあって、お姉さんぶるというか、どこか過保護な世話焼きの片鱗を感じるところがあり、同年代の男子や兄のいたずらなどを撃退してくれる素晴らしいところはあるが、反面色々と面倒なことに付き合わされることもある。
例えば……幼女時代は、おままごとによく徴兵された。しかもおままごとの役割が高確率で姉よりも下の役職になるため、なんかすごいお世話をされることが多い。というかかなりの頻度で、おままごとの役職がペットになるのはなんなんだろうか。犬、猫、インコ、カメ、ドラゴン、その他色々。ペットだけ種類が豊富なのはなんだろうか。まあ、役職はテレビなどで姉が気に入ったものから選抜されることが多い。あと赤ちゃん。姉君の性癖であろうか。よしよしと髪や顎を撫でられまくると、俺の性癖が壊されそうになるので止めてほしい。妹のことをなんだと思っているのだろうか。
いやほんと……まだクソガキじみたところがある兄への防波堤としてはかなり助かっているのだが、言い方が悪いが、管理下に置こうとする動きが幼児特有の未熟さとあいまって、意外と面倒なのがきつい。
食事の際は、聡子は私の隣で食べるの、といった主張であったり、お風呂は絶対一緒に入るの、といった主張であったり、聡子のシャンプーや体を洗うのは私がやるの、といった主張であったり。まあ、幼い女の子特有の所有欲というか、なんかこう、独占欲を拗らせているのは分かる。
といってもまあ、これは自身の同年代の女の子の様子を見ると、姉だけが拗らせた特有の事象というよりは、幼女が全般的に拗らせるものだということが分かる。おそらく、これは藤野聡子の容姿がそういった感情を刺激する作用を持っているのだろう。あれである。シルバニアファミリーとか、かわいいお人形の争奪戦と同じ扱いなのだろう。
俺はそういった心理の研究者ではないためよく分からないが、子どもが綺麗なものに向ける憧れとか、そういったものを所有する欲求とか、独占欲とか、それらを制御する社会性の未熟さとか。まあ、もろもろがあいまって、こんな感じになっているのだろうか。
まあ、あれである。二次元でよく見るような、純真無垢で善良なロリキャラなどいないということだ。いやまあ、純真無垢である。ただ、その純粋さを抑える社会性が未発達な原始的な人間は、一般的に考えられるロリよりもずっと有害なだけである。
基本的に二次元のロリキャラは、リアル幼女先輩の理想的な良いところだけを抽出した存在である。つまるところ、子育てはくっそ大変そうだという世知辛い現実を、俺は二度目の人生で実感した。
リアル兄弟の仲が悪い例をよく教室で耳に挟むことがあったが、さもありなん。気遣いの未熟な……こんな人間的に未熟な時期に、離れることがあまりできない家庭で一緒にいるのは、抜身の刃でお互いを傷つけ合うようなものだ。幼児期にお互い喧嘩しあって、その確執を引きずった結果、あまり仲のよろしくない兄弟が出来上がるのではないだろうか。詳しく知らんけど。
だから、兄弟仲が良いやつに悪いやつはいない説を提唱したい。身近な家族に気遣いができて、仲がよいのなら……大抵の人間と仲良くできると思う。俺が悪いやつで、兄弟仲はよろしくないので、逆説的にその説を証明できているな。
まあ、そんな感じで。母親にお世話されながら、たまに父親にゲームをやらせてもらい、たまに兄にちょっかいをかけられ、姉の遊びに付き合わされる。俺の……藤野聡子の幼女時代は、そんな感じに流れていった。
三番目に生まれた子どもは、神秘的な子どもだった。
実は、私達夫婦は聡子を身ごもるような行為をした覚えはない。そのことで、夫と少し気まずい雰囲気になったこともあったけど、生まれた子どもがその雰囲気をすべて吹き飛ばした。
私や夫と血縁があるとは思えないほど、娘は美しかった。とても綺麗な顔に、美しい白い髪。そして、透き通る赤い瞳。容姿だけで、尋常ではない雰囲気を放つというのに、さらに赤ん坊の頃から、立ちふるまいがあまりにも大人びていた。
そういった非常に変わった娘の様子を見て、もしかしたら宗教はこのような不思議な魅力を持った人物を祀り上げることで始まったのかなと、そんなことを考えた。
でも、私は……正直、あの子に対して少し不気味だという感情を抱いていた。
不思議なものに対しては、私の姉がそういったものを見える人であったため、そういったことがあるのは知っている。だからこそ、同時にその恐ろしさも、以前に身を以って知っている。
そう、私は聡子を恐れていた。その美しさにどこか心惹かれるものを感じながらも、その特異性に恐怖を感じていたのだ。それは畏れ敬うというような……まさに神仏に向けるような感情を私は彼女に向けていた。
だからこそ、親戚が集まる場で、見える人であり、そういったものに対処する術をいくつか心得ている姉に、聡子のことを視てもらったことがある。
『ああ……この子は確かに憑かれているね。でも安心していいよ。この子に憑いているのは、とても優しい霊……いや、神様のようなものだ。しかも、魔を祓う神格を持ったかなりの力を持つ神様だ。この子に対しては、よほど力を持った悪いものでもない限り、悪い影響を受けることはないだろう』
姉は私を励ますように言った。
『この子はその神様にたぶんすごく好かれているのかな? すごくべったりだ。今まで見たことがないレベルで神様がべったり張り付いているから、悪いものに影響を受けることはまずないだろうね。逆にだけど、この子の大人びた様子は、もしかしたらその神様からの影響を強く受けているのかもしれない。まあ、悪いものではないと思うよ』
ただ……と、可哀想なものを見るようにして、姉はどこか言いづらそうに告げた。
『この子はとても強い霊能の才能を持っているようだね。神様がこの子をべったりと守っているから、悪いものに取り憑かれるようなことはないと思うけど、逆に言えば神様が守らないとかなり危ない事態に陥る可能性がある。だから、何か気になることがあったら私に知らせてほしいかな』
その警告は、私の心に暗い影を落とした。
私は過去に怨霊に憑かれたことがある。その時は姉が何とかしてくれたが、もしかしたらこの子にも、あの時のような恐ろしい体験をする可能性があるということなのだろうか。
それは。それはあまりにも、この子が可哀想だ。
その日をきっかけに、私は聡子に対する畏れを和らげることができたのだと思う。
そうすると、今まで見えなかった聡子の様子が見えるようになってきた。
静かで、大人びていて、全く手のかからないどこか不気味な子どもといった印象だった聡子だが、よく観察するようになると、その印象は徐々に変わっていった。
例えば、聡子は泣かない。でも、泣きそうになることはたまにある。
まだ幼いので、歩いていて転ぶことはある。体の中で頭の比率が大きいので、子どもはバランスを崩しやすいのだ。長男の元気や長女の雫も、この頃には転ぶことがよくあった。そして大泣きする。それはこの年頃の子どもとしては当たり前のことで、すぐに駆け寄って慰めてあげないといけない。
でも、聡子は泣かなかった。厳密には、必死に泣くのを堪えていた。目を真っ赤にして、ポロポロと涙を浮かべながらも、必死に唇をきつく結んで、ひっ、ひぅ……と小さな嗚咽をこぼしながらも、漏れそうになる声を抑え込んでいた。
『聡子っっ』
思わず駆け寄って抱きしめた。元気も雫も、転んだらすぐに助けを求めるように大泣きしていた。だからその聡子の様子には、ただ泣き叫ぶ子どもよりも、もっと危ういような……守らなければいけないという心情を掻き立てられた。
でも、この子は助けを求めることをしない。慰めるために抱きしめても、体重を預けてもらえない……私から離れるように腕に力を入れている聡子の様子が、可哀想で仕方がないものに思えた。
どうして。どうしてこの子はこんなに頑張って涙を堪えているのだろうか。
その時に私は思いついた。この子は今まで手のかからない子どもだと、そういう気質の子どもなのだと感じていた。
でも、違うのだ。この子は頑張って私に迷惑をかけないようにしているのだ。たぶん、助けてほしくないわけではない。でも、誰かに頼ろうとはしないのだ。
元気が聡子に意地悪をした時だってそうだ。ただ静かにいたずらをした張本人を眺めて、諦めたように聡子は肩を落として、いつも通りの無表情をする。
そうだ、聡子はいつも無表情だ。笑顔も、悲しむ顔も見せない。ただ刺激を与えられた際に、表情筋がそれに反射をするような。その表情の動きに、感情が伴っていない。
どこかで聞いたことがあるような気がするけど、表情とは心情を伝えるためにある。人間が社会的なコミュニケーションによって種として発展していったからこそ、そのコミュニティー内の交流を円滑にする一つの表現ツールとして、表情が存在するのだと誰かが言っていた。
ならば、この子が浮かべる無表情は、もしかしたら伝えることを知らない証なのではないだろうか。
喜びも、悲しみも。それを他者に伝える意味を感じていないのではないか。助けを求めるように泣くことがないのも、兄にいたずらをされても何も言わないのも、いつだって無表情でいることも。全部、同じ心境がもたらしていることなのではないだろうか。
なら、そんなことはあってはいけない。子どもがそんな心情にあることなんて、そんなの、そんなの。
あまりにも可哀想ではないか。
だから私は、とにかく聡子に付き添って、とにかく一緒にいた。
スキンシップもたくさん取った。抱きしめたり、頬をむにむにしたりもした。
そしていつの間にか。
『む、むぅ……』
抱きしめても人形のように無表情で離れようとしていた聡子が、本当に少しだけ、顔をしかめて、不快そうな表情をした。
この娘は、ようやく私に不快だと伝えてくれようとしたのだ。伝えることに、意味を見出してくれたのだ。
そのわずかな表情の変化が、心情の変化が。私にとってはどうしようもなく嬉しかった。
幼女の体とは不便である。
身体能力、才能的なものは前世より遥かに高スペックであるが、低身長や頭身のアンバランスさ、感情制御能力など、前世の自分との違いに戸惑うことが多い。
転びやすい、高いところに手が届かないといった一面は、まあ、個人的には時間が解決してくれる問題であるからいいかと思うのだが、涙もろくなっているところは、なんかこう、すごく恥ずかしくて嫌だ。
少し心が揺れるだけで、自然と涙がポロポロこぼれてくるのだ。内心の冷静さとは別……というほどではないが、自身の内心よりも100倍くらい大げさに涙が出るので、恥ずかしくて仕方がない。一人でいる時に勝手に涙が出るならそこまで変なことにはならないが、割と過保護気味な母親が目を光らせている家庭の生活においては、涙を流していると母親の大げさなリアクションが返ってくるので非常に申し訳ない。
いや、転んだりすると勝手に涙が出てくるだけで、そんなやばいやつではないんですよ。ちょ、病院はいいです。大丈夫ですから。
とまあ、そんな感じである。母親の気持ちは分からなくもないのだ。小さい女の子が無表情かつ無言でどばどば涙を流していたら、普通の人間は滅茶苦茶心配する。だからこそ、これを本当に何とかしたいのだが……まあ、無理である。気合を入れて、なんかこう、グッと内側に力を込めると涙が引っ込む気がするが、すごい集中力と気力を消耗する。勝手にこみ上げてくる嗚咽を堪えるのもかなり繊細な肉体制御が必要なため、本当に幼女の体は色々と不便だと思う。
正直、涙といった要素がここまで肉体由来の行動だとは思わなかった。前世では幼少期を含めてほとんど泣いた記憶がないので、それは俺自身の精神的な強さだと密かに自慢に思っていたが、ただそういうDNAであっただけなのかもしれない。前世の出来事では、あの屋敷で涙を流して怯える人物をけっこう見下していた感があるので、これからはもっと寛容になりたい。
幽霊はいる。オカルトは存在する。
それは俺が前世と今世で実際に体験して得た教訓だ。前世では、もし生きて帰ることができたら、変な場所には絶対近寄らないようにして、どれだけ安くても事故物件には住まないようにしようとか考えていた記憶がある。
そんな中で一つ考えたいのは、幽霊が存在するということは、それと対になるように幽霊に対処することができる存在もいるということだ。
当然である。いろいろな昔話を考慮すると、昔から幽霊やら妖怪やら怪異の存在とは付き合いが深いのだ。神やら、陰陽師やら、お坊さんや神主など、主に宗教的な分野の存在が対怨霊ということで色々頑張ってくれたのだと思う。
そして、こういった怨霊とそれに対応するための存在がいるなら、国家的な枠組みで、非常に優れた対オカルト的組織が存在するのだと思う。
だってそうだろ。歴史上でどれだけの数の虐殺が、悲劇が為政者によって引き起こされてきたと思う。人口の多い共産主義の国家などでは、政策のミスで数千万人の餓死者を出したり、北の極寒の大地では数百万人を大粛清したりしている。人の怨みが怨霊となって襲ってくる仕組みがあるとするのなら、そういった為政者が長生きできるはずがないのだ。
流石に為政者の失策による死者の怨みのすべてが、その為政者に向かうわけではないと思うが、俺が体験したことをもとにすると、為政者が無策で政治を行えば、ばんばん怨霊に呪殺されること間違いなしだ。そもそも政治家という職業そのものが怨みを買いやすい立場にあること。そして政治家が基本的に権力をもっていて、できることが多い事情を考慮すると、絶対に国家によって作られたすごい対オカルト組織があるに違いない。
おそらく、そういった役割を代々担ってきたのが宗教であり、エクソシストや寺生まれのTさんみたいな存在が、怨霊と対峙してきたのだろう。ふと思ったが、共産主義国は元祖のマルクスが宗教を麻薬扱いしてディスったせいで、宗教が政治的に否定されている。となると、代々対オカルトを担ってきたと推測される宗教を使えないなら、政治家たちはどのように怨霊に対処してきたのだろうか。
考察できるのは、個人崇拝だろうか?以前の体験からして、怨みが怨霊を作るのなら、人の優しさや希望などの温かい想いが怨霊に対する守護霊の力となる。
つまり共産主義国の政治家は、尊敬などの個人崇拝によるプラスの想いを集めて力として、怨霊に対抗する力としていた……?まあ、よく分からない。あくまで適当に考えたオカルト事情に関する考察だ。
ひとまず、どうして俺が今このようなことを考えているのかという、あれである。
バンッッ!! バンバンバンッッ!!!
部屋のドアが強く叩かれる音。
「ひっ……っ」
姉が悲鳴をあげた。
うん。あれである。
いつものあれなのである。
ため息をついた。
ふう。助けて。
姉がなんかつれてきた。まあ、あれである。怪談によくある話の、子どもの肝試しである。
提案者は兄で、それにつられる形で姉や友達数人がとある廃墟の中で、とあるおまじないのようなものをしたらしい。
結果、なんかやばいのが出てきたらしくて、必死に逃げ、現在にいたると。
一緒にいた人たちは、気づいたらはぐれていたらしい。これは……生きているのだろうか。絶対後日、何名か発狂状態か死体になって見つかるぞ。姉いわく、怖くて怖くて仕方がなかったので、必死に聡子のことを考えながら走っていたら、気づけば家にたどり着いたらしい。おう……なんかその、うん。何その不思議現象。
まあ、怨霊の対処法としてとても重要なことに、恐怖心がある。恐怖心が大きいほど、怨霊の攻撃に対する防御力が下がる。つまり、呪い殺されやすくなるということなのだ。あれだ、例えると、ムドとかザキみたいな即死呪文を喰らいやすくなるみたいな……?ちょっと違うかも。
怨霊は基本的に実体がないため、精神攻撃を仕掛けてくるのだが、それに対する防御力には恐怖心が非常に重要になってくる。恐怖という感情そのものが、相手のまやかしの攻撃を現実にしてしまうのだ。過去の体験では、恐怖に負けて精神の均衡を乱したやつから死んでいった。
このままでは、姉はあの怨霊に殺される。
身近な人に迫った死。それを俺は認識して。
――意識が完全に切り替わった。
まずは、姉の恐怖心を取り除くことが重要だ。
幸いなことに、今世の藤野聡子の容姿は、声は、非常に魅力的で、カリスマ的だ。内蔵しているOSのポンコツ具合は言うまでもないが、それを補って余りあるほどの天与の才能をこの肉体は持っている。
そっと、姉の耳を両手でふさぐ。
バンバンと、聞こえる部屋のドアを叩く音が聞こえないように。
「私を見て」
いや、耳を塞いでいるのに聞こえるわけがないやろが。
聞こえるんだよなぁ。これが。
内心のツッコミとは無関係に、姉の視線は聡子の顔に強く惹きつけられる。まあ、あれだ。そもそもドアを叩く音っていうのは、厳密に言えば怨霊が精神的に聞かせている幻聴なのだ。取り憑かれているやつか、霊感が強いやつ以外には聞こえていない。
つまり同じように、今の俺は姉に対して幻聴のように非物理的に音を聞かせることができる。
そして俺は姉を抱き寄せる。身長の差が結構あるが、まあ、座っているからそこは多少問題なし。
「大丈夫。私があなたを守ります」
ぎゅっと、強く姉を抱きしめる。少しでも、恐怖を紛らわせることができたならば幸いだ。
抱きしめられ、安心してくれたのか、うとうとし始めた姉の様子を確認して、耳元にそっと囁く。
「もう大丈夫。――おやすみなさい」
その言葉を契機に、姉は眠りに落ちていった。
俺は姉をベッドにもたれかからせるように、ゆっくりと抱きしめた手を離す。
そして、先程よりも強くドアを叩く存在に向き合う。
いや、叩いていない。
もう。いる。
気づけば、黒いカーテンのように、目の前に垂れ下がるものがあった。
これは……。
女性の、髪……前髪だ。
見上げる。
目があった。
黒い、歪んだ大きな黒い丸。
目だ。穴のような、目である。
それが俺を見つめていた。
背を曲げて、見つめていた。
見つめていた。
同時に、俺も見つめていた。
「裏切られ、失恋の末の自殺ですか」
目の前の女性は、そういう怨霊。悲恋の末に自害した女性たちの、無念の集積所。
「恋が実らなければ死んでしまうほど、一生懸命な恋をしていたんですね」
それをもしかしたら素晴らしいものだと評価する人がいるのかもしれない。他人を求める恋の心情を、良き人の営みだと思う人達もいるのだろう。
だが、俺はそれらを否定する。
「可哀想な人たちですね」
べきッッッ!!!
家の柱が崩れる音。激しい音を立てて、家が、世界が崩れていく。
ああ。彼女たちはとても怒っている。
「他者の恋慕感情なんて、そんな不確かなものにすがらないと、い、きて、い、け、な、い、なんて、とて、も―― ― ―」
もはや言葉も紡げない。家が崩れ、瓦礫が体を埋める。口になにかの破片が詰まる。言葉を紡げない。
「何度でも言いますよ。あなた達は可哀想な存在だ。とても哀れな存在だ」
幻覚である。家の崩壊なんて気にするな。そんなことはありえない。俺の言葉は遮られない。
いやまあ、あれだ。すまんな。大半の人はあなたたちの不幸な境遇に同情してくれるかもしれないけど、ぼっちを拗らせすぎて、行き着いた先の歪な俺の信念は、どう足掻いてもあなたたちを否定するのだ。
なぜなら、俺はぼっちだから。恋愛のれの字すら毛頭ない。恋愛とは二次元のキャラクターたちがするものであり、三次元の俺自身には縁のないものである。とんでもない敗北者思想であるが、俺はそれでも悲しくならないからぼっちなのである。
だってそうだろ。誰かから愛してもらえるなんて期待を持てるほど、俺は優れた存在ではない。良い存在ではない。そんなんでも、ゲームは楽しいし、漫画も、小説も、アニメも楽しくて仕方がないのだ。ならば愛されることなんて期待しないで、ただ娯楽に浸るように生きるのが、俺の人生の幸福度を最も高めてくれるはずだろう。
恋愛が成就しなきゃ自殺しちゃう存在と俺の価値観が同じなら、俺は真っ先に自殺しなきゃいけなくなるぞ。だからこそ、一人で生きざるを得ない俺と、二人ではないと生きられない恋愛厨の怨霊など、水と油以上に相容れない存在である。俺はまじでバカバカしいと思うぞ。お前たちの死因。
「おかしな理由で自殺したくせに、他者を怨んで、生きている人を呪い殺すなんて……迷惑極まりない存在ですよ、あなた方」
結局の所、俺はかなり怒っているのだ。なんでお前らみたいなやべー集団が、真っ当に生きている姉や兄を傷つけているのだ。俺を呪い殺すのなら、価値観の相違的に宗教戦争のごとしと、納得感が無きにしもあらずだが、聡子の家族には手を出すなよ。
この人達は、守られるべき善い人なんだから。
「そんなんだから男に振られるんですよ。もう少し自身の行いを客観視してはいかがですか。恋に破れた敗北者たち」
気づけば、俺は黒いカーテンに取り囲まれていた。
家全体が震災のごとく激しく揺れている。
意味のわからない言葉の羅列。言葉になっていないような、もはや高音しか聞き取れない奇声。それが、四方八方から聞こえてくる。
そう。
この怨霊は群体。複数。群れるからこそ強力で、凶悪で。醜悪極まりない。
だからこのカーテンの数は、怨霊の数を表す。
部屋はいつしか満員電車のごとく、女の怨霊で溢れていた。
みんな、みんな、幼女の俺を見つめている。
黒い、黒い。深い井戸の如き穴のような瞳。
見る。見る。
俺は見られている。
そして女の怨霊たちは。
俺にゆっくりと手を伸ばして。
白い燐光が輝いた。
白線。
複数の白線が、女の怨霊を切り裂いた。
いつの間にか。幼い女の子の手には、短剣が握られていた。
残った複数の女の怨霊は、咄嗟にその女の子に向かって、歪に膨張した長い手を叩きつけた。
空を切る。
跳躍。そして宙へ。
女の子は体を捻り、反転するように天井に足をついて――
――蹴った。
直後、竜巻のごとき剣閃が怨霊を襲った。
体の回転と、変幻自在の剣さばきによる斬撃。
いつしか、あれだけ多く存在していた怨霊は、一人になっていた。
残された怨霊は、それでも飛びかかった。彼女たちにはもともと人間的な理性など存在しないから。ただ憎しみのままに、女の子をバラバラにしてやろうと飛びかかった。
が、同時に女の子も跳躍していた。
怨霊の速度は早い。それはこの狭い室内では不自然で、かつ不気味な加速を得ていた。
肉体亡きあの世の存在は、物理法則とは別の法則に則って動いている。
感じるままに、知覚における限界の早さ。その速度はその怨霊がかつて体感したことがある、バイクに乗って公道を走った時の速度に等しい早さであった。
だから、女の怨霊はいとも簡単にその身を両断されていた。
気づけば斬られていた。怨霊の瞳には、女の子の姿さえ捉えることができなかった。
女の怨霊が静かに消えていく。それは現世との縁を断ち切られ、この世界に関わりを持つことが一切不可能になった故。
一瞬で。女の怨霊はその存在を祓われていた。
その戦いはひどく一方的なものであった。
そして、小さな女の子はため息をついた。
短剣はいつの間にか消えていた。
暗い闇の中、薄っすらと白く輝く小さな女の子の様子は、あまりにも神々しい。
いや、神々しいと形容するまでもなく。今の彼女はまさに魔を祓う神様であった。
女の子はベッドに寄り掛かるように寝ている姉を抱き上げ、そっとベッドの上にのせた。
「もう大丈夫」
そう言って、白い燐光を纏った腕で、姉の頭をなでた。
姉の表情が和らいだものになる。
「……」
女の子は、どこか優しげな表情を見せた。
その後。兄やその友達は無事に発見され、大人たちにひどく怒られながらも、日常に帰っていくことになる。
銃を持った鍛えられた軍人と、同じ銃を持った素人がいたとしよう。もし、彼らが互いに争うことになったら。まあ、軍人が勝つだろう。
だがしかし。例えば街中ですれ違いざまに急にパーンと撃たれたら。想像してみると分かるが、不意打ちとは最強の戦法なのである。
これはあちらの存在同士の戦いにおいても同様である。弱者を装おうことで、一瞬さえ不意をつければ、瞬く間に勝負に決着をつけることができる。
といってもまあ、戦い方がまったく慣れていなかったので、今までオカルト方面に無知な人間を一方的に呪い殺してきただけで、戦いの経験は乏しかったのであろう。出力的な力の差はそんなになかった割には、あっさりと祓うことができた。
それにしても、だ。
改めて自身を客観的に見つめる。
すごい美幼女である。間違いない。あの人を幼くしたら、そっくりである。
まったく。あの人は困ったことをしてくれた。
あの屋敷から解放してくれたのはとても感謝しているが、結局のところ何かに囚われている現状を変えることはできていない。
生きている存在に死者の記憶は思い出せない。だから普段の俺は、穴の底に落ちた後の記憶は思い出せない。
だから、彼女がずいぶんと面倒なことをしている現状に気づけない。
まあ、悪意を発端としてそれを行っているわけではない。むしろ悪気はないからこそ、無理やりしばき倒して問題を解決することができなくて面倒でもあるが。
はぁ。
せっかく助かったんだから、俺なんかに囚われずに、普通の幸せを追い求めて欲しかったんだけどなぁ……。
宗教を作って神として祀りあげて……。それで自分自身を依り代にイタコプレイと。まじで行動力が半端ないって。
はぁ……。
早く自由にゲームをできるようにならないかなぁ……。せっかくあの病んデレ(誤字にあらず)屋敷から抜け出したのだから、何もかも忘れて娯楽に浸りたい……。
後日談。怨霊はなんか気づいたら祓われていました。まる。
またか。なんというか、とても不思議な出来事が何度も起こるものである。
また、なんか姉からの扱いが大きく変わった。所有されている感がある、割と一方的な関係だったけど、なんかこう、もうちょっといい感じになってきたと思う。
なんというか、言うことをしっかり聞いてくれるようになったと思う。人形から人間に昇進した感じかな。なんかこう、リスペクト的な。
でも、べったり度が上がった気がするのはどうしてだろうか。流石に夜中のトイレについていくのは嫌なんだが、まあ、あんな出来事があった後なので仕方がないのかもしれない。なんかよく分からないが、姉にとって聡子は高性能なお守りみたいなものなのかもしれない。
しかしあれだ。最近の一番の変化は、姉が頼んだらDSを心良く貸してくれるようになったことだ。改めてやってみると、どうぶつの森は楽しいなぁ……。岩をスコップで叩くと結構な大金が出るとか、この裏技を見つけた人はすごいよな。ポケモン、裏技、ワザップ。うっ、頭が。あなたを詐欺罪と器物損害罪で訴えます。いやまあ、四天王部屋なみのり歩数調整の裏技は神だと思ってるけど。
それにしても……あれだ。
ゲームをできるようになって、色々と慣れた娯楽にひたれるようになったからだろうか。最近、ようやく第二の人生が楽しくなってきた気がする。
いつかの未来の話。
「んー、集まる場所どうするかなぁ……」
「雫の家は大丈夫?」
「ごめん、家族がいるから駄目かな」
「まじかーみんな駄目かぁ。今月お金がやばいけど、マック行くかー……」
「そういえば雫の家、いっつも家族いるよね。誰か引きこもりでもいるの?」
「あー……妹が、ね。あの子、人見知りだから知らない人が家に来ると、逃げるようにどこか行っちゃうの」
「気を遣わせちゃうし、なんか可愛そうだから……ごめんね」
「まじー……雫、超、妹思いじゃん」
「そういえば雫の妹って、めっちゃ可愛い子らしいとか?なんか聞いたことがある」
「あー、私も聞いたことがある」
「うん。すごく……
中学生になった彼女の姉。雫は言った。
美しい、綺麗といった言葉ではなく。可愛いと。
「いいなー……会ってみたいなー……雫の家行っちゃだめー?」
「だめ」
静かに、そして鋭く。雫は言い放った。
「そっかー……」
呟きながら、少女たちは思った。
ガチのシスコンじゃん……。
かつての過去。
「巫女様。信仰を積み重ねれば、本当に■■様は……あの人は、お役目を終えることができますか?」
とある神社。一人の女性が白髪赤目の……アルビノの美しい少女に問いかける。
「ええ、必ず」
少女は一瞬、剣呑な目を女性に向けるが、少女はあえて見逃した。
今は少しでも、信仰をためる必要があるのだ。
あの人。女性は神様としての■■ではなく、人間としての彼を見ていた。
それもそうだろう。女性は彼の死後も続くあの屋敷の呪いに囚われ、かの屋敷から命からがら逃げおおせたのだ。
そう、彼の手によって逃してもらったのだろう。
……。
あの屋敷は、私の霊能力を中枢にしていたが……今では彼への想いを中心に一つの呪いとなっている。だからこそ、私の時よりも怨霊たちは、生者への殺意が薄い。
あれは……呪いに溺れた私の間違いだった。あまりにも彼を試しすぎた。繰り返される時間と、平行世界の連続で、何千回と怨霊の犠牲者の皮を被って彼を試した。結果、すべて、彼が救ってしまったのだ。
最初は好奇心で。最初は私以外の綺麗だった女性の擬態をした。そして救われた。だから、時間を巻き戻して試したのだ。きっと綺麗な女性だったから彼はあれほど頑張って救ったのだろうと。次は男性で。次は醜い老婆で。子どもで。障害者で。
悪人を演じた時だけは助けてくれなかったけど、しっかりと普通の人間を演じていれば、彼はいつだって全力で私を……擬態した誰かを助けようとしてくれた。
だから、擬態によって、もととなった犠牲者……今は屋敷を取り巻く怨霊が、その影響を受け過ぎた。
あれは私との旅でありながら、犠牲者と彼の旅だったのだ。一人一人が彼と、あの屋敷で物語のように劇的な脱出譚の夢を見た。
だからあの時、怨霊たちはある種の好意をもって、私よりも彼を逃さないことを優先した。
もっと早く、自分に素直になっていたら……。
いい。今は、考えるよりも優先することがある。
今度こそ。
今度こそ、彼と共に生きるのだ。
いつかの未来。
夜。
俺は発情していた。
息が切れる。
まるで催眠でも受けたかのように体が火照る。隠すことなくいうと、とてもえっちな気分である。
鏡。もっと女の子として身だしなみを気をつけるようにと、母親が購入した姿見に、聡子の姿が映る。
小学校も高学年。ついにお赤飯をたかなければいけない女性としての覚醒も経て、一層女性的な魅力を持ち始めた聡子の姿が映る。
どくん。もともとやばいくらいドコドコしていた心臓が、ぶん殴られたみたいに強く高鳴った。
自然と手が姿見を触っていた。
鏡に映る聡子の姿で、視界が一杯になっていく。
気づけば、鏡の中の自分に寄り添うように俺は。
強すぎる、もはや性欲を通り越した何かに突き動かされる。
顔。
鏡。
唇が、自身に。
「いや、待て。落ち着くんだ、俺」
急停止。やばいやばい。気づいたら鏡の中の自分にキスをしようとしていた。
そんな変態的なことを許してしまったら、ズルズルと言い訳をして、色々と我慢してきたことが我慢できなくなってしまう。
それはやばい。他人の体に居座っておいて、そんなことをするのは……俺の信念的にはアウトである。
ああ、良かった。俺はまだ、この体を他人のものだと認識できている。
走ろう。そしてシャワーを浴びて、寝よう。女性として覚醒してから、急に性欲が爆発することがたまに起きるようになってきたが、まあ、運動をたくさんすればなんとかなる。
運動できる服に着替える。そんな最中。
ちぇっ……。
拗ねたような。どこか含み笑いをするような。そんな感情がこもった声が、脳裏に響いたような気がした。
ホラーゲームかと思ったら、急にデビル・メイ・クライを始める主人公。まあ、死んだ後も色々とあったんでしょう。