第九十七管理外世界・地球。広大な次元世界の辺境に位置する平和なこの星に突如、古代次元世界の遺産・ジュエルシードが散らばった。
暴走したジュエルシードが作り出す怪物に立ち向かう少女の名は、高町なのは。
彼女は、異世界よりやって来た勇者レイジングハートやその仲間たちと共に、破滅の危機へと立ち向かうのだ!


もしもリリカルなのはが勇者シリーズだったら?という一発ネタです。
ふたばのスレで素晴らしい絵が描かれていたので、その感動と勢いで書きました。自由に使って構わないようなので、挿絵として挟ませていただく予定です。(投稿する現在まだ未許可なので入ってません、悪しからず)
続くか続かないかは分かりません。

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これまでのおはなし(第一話『魔法との出会い』)

ごくごく普通の小学三年生、高町なのははある日、助けを求める声に導かれ、傷ついた男の子と紅く小さな宝石を拾う。
彼の正体は異世界からやってきた少年ユーノ・スクライアであり、ロストロギア『ジュエルシード』を探しているのだという。
怪我をしていた家へ招こうとするなのはに対してユーノは拒否し、飛び去ってしまった。
その夜、ジュエルシードの暴走体に出会ったユーノは宝石をかざし、魔力を込めて、自らの持つ『デバイス』ハートを起動。
しかし、予想以上に強力な暴走体に苦戦し、ユーノの疲労と負傷も重なって全力を発揮できないでいた。そこへ、ユーノを探していた高町なのはが現れる。



第二話『起動! レイジングハート!』

「君は……あの時の!?」

 

 ユーノは驚愕していた。

 自分たちは何も知らせていないのに。どうして、ただの女の子が夜の中で、人払いの結界を貼っている自分たちを見つけることが出来たのか。

 そもそも、どうして結界の中に入り込めているのだろうか。

 一方のなのはも、自分の10倍以上大きな人型が、それより更に大きく禍々しい怪物と戦っている光景に唖然としていた。

 魔法の声を聞いた感覚を思い出して、目の前の少年がいる感覚をどうにか掴んでここまで来たのだが、流石にこの光景は想定を逸脱しすぎていたのだ。

 

「ねえ、えっと……ユーノくん、これって……」

「話は後。早くここから逃げるんだ」

 

 問いかけるなのはに対し、ユーノは焦燥しながら大声で言い聞かせる。

 今の状況でも、一般人、それも女の子にとっては危険極まりないし、何より、これから今よりもっと悪いことが起こるのだから。

 

「逃げるだなんて、折角また会えたのに」

「そんなこと言ってる場合じゃない……ッ!」

「にゃぁっ!?」

 

 語気を荒くしたユーノは、突然なのはの身体を抱きかかえると、片足で踏み切って高く飛んだ。

 怪物の砕いたコンクリートが宙を舞い、二人の居る所へ降りかかろうとしていたからだ。

 いきなり空を飛んだのに驚き、男の子に抱きかかえられていることに少しだけドキドキしたのか、なのはは素っ頓狂な声を出した。しかし、触れている男の子の身体が熱く、まるで高熱を発しているようであることにも気づいた。

 そして、自分の前から逃げる時、あんなに必死な顔をしていたんだから、きっと大変なことをしているという、自分の想像が事実であったことを確信していた。

 二人は三階建てのビルの屋上へ、あっという間に飛び乗った。しかし、着地した事で安心したユーノはよろめき、眠るように倒れかける。

 今度は逆になのはがユーノを受け止め、支えるように肩を貸した。

 

「だ、大丈夫!?」

「これくらい、なんともない……とは流石に言えないけど、でも、大丈夫だから」

 

 心配気な顔で見つめるなのはへ笑うユーノだったが、その顔は重ねた疲労に満ち満ちていて、そのせいで儚げな、一瞬後には眠りについてしまいそうな笑顔であった。

 当然、なのはの心配はますます深まっていく。

 

「大丈夫じゃないよ! 早く病院に行って、手当しないと」

「そんな所行ってる暇はないよ……このままだとハートは……」

「え……ハートって、あのロボットのこと?」

「そう、あいつは……もうすぐ負ける」

「ええっ!?」

 

 悔しさを噛み締めながら、それでもはっきりと、ユーノは現状を述べた。

 自分は傷ついているし、ハートも今は黒い化け物の攻撃を避け、その歩みを抑えるのが精一杯だった。

 そして、ハートが戦うには、ユーノの魔力を供給し続けなければならない。今でこそどうにか補えているものの、疲労したユーノはふらふらで、立つのも精一杯だ。

 このままでは、じきに魔力切れが起こって戦えなくなる。

 

『グルァオオオオオ!!』

「くっ、なんというパワー……!」

 

 その証拠に、怪物と組み合うハートのパワーは段々と弱くなっていた。

 三つのジュエルシードを象徴する三つ首と、凝り固まった雲のような胴体から生える触手が、次々にハートを襲う。ハートはその全てを捌き切っていたが、自らの魔力が少なくなるにつれ段々と押し負けていく。

 ついに、触手の中の一つがハートの防御をかいくぐり、しなりを効かせた一撃で、その胸部をしたたかに叩いた。

 

「ぐあっ!」

 

 胸に輝く紅く丸い宝玉は、ハートの急所であった。そこを痛打された衝撃に思わずガードを開いてしまい、そのまま次々と襲いかかる触手に打ちのめされるままになってしまった。

 身体を覆う合金の装甲も、そこかしこが傷つき、欠けていく。

 止めとばかりに頭突きを食らえば、巨大で重いはずの身体が冗談のように吹き飛ばされ、なのはたちの居るビルへと叩きつけられた。

 

「きゃああっ!」

 

 衝撃で揺れるビルの屋上で、なのはは必死にユーノを抱え、揺れに耐えた。

 揺れが収まった時、ふと閉じていた目を開いたなのはは、怪物の三頭が全てこちらを向き、どう料理してやろうか、と目を吊り上げて嗜虐的に笑ったのを見た。

 全身が氷漬けになったような寒気を覚える。このまま自分はあの怪物に踏み潰されるか、食い殺されるか。どちらにしても無事でいられない。そう思うと、9歳の女の子の心は怖さに震え、何もかも忘れる為にまた目をつぶりたくなるのだ。

 しかし。次の瞬間、目を閉じて怯えてなんていられなくなった。

 

「時間切れ、僕にはここまでか……君、早く、逃げるんだ……」

 

 そう言って、意識を途絶えさせたユーノの身体から、緑色の燐光が飛び散る。そして、人型の姿は消し飛んでいき、残っていたのは金の毛色をした大人しそうなフェレットだった。

 

「にゃ、え……ユーノくん!? ユーノくん!」

 

 いきなり男の子の姿が消えたことに混乱し、必死に名前を呼ぶなのはに、優しく力強い声が聞こえてきた。

 

「大丈夫だ。ユーノは魔力を使い果たして、魔力消費量の少ないフェレットに変身しただけだ」

「え……」

 

 その声は、再び立ち上がり、なのはの目の前にその後頭部を見せているハートのものだった。

 ハートはなのはをかばうように両手を広げ、舌なめずりをするようにじりじりと近づく自分より巨大な怪物に相対する。

 

「君がなのは、高町なのはだね。私の名は、ハート」

「ハート………って、どうして私の名前を知ってるの?」

「私の声に覚えがあるはずだ。あの時、君を呼んだのは私なんだ」

 

 その言葉になのはは、はっとして気づいた。

 自分は昨日、この光景を夢に見ていた。夜の街で、巨大なロボットが自分を庇い、恐ろしい敵に立ち向かう夢を。

 そうだ。昼間に助けを求める声を聞くずっと前から、この声は自分に語りかけていたんだ。

 でも、なんで自分のような、極普通の女の子へ助けを求めていたんだろう。そう疑問に思っていると、ハートはこう答えた。

 

「なのは、私に力を貸してくれ」

「ふぇっ!?」

「今の私では、あの怪物を倒せない。私には、君の力が必要なんだ」

「そ、そんなこと……私にはできないよ」

 

 突然力を貸せ、と言われても、なのはには何の力も無い。戦うことなんて、どう考えたって出来やしないのだ。

 そう告げたなのはだが、ハートはそれを優しく否定した。

 

「いや、君には力が、強大な魔力がある」

「魔力……? そんなの、分からないけど」

「気づいていなかっただけだ。私の念話に答えてくれた君には、私を動かすだけの魔力があるはずなんだ」

 

 なのはに背を向けながら、ハートは焦っていた。

 今のハートはユーノから供給された魔力の残りで動いている。それは、このまま喋りながら立っているだけで尽きてしまいそうなほど少ないものだ。

 このまま魔力が尽き果ててしまえば、自分は元の宝石に戻るだけでなく、話すことも出来なくなってしまう。そうなれば、なのはとユーノ諸共、あの怪物に吸収されてしまうだけだ。

 

「さあ、早く! 私に、強大な魔力を!」

「わ、分かったけど……どうすればいいの?」

「君は何もしなくていい。全て私がやる。だから!」

 

 あまりにもいきなりの事に戸惑うだけのなのはだったが、ハートの切羽詰まった様子、そして、目の前に化け物が迫っている現状を見て、全てを目の前の巨人に預けることにした。

 

「う、うん、いいよ! 魔力でもなんでも、貴方にあげる!」

「ありがとう!」

 

 その瞬間、なのはの胸から、ピンク色の球体が飛び出し、そこからまばゆいほどの光が放たれた。それは魔法の源、リンカーコアであり、そこから放たれる光こそが魔力である。

 光はハートの身体へ届くと、まっすぐに吸い込まれる。そして、魔力を受け取ったハートの自己修復機能が作動し、身体の傷が治り、紅白の力強い巨人が再び蘇った。

 

「さあ、ここに乗って降りてくれ」

 

 ハートは振り向いて、なのはたちの居るビルへ手を差し伸べる。なのはは小動物になったユーノを両手で大事に抱えながら、屋上の手すりを飛び越えてハートの大きな手のひらへ飛び乗った。

 まるでフォークリフトのようにゆっくりと降りる手のひらへしがみつきながら、なのはは改めてハートの姿を見つめた。

 白黒のカラーリングに、元が宝石である名残なのか、各所が紅くきらめいている。自分たちをしっかりと降ろしてくれるその姿は、優しく、心強いように思えた。

 なのはの身体が再び地面へ移った後、ハートは二人を暴走体から背中で庇うように立って、立ち尽くすなのはへ告げた。

 

「さて、君は早くここから逃げてくれ」

「えっ……」

「君は本来この事件とは無関係の人間だ。だが君の魔力と手助けが必要だったから、どうしてもここまで来てもらった。しかし、もう大丈夫だ」

 

 いきなりの言葉に困惑するなのは。しかし実際、この場になのはたちがいる意味は無くなっていた。ハートにとっても、弱り切ったユーノやなのはの側で気を遣いながら戦うより、二人に離れてもらった方が、気兼ねなく全力を出して戦えるのだ。

 

「後は私に任せてくれ。奴は君の魔力を狙っている。だから、早く逃げるんだ」

「で、でもそんなの、ダメだよ……」

「何故だ? 一般人であり、戦うことの無い君に、このまま留まる理由は無いはずだ」

 

 なのはは戸惑うが、しかし、ハートの一言で、本来この場から一番逃げたいのは他でもない彼女自身であることに気がついた。。

 見ず知らずの怪我をしている男の子を助けたら、何だか分からない理由を付けて逃げられて。心配だから探してみれば、巨大なロボットと化け物の戦いに巻き込まれているのが、今のなのはである。

 まだ小学生の、しかも女の子である彼女が、怖いと思ったり、帰りたいと心底願うのは、何らおかしなことではない。

 

 だけど。

 悩んでいる内に、なのはの心にとても小さな疑問が生まれた。

 だったら、私はどうして、ここから離れたくない、なんて思うんだろう?

 

「それとすまないが、どうかユーノを頼む。仮ではあるが、私のマスターだ。さあ、行ってくれ」

「あ、は、はい……」

 

 結局、ハートの強引な言葉に押し込まれて、なのはは渋々その場から歩き出した。

 その後ろ姿を見送ったハートは、ゆっくりと振り返る。魔力の篭った獲物を見つけた暴走体は、もうすぐ側まで迫っていた。

 しかし、ハートは怯まず、なのはから受け取った魔力を、体の中心から全身に行き渡らせた。

 レイジングハートのように、装飾品を模した待機形態から変形し、人、獣、その他様々な形の巨大ロボットに変形するもの。ミッドチルダで『デバイス』と呼ばれているそれは、人間の持つ魔力をエネルギーにして動く。

 そして今、ハートは彼女の体内に充満していた魔力を己のものとして戦うのだ。

 

「はぁぁぁっ……!」

 

 なのはから供給された魔力は、疲労したユーノのそれとは、まるで比べ物にならないほどの大きさだ。身体に流し込まれたそのエネルギーにハートは思わず身震いした。

 高い魔力が篭っているジュエルシード、その暴走体が三つ集まったものであろうと、今のハートには敵わないし、三つ纏めて封印することも出来るはずだ。

 この力さえあれば、目の前の怪物に勝てる。そう、ハートは確信した。

 

「さあ行くぞ、暴走体め!」

 

 先に動いたのは、ハートの方だった。後背部のスラスターを全開にして、化け物の胴体へ突進していく。その速さに、愚鈍で知能の低い暴走体はとても対応しきれず、全長10mほどの巨人の激突をノーガードで受け止める羽目になった。

 

『グルゥ!?』

「だあぁぁぁぁぁっ!」

 

 まっすぐにぶつかったハートに押され、暴走体はなのはの居るビルから少しずつ、じりじりと遠のいていった。

 ハートは、なのはを狙う暴走体をビルから引き離し、安全な場所で戦おうとしたのである。

 すぐ目の前にあった高い魔力を持つ得物から引き離された暴走体は、狂ったように触手を動かし抵抗する。しかし、懐に飛び込んでいるハートには何も当たらず、ただもがいているだけにしかならなかった。

 ハートはスラスターを焼け付くほどに吹かしていたが、それでもエネルギーは尽きることがない。両腕の力を振り絞ってもまだ余裕がある。

 どうやら、なのはの魔力とハートの相性は相当に良いようだった。

 

「うおおおおお!」

 

 暴走体を、安全で広い場所まで押し出したハートは、出力を更に上げ、暴走体を持ち上げる。

 その姿は積乱雲のようでおぼろげだが、魔力が充満して実体化しているのでそれなりに重さはある。しかし、ハートが出力を限界まで上げると、その巨体は完全に地面から切り離された。

 ハートはそのまま両腕を振りかぶって、暴走体を放り投げた。巨大な灰色の塊が地面に打ち付けられ、ずしん、という地響きが鳴る。

 その攻撃は、先ほどの吹き飛ばしのお返しとして、十分な威力があったようだ。暴走体はもんどり打って転がり、衝撃で穴の開いた地面にぐったりと横たわった。

 

「今だ!」

 

 暴走体の意識が無くなったということは、暴走状態であるジュエルシードが一時的に鎮静しているということだ。つまり、完全に封印するには、今を逃せば他にない。

 すかさずハートは両腕を前へ突き出し、ありったけの魔力を込める。そして、なのはの魔力光と同じピンク色に光った両手を開くと、そのまま暴走体の濁った灰色へ突っ込んだ。

 内部にあるジュエルシードを両手で掴み、魔力を流し込んで封印しようというのである。

 

「これで終わりだ……!」

 

 暴走体を構成する根源こそが、ジュエルシードの在処である。それを突き止めたハートは、

 傷ついた仮マスターと、何も分からず怯えているだろう女の子のために。一刻も早くこの怪物を消し去らなければならない。

 なのはから与えられた膨大な魔力による勝利を確信していながらもそう考えているハートの声には、本人でも気づかないくらい微かな焦りが含まれていた。

 

 だから、なのかもしれない。

 ジュエルシードの封印にすっかり気を取られていて、暴走体がいつの間にか、意識を取り戻していたのに気づかなかったのは。

 

『グルァァァァァァ!!』

 

 魔力によって構成されている暴走体にとって、ジュエルシードに干渉されているということは、自らの心臓を抉られようとしているようなものだ。

 当然、苦しみ悶えて頭部と触手をめちゃくちゃに振り回しながら必死に抵抗しようとする。

 

「こいつ、まだ倒れていなかったのか……!?」

 

 ハートは慌てて暴走体から腕を引き抜き攻撃に備えようとする。しかし、一瞬だけ遅かった。限界まで伸びた触手が先んじて動き、ハートの背中から巻き付いてその全身を捕まえてしまったのだ。

 

「ぐぅ! しかしこの程度……」

 

 ハートはなんとか、身体に巻き付いた黒い紐のような触手を振り解こうとするが、すると触手が、固い鎖にように変化して、どれだけ魔力をパワーに変えて振り絞っても破れない。

 どうしてなのか、とハートは締め付けに苦しみながら戸惑っていた。本来のハートのスペックなら、この程度の戒めを破ることなど造作ないはずなのだ。

 今までの戦いが疲労になっている、というわけでもない。魔力を与えられた時に、それまでの負傷は全て癒やしたはずだった。

 何もかも万全な状態。しかし、何かが足りない。だから、自らの全力を出せていない。

 

『グルゥゥゥゥゥ……!!』

 

 もどかしい気持ちを抱いたまま必死に抵抗し続けるハートとは対照的に、自らを封印しかけた憎き敵をついに捕らえた暴走体は、せせら笑うように身体を揺らめかせる。

 そして、触手の全てをハートの身体に巻きつけ、三つの頭部のうち、両端の二つをそれぞれ両腕に噛み付かせた。

 

「いかん!」

 

 ハートが叫んだその瞬間には、既に攻撃の体勢が整ってしまっていた。噛み付かれた両腕から、そして巻きつかれた全身から、供給されたはずの魔力が抜き取られていく。

 魔力を欲し、ユーノやなのはを狙っていたジュエルシードは、目の前にある極上の魔力を持つ鉄の人形、すなわち、ハートそのものに狙いを定めていたのだ。

 

「ぐああああああ!!」

 

 ただ魔力を吸い取られるだけでなく、激痛を与えるその攻撃に苦しみながらも、ハートの保有しているエネルギーは急激に減っていく。

 ハートは必死に暴れ続けたが、魔力を取り込んでますます強力になっていく触手の力には、もはや対抗出来ず、ただ黙って魔力を目の前の化け物へ捧げることしか出来なかった。

 

「どうして……どうしてなんだ。どうして私は敵わないんだ、こいつに……」

 

 多量の魔力を与えられながら、不定形の怪物に勝てず、一方的にエネルギーを吸い取られ、餌となってしまっている。

 自らの情けなさに歯痒さを感じながら、自分がどうして勝てないのか、ハートにはどうしても理解できなかった。

 しばらくして、魔力のほとんどを吸い終わった暴走体は、食べた残りカスを散らかすような乱暴さでハートを開放した。

 地面に転がる白い巨体に、もはやかつてのパワーと気力は残っていない。

 

「何が足りないんだ……いったい、私には、何が必要、なん、だ……」

 

 身体の中から溢れるほどに満ちていた魔力も、すっかり吸い取られてしまい、ハートはもはや抗うどころか、言葉をしゃべることさえままならなかった。

 かろうじて立ち上がる事は出来たが、その足はふらついて、触手の攻撃一発で吹き飛ばされるどころか、粉々になってしまいそうな頼りなさがあった。

 

 そんなボロボロのハートに、止めを刺そうと暴走体が触手を這い寄らせた、その時であった。

 

「待って!」

 

 その声に応じたのか、それとも、突然現れた魔力の塊に反応したのか。

 触手がハートの立っている場所からすり抜けて、その横にいる小さな女の子に狙いを変えた。

 

「ど、どうして戻ってきたんだ……!」

 

 ハートは絶句した。まさか、一旦安全な場所に逃げ込めたはずなのに。自らその安全を放棄してここに戻ってくるとは。

 

「高町なのは……どうして!」

「だって」

 

 なのははここまで走ってきたのか、息を荒らげさせていた。すう、と深呼吸してから、ハートの問に答える。

 

「私、感じたんだ。あなたが苦しんでるって。いつか、夢であなたを見た時のように」

 

 あの時、逃げ出したくなかったのはきっとそのせいだ、となのはは思っていた。たった一人で、巨大で凶悪な敵と戦うハートを、見過ごせなかったのだ。

 

「しかし、君は何も」

「うん、私は何も知らない、何のとりえもない、只の女の子だけど……あなたを助けることは、出来るはずだから」

「……まさか!」

 

 ハートが驚愕し、止めようとした時、なのはは目を瞑って、自分の胸の奥にある力を、解き放とうと深く念じた。

 すると、なのはの胸から再びリンカーコアが現れ、魔力を吸収された時と全く変わらない、ピンク色のまばゆい光が放たれた。それは、暴走体にとって誘蛾灯のように働き、なのはの周りに蛇のような触手が集まっていく。

 

「やめるんだ、なのは! このままでは君は……」

「ううん、ユーノくんはあのビルの側に置いてきたから、あなたが一緒に逃げてあげて」

「何を言っているんだ、私は……」

「だって、ユーノくんとあなたは、一緒にここへ来たんだから。離ればなれになって、そのままさよならだなんて、いけないよ」

 

 なのはが見る限り、ユーノとハートは共に戦い、互いに互いを思いやっていた。

 それは、なのはの意識の中では、友達、というべき物だった。そして、友達同士が離ればなれになることは、なのはにとって、とても悲しいことなのだ。

 なのはがこの場に戻り、自分を犠牲にしながらハートを助けようとする理由は、それだけだった。

 そう、それだけなのだ。たかが友情の、しかも、他人の友情のために、自分の身を捧げるのだ。

 高度な知性を持つとは言えど、機械であり合理的な思考を持つハートには、どうしても考えられないことだった。

 

「たったそれだけのことで、君は……自分を犠牲にしようというのか!?」

「それだけなんかじゃない、大切なことだよ」

「だとしても、会ったばかりの私たちのために……」

「そんなの、関係ないよ」

 

 巨大な触手はなのはの周囲を周り、飛び散った魔力を残すものかとかき集めながら、一周するごとに中心にいるなのはへと近づいていく。

 なのはからしてみれば、黒い壁が徐々に近づいて、自分を全方位から押しつぶすような恐怖をもたらす光景だ。

 しかし、なのはは動じなかった。触手をおびき寄せるための魔力を放出し続け、体力も消耗しているに関わらず、汗一つ流さずに目の前の状況を受け入れている。

 

「目の前に傷ついたり、悲しんだりしている人がいて。私に助けられる力があるなら、見捨てることなんて、出来ない!」

 

 ハートが垣間見たなのはの顔に現れていたのは、自暴自棄でも無ければ諦めでもない。誰かの命を助けるために、決然として目の前の脅威に望む、勇気ある者の顔だった。

 

「君……は……」

 

 ハートの胸にあるコアが、どくん、と鼓動するように紅く光った。

 力が湧いてくる。

 しかしこれは、なのはから与えられた魔力ではない。自分の中から、湯水の如く溢れ出してくる、熱い力の奔流だ。

 その源は何なのか。ハートは無意識に口を動かしていた。

 

「これは、私の心……」

 

 『デバイス』に心は存在しない。ハートは高度な知性を持つインテリジェントデバイスであるが、それでも心などというものは持ち合わせていない――はずだった。

 しかし、今ハートが抱いている抑え切れないほどの衝動は、間違いなく、心が引き起こしたものだ。

 ならば、私は何なのだ。『デバイス』が持ち合わせるはずのない心を持っている自分は、一体何だというのだ。

 

「……!!」

 

 ハートのメモリーに、一つの記録、いや、記憶が入り込んできた。

 入り込んだ、と言うより、むしろ、メモリーの底に埋没していた記憶が、一気に表層へ浮かんできたという方が正しいかもしれない。

 それは、自分についての記憶。ユーノによって、遺跡から掘り出される以前の自分が、一体何だったのか。ハートが長い間の休眠の間に忘却し、ユーノが調べても全く分からなかった、かつてのハートの姿。

 

「私は……魔法の勇者」

 

 その言葉を呟いた途端、ますますメモリーが鮮やかに蘇った。

 そう、ハートは勇者なのだ。機械の身体の中に心を持ち、自らと、そして、共に戦う者の勇気を力に変える、伝説の戦士。

 そして、今、ハートの隣には、今にも飲み込まれようとしている子どもが居る。彼女は、自らの身を犠牲にして、自分たちを守ろうとする『勇気』を見せた。

 強大な怪物を目の前に、怯えず、恐れず。ただ誰かのために、自らの力を精一杯振り絞って戦おうとする『不屈の心』を……!

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

『!?!?!?』

 

 ハートは、身体の中にはち切れそうなほどの力、勇気が生み出す自分自身の魔力を、一気に開放した。

 暴走体から伸びていた触手が、全て消えた。高濃度の魔力の波動に耐え切れず、バラバラになって消し飛んでいったのだ。

 驚いた暴走体が、今度は本体ごとハートへ突っ込もうとしたが、魔力波動がバリアとなり、反射されるように吹き飛ばされた。

 

「え……これって……」

「無事か、なのは」

 

 なのはの目の前を覆っていた暗黒が突如バラバラに引き裂かれ、次に現れたのは、視界全てをピンク色に包む結界のような空間だった。

 声に反応して振り向くと、胸の宝玉を光り輝かせながら優しく微笑む、ハートの姿があった。

 

「ハートさん? これって……」

「なのは、君のおかげだ。君の見せてくれた勇気が、私の中の失われた記憶を呼び覚ましてくれたんだ」

 

 きょとん、として見返すなのはに、ハートは苦笑した。こんなに小さく無垢な存在が、自分では及びもつかないほどの勇気を見せるのだから。

 

「なのは、君の力を、もう一度貸して欲しい」

「あ、はい。魔力……なら、どうぞ」

「違うさ。魔力はもう必要ない。君のその不屈の勇気を、私にも分けて欲しいんだ。今から言う言葉を、繰り返してくれ」

 

 勇気、それは、魔力という幻想的な言葉よりももっとおぼろげで、はっきりしない曖昧なものだ。

 しかし、なのはには今、ハートが求めている物がはっきりと、理屈でなく心で理解できていた。

 

「我、使命を受けし者なり」

「我、使命を受けし者なり」

「契約のもと、その力を解き放て」

「契約のもと、その力を解き放て」

 

 二人の声で繰り返される呪文は、段々と一つに合わさっていく。

 それは、ハートの呪文ではなく、更にその先にあるハートの真の姿、その起動呪文だった。

 

『風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に』

 

 なのはの左腕と、ハートの左腕が同時に光った。

 そしてなのはの腕には白色のブレスレットが。ハートの腕にはアタッチメントが取り付けられ、そのまま、二人の純粋な心を象徴するかのように光り輝く。

 

『そして、不屈の心は、この胸に!』

 

 そして、契約は完了する。魔導師と『デバイス』の契約ではない。勇者と、それを支え助けるお子との固く熱く、神聖なる契約だ。

 宝玉の抜けているブレスを掲げ、自らの脳裏に浮かんできた言葉を、なのはは叫んだ。

 

「リリカル・マジカル! レイジングハート! スタンバイ・レディ!!」

 

 その言葉と同時に、ハートが左腕を前斜め上に掲げる。そして、アタッチメントの先端に光を集め、古に失われた、己の半身の名を高らかに叫んだ!

 

「レイジングキャリアー!」

 

 『不屈』の名を持つ巨大な車は、ハートの作った光の道を使い、虚空からその威容を表した。

 ハートの数倍はあるかと見える鋼鉄の荷台は、地を揺らしながら走り続け、そのまま何と、垂直に直立した。

 そして、パーツのそれぞれを変形させ、駆動音と金属のドッキング音を響かせながら、その姿を人型へと変えていった。

 しかし、その胸と顔はがらんどうである。巨体が起動するには、魂を吹き込む必要があるのだ。

 

「とうっ!」

 

 そんな中、ハートが飛んだ。そして、自らの姿を、元の紅い宝玉へと変化させていく。しかし、その大きさは人が首に下げる程ではなく、ロボットの時に巨大化したままで球体になっていた。

 

「セットアップ!」

 

 宝玉はキャリアーが変化した巨人の胸部にある空洞へと吸い込まれていき、ぴたり、と合体して光り輝いた。

 同時に、顔なしであった頭部にも雄々しいフェイスが現れ――白いマスクがそれを包んだ。

 巨体の全身に、魔力が、そして勇気が行き渡る。久型ぶりの降臨であっても、白亜の巨人は錆一つ付いていない勇姿を留めていた。

 

 これぞ、魔法の勇者。

 絶対無敵のハートがレイジングキャリアーと合体した、究極無敵の巨大ロボ。

 その名は。

 

 

 

「魔法合体! レイジング、ハァァァァァァト!」

 

 

 

 その瞬間、世界が、地球全体が震えた。

 それは、古の勇者の転生にして、新たなる勇者の誕生であった。

 

「すごい……!」

 

 ブレスの発する防御フィールドで合体の衝撃から守られていたなのはは、ただただその巨体に圧巻の想いを抱くだけだった。

 それは、今までなのはが見たどんな存在よりも強く、大きく、偉大なものだった。

 自分の勇気がそれを目覚めさせたのだ、と言われても、まるで実感が湧かなかった。それくらいに、感動していた。

 

「行くぞ暴走体! これ以上、大切なものを貴様に傷つけさせはしない!」

 

 合体したレイジングハートは、なのはよりもハートよりも、強大な魔力を発する存在だった。その魔力を食らおうと、暴走体から無数の触手が伸びる。

 しかしそれは、レイジングハートの装甲に触れた瞬間溶け落ち、蒸発していった。

 高濃度の魔力も、巨体を覆う装甲の一部なのだ。たかが暴走体の触手程度では、許容量に耐え切れず原型を保ちきれないのが当たり前だった。

 

「おおおおっ!」

 

 そしてレイジングハートは、今度は此方から、と言わんばかりに飛びたち、あっという間に暴走体の目の前へと迫った。

 ハートであった際には圧倒的に劣っていた体格も、今ではほとんど互角と言っていい。放たれる魔力に押し退けられる暴走体の姿は、まるで圧倒的な力に怯えている様にも見えた。

 レイジングハートが、左腕を暴走体の胴体へ深々と突っ込む。そして、勇者が数多持つ必殺技の一つを解き放った。

 

「フラッシュ……インパクト!」

 

 その瞬間、左腕に圧縮された極大魔力が、暴走体を文字通り消し飛ばした。まるで、不幸と悲しみを呼ぶ黒い暗雲を、太くがっしりとした腕がたった一払いで追い払うように。

 その後に残ったのは、爛々と光る蒼色の宝石が3つ。暴走状態にあるジュエルシードの本体そのものだ。

 これは、封印しなければならない。ジュエルシードを封印することが、『デバイス』であった時の、ハートの使命だったからだ。

 

「ディバインソード!」

 

 レイジングハートは脚部から大剣を取り出し、上段に構えた。

 白銀の刀身が魔力を蓄積し、それが開放された時、光の刃が天高く伸びる。

 そして、大上段に構えられた必殺剣は、気迫の篭った詠唱と共に振り下ろされた。

 

「ディバイイイイイン・フラッシュ!!」

 

 開放された魔力が、ジュエルシードの暴走を抑えこむ。すると、暴走体に合わせて巨大化していた宝石が元に戻り、全長十センチほどの小さく綺麗な石に変わった。

 それらは、フィールドに包まれ、なのはの元へと送られる。レイジングハートの必殺技では、力で押さえ込むだけで正式な封印処置は出来ないからだ。

 その役割を果たすことが出来るのは、今は眠っているユーノの封印魔法と、もう一つ、なのはの持つブレスだけなのだ。

 

「なのは、頼む」

「うん! リリカル・マジカル! ジュエルシード、シリアルXXI、シリアルIV、シリアルXI! 封印!」

 

 宝玉が形を球体に変え、ブレスの空洞に入り込む。これで封印は完了し、26個の内三つを同時に収集したことになる。

 全てが終わったことを確認した後、なのはは小走りでユーノを寝かせている野外のベンチまで移動した。

 持っていたハンカチで簡易の布団を作ったおかげか、フェレット姿のまま寝こけているユーノを見て、なのはは安心したように微笑んだ。

 そして、そうっと、起こさないようにユーノを抱きかかえ、再び元の場所へと戻っていく。大切な友達が無事であることを、共に戦った友達に、見せてあげたかったからだ。

 向こうも、同じようなことを考えていたらしい。ずしり、ずしり、と金属の歩く音がする。サイズがあまりにも違いすぎるので、本人からすれば単なる足音だが、なのはにとってはかなり大きく聞こえた。

 そのせいで、熟睡していたフェレットも目を覚ます。

 

「うぅ、ん……ここは?」

「あ、起きちゃった?」

 

 目にどん、と写った女の子の顔の大きさにユーノは一瞬固まったものの、自分の状況をすぐさま把握し、魔力切れでひ弱な小動物になってしまったと認識した。

 そして、目の前で笑っている女の子に、一番気がかりなことについて問うと、意外な答えが帰って来た。

 

「なのは、ジュエルシードはどうなったんだい?」

「えーと……やっつけちゃった!」

「えええ!? どうやって!」

「それはねぇ」

 

 くるり、と翻って、なのははユーノを持っている両手を天高く差し出す。

 フェレットの両眼に写ったものは、自分が知っているどんな『デバイス』よりも大きく、カッコいい巨体だった。

 

「な、これは……こんな巨大なの、一体誰が」

「にゃはは、これだと分かんないみたい。レイジングハート!」

「ああ」

「貴方の素顔を見せてあげて!」

「分かった。ユーノ、私だ」

 

 顔の部分を隠していたマスクが、真ん中で割れてからパカっと開かれる。露わになった素顔は、ユーノの良く知るあの『デバイス』そのものだった。

 

「ハート……! お前、それ、どうしたんだ?」

「私は思い出したんだ。ユーノが拾ってくれて、必死に調べてくれた私の過去を」

「過去……まさかハート、本当の名前を思い出したの!?」

 

 発掘されてから、何回となくメモリーを探っても、どうしても見つけ出せなかった過去の記憶。結局見つからずに、無責任に掘り起こした責任を感じたユーノは、見つかるまで仮のマスターとして所持することになったのだ。

 それが見つかったことを、ユーノは素直に喜びながら、『デバイス』を持つ本当の名前を問う

 

「その通り、私の名前は……」

 

 ユーノによって掘り出され、そして、なのはによって真の姿を表した、白き勇者は、見得を切るように宣言した。

 

 

「私は魔法の勇者! レイジングハートだ!」




以上です。
ハートの口調がレイハさんと違ってたりしますが、私のイメージする主役勇者のしゃべり方というのはこんな感じなのです。


【挿絵表示】


こちら、勇者ロボになられたレイジングハートの画像であります。素晴らしいイラストを描いてくださった方に感謝です。

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