静寂が立ち込める。
朝日は未だ空に登らず、時刻を測るこの城唯一の掛け時計の針は5時を指している。
そんな時間、俺の姿はベッドではなく、今だと思いでは強く残る場所である蔵書室にあった。
俺の周りには俺が読んだ本が積み上げられており、ちょっとした壁のようになっている。
「とりあえず蔵書室にあるダンスの本を片っ端から読んでみたけど、やっぱり実際にやってみないことには分からないんだよなぁ...それに俺隻腕だからそれに合わせて踊りを作って行かなきゃいけないわけだし」
たしかに、本で調べたおかげでダンスについての知識は取り込むことができた。しかし、知識を動作に変換するにはやはり実際に踊ってみないことには始まらない。
とりあえず、もう一度彼女と集まる3日後までに俺は踊れるようになっていないといけないか。
俺はそう考えると、蔵書室の椅子から立ち上がり読んでいた本を全て片付け、蔵書室を出る。
「ん〜!ずっとおんなじ体勢でいたから身体のいろいろな所が痛いな」
そして、伸びをしながら廊下を歩いていると、見知った顔に出くわす。
「....ハイデルさん?」
「おや、これはセイヤ様。おはよう御座います。こんな朝早くからどうされたのですか?」
「こっちのセリフですよ。それに、今日のハイデルさん随分と格好もお洒落みたいですし」
ハイデルさんの格好は、いつもだと執事服にキッチリと身を包み、片目にモノクルをつけているのだが、今日は普通のシャツを着ており、モノクルも付けていない。
「今日は非番なんです。ですので今日一日は嫁のために使おうかと」
ハイデルさんはそう言って薄く微笑む。
あ、イケメン。じゃなくて、この人嫁居たのか。まあ、こんな完璧超人でオマケにイケメンな男は誰も放っておかないか。現にこの城のメイドの中にもハイデルさんに恋してる人それなりに居るし。
「へぇー?じゃあ今日は嫁さんと一日中デートですか。いいですねー」
「いつもは城に詰めていて嫁とはあまり一緒にいられませんから」
ハイデルさんは恥ずかしいそうにそう言って正門の方へと歩きだそうとし、ふと何かを思い出したかのように止まる。
「そうでした。セイヤ様、もし舞踏会でのダンスをさらに学びたいのであればこちらをお読みください」
そう言って彼は一冊の手帳のような物を差し出してくる。
手帳を開くと、そこにはダンスの細かい注意など凄まじい量の情報が書かれていた。
「あの、すいません.....どこまで知っているんですか?」
俺がアイツと約束した時周りには誰も居なかったはずだし、本を読んでいる時も知人が来ないか警戒してたのに。どうしてこの人は当然のように知っているんだろう。
「ははは、これでも情報収集にはちょっと自信がありましてね。では、舞踏会での踊り楽しみにしてますよ」
そう言い残すと、ハイデルさんは笑いながらその場を去っていった。
....あの人、本当に何者なんだろう。俺はそう思わずにはいられないのだった。
そんなこんなで情報を集めていると、城の鐘が鳴り始める。どうやら気づかない内にかなりの時間が過ぎていたらしい。
「今日は久しぶりにアイリスとの授業があるからな。早く行かないと」
俺はそう言って今回授業を行う場所、兵士達の訓練場へと向かう。
「あ、セイヤさーん!こっちですー!」
するとアイリスが俺の姿を見つけるやいなや、こちらに手招きしてくる。
やめなさい、周りの兵士達が驚いてるから。ついでに言うならレインはともかく、クレアが俺のことをチベットスナギツネみたいな目で見てくるから。
「どうしたんだアイリス?今日は一段と元気だが」
「今日は久しぶりの実践訓練なんです!ここしばらくダンスでしか身体を動かしていなかったので楽しみで!」
なるほど、そういえばこの子、いやこの国の大体の貴族に言えることだけど結構脳筋でしたね。
「さて、参加者が全員集まった所でそろそろ初めていこう!今回の訓練には例年通りアイリス様も参加する!決して失礼のないように!」
すると、兵士達の隊長らしき人が号令をかけ、授業、もとい訓練が始まっていく。
「行きます!せやっ!」
「ぐあああああ!」
「せいっ!」
「ギニャー!」
「まだまだ!」
「アバー!」
....まぁ、そうなるよね。
俺はロケットのように空を飛んでいく兵士達を眺めながら、心の中でそう呟く。
というか、前にもこんな光景を見たことがあるような気がする。
「おお、飛んだなぁ」
「今のは大きかったですねぇ」
「おいそこの護衛二人。アンタらの国の兵士達がかっ飛んでく様子を花火感覚で見てんじゃないよ」
一応アンタら止める側でしょうが。
僕は段差に座りながら観戦しているレインとクレアにそう指摘する。
「HANABI....?その、HANABIとはなんだ。レイン、知ってるか?」
「いえ、知らないです。おそらく彼が元いた国特有の文化なのではないかと」
「おい、そのHANABIとはどういう物だ」
「それは.......あれ、なんだっけ?」
さっきまで頭の中にあったのに、何故か思い出せない。なんだろう、喉に刺さった小骨が抜けなくなったような、そんな気分だ。
ーーイヤさん、セイヤさん!」
俺は、誰かの叫ぶような声により我に帰る。目の前に居たのはアイリスだった。
「ッッ!え、あ、どうしたアイリス、訓練はもういいのか?」
「とりあえず、今日はこのくらいで良いと隊長の方が言ってくれたので。それより、ぼーっとしていましたがどうかしたんですか?」
俺はアイリスから少し目線を外し、訓練場の真ん中を見ると人のしかばね(死んではいない)が積み上がった山ができていた。その横では隊長らしき人がやり切った表情で佇んでいた。
....お疲れ様、隊長。
「なんでもないよ。とりあえず、今日の授業が終わったならそろそろお昼にーー
「ちょっと待ってもらおうか!」
突然、頭上から声が掛かる。
声のした方を見ると、そこには一人の男が立っていた。
彼は周りに居る兵士達とは違い布で作られた軽量の装備をしており、右腕には紅い槍を持っている。黒髪黒目のところから見るに、彼も俺と同じ転生者らしい。
彼は自分の立っている高台から飛び降りると、槍を壁に突き立てスピードを減速させるようにして俺達の前に降り立つ。
「俺の名前はリヒター・グエンドラム!スズキセイヤ、お前に正義の鉄槌を下す者だ!」
それ絶対本名じゃないだろ。
何故だ、何故俺の周りには名前を偽る奴がこんなにも居るんだ。親から貰った大事な名前でしょうが。
「というか、正義の鉄槌ってなんだよ?俺別に何も悪いことしてないんだが」
「何を言うか白々しい!お前の悪事は全て貴族達から聞いた!お前は巧みな話術で王族に取り入り、その権力を盾にしてやりたい放題しているらしいじゃないか!魔王を倒す正義の勇者として、お前のこれ以上の蛮行を許すわけにはいかない!」
ああ、なるほど。つまりコイツは俺がアイリスの近くに居るのが気に食わない奴らに色々吹き込まれたのか。だとしてもその話を鵜呑みにするのはどうなんだ。少し情報収集するとかしろよ。
「許すわけにはいかないとか言うけどさ、具体的にはどうするんだよ」
「俺と勝負をしようじゃないか!」
「勝負?」
「そうだ、俺と勝負をして、もしお前が勝つことができたならもう口出しはしない!お前のことを認めてやろう!」
いや、別にお前に認められても何にもならないんだが。
そう口にしそうになるのを堪える。たしかにコイツに認められても何にもならないのは事実だ。しかし、それをわざわざ本人に言う必要はないだろう。大人だ、大人の対応をしなければ。
「いや、別に貴様に認められようと何にもならないだろう」
クレアあああああああ!!
言ったよ!アイツ言ったよ!俺がわざわざ言わなかったのをなんの躊躇いも無く言いやがったよ!
「ええぃうるさい!とにかく勝負しろ勝負!」
こっちはこっちでクレアに言われたことに腹を立ててるし。
「勝負はしても良いけどさ。じゃあお前が勝ったらどうするんだよ?」
すると、リヒター(仮称)はニヤリと笑い、アイリスをチラリと見ると、
「もし俺が勝ったら、今日から俺が彼女の教育係をーー
「よし乗った。死ねオラァッッ!!」
俺はその言葉を聞いた瞬間、俺は剣製を行い彼に向かい剣を振り下ろす。
こんなすぐ騙される単純野郎にアイリスが任せられるか!
それにコイツの目俺が地球の頃の格好をそのまましてるから明らかに舐めてやがった!
リヒターも、まさか自分が喋っている途中で斬りかかられるとは思わなかったのだろう。
「え、ちょ!待っ.....!?」
慌てたリヒターだが、その時彼の持っている槍が淡く輝く。瞬間彼の身体は不自然に動き、俺の剣を止める。
「その槍、転生特典か!厄介だな!」
「お前!話している最中に攻撃するとか反則だろ!」
「残念ながら、そんなルールを持ち出せるほど王女の護衛は簡単じゃなくてね!」
俺とリヒターは、話しながらも攻撃を続けていく。
しかし、身体強化をギリギリまでかけているのに、リヒターの槍が少しブレて見える。どうやらこの槍、速さに重きを置いているらしい。
すると、考えてごとをしていたからだろうか、少し反応が遅れてしまい、槍が頬を掠める。
「ッッ!!」
「さっきまでは不意打ちで後手に回っていたが、お前と俺とじゃ格が違うんだよ!」
言ってくれる。しかもお前のそれは実力じゃなくてチートの力だろうが。まぁ良い、相手がそういう奴なら俺も容赦しねぇよ!
俺は少し刃の欠けた剣を地面に刺すと、新しい剣を作り、それを彼に向ける。
「お昼も近いし、手早く終わりにしよう。小細工は無しだ」
「良いだろう!来い!」
リヒターは、深く腰を落として槍を構える。
俺はリヒターに向かい、一直線に向かう。
「お前はたしかに強かった!だが俺の方が一歩上だったようだな!これでも食ら.....ッッ!?」
そんな俺に突きを放とうとしたリヒターは、地面に刺さった剣を支点としてさまざまな場所に糸で繋がり、動かなくなった槍に驚愕する。
俺はその一瞬でリヒターの口に魔導札を突っ込むと...!
「『パラライズ』」
「アババババババ!!」
魔導札に込められた魔法を発動することで、リヒターはその場で痙攣をしながら倒れ込む。
「ったく、もうちょい他人の言葉は警戒するとかしろよ。そんなすぐ騙されるようじゃ王女の護衛とか出来ねぇからな?」
「さすがですセイヤさん!さすが人を口で回すことに関して右に出る者はいませんね!」
目を輝かせるアイリスに、俺は思わず。
「褒めてるんだよな?」
「ええ、褒めているんですよ?」
そう言ってクスクス笑うアイリスに、ほんの少しだけほっこりしていたその時だった。
「み、認められるかこんな結果!この卑怯者!よくも俺に向かってこんな....こんな!」
先程パラライズを食らったばかりのリヒターが起き上がっている。おそらくリヒターには強力な状態異常耐性が備わっているのだろう。
「お前、自分の持っているその槍の力に頼って戦っているだろ。だから俺はお前が槍を離すことは無いと踏んで作戦を立てた。卑怯者と呼ばれるのは心外だな」
そんな俺の言葉を聞いたリヒターは、荒く息をしながら。
「俺は正義の勇者だ。こんな奴に負けるわけがない。こんな卑怯者に、こんな卑怯者に、こんな卑怯者にッッ!!」
すると、そんなリヒターの激情に呼応するように彼の持っている槍が紅く光り始める。その光は先程とは比べ物にならないほど強く、まるで噴き上がる炎のようだ。
「お前...まだやる気かよ!」
俺は手に持った剣を再びリヒターに構える。
「お前、お前お前オマエオマエェェェェェ!!」
そして、先程の余裕そうな立ち振る舞いから一変し、怨霊のような叫び声を上げるリヒターは、俺に向かい一直線に突っ込んでくるのだった。
今回は色々詰め込みすぎた気がする。
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