「疑いも晴れたし、そろそろこの街を出ようと思うんだ」
いつもの戦闘訓練が終わり、魔剣を整備していたミツルギさんがそんな事を言う。
そういえば、ミツルギさんは式典のために王都に来て、王女に対してナデポしたから死刑になりかかってたんだったな。ただ、俺としてはてっきり、ミツルギさんはもう少しここに残るのかと思っていたんだが。
「と、言っても行き先は決まってるんですか?」
「そうだね、まずはアクセルに行ってみたいと思ってるよ」
「アクセル?」
あそこはたしか駆け出しの冒険者達が多くいる、言わばチュートリアルみたいな町じゃなかったか?
「弱い者イジメがしたいんですか?関心しませんよ」
「違うよ!君は知らないかもしれないけど、あそこは転生者が最初に降り立つ町なんだ。だから、あそこに行けば僕たちと同郷の人を仲間にできると思ってね」
なるほど、どうやらアクセルの町は転生者にとっても駆け出しの町らしい。
「俺初手で王都だったんですけど。しかも死にかけたし」
「それは....まぁ、うん、ドンマイ」
ミツルギさんがすごい優しい顔で俺のことを見てくる。
俺の中で、またあの駄女神への憎悪が高まったような気がした。
「じゃあ、そういうことだから僕は今日中にでもこの街を出るよ。アクセルの町までは結構遠いし、途中でいろんな所にも寄りたいしね」
「そうですか、少し寂しくなります」
なんだかんだ言って、俺の周りには転生者はほとんどいないし、いたとしてもミツルギさんみたいに気軽に話せるわけじゃない。一名オカマだし。
そんなことを考えていると、ミツルギさんは立ち上がり、俺に札の束ような物を差し出してくる。
「これは?」
「それは魔導札と言って、魔力を込めるとその魔導札に書き込まれた魔法が発動するんだ。ほら、君は魔法が使えないんだろう?だから遠距離での強力な攻撃方法が必須だと思ったんだ」
予想以上に実用的なプレゼントを貰ってしまった。どうしよう。
「あの、えっと、ありがとうございます」
俺が戸惑いながらもなんとかお礼の言葉を絞りだすと、ミツルギさんは俺の頭にポンと手を載せ、
「僕も寂しくなるよ。じゃあ、また何処かで」
そう言って、笑いかけてきたーー
「あの、この状況でそういうことするとBLみたいですよ。ミツルギタラシさん」
「君は本当に最後まで口が減らないな!」
「舞踏会?」
ミツルギさんに別れを告げ、いつものようにアイリスと共に授業を受けた俺は、いきなり出てきたそのワードに少しだけ混乱する。
「はい、毎年この時期になると各地の有力な貴族を集めて舞踏会を開くんです。表向きには貴族同士の交流ということになっていますが、実際にはその舞踏会に着る服や、アイリス様へのプレゼントに掛けた資金などでお互いの財力を見せつけ合う場所です」
そう言って深いため息を吐くレイン。
「なんか...みみっちいですね。貴族って」
「私も思いますけど、そんなハッキリ言わないでください!中には良い貴族も居ますから!」
「そうだぞ、セイヤ」
すると、そんな貴族筆頭のクレアが話に混じってくる。
というか居たのか、全然気が付かなかった。そういうのはレインの専売特許だろうが。
「貴族貴族と、貴様が今まで見てきた貴族だけを判断基準にするのはやめろ。レインの言う通り、真っ当な貴族もきちんといるのだ」
確かに、一部の判断材料で全体を判断するのは良くないよな。
まさかクレアに対し関心する時が来るとは思わなかった。
「そうだな。悪かっーー
「私のような!」
前言撤回、やっぱコイツ反面教師だわ。この前散々ハイデルさんに怒られたのをもう忘れたのか。
「というか、自分の主に対して劣情抱いている時点で、お前真っ当な貴族じゃないだろうが」
「べっ、べべべつに劣情など抱いていない!!」
隠すの下手すぎるだろ。
「ねぇレイン、劣情ってどう言うーー
「アイリス様、そんな事よりも舞踏会で踊るダンスの練習をしましょう」
レインは、そんなアイリスからの問いを誤魔化しつつ、彼女を衣装室へと連れていく。クレアはその後について行き、部屋に残されたのは俺一人だけだった。
しかし、貴族とか王族ってついついなんでもかんでも自由に、傍若無人に過ごしているのかと思いがちだけど、プライドを守るために色々なことをしているんだな。
「大変なんだろうなぁ....」
思わずそんな言葉が出てしまう。
まぁ、だからと言ってそれが尊敬できるかって言ったらそんなこともないし...。
「まぁ、俺の気にすることじゃないか」
俺別に舞踏会出ないし。貴族じゃないから!
俺は教室の外に出て、自分の部屋へと戻ろうとする。
すると、教室の隣の部屋から誰かが喋っているような声が聞こえる。
たしか、ここは教材用の物置で、人が集まるような場所じゃないはずなんだが....
よし、調べてみるか。
俺は力を耳に集中することで聴覚を向上させる。
『ーー様、本当にこれを使えばこの私がベルゼーーできるのですか?』
『ああ、約束ーー実行は舞踏会当日の夜、ーーなよ』
『もちろんーーいます!このダイン、必ず成功させてみせます!』
....とんでもないことを聞いてしまった。
俺は彼らに見つからないように天井へと登り、彼らが部屋から出てどこかへ行くのを確認したところで下へ降りると、彼らの言葉を脳内に反響させる。
つまり、彼らは何かを企んでいて、それを実行するのが舞踏会の夜ってことか。
舞踏会の夜かぁ......
「面倒だなぁ.....」
俺は、そう思わずにはいられないのだった。
「何?舞踏会に参加したい?」
「ああ、頼むよ。給仕でも護衛でも、なんらかの形でその場に居られればいいからさ」
俺は、アイリスのダンスレッスンに目を輝かせているクレアに声を掛ける。
「たしか貴様は、こういった催しが心底嫌いな印象があったのだがな」
「間違いじゃないけど、今回はそうも言ってられないんだよ。いろいろ事情があってな」
「いろいろとはどんな事情だ」
「悪いが、お前には話せないわ。事情が事情なもんでな」
今回の敵はコイツと同じ貴族の一人だ。そんな奴を同じ貴族であるシンフォニア家が直接的にせよ、間接的にせよ倒したということになれば、コイツは他の貴族派閥から警戒されて、思うように動けなくなるだろう。それは困る。
「まあ、この際どんな事情があるか聞くようなことはしないが、恐らく貴様は舞踏会には行けないぞ」
「どうして?」
「この舞踏会に参加する貴族の三分のニが、貴様がこの舞踏会に給仕、護衛、雑用として参加することを反対する署名にサインをしたんだ。どうやら貴様は、相当貴族達に嫌われてるようだな」
「分かってたけど相当だな....」
たしかに、俺が今までこの王城にいて良くしてくれた貴族なんて、片手で数えられるほどしかいない。
大体は廊下ですれ違えば陰口を叩くか、たまにガチの呪いが込められた手紙を送られるくらいだ。好かれているわけがない。
「ちなみにお前はどうしたんだ?」
「私はもちろん反対にしておいたぞ!」
満面の笑みでそんなことを言うクレアの顔面に拳を叩き込みつつ、俺は考える。
どうあっても、俺は舞踏会の会場には入れない。しかし、アイツらが起こす厄介事を阻止しないと、俺がシュレイブニルを倒してから少しずつ広げてきたアイリスの自由が消し炭になる。レインとクレアに事情を説明してアイリスを守ってもらうか?いや、彼女達が二度と貴族派閥に協力を打診できなくなるだろう。
駄目だ。解決策が見当たらない。こんなことなら貴族達にもうちょい媚び売っとけばよかった。まあ俺の性格じゃ無理だけど。
というかなんだこの状況、俺が思っていたより何倍も面倒くさいぞ。
「では、そろそろ休憩にしましょうか。次の鐘が鳴ったら再開しますよ」
「分かったわ。ありがとうレイン」
「いえいえ」
そんなことを考えていると、アイリス達のレッスンが休憩に入り、俺たちの姿に気づいたアイリスはこちらに向かい歩いてくる。
「お疲れ様ですアイリス様、大変素晴らしい踊りでした」
「あ、ありがとうクレア」
「鼻血拭けよ」
クレアは、鼻から大量の鼻血を出しながらアイリスに賞賛の言葉を浴びせており、アイリスはその姿に少し苦笑いをしている。
もし、アイツらの目論みが成功してしまったら、こんな姿も見ることが出来なくなるんだろう。
.....やるか。
「ん?セイヤ、もう行くのか?」
「ああ、聞きたいことはもう聞いたし、これからいろいろ調べないといけないこともあるしな」
俺はその場から立ち上がり、クレアに対し言葉を返す。
「ああ、あとアイリス、踊り、めちゃくちゃ綺麗だったよ。本番でも頑張ってな」
「え?ああ、はい.....えっ、ええ!?///」
「ちょ、セイヤ!?貴様あああああ!!!」
ついでにクレアに精神的ダメージを加えつつ、俺はその場を去っていくのだった。
「綺麗....綺麗ですか....えへへ」
「アイリス様、いけません!さっきの奴の言葉は私に精神的ダメージを与えようとした罠で、決して他意があるわけでは.....あの、聞こえてますかアイリス様?アイリス様!?アイリス様ああああああ!!」
今のところどのくらいの好感度にすればいいかよくわからない...タスケテ...タスケテ....
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