雲一つ無い晴天、それが意識を取り戻した俺の目に入った最初の景色だった。
どうやら転移した先は地球とよく似た世界らしい。それにしても気持ちが良い。肌を吹き抜ける風、遠ざかっていく空、今まで感じたことのない浮遊感、これはまるで、まるで.....
落下しているかのようなーー
振り返ると地面は遥か下に存在していた。
どうやら俺は、空中に転移されたらしい。
「あんの駄女神がァァァァァァァァァァァァ!!!」
そんな俺の叫びを置き去りにするほどの速さで落下は続く。
ちくしょう、こんなことならもらう特典は空を飛べるものにしておくんだった!
しかし、そんなことを言っている間にも地面はどんどん迫ってくる。
落下地点には大きな城があり、このままでは俺は愉快な壁のシミなってしまうだろう。
転移した瞬間に死ぬとか冗談じゃないぞ!
「うおぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁ!!死んでたまるかァァァァァァ!!!」
俺は受け取った特典の一つである『身体強化』を解放した。
『身体強化』とは名前の通り自身の身体を強化することができ、力の何%を出すかは自由に選択することができる。
俺は自身の右腕に70%の強化を施す。
そして、城の壁にぶつかる直前に壁と自分の間にある空気を思いっきり殴った。
「ぐうぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
凄まじい轟音と衝撃と共に落下スピードが落ちていく。
俺は空中で体勢を整えると城の屋根に着地した。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァァァァ.....」
流石に異世界に転移して3秒もしないうちに命の危機に瀕するとは思ってもいなかった。あの駄女神、他の神に会う機会があったら真っ先にアイツの不祥事を全部ぶちまけてやろう。
「とりあえず、なんとか生き残ることが出来た...!?」
突然、俺の体勢が崩れる。いや、違う。崩れたのは俺の立っている屋根だ。
さっきの打撃で壁にダメージが入ったのだろう。
そのまま屋根は崩壊し、俺は城の中へと落ちていく。
「ぁぁぁぁぁあああああああグヘェッ!!」
地面に叩きつけられ、俺の喉の奥からカエルを潰したかの様なうめき声が溢れる。
顔を上げて周囲を見渡すとそこは豪奢な調度品が立ち並ぶ一室だった。
そして、ただならぬ物音を聞きつけたのか十を超える騎士達が完全武装で俺を取り囲んでいる。
「侵入者だ!全軍戦闘配置!!」
「相手は城に施された防御魔法を破った凄腕だ!魔王軍の手先かもしれん!殺しても構わん!」
「貴重な有休が!有休がオシャカになった!」
……うん、こちらに全面的に否があるからすごい戦いにくい。
後有休についてはホントすいません。それもこれも全部駄女神って奴のせいなんだ。
とにかく、俺と一緒に落ちてきた瓦礫のお陰でまだ顔は見られていない。このまま逃げてしまえば問題なし。
俺は瓦礫の中にあった布を顔に巻くと、姿勢を低くクラウチングスタートの体勢を取る。
「来るぞぉ!!隊列をくmグハァッ!!」
「魔法職は防御魔法を張れ!進行を許すnグヘェッ!!」
「まだ死にたくない!今日は有休使って嫁と息子に家族サービスしようとしてたのn痛ったぁ!!」
そして、一直線に彼らへと突っ込み有休男以外の兵士を吹き飛ばした。
後方に待機していた貴族らしき人たちは前衛が一度に吹き飛んだことに唖然としていたが、すぐに我に帰ると胸に掛けた笛を吹く。
「敵襲ーーー!!!」
そして現在に至るわけである。
いや、どうしろと!思わずそう叫んでしまいそうになるのをなんとか堪える。
聴覚を強化し巡回してきた兵士の話を盗み聞いた限りではこの城には今、この国が保有する兵のほとんどが集まっているらしい。
どうりで逃げても逃げてもなかなか逃げ切れないわけだよ!
なんなんだこの城は!ここはそんなに大事な場所なのか!それともお前らは暇なのか!?
……まずは一旦落ち着こう。焦っても何か問題が解決されるわけでもない。
第一、こっちは特典を三つも持って転移してきたんだ。よほどのことがない限り負けることは無い。
俺は一旦思考をまとめるためあまり目立たなそうな部屋に入る。
どうやらここは物置らしい。
しばらくじっとしていると、先程まで大量に響いていた足音がだんだん少なくなっていく。きっと俺が外に逃げたと思ったのだろう。
「ハァ……」
多すぎる危機を乗り越えたからなのか、全身の力が抜け、思わず座り込んでしまう。
今日は厄日だ、それも特大の。あの駄女神は今度会ったら一発、いや三十発は殴ってやろう。それくらいは許されるはずだ。
「今度……会ったら……」
あまりの疲労に次第に瞼が重くなっていく。
ここで寝るのは自殺行為であることは分かっている。
しかし、それに抗うには俺はあまりに疲れていた。
抵抗虚しく俺の意識は闇に飲まれていくのだった。
「あの、大丈夫ですか?」
誰かにそう呼びかけられ、肩を揺すられる。
俺はゆっくりと目を開け、意識を取り戻す。
部屋にはすでに月明かりが差している。随分長い間眠っていたようだ。
そして目の前には少女が座っている。金髪のセミロングに澄んだ碧眼。知性に満ち溢れ、それでいてどこか無垢な様にも感じるその少女は俺のことを心配そうに見つめている。
どうやら、彼女が俺のことを起こしてくれたらしい。
「あぁ、すみません。ありがとうございます。俺は大丈夫です。ちょっと疲れていただけなんで……!?」
瞬間、俺は自身の状況を思い出し、少女と距離を取る。
その拍子にフードが外れてしまったが、もうすでに彼女には顔を見られている。顔を隠そうがもう関係無いだろう。
「あの……」
「俺に近づくな!」
少女は急に態度を変えた俺に対しびっくりした様子だったが、それでもこちらを心配そうに見ている。
しかし、それすらも演技である可能性が俺の中で否定出来かった。
本当に、どうしてこんなことになったんだろう。
理不尽な神様の都合で殺されて、いきなり異世界転移する羽目になって、城の兵士達に追いかけられて、今や親切にしてくれた女の子にまで疑いの目を向けなければならない。
いくらなんでも過酷過ぎじゃないか?
ようやく感情が追いついてきたのか目から涙が溢れてくる。自分がコントロールできない。
すると彼女は俺の方に向かってゆっくりと歩み寄ってくる。
俺は彼女を遠ざける言葉を吐こうとするが、言葉を発することが出来ない。
そして彼女は先程の様に俺の目の前に立つと、おずおずと俺の手を握る。
「私はあなたがどんな事情でこの城に入って来たのかは分かりません。ですが、話を聞いて、手を差し伸べることはできます。どうか話してはいただけませんか?」
どうやら俺が騒ぎとなっている侵入者であることは薄々気づかれていたらしい。
しかし、こうして手を差し伸べてくれるということは、彼女はすごくお人好しで、世間知らずなのだろう。
一歩間違えれば他人に簡単に利用されてしまいそうな危うさを感じる。
俺は彼女に向けて、ポツポツと話し始めた。まるで駄目な女神、略して駄女神のミスによって死んでしまったこと、彼女の手によってこの城の真上に転移させられたこと、そして騒ぎが大きくなってしまい、たくさんの人に迷惑をかけたことを。もちろん、現代の世界に繋がる情報は伏せたが、それ以外のことは包み隠さず話した。
「つまりあなたはその...そう、ダメガミの手によってこの国に落とされた被害者ということですか?」
「はい、まぁ、どうせいまさら言ったところで誰も聞いてくれないだろうけどね。最初からもう敵認定だったし....」
自分で言うのもなんだが現状が詰みかけている。
せっかく異世界に転移が出来たのにもうすでにお家に帰りたい。
「理由も聞かずに攻撃とは、これは彼らから話を聞く必要がありますね...」
不意に彼女が何かを呟いているがそれを聞き取ることは出来ない。
聴覚を強化すれば聞き取ることは出来るだろうが、まぁ取り立てて聞くことも無いだろう。
……あとなんかオーラが怖い。聞いたらなにをされるかわからないような雰囲気を感じる。おかしい、彼女は見た目から見てもか弱い幸薄系の美少女のはずなのに。
すごく声がかけ辛い。しかし、このまま何も言わないわけにもいかないだろう。
年下の、それも女の子の目の前で泣き喚いた挙句それを慰められた手前、会話がないとあまりに恥ずかしいし、気まずい。
何か話題を見つけなければ、何かないか!何か話題!駄目だ天気の話か日課の筋トレしか浮かばねぇ!でもこの子筋トレ興味無さそうだし女の子だし第一俺人と話すの苦手だし!
そんなことを考えていると外から大量の足音が聞こえてくる。
おそらく俺を探していた騎士達だろう。どうやら、俺の叫びを聞きつけたらしい。
「賊め!もう逃げられんぞ!」
「この城に入ってきたことを後悔させてやる!」
「隊長、相手は丸腰ですが、とんでもない力を持っています。油断は禁物です」
それに対し、隊長と呼ばれた男は頷き。
「よし、手加減はいらん!全軍を持って奴を討伐しろ!」
扉が凄まじい音を出しながら開け放たれ、彼らがなだれ込んでくる。
相変わらず騎士とは思えないほど会話が物騒だ。
もちろんこちらも殺されるわけにはいかない。まだ異世界に転移してから一日も経っていないのだ。何より、ここで死んだら、俺はあの駄女神に負けたことになる。
……そんなの絶対御免だ。
俺は全身にエネルギーを充填し、彼らと相対する。
隊長らしき男の号令により周囲に隊列を組まれていく。
彼らとの間に、肌を突き刺すような緊張感が漂う。
そして、その緊張感が最高超へと達し、今まさに彼らとの生死を掛けた戦いが始まろうとしたその時ーー
「待ちなさい!!」
後方から、戦いを止める声がかかる。振り返ると声の主はあの少女だった。
その声に騎士達は何故か狼狽えていた。
そして彼女は金色の髪をたなびかせ、彼らの前に堂々と立つと、こう宣言した。
「この勝負!ベルゼルグ王国王女、ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリスが待ったを掛けます!」
なるほど、この子がこの国の王女だったから彼らがここまで狼狽えていたのか。そっかそっか、それなら納得ーー
......
え?
主人公は今まで数えるほどしか喧嘩をしたことがない我々と同じ一般ピーポーです。筋トレはただ好きだからやってただけです。
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※タイトルがベルセルク城となっていましたが、正しくはベルゼルグでした。お詫びして、訂正いたします。
小説はどのくらいの長さがちょうどいい?
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