「なんでかって言われてもな……」
どう答えるのが正解なんだろう。反応に困ってしまう。
俺は、アイリスから投げかけられたこの質問に、正直なところ混乱していた。
「あなたは、この国を自分の右腕を犠牲にしてまで守ってくれました。でも、そうまでしてこの国を助けてくれる理由がわからないのです。戦っている時、怖くはなかったのですか?」
「別に、そういうわけじゃないよ。戦ってる時はすごく怖かったし、もう一回やれって言われても出来ることなら二度と戦いたくはないよ。アイツの外見、夢に出てくるくらいしんどいし。それに、腕がなくなる痛みなんて二度と味わいたくないしさ」
俺だって、右腕が急に無くなって何も思わないほど脳天気な性格はしていない。
呪いがあるからか今のところ痛みを感じたことは無いが、いつ幻肢痛に襲われるかも分からないのだ。それが怖く感じることもある。
「……そうですよね」
アイリスは、ポツリとそう呟くと、懐から何かの紙を取り出す。
「えっと、これは?」
「誓約書、のようなものです。ここにサインをしてくだされば、あなたの身の保証と、10億エリスの譲渡をお約束します」
「……闇金?」
「違いますよ!?」
アイリスは、勢いよく顔を上げ、俺の言葉を否定する。
「あなたは言いました。自分は、ダメガミという邪神によってこの世界に連れてこられた被害者だと。そんなあなたにはこれ以上やりたくも無い苦労はさせられません。このお金を持って、何処か遠い場所でやり直してください。そうすれば、あなたは幸せになれます」
そう言って、アイリスは俺の前に誓約書とペンを差し出す。
……確かに、この誓約書は魅力的だ。それにサインをすれば、俺はもうクソみたいな貴族達とのトラブルにも合わず、心機一転、駄女神にめちゃくちゃにされた自分の異世界生活を一からやり直すことができるだろう。
しかし、俺はアイリスを見て思う。
もし、俺がこのままこの誓約書にサインをしてしまえば、アイリスという少女を見てくれる人は、永久に現れなくなってしまうのではないだろうか。
確かにアイリスは、王族で頭も良く、持っている力も俺とは比べものにならないほどに強い。
だから、王族の威光を受けやすい人ほど、彼女が完璧な人間に見えるのかもしれない。
ただーー
『私には、国のことしか考える余裕はありませんでしたから』
アイリスは決して完璧なんかじゃない。国のためにいろいろなことを我慢して生きている。
そして、それを大々的に認めてあげることは、平民であり、王族という立場を理解せず、アイリスのことをただの1人の少女としてしか見られない俺にしかできないことだ。
「そうだな、その方が幸せになれるって言うなら、書かない理由は無いな」
俺はそう言いながら、俺の前に置いてある誓約書を手に取り、
「おっと手が滑ったー!」
それをわざとらしく暖炉へと投げ込む。
誓約書はパチパチと音を立てて燃えていき、灰となり消えていく。
「あぁッ!誓約書がッ!えぇ!?あの、いや、えぇ!?」
それを見たアイリスは盛大に混乱していた。
無理もない、こんなことをされたら俺だって混乱する。
「……ふぅ、悪いなアイリス、手が滑っちゃって……あー、あの書類が燃えてしまったってことは、あの契約は無効になったって事だよなー。惜しいことしたなー」
俺はアイリスにそう告げると、アイリスはこちらをじっと見つめてくる。
「……どうして」
「どうしたもこうしたも、どこへ行ったって魔王軍が消える訳じゃないし、貴族が消えるわけじゃないだろ?だったら、ここで真正面から潰した方が早いじゃん」
「でも!」
「デモも決起も無いの」
俺はそう言って立ち上がる。
「それに、あの時言おうとしたやりたいことだって、この城に居ないと叶えられない物だしな」
「あっ、そういえば聞きそびれてました!せっかくですし、今聞きたいです!」
アイリスはそう言って立ち上がると、目をキラキラさせながらこちらに詰め寄ってくる。
ちょッ!近い近い近い!
生まれてこのかた女の子と友達以上の関係になったことのない俺にとっては、女の子とのこの距離は近すぎる!
「分かった!分かったから一旦離れてくれ!落ち着かない」
「あっ、すみません」
そう言うと、アイリスは俺から離れてくれる。安心したような。ちょっと損したような。
「んで、俺のやりたいことっていうのは……」
「あなたのやりたいことは……?」
俺はそこまで言いかけて、ふと、言うのを止める。
あれ?この状況でやりたいこと言うの、めっちゃ恥ずかしいんですけど。
だって俺のやりたいことって、
良くて引かれるか、下手すりゃもう二度と口を聞いてくれなくなるかもしれない!
「……えっと、あの、やっぱり秘密です」
「なんですか!そこまで言いかけたなら言ってくださいよ!どんなことでも私気にしませんから!」
「俺が気にするの!……あっ、ちょっ、やめろ肩を掴むなそのまま揺するな!つーか本当に力強いな!ゴリr……いや、やめよう」
「今言いましたね!?女の子に言ってはいけないことを言いかけましたね!この無礼者!あなたには命を救っていただいた恩はありますがそれとは別です!王族として、あなたの思考を矯正します!」
「やってみろ!このむっつり王族!」
俺が妄想話をした時、レインよりもしっかり聞こうとしてたの知ってんだかんな!
「む、むっつッ!?もう怒りました!王族は強いんです!絶対に、絶対に負けませんから!」
先程のシリアスな雰囲気はどこへ行ったのか、俺達は全力の取っ組み合いを始める。
「アイリス様!ここに居ましたか!...どういう状況だこれは!?」
すると、俺とアイリスの声が聞こえたのか、クレアとレインが血相を変えて俺達の下へ飛び込んでくる。
「ちょっ、アイリス様!セイヤ様も!一体どうして喧嘩なんか!?」
「アイリス様、どうか落ちついてください!喧嘩なんて今までされたこともないのに、突然どうしたのですか!?」
「「だってコイツ(この人)が!!」」
「アイリス様もセイヤ様も、そんな子供みたいな言い訳はやめてください!」
「全く、お前は一体何をしているのだ。忘れているかもしれないが、この方は王族、一歩間違えればお前の首なんて簡単に飛ぶのだぞ?」
「アイリス様、どんなことがあったかはこの際問いませんが、あなたはこのベルゼルグ王国の王女なのですよ?もっと良識のある行動をとっていただきませんと...」
そんな二人の説教を聞きながら、俺達は正座させられていた。
「「ご、ごめんなさい」」
仁王立ちで少し疲れた表情を見せる二人に、俺達は頭を下げた。
なぜかは知らんが、アイリスは少し楽しそうだ。
「そういえば、セイヤ、王からお前に伝言がある」
「正座は...」
「そのまま聞け」
(´・ω・`)そんなー
「で、その伝言って?」
「あぁ、王曰く、お前にアイリスのお付きになって欲しいとのことだ」
「お付きって……具体的に何をすればいいんだ?」
「お前にはアイリス様の知らない事や興味を惹くものについて話して欲しいらしい。庶民について知れ、ということなのかもな」
なるほど、たしかにそれなら俺でも出来そうだ。
「あと、もう一つ伝言だ。『
……マジかい。
どうやら王国の国王からしてみれば、俺の心中などお見通しらしい。
まぁ、そう国王に言われたのだから仕方がない。
俺は立ち上がり、イスに座る。
「そういう事なら分かった。もともと俺も城でやりたいこともあったしな。大丈夫だ」
「わかった。では他の者にも後日伝えておこう」
それにしても、アイリスの興味を引く話か。色々思い浮かぶが、まずはこの話からが良いだろう。
「では、アイリス様の教育係として、俺が海に旅行に行った際に、幼馴染と過ごしたすんごい刺激的な日々の話でも……」
「ぜぜ、ぜひとも!先程のことを謝りますからぜひともそれを!」
「い、いけません!いけませんアイリス様!この男の話を聞いてはいけません!この教育係、ダメな奴です!レインからもなんとか言ってくれ!」
「あの、私もその話を正直聞きたいんですけど……」
「レインー!!」
結局、この騒ぎは真夜中まで続いた。
十話で一つの話としようと計画していたため、計画通りにいって大変ホッとしております。
(このままだとカズマ達に会うのが60話くらいになりそうだという大誤算については黙っておこう...)
感想、評価、指摘などくださると、すごくうれしいです。
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