おかえりって、言える時が来る。
午後の授業が始まった。
黒板の前で科学の先生が何やら月について熱心に話をし始めている。
月は元々地球の一部だったとか、月は自身で光っているのではなく太陽の光を反射して光っているのだとか、授業に関係無い話を得意げに話していた。
僕は襲い来る眠気に耐えながらぼんやりとその話を聞いていたのだが、不意にある事を思い出して、窓際に座る僕は教室の窓から空を見上げた。
そう言えば、最近月を見ていない。
最近ずっと天気が悪く、空には厚い雲が常に横たわっていたのだ。
最後に月を見たのは何時だっただろうか。
「
その声は何処からとも無く聞こえてきた。
ハッと気が付き周りを見てみると、そこは教室ではなくだだっ広い平原だった。
遠くにはのんびりと牛が歩いていたり、少し離れた所には海なのか湖なのか水辺も見える。
ここは何処だろう。
さっきまで教室に居たはずなのに。
でも、何だか見覚えがある景色だ。
既視感というやつだろうか?
少し昔に誰かと良くここを訪れていた気がしていた。
「千歳ちゃん! こっちなのだ! 」
聞き覚えのある懐かしい声が、また聞こえてきた。
キョロキョロと周りを確認してみると一人の女の子が立っているのが見えた。
その女の子は赤い髪で青いリボンの付いた白いワンピースを着ており、ニコニコと笑顔を浮かべながら僕に向かって手を振っている。
「ただいま! なのだ! 」
懐かしい笑顔とその声に僕も自然と笑顔で手を振り返していた。
「おい!
「は、はい! 」
野太い声に驚き反射的に返事をすると、クスクスと周りからは笑い声が聞こえてきた。
気が付くと広い平原も牛も少女も消え去り、見慣れた教室の中へ僕は戻っていた。
どうやら眠ってしまっていたようだ。
しかも、授業も科学から歴史に変わっている。
「聞いてたのか? 久遠。『目には目を歯には歯を』の文言で有名なバビロニアで作られた法典の名前を答えてみろ。」
「えぇ…と。『ハンムラビ法典』です。」
僕の答えに一瞬教室内が静まり返った。
だが、直ぐに周りの生徒たちは大きな声で笑いだし、先生も半笑いで呆れた表情をしている。
「答えは合ってるが、なんだそのイントネーションは。『ハン⤵ムラビ⤴法⤴典⤴』って。初めて聞いたぞ。そんなイントネーション。」
先生がわざわざ黒板に英語の発音を説明するように矢印付きで僕が発したイントネーションを書き出すと、教室内は再び笑いに包まれたのだった。
寝惚けていたからなのだろうか。何故そんなイントネーションになったのか分からなかった。
ただ、少し開いていた窓の隙間から僕の声に重なるように夢の中の少女の声が聞こえて来た気がした。
その声は同じイントネーションだった。
笑いが収まらぬ教室の中で、僕はまた窓の外の空を見上げていた。
雲一つない青空が広がっている。
どうやら、今夜は久し振りに月が見えそうだ。
夜空に浮かぶ綺麗な月が。