昨日のことを思い出すと、頭が痛くなる。
あの後は本当に大変だった。
俺はあの後、王の側近達と力を合わせてなんとか国王の退位を阻止したのだが、彼は王族であり、しかも前線で魔王軍を薙ぎ倒してきたゴリゴリの武道派。
止めている最中に側近達がポンポン飛んでいくのだ。
『王よ!落ち着いてくだあげぇッッ!』
『こんなゲーム一回で国の未来を変えようとしないでくださぐわぁッッ!』
『ちょちょちょっと待って下さい!待って!助けて!待って下さい!お願いします!アアアアアアアアア!!』
『国王御乱心!国王御乱心!』
危うく俺が国の歴史を動かすところだった。
……止めよう、思い出すのは。頭が痛くなる。
俺は昨日からの頭痛の種を頭から追い出すと、日課である筋トレを終了し、昼食を食べるため、部屋を出て厨房へと向かう。
「ああ、ちょうどよかった。セイヤ様、少しお話が」
と、俺が厨房へと続く廊下を歩いていると、突然声を掛けられる。
顔に対して、異常なほど決まっているタシキード。
声を掛けてきたのはハイデルさんだった。片腕には何冊かの本を抱えていた。
「どうしましたか?ハイデルさん」
「実はですね、私と一緒にこれを運んでほしいのですよ」
そう言って、横に置いてある大量の本の入ったワゴンを指差すハイデルさん。
その大きさは、確かに一人で運ぶには少し大変なように見えた。
しかもハイデルさんの片腕は塞がっているんだし、余計に大変だろう。
まあ、ハイデルさんなら余裕なのでは?という気持ちも無くはないが。
「分かりました。そういうことなら、このワゴンは俺が持ちますよ」
俺は全身に少しだけパワーを流すと、そのワゴンを一人で引く。
こういう使い方もできるので、このチートは本当に重宝している。
「おお、ありがとうございます。では、目的地までは私が先導しますよ」
そう言ってハイデルさんは歩き始める。
道中、道ですれ違う執事やメイドは、ハイデルの姿を見ると、何故か深い一礼をして通り過ぎていく。
「あの、ハイデルさん。ここに来た時から気になっていたんですけど、この城の執事とかメイドが、みんなハイデルさんの姿を見るたびにお辞儀しだすのはどうしてなんですか?」
「それは私がここの従者の教育係を務めているので、その名残のようなものでしょう。まぁ、この城にいる方々は頭を下げなければならない立場の方が多いですから自然に、ということもありますがね」
なるほど、確かにここの従者は現代の世界に居た使用人と比べてもかなり質が高いのが印象的だったが、ハイデルさんが教育していたのか。
「っと、着きましたね。ここが目的地です。セイヤ様、ご協力いただきありがとうございます」
ハイデルさんはとある一室の前に止まる。
その部屋の中からはレインの声が聞こえてくる。
「ーーと、この様な理由から、我がベルゼルグ王国は、隣国であるエルロードとは金銭的な援助をしていただく見返りとして、兵士の派遣を行なっているのです」
どうやら、中では歴史の授業が行われているらしい。
ハイデルさんは、そんな授業が一段落したタイミングでドアを叩く。
「アイリス様、レイン様、頼まれていた教材と、セイヤ様を連れてきました。入室の許可を」
「え?」
どういうことだ?俺はただの荷物持ちで連れてこられたんじゃないのか?
俺のそんな疑問を尻目に、扉が開き、俺は部屋の中に案内される。
部屋の中には、教師のような格好をしたレインと、席に座り、レインの授業を受けているアイリスの姿があった。
「こんにちはセイヤ様、荷物運びを手伝ってくれたんですね。ありがとうございます。では、さっそくアイリス様の隣の席にお座り下さい」
「ちょっと待ってくれよ。俺まだ何も聞いてないんだけど、俺に何をさせる気なの?」
「どうやらセイヤ様は、この国についてあまり知らないご様子だったので、せっかくなのでここでアイリス様と共に勉強していただければなと思いまして」
レインが、俺に向かい笑いかけながらそんなことを....。
「……その授業って、どのくらい時間がかかるんですか?」
「大体夕方くらいまでですかね?」
「なるほど……」
「……」
「……(ニコッ)」
俺は地面を蹴るようにバックステップで加速すると、窓から全力で逃走を図ろうとする。
「ハイデル様!!」
「承知!!」
しかし、次の瞬間、俺の身体はピクリとも動かなくなる。
「なッ!これは...糸!?」
よく見ると、俺の身体の至るところに糸が張り巡らされており、その先はハイデルさんの手へと続いていた。
「フフフ、これでも私、若い頃は針仕事に精を出しておりまして。そのせいか今でも糸の扱いは得意なのですよ」
「いや、絶対針仕事じゃないですよねこの使い方は!!」
絶対昔は王直属の部下とかだったでしょこの人!
俺は必死に糸から抜け出そうとするが、その糸は完璧に巻き付いており、全くといって良いほど抜け出せない。
「まあまあ、良いじゃないですか。この国にしばらく居るのであれば、この国のことについてくらいは知っておくべきだと思いますよ?」
レインはそう言って、俺に対しとても爽やかな笑みを浮かべる。
「いっ、嫌だァァァ!はっ、離せ!離して下さい!畜生、冗談じゃないですよ!こんな所に来てまで勉強とか!それに俺、まだ昼食も取ってないですから!」
「では、昼食は私が作って後で持ってきましょう。セイヤ様は、どうか存分にお勉強に励んでください」
畜生!退路を塞がれた!
「アイリス!いやアイリス様!お願いだから助けてください!後生だから!」
俺は必死にアイリスに助けを求める。
恥?知らんよそんなもん。
「私、誰かと授業を受けるなんてこと、生まれて始めてです!」
しかしアイリスは、目を輝かせ、ソワソワした様子で俺を見ている。
どうしよう。一気に断りにくくなった。
もし今ここで断ったりなんてしたら、アイリスは絶対悲しむだろうな……。
そして俺はその後クレアに切り殺されるんだろうな……。
……仕方ない。
「あの、えっと……やります」
俺は観念し、大人しく授業を受けることにした。
「では、今日はセイヤ様に合わせて、今日は魔法の基礎について勉強していきましょうか」
レインは前にある教卓のような物に何かを書き始める。
「あの、知ってると思うんですけど、俺魔法使えないから無駄じゃないですか?コレ」
もしかして新手のイジメだろうか、だとしたら俺泣いちゃう。
「無駄なんかじゃないですよ。例えば、もしあなたが魔法を使うモンスターと戦うことになった時、こういう知識が役に立ちますから」
確かに、敵が持っている魔法について知っておいて損はないだろう。
俺は認識を改め、授業をしっかり聞こうと姿勢を正す。
「まず、この世界に固有として存在している魔法は、初級、中級、上級魔法に分けられています。分けられている基準は、威力と習得に必要なスキルポイントの量で決まっています」
なるほど、魔法はドラ○エ的な感じで考えれば良いのか。
「じゃあ、アイリスが使ってたあのエクスなんとかって奴は何なんだよ?やっぱり上級?」
俺は隣でノートを取っているアイリスにそう尋ねる。
「アレは、王族が代々受け継いできた聖剣の能力なので、厳密には魔法とは違うんです」
「でも、あの時アイリスの魔力を使ってあの技は発動してたよな?」
魔力を使ってたから魔法じゃないのか?
「一応、誰にでも使えるものが魔法、特定の人間やモンスターにしか使えないものがスキルという分類はありますが、そのあたりは結構曖昧なんです」
レインは、そう補足をしてくれる。
なんだろう、この世界は曖昧な事しかないんだろうか。しっかりしろよ。大事な所でしょうが。
「それでは、初級魔法から順に説明していきますね。まず火を操る『ティンダー』コレはーー
「だあー」
授業がひと段落終わると、俺は脱力し、机に突っ伏す。
「お疲れ様でございます。どうぞ、紅茶でございます」
「ありがとうございます……」
俺はハイデルさんが入れてくれた紅茶を飲んでため息を吐く。
「どうしてこんなところにに来てまで勉強をしているんだろうな、俺……」
「そう言っている割には結構真面目に授業を受けていましたよね。私としては真面目な生徒は大歓迎なのですが、少し意外でした」
「そりゃあ一応授業をしてもらっている立場ですからね……結構楽しかったですし」
実際、レインの授業は言うほど苦ではなく、むしろ新しい知識がいっぱいで有意義な物だった。
「そう言っていただけるとこちらとしても嬉しいです」
そう言ってレインは柔らかに微笑む。
こうしていれば普通に可愛い人なのに、どうしていつも影が薄くなってしまうのだろう。アレか、普通すぎるのが悪いのだろうか。
「それでは、明日も一緒に授業を受けてくれるんですか!」
俺が思考に耽っていると、俺の服の袖がクイクイと引っ張られ、アイリスがキラキラとした目でそんなことを言ってくる。
そんな目をしないでください。すごく断りずらいから。
「……日課にしてる事が終わった後なら、良いけど」
「分かりました!それでは、明日からもよろしくお願いします!」
そんなこんなで、その日から俺の一日に、アイリスと一緒に授業を受ける事が追加されたのだった。
勉強したくないから早く社会に出ようとしているそこのキミ!社会に出たところで、勉強しなきゃいけないことには変わりないんだよ!
感想、評価、指摘などくださると、すごく嬉しいです!
小説はどのくらいの長さがちょうどいい?
-
3000〜4000くらい
-
5000〜6000くらい
-
7000〜8000くらい
-
8000〜9000くらい
-
10000以上