飛ばされてベルゼルグ城   作:全ての道はところてんに通ず

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やっと...やっと書けた....シリアス書くのしんどい....


二十話 それは自分が選んだ生き方か、それとも選ばされた生き方か

気がつくと、俺は不思議な場所に居た。

辺り一面は数え切れないほどの武器が地面に刺さっている赤い荒野となっており、その荒野は見渡す限りどこまでも続いている。振り仰げば、まるで右手にあった呪いのように紅黒い空に、巨大な歯車がひしめいていた。

....ここはどこだ。確か俺は暴走したリヒターと戦って、それで奴の最後の攻撃を避けようとしたんだが....もしかして、俺はアイツの攻撃を食らって死んでいるのか? いや、もし死んだのであれば俺は今頃あのクソッタレの駄女神のところに居るはずだ。

俺がそんなことを考えていると、不意に視線の端で何かが動く。視線を向けると、荒野の少し盛り上がり丘となっている場所に赤い外套を纏った浅黒い肌の男が立っていた。

その男はこちらに気づくと少しだけ驚いた表情をしていたが、すぐにその表情を柔らかいものへと変え、こちらに向かって歩いてくる。

俺はそんな光景をしばらく見て、心の中で一つの結論を導き出した。

 

「なんだ....夢か....」

 

「当たらずとも遠からずというところであるが、とりあえず僕の存在を夢扱いするのはやめてくれ」

 

どうやら夢じゃないらしい。

 

「ここは君の魂の中に存在する精神世界、正確に言えば君が手に入れたチート『剣製』の中にある世界だ。僕はそのチートに残った前任者の魂の残滓。名前は....そうだな、アーチャーとでも呼んでくれ。敬語もいらない」

 

また偽名か、また偽名なのか。なんなんだこの驚きの偽名率は。俺が今まで出会った転生者ミツルギさんを除いて全員偽名なんですけど。

 

「えっと、ならアーチャー。聞いてもいいか?あの後どうなったんだ?みんなは?」

 

「そこについては心配無い。既にリヒターは無力化されている。君の読み通り、虫に寄生されていたがね。他の君の仲間達も全員無事だ。あの戦いに死者は誰一人として出ていないよ」

 

やっぱりリヒターは寄生されていたらしい。それなら今の王都の状況は表面化されていないだけでかなりヤバい。なにせ俺が初めて奴と戦った時、奴が寄生されていたなんて少しも感じなかったのだ。もしかしたら貴族、もしくは王都全体に虫が既に蔓延している可能性が出てきてしまったのだ。死者が一人も出なかったのは嬉しいけど、楽観視もしていられない。

 

「そうか。じゃあこの右腕は?なんで失ったはずの右腕が生えてきてるんだよ?しかも呪いで作られたっぽいヤツだし。呪いが進行したのか?」

 

「いや、そうではない。それは僕が呪いを操作して腕の形にしたものだ。流石に隻腕で戦うのはまずいと思ったからね」

 

「呪いを操作って....なんでそんなことできるんだよ?」

 

「それは僕が呪いの一部だからだよ。そもそも君の中に『剣製』のチートが出現したのはシュレイブニルが呪いのエネルギーを今まで取り込んだ人間の魂から抽出したことで、呪いと共に魂の残滓が君の身体に入り込んだことが原因だ。あくまで残滓だから君の身体にある呪いを取り除くことはできないが、形状の操作ができるようにパスを繋ぐことくらいはできる」

 

それを聞いた俺は、試しに自分の(?)右手を何度か握ったり開いたりして動かしてみる。右手は俺の思い浮かべた通りに動いた。感覚も右腕があった時と違いは見受けられない。

 

「一部ってことは他にも俺の呪いの中に存在してる魂はあるのか?」

 

「ああ、いるとも。ただ僕以外の魂の自我はほとんどシュレイブニルに食われているから実際に君と会話ができるのは僕くらいだがね」

 

いや怖いよ。自我を食われたってなんだよ。もしかしてアイツが虫なのに無駄に喋れたりしたのってそういうことかよ。なんでこの世界は全体的にゆるいのにところどころ妙にリアル思考なんだよ。レベルが上がったから喋れるようになりましたでいいじゃん。

 

「まぁ、そういうことならいいか。魂の同居人とか変な気持ちになるけど。これからよろしく」

 

俺は自分の中に生まれたいろいろな気持ちから逃避すべくアーチャーに向かい手を差し出す。アーチャーは少しの間面食らったかのように目をパチパチとさせていたが、すぐに俺が握手をするために手を差し出したことに気付いたのだろう。彼はニヒルに笑うと俺の手を握る。

 

「手を握っておいてなんだが、君は少し警戒心が足りないような気がするよ。シュレイブニルが演技をして君を騙そうとしているとは考えなかったのかい?」

 

「それは....まぁ、うん。だけど今俺が騙されて身体を乗っ取られても幸いジェシカのおかげで回復したとはいえ俺怪我人だからさ。多分結構簡単に城のみんなは対処してくれるよ」

 

たしかにアーチャーがシュレイブニルの操っているものと考えることもできるだろう。しかしその先入観に囚われて何もかも疑ってもしょうがないだろう。それに俺が今いる場所は王都だ。たとえ俺が暴れたとしても被害は最小限に抑えられるだろう。

 

「....やはり、君は少しばかり歪んでいる」

 

「?、なんか言ったか?」

 

「いや、なんでもない。それより空を見てみろ。そろそろ時間だ。夜明けらしい」

 

言われた通り空を見てみると、紅黒い空に少しではあるが光が差している。そんな相反する感情を湧き立たせる物が混在する幻想的な光景が領域全体に広がっていく。

 

「...あの、すごく助かった。いろいろ助けてくれて。でも夜明けって言われても、どうやってここから覚めればいいんだよ?」

 

「目覚める方法は単純だ。対処に強い衝撃を与えればいい」

 

アーチャーはそう言ってさっきやった握手のようにして俺の左手を掴む。すると、彼の腕に回路のような模様を描く青白い光が走った。

 

「.....ッッ!!!」

 

その直後、身体に雷が直撃したかのような衝撃が襲う。そして先程の彼の腕にあった回路のような模様が俺の全身に広がっていた。

あまりの衝撃に立っていられず、俺はその場に跪く。

 

「今、君の身体に僕のチート『剣製』と、魂の知識の全てを継承した。これで不完全だったころと違って、その能力を余すことなく使えるだろう。それに継承の時に強い衝撃も掛かるからこの世界からスムーズに帰還できる。これぞまさしく一石二鳥というやつさ」

 

その言葉と共に、俺の身体には浮遊感が生まれる。空の光はさらにその輝きを強め、俺は思わず目を瞑る。すると、急速に意識が遠のいてきて.....

 

「では、しばらくの別れだ。君の想い人、しっかり守ってやれよ?」

 

「いや、え、ちょっと待ーー」

 

彼の言葉を否定する間もなく、俺の意識は闇に飲まれていくのであった。

 

 

 

 

 

「いや、そういうのじゃねぇから!!」

再び目を覚ますと、そこは城の医務室のベッドの上だった。外は既に真っ暗になっており、戦いからかなりの時間が経過したことが分かる。

そして俺の右腕には呪文のような模様が書いてある包帯が隙間なく厳重に巻かれていた。どうやらなんらかの封印が施されているらしい。

俺は周りの状況を把握するため身を起こそうとする。しかしその時、体の上に何かが乗っかっているような感覚があることを俺は認識した。顔を向けるとそこにはスヤスヤと眠るアイリスの姿があった。状況から鑑みるに、おそらくお見舞いの途中に寝てしまったのだろう。

俺はアイリスのそんな姿に微笑すると、愛おしい彼女の頭に手を落とすーー

 

「いや、違うよ?」

 

直前で俺は正気に戻った。

なんだ愛おしいって!?そして今何をしようとしてた俺!?

いや違うんだよ?別にアイリスが愛おしいとかそういうのじゃなくてね?いや、愛おしくないとか言うと語弊があるんだけど。ただ俺にとってアイリスは命の恩人で夢を叶える手伝いをしたい対象ってだけで、アーチャーが言ってた想い人ってわけじゃないんですよ。

それにこの状況についても説明が欲しい。どうしてアイリスがこんな真夜中に俺のベッドに寄りかかっているのか。しかも周りに護衛の姿は無い。おそらく抜け出してきたのだろうが。クレアとレインにはもっとしっかりとした警護をしてほしいところだ。

俺がそんなことを考え身悶えしていると、アイリスの身体がブルリと震える。まさか起きるのか、俺は身構えるが起きる気配は感じられない。どうやらただの身震いだったらしい。

しかし、部屋の中とはいえ布団も被らずに寝ていれば彼女は風邪をひいてしまうかもしれない。

万が一風邪をこじらせて重症化なんてしてしまったら?

病死は寿命扱いとされて、リザレクションでも蘇生が不可能なのだそうな。

つまり、戦闘で死んだりするよりも、病に倒れることがよっぽど恐ろしいことであり、それが王女であるならばなおさらだろう。

だから、アイリスをベッドに入れるのは不可抗力であり、むしろーー

 

「違う、そうじゃない」

 

むしろじゃねぇよ頭イカれてんのか。

ダメだ、この状況に俺も少々混乱しているらしい。

落ち着け、まずは落ち着くんだ鈴木誠也、アーチャーの言葉に惑わされるな!これは罠だ!

俺は起こさないように細心の注意を払いながらアイリスに布団を被せる。心なしか表情が穏やかになった。かわいい。

ヤバい、アイツの言葉に惑わされる気がする。

というかこの状況、冷静に考えてみればクレアに殺されるのでは?

先程とは打って変わり、全身から冷や汗が流れる。

だが待って欲しい、この状況は俺が意識を失っている時に作り出されたものであり、決して俺のせいではない。

それはともかくとして、この状況はなんとかしよう。とりあえずアイリスはここに置いて、俺は自分の部屋のベッドにでも行こう。

そう決意して、俺がアイリスを毛布と共にそっと抱き上げた、その時だった。

 

アイリスの目がパチリと開き、眠たげな目で状況を把握しようと目の前にある俺の顔を見る。

 

「あ、えっと、おはようアイリス」

 

「ああ.....おはよう御座いますセイヤさん。.....ええっと、私はどのくらい寝ていたのでしょうか?」

 

「さぁ....俺が起きた頃にはもう寝てたから....」

 

俺がそう言うと、アイリスはなるほどと眠たげな目を擦りながら呟いた。

そして、ハタと今の状況に気がついたらしい。

 

「....え、あの、え!起きてるじゃないですか!それに私抱えられて....ええ!?」

 

あかん、アイリスが混乱している。

 

「とりあえず一旦落ち着け。今下ろすから」

 

俺はそう言いながら、アイリスをベッドの上へと座らせる。アイリスはしばらくの間顔を赤くしながらパニックとなっていたが、しばらくするとだんだんと落ち着きを取り戻していく。

 

「....あの、起きたんですね。あの戦いが終わってから今までずっと寝ていたので、すごく心配したんですよ」

 

「それについては、まあ、ごめん。話には聞いてると思うけど、いろいろと説明を受けててさ」

 

俺が倒れてから今に至るまで、おそらく半日以上は経過しているのだろう。随分と心配をかけてしまったらしい。反省しよう。

 

「そういえばリヒターは?アイツも怪我してたからここにいるはずだろ?」

 

その問いにアイリスの表情が曇る。

 

「彼は....行方不明なんです。怪我の治療のため兵士達が医務室へと運んでくれたはずなんですが、少し目を離した隙に...」

 

おそらく口封じのため誘拐されたか殺されたのだろう。どうやら本格的に殺伐としてきたなこの城。

 

「槍は?アイツはともかくとして、あの槍が敵に取られるのはかなりまずいんだが」

 

「それについては心配ないです。ここに置いてありますから」

 

アイリスが指差した方には、リヒターの使っていた紅い魔槍がかなり雑に立てかけられていた。神器なのに。

まあ、槍がここにあるのは助かった。いくら防御する策があるとはいえ、あの一撃を再び向けられるのは心臓にかなり悪い。

 

「あなたが倒れた後、会議が開かれたんです。そこで、彼のような"テンセイシャ"という人を危険視する声が上がっていて...あなたにも疑いの目が掛かっていて....」

 

なるほど、リヒターを暴走させたのはこの為だったか。

たしかに、ここ王都に在籍している転生者は数多くいるし、その戦力も凄まじいものがある。しかし、彼らは誰かに与えられた力を振り回されている分、何かを考えて実行する能力に欠けるのだ(もちろん、俺もそうでないとは言い切れないが)。

そしてそんな中、彼らの舵取りをしている王都が転生者に疑いの目を向け、危険視したらどうなるか。

当然、彼らは強大な戦力を失った王都と共に滅びるだろう。

おそらく、というか確実であるが、この件には魔王軍と深い関わりのある貴族派閥が関係している。

彼らにとっては、今日リヒターが暴走した時点で作戦は成功していたというわけだ。

 

「ごめんなさい.....私があの時戦いに参加していたら、あなたは辛い思いをすることも無かった....」

 

アイリスの表情から察するに、俺がどうやってリヒターを止めたのかは彼女に伝わっているらしい。

念のため自分の腹を確認してみると、貫かれた傷はなんの痕も残すことなく完璧に塞がっていた。

 

「いや、それこそ敵の思うツボだった。今、俺が"疑われている"というだけの立場にいるのはアイリスが状況を判断して引いてくれたおかげだ。それが無かったら事態はもっと深刻なものになってた」

 

「でも....!」

 

「それにさ」

 

俺はアイリスの言葉を遮ると、彼女の頭にポンと手を置く。

 

「俺は単純に嫌だったんだよ。王族とはいえ、11歳の女の子を人の殺し合いに巻き込むのは。だから気にすんなよ」

 

「.....あなたも私とそこまで歳は変わらないじゃないですか」

 

「うるさいやい」

 

流石に空気には流されてくれないか。それに痛いところを突いてきやがる。

俺が図星を突かれオロオロとしていると、そんな俺を見ていたアイリスがクスリと笑う。

 

「今はそれで納得します。あなたの言ったことに嘘はありませんし、私を気遣ってくれたことも分かりますから」

 

「そ、そうか。よかっ「ですが」

 

アイリスの表情が再びジト目に戻る。

 

「次、あなたが何かと戦うことがあったら私も一緒に戦わせて下さい。何もできずに誰かが傷つくのはもう嫌ですから」

 

「いや、でも他の貴族、あとクレアがなんて言うかーー

 

「その時は私がねじ伏せます」

 

Oh..... violently.....

じゃないわ。脳筋すぎるだろ。仮にも王族がそんな対応でいいのかよ。貴族はともかくとしてクレアが泣くぞ。レインは折れそうだが。

俺はしばらくの間彼女を踏みとどまらせる言葉を必死に考える。しかし、アイリスが真剣にそれを言っているのは目を見ればわかる。それに、俺を心配してることも。

 

「.....わかった、その時はよろしくな」

 

「はいっ!」

 

結局、俺はアイリスの言葉を曲げられず、なんとも言えない気持ちになりながらも同意するのであった。

ちなみに、槍は俺の部屋に移した。いつまでも病室に置くわけにもいかないしな。

 

 

 

 

次の日、眠りから目覚めた俺の眼前にあったのは、非常に良く鍛え上げられた腹筋だった。

 

「無事で本当に良かった!怪我は無い?何処か痛む?変になってる所があったら言ってね!」

 

「今現在変になってるのはお前だ!抱きしめんな元怪我人を!」

 

暑苦しいし絵面がヤバいんだよ!

 

「ああっとごめんなさい、つい感極まっちゃって。それで何度も言うようだけど、大丈夫なの?」

 

「おう、それはもう大丈夫。傷は完全に塞がったし、この前入れ替わった奴ともちゃんと話せたから。ジェシカこそ大丈夫なのか?ほら、一応お前も転生者だろ?貴族達からの圧力とか無かったのかよ?」

 

俺がそう言うと、ジェシカは複雑そうな顔をする。やはり、なんらかの圧力があったらしい。

というか、貴重な医療職に圧力かけんなよ。お前らにとっても生命線だろうが。

 

「まぁ、お前が無事ならいいけど。困った時は言えよ」

 

「セイヤちゃん.....!」

 

「すっごい笑ってやるから」

 

「ハハハ、言ってくれるじゃないのよこのやろ....以外とこの子力強....イタタタタ!!」

 

「そういえば、立て続けにこの城の危機を救ったんだ。何か褒美とか無いの?」

 

掴み掛かってきたジェシカをいなしアイアンクローを掛けながら、俺はクレアにそう問いかける。

 

「そうだな....本来の流れであるなら、お前のように成果を上げた者に対してはそれ相応の褒美が与えられることになっている」

 

おお、それは素晴らしい。成果を上げれば上げるだけそれに見合った報酬が貰えるということか。

 

「しかし、わかっているだろうが今この国には"テンセイシャ"を敵視する声が上がっている。一部の貴族達は大反発するだろうさ」

 

「つまり?」

 

「お前に与えられるはずだった褒美は虚構に消えたということだな」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺は膝から崩れ落ちる。

なんてこった。せっかく積みあげた成果がオシャカになっちまった。

というかなんだよ反対って。成果を上げたことは事実なんだから、そこ対して賛成も反対も無いだろ。それに反対してる奴ら、今回も何にもしてないだろうが。

 

「いっそのことアイツら全員埋めてやろうか....邪魔だし」

 

全員頭から地面に叩きつけて埋めてしまえば、多少は話を聞いてくれるようになるかもしれない。

ただの脅迫だろって?失礼な、肉体言語を利用した正当な交渉だよ。

 

「気持ちは分かるがやめろ!あんな奴らでも我が国の政治を回している重鎮なんだ!わかった、私が多少の便宜なら通してやる!だから落ち着け!」

 

「出てる!なんか紅黒いオーラみたいなのが包帯の隙間から出てるわよ!」

 

そう言われたので自分の右腕を見てみると、たしかに呪いのようなオーラが封印の包帯の隙間から出ている。どうやらこの呪い、自分で操作できるようになったがその代わり感情に左右されるようになってしまったらしい。少し意識を向けると収まった所から見るにあまり心配は無さそうだが。

まあ、クレアが便宜を測ってくれるのであれば大抵のお願いは通るだろう。コイツ一応大貴族のシンフォニア家のご令嬢らしいし。

 

「それじゃあ、この城の武器を管理してる部屋に入らせてくれ。できるか?」

 

「出来るか出来ないと言われれば容易く出来るが....どうしてそんなことを望む?」

 

「剣製で作れる武器を増やしたいんだよ。リヒターと戦った時、出せる武器の少なさと武器の質で苦労したからな」

 

今回は仲間が居たのとリヒターが槍の性能100パーセントで戦っていたからなんとか勝利を掴むことができたが、今後はもっと強力な敵が現れる可能性がある。そんな時になって武器が足りなかったり、質が低かったりしたら笑い話にもならないからな。

 

「思ったより簡単な要望で助かった。物騒なことを言った手前、反対派の貴族達を一発ぶん殴りたいとか言い出しかねないと思っていたからな...」

 

「反対派の貴族の前にお前をぶん殴ってやろうか?」

 

失礼なこと言いやがる。俺だってそこまでバカなことはしないわ。いや、殴りたいとは思ってるけどさ。

 

「まあまあ、そういうことなら今から許可を貰いに行ってきてもいいんじゃない?セイヤちゃんの身体にも異常無いみたいだし」

 

「それもそうだな....よし、今なら朝早いからほとんどの貴族は業務に集中しているだろうし、彼らから見られない内にさっさと済ませてやろう....すぐ行って帰ってくるからな?殴りに行くなよ?」

 

「行かないからはよ行ってこい!」

 

クレアは不安そうにこちらを見ながら立ち上がり、この部屋を立ち去る。当然この部屋は、俺とジェシカの二人きりになる。

どうしよう。オネエと二人きりとか何か身の危険のようなものを感じるんだけど。

 

「....ねぇ、セイヤちゃん?」

 

「は、はい!なんでございましょうか!!」

 

恐怖のあまりつい敬語が出てしまう。しかし、そんな俺の考えはジェシカの顔を見た瞬間に何処かへと消えてしまった。何故なら、ジェシカが今まで見たこともないくらい真面目な顔をしてこちらを見ていたから。

 

「どうしてあの時、あんな危険な作戦を立てたの?」

 

「あの時ってのは....俺がリヒターと戦った時だよな?」

 

「そうよ。たしかに、あの時あなたが立てた作戦は見事にうまくいってリヒターの動きを止めることができたわ。だけどあなたはあの作戦を実行する時、怖いとは思わなかったの?」

 

「思ったけど....でも、そうじゃなきゃもっと被害が出てた。人も死んでいたかもしれない。クレアが、レインが、そしてお前が傷ついていたかもしれない。俺はそれが嫌だった」

 

嫌だからこそ、俺はこれからも頑張らないといけない。頑張って強くならなくちゃいけない。俺は沢山の人を守らなければいけないのだから。

 

「でも、それはあなたが傷ついて良い理由にはならないわ。あなたはもっと自分を大切にするべきなのよ」

 

ジェシカは諭すようにそう言って俺の肩に手を置く。

言っていることは向こうの方がきっと正しい。誰かのために自分が傷ついてそれで何もかもが解決するなんて、そんなことが美談となるのはきっと物語の中だけの話なのだろう。でも、それでも、

 

「それでも、俺はそっちの方がいい。誰かが傷つくより、自分が傷つく方が、ずっと」

 

そう言った俺に返ってくる返事は無い。表情も窺い知ることはできない。しかし、肩に置かれた彼女の手は僅かに震えていた。

不自然なほどの静寂が、この部屋の空気を澱んだ物へと変えていく。

そんな静寂がしばらく続いた。顔は合わないが彼女が何を考えているのかはおおよそ理解することができた。そして、彼女が再び口を開こうとしたその瞬間ーー

 

部屋のドアが勢いよく開く。そしてそこからクレアに加え、レインとアイリスが部屋へと入ってくる。

 

「....どうしたクレア。なんか増えてるが」

 

「いや、私だってアイリス様を連れてこようと思っていたわけではないのだ。ただアイリス様に私も連れて行ってほしいとお願いされて....」

 

「私も前々から武器庫を見てみたいなと思っていたのでどうせなら一緒に行こうと思いまして....ダメ、でしょうか?」

 

「全然良いと思います」

 

おい、意見がコロコロ変わりすぎだ。アイリスのこと好きすぎるだろお前。あと鼻血を出すな。今回は俺殴ってもいないだろうが。

 

「で、レインはなんでここに?」

 

「私はアイリス様を止められず、ここまで引きずられてきました....」

 

「....ドンマイ」

 

レインはいつも苦労してる気がする。なんかかわいそうに思えてくるのは俺だけなのだろうか。今度何か奢ってやろう。

 

「で、クレア、結果は?」

 

「ああ、そうだった。王に確認を取ってみた所、自由に見て回っても良いとのことだ。万が一のため監視を付けろと周りの貴族がうるさかったのでな。私が監視役として就くことになった」

 

なるほど、まあこの状況でそれだけの条件で済むならこちらとしても万々歳だ。

 

「それじゃあ今から行こうぜ。クレア、案内」

 

「大貴族を顎で使うな!....まあ、今回はお前の働きに報いるために企画したものだ。案内くらいはしてやる。着いてこい」

 

そう言って歩き出すクレアにレインとアイリスは着いていく。そして彼女達に続こうとした俺の足は、扉の前で立ち止まる。

俺は身体を反転させ、ジェシカと顔を相対させる。ジェシカの表情は不安に満ちていた。きっとそれは自分に対してではなく、俺に対してだ。

 

「....ジェシカ」

 

「....どうしたの?」

 

ジェシカが俺にかける言葉はどれも優しい。彼女とは少しの付き合いではあるが、彼女は優しくて、誰かを助けることに全力になれる人だとわかった。

 

「また、来ても良いか?あの、辛くなった時」

 

自分の生き方は曲げることができない。しかし、彼女の優しさを無下に出来るほど、俺は人でなしにはなれない。だから、そんな優しさに寄りかかる俺は、きっと最低な奴なのだろう。

 

「....ええ、いつでもいらっしゃい。辛くなくても、遊びにいらっしゃいな」

 

しかし、そんな俺にジェシカはそう言って微笑むだけだった。

俺はそんな彼女の言葉に対し、少しぎこちない笑みを浮かべることでそれを返す。

そして俺はそのまま彼女に背を向け、部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

仄暗い地下室に、水の滴るような音が反響する。

そこは数々の実験道具が存在する実験室のような場所だった。それらの実験道具は怪しく光り輝き、その中心には一人の男が居た。

 

「うーん、やっぱりこの掛け合わせだとパワーはあっても持久力にかかるんだよなぁ....もう少し持久力のある個体を足すか。参考までに聞きたいんだけどさぁ、リヒターくんはどう思う?」

 

彼は隣にいる男にそう声を掛ける。しかし、その返事が返ってくることは無い。何故なら、その男には既に言葉を発するための頭部が欠如しているからだ。

 

「ああ、そうだった。コイツは実験して殺しちゃったんだっけ。じゃあもう要らないや」

 

彼はその男の死体を部屋の隅にある箱へと投げ入れる。その瞬間、箱から肉を食い破るような異音が鳴り響き、投げ入れられた死体はどんどんと箱の中へと消えていく。

 

「はぁ....まったく。研究っていうのは上手くいかないものだよね。最高傑作のシュレイブニルだっていつのまにか消えちゃったし、モチベーションが下がるわー。それに民間人に手を出し過ぎると魔王様怒るんだよなぁ....それが一番楽しいのに。でも仕事だから文句も言えないしさ。嫌になっちゃうよ」

 

彼は背もたれに寄りかかりながら恨みごとを呟く。そうしてしばらく時間か経過すると、固まって身体を無理やり動かすようにして椅子から立ち上がる。

 

「でもまぁ、もう少しで僕が立てた計画も承認されそうだし。それまで我慢しますか!」

 

そして彼は研究室の奥へと歩いていき、そこにあるいくつかの培養液のタンクの前に止まる。その中には夥しい数の巨大な百足のような怪物がギチギチという鳴き声を上げながら蠢いていた。

 

「さあ、もう少しで君たちを盛大にお披露目することができるよ!みんなどんな反応をするのかな?恐怖?絶望?それとも狂乱?ああどれもすごくイイ!本当に待ちきれないよ!アハハ、アハハハハ、アハハハハハハハハ!!」




「なんだこの剣?無駄に豪華な装飾施されてるけど」

「なんとかカリバーっていうこの国の国宝らしいです。しかし鞘の装飾が綺麗ですね...父上に言ったら貰えないでしょうか?」

何も知らない二人の会話。

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王都でのストーリーは大体決まっているんですが、長いです。どうすればいいでしょうか?

  • 王都での話をフルで書いても良いんだゾ☆
  • 早くアクセルに行くんだよ。あくしろよ
  • ちくわ大明神
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