飛ばされてベルゼルグ城   作:全ての道はところてんに通ず

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大変長らくお待たせいたしました!
死ぬほど忙しいんだ。許せ、サ○ケ。


二十二話 これは非公式な視察であって、断じてデートではありません

「ーーというわけで、アイリスを1日外に連れ出したいんだが」

 

「お前は何を言っているんだ」

 

こんな朝っぱらから事務作業に従事しているクレアは、俺のそんなささやかなお願いに対し辛辣な答えを返す。

 

「いやなんでだよ。今日アイリスはなんの用事もない休日なんだろ?遊びにくらい誘ってもいいんじゃないのか?」

 

「....あのだな、お前は長い間この城に居るせいで感覚が麻痺しているのだと思うが、アイリス様はこの国の王女なのだぞ?そうやすやすと遊びに誘うのはーー」

 

「私がどうかしたんですか?」

 

話を聞きつけたのか、部屋の奥からアイリスがひょっこりと現れる。

 

「いや、たいしたことじゃないんだ。ただちょっとクレアにアイリスと外に行けないか相談をしていただけ」

 

「行きます!」

 

アイリスは話を最後まで聞き終える事なく目を輝かせながら即答する。

 

「行かせません!行かせませんよアイリス様!王女がそんな軽々しく外に出ようとしないでください!」

 

「そうですよアイリス様!どうかご自重くださいませ!」

 

そんなアイリスに2人は口々に静止の言葉をかける。

どうやら相当に警戒されてるらしい。まあたしかに気持ちはわからなくもないけどさ。

俺は2人の肩を引っ掴むと、部屋の隅へと引きずっていく。

 

「クレア、レイン。一応いっておくがこれにはきちんとした訳があるんだ。軽々しく言ったんじゃない」

 

「ど、どうした?いつになく真面目な表情をしているが...」

 

「まあ聞けよ。ほら、ほとんどの貴族もそうなんだがアイリスって今まで城の中で大切に育てられていたこともあってか、ちょっと....でもないか。世間知らずな所があるだろ?」

 

「まあ、そうだな」

 

俺の言葉に頷くクレア。いや正直あなたも大概なんですけどね?

 

「たしかに、貴族で世間知らずっていうのは珍しい話じゃない。貴族は一般的な平民の生活とまったく違う生活を送っているからな。それが王女であるならなおさらなんだろう。だけどこれから国を治めるかもしれない人間がそこに住む人達の生活とか文化を全く知らないってのはどうなのよ?」

 

王、または女王はその国の統治者だ。その国の生活、道具、文化、宗教などを詳しく把握する必要がある。出す政策によってはその国の文化などを大きく変えてしまうこともあるのだ。上に立つ者はそれだけ多くの知識を身に付けることが大事になってくる。

 

「少なくとも俺は平民として、下に立つ人々の事情も知らずに指示を出す王はその地位にふさわしくないと思うしそんな国はすぐにボロが出る。だからこそアイリスには普段一緒に授業で受けている書面上の知識だけじゃなく、アイリスが実際に見て、感じて、そういう知識も培っていって欲しい。だからこそアイリスのため、またこの国のため、彼女が外に出ることを許してくれないか?」

 

「.....まさかお前がそんなにもこの国を想っていたとは!よし、私が内密に話を通してやる!存分に行ってこい!」

 

クレアはそう言って自身の胸をドンと叩く。

 

「よし」

 

「よしじゃありませんよセイヤ様、クレア様もごまかされないでください!たしかにセイヤ様の言っていることも間違いではありませんがそれなら我々も交えて視察という名目で行けばいいだけのこと!わざわざ非公式に外に出て危険度を高める必要はないですよね!」

 

クソ!レインのやつ意外と冷静だ!

俺はそんな姿を見て少し考えると、後ろに居るアイリスを指指す。

 

「アイリスも行きたがってるしさ。クレアとレインはアイリスのお願いを聞いてあげられないのか?」

 

「何でも聞いてさしあげるに決まっているではないか」

 

「聞かないでくださいクレア様!セイヤ様はクレア様の忠誠につけ込むのはやめて下さい!アイリス様の教育に悪すぎます!」

 

短いやりとりの中で既に疲労困憊なのか、ゼェゼェと呼吸を荒げながらレインは泣きそうな声を上げる。

これでもダメか、どうやらレインの意思は固いらしい。

 

「しょうがないな。分かった、ここまで説得してもダメなら別の方法で2人を納得させるよ」

 

「今までのは説得じゃなくて悪質な詐欺ですよね!?それにどんな事をされてもこのレイン!納得なんてしませんよ!ただでさえアイリス様が外に出るだけでも大目玉なのに一緒に行ったのが最近城内で黒い噂の絶えないテンセイシャなんて知られたら大幅減給は避けられないんですからね!」

 

失礼な、俺は何もしてないだろうがよ。

まったく頭の固い貴族の連中はこれだから嫌なんだ。噂だけで人のことを判断しやがって、ヘドが出るわ。

 

「2人とも、修練所に来い」

 

「.....へ?」

 

レインは俺の次なる手に警戒するように身構えたままの体勢で固まる。

 

「ようは城の外に行ってもアイリスを危険に晒さないって証明できればいいんだよな?だったら今からその身を持って証明を.....」

 

「行ってらっしゃいませセイヤ様、アイリス様」

 

俺が言い終わる前に、レインは一雫の涙を流しながらそれはもう綺麗な礼を見せた。

可哀想だからアイツらの給料は俺のポケットマネーでなんとかしておくことにしよう....言うほど無いけど。

 

「あとアイリス、もう証明はしなくていいから剣を下ろせ。2人が露骨に怯えてる」

 

「そうですか......」

 

そこ、残念そうな顔をするんじゃあない。狂戦士(バーサーカー)かお前は。

 

 

 

 

 

 

城を出て少し歩いた先、この王都の中で最も賑わっているであろう中央街。

 

「セイヤさん、セイヤさん!あの建物は何ですか!?あそこに浮かんでいる板のような物は!?私、気になります!」

 

「はしゃぐ気持ちはわかるが少し落ち着け。あの建物はただの宿屋だ。あそこに浮かんでるのは多分魔道式の広告版だろ。取り付けてあるマナタイトの魔力で浮いてんだよ」

 

俺は大はしゃぎでそこらじゅうに目を向けるアイリスの後を、歩調を合わせながら追いかけていた。

 

「というかアイリス、城から出た瞬間からずっと気になっていたんだが......その格好は一体なんなんだよ?」

 

俺はアイリスにそう尋ねる。

というのも今、アイリスは紫色のネコ耳?ウサギ耳?のついた純白のローブという圧倒的に目立つ格好で大通りの真ん中を闊歩している。こんな格好ではフードで貴族の象徴である金色の髪を隠せたとしても別の意味で人の興味を引くことだろう。俺だってそんなやつ街中でみかけたら2〜3度見はする。

 

「この格好ですか?これは宝物殿にあった自分の正体を隠せる魔道具らしいです。お父様の肩を叩きながらお出かけをしたいのですがなにか良い道具はありませんか?と聞いたら大量のお金と共にこれを.....」

 

ダメだあの極甘王、早くなんとかしないと。

いや多分その道具って国宝ですよね?だってただの人ならともかく周りにチラホラいる高レベルそうな冒険者すらアイリスに見向きもしないんですもの。娘に肩たたきされたくらいで渡すレベルのもんじゃないだろこれ。あと国の血税を王女に勝手に渡すな。

 

「『交渉をする際は、利益を受けたと相手に確実に認識させるべき』あなたから教わった通りでした!」

 

俺はいつか王かクレアに処刑されるかもしれない。

ヤベェ、ヤベェよ。レインの言う通り完全にアイリスに悪影響を与えてるよ俺。

いや、物事をネガティブにばかり考えるんじゃない!その分アイリスが世の中を生きやすくなった。良いことじゃないか!

.....それはそれとして、責任を負うという意味で宝物殿から消えた金くらいは補填したほうがいいだろうか。

やっぱりやめておこう。俺のポケットマネーじゃ絶対に無理だ。

 

「それじゃあ行くか。一応言っておくが、物珍しい物に惹かれてはぐれたりするなよ?」

 

「そんな子供みたいな事はしません!それより早く行きましょう!さあ、さあ!」

 

「その子供がこのテンションだから心配なんだよなぁ.....」

 

俺はずんずんと奥へと進もうとするアイリスを引き止めつつ、仲良くしている城の執事やメイドに休憩中に模写してもらった王都の地図を手帳から取り出す。

今回の外出の目的はアイリスに外の世界を知ってもらうのもあるが、一番の目的はアイリスとの関係修復にあるのだ。

というのも最近、俺はアイリスと顔を合わせるのを避けている。原因は言わずもがなアーチャーのあの言葉なのだが、あれ以来俺はアイリスとあまり話ができていないのだ。今回の外出でそれを解決し、後顧の憂いを晴らす!

 

「事前に色々聞いて、オススメスポットはいくつか抑えてるんだ。まずはそっちに行こうぜ」

 

「わかりました!案内よろしくお願いします!」

 

アイリスはそう言うと目を輝かせたままこちらに向かい微笑みかけてきた。何故か反射的に俺は顔を逸らしてしまう。

.....やっぱりダメかもしれんね。

まずい、このままだとこの謎の感情に飲み込まれてしまう。早くなんとかしないと。

俺はブンブンと頭を振ることでその感情を吹き飛ばす。

 

「そ、それと、さすがに認識阻害をかけているとはいえお前のことをアイリスと呼ぶのは良くないだろう。街中ではアを抜いて"イリス"と名乗るようにしてくれ。俺は...適当にシロとでも名乗っておくか」

 

「つまり偽名を使うということですね!では今から私は王都のチリメンドンヤの孫娘、イリスということにしましょう!.....ねぇセ....シロ。チリメンドンヤってなんなのでしょう?」

 

「自分で設定を作っておいてすぐに頓挫すんなよ。あと俺にそんなこと聞かれても困るんだが....チリメン丼屋って言うくらいだしなんかの飲食店だろ。多分」

 

いかんせん設定が雑過ぎないだろうか。そんな一抹の不安と()()()()()()()()()()に疑問を抱きながら、俺はアイリスを連れてオススメされたスポットへと歩を進めていく。

 

「しかし、城から近いということもあってか人が多いな。おっ、あの耳が長いのはエルフで、あのちっさいおっさんはドワーフだな。正統派ファンタジーが久々すぎてちょっと感動するんだが」

 

城の中では異種族に会う機会がなかったからもしかしたらこの世界には人間と魔物しかいないのではないかと思っていたが、どうやらそれは俺の勘違いだったらしい。

 

「....シロ、珍しいものに惹かれてはぐれてはいけませんよ?」

 

そんなことを考えながらキョロキョロしていたからだろうか、アイリスが少しイタズラっぽい笑みを浮かべながら俺が言ったことを反復するようにして返してくる。

 

「へいへい、わかってるよ。と、そんなこと言って間に着いたぞ。ここだ」

 

俺は目の前に立つ建物を指差す。

 

「ここは?」

 

「ここはメモ曰く色々な道具が置いてある雑貨屋の様な店らしい。ほれ、入るぞ」

 

俺とアイリスは建物の中へと入っていく。

店内は薬草、魔石など異世界での一般的な生活に必要不可欠な道具や、おもちゃ、アクセサリーなどのアイテムが棚に並んでいた。魔導札も隅の方にあるが.....高いな。

 

「私、生まれて初めて雑貨店に入りました!店内はこのようになっているのですね!」

 

「まあ王都の中心にあるから普通よりはだいぶでかいんだろうけど、大体こんなもんだろうな。さて、じゃあまず最初にこの店に来た理由から説明するか」

 

この雑貨屋でただショッピングを楽しむのも良いが、俺は一応アイリスの教育係なのだ。その職に着いたからにはそれ相応の"学び"をアイリスに与える必要がある。

 

「雑貨屋は別名よろず屋とも呼ばれている。文字通りなんでも揃っているからそんな名前なんだが、その品揃えはよろず屋が存在する街の住民の暮らしによって変わる。例えば始まりの街とも呼ばれているアクセルは薬草やちょっとしたポーションなどの比較的に安価で冒険者を助けるような物が多く売られているし、水と温泉の街であるアルカンレティアだったらその街周辺では取れない魔石などが多く売られているんだ」

 

「なるほど、そこに暮らす街の人にとって必要な物だったり、その街では揃えにくい物が雑貨屋には集まるんですね!」

 

さすが王女、飲み込みが早い。

 

「そうだ。そしてこれらの話を踏まえた上でアイリスにはこの店を通じて国民の暮らしを感じてみてほしい。実際に見ることで今までの勉強とは違った気付きも見えてくるだろうしな」

 

「わかりました!」

 

アイリスはそう言うと店内をキョロキョロと見渡しつつ、店の奥へと進んでいく。

さて、俺も店内を見てみるとするか。考えてみれば俺も異世界に来て初めての外出だしな。

俺は一応安全のためにアイリスを視界に入れるように心がけながら、同じく店内の物色を始める。

 

「やっぱり本で見た一般的な市場価格より高く価格設定がされている...単純にそれくらい需要があるのかそのくらい国民の金回りがいいのか。どちらにせよ流石王都って感じだな」

 

オマケに冒険者がよく使うであろう消耗品にはセット価格がつけられてる。商品紹介を見てみるとどうやら近くには冒険者ギルドがあるようだ。

 

「冒険者ギルドか.....ちょっと行ってみたいな」

 

冒険者ギルドといえば転生者となれば誰でも憧れる施設の一つだろう....俺の記憶が正しければだが。

最近、記憶の消滅が目立つ。それだけでも問題なのに中途半端に感情だけ残ってるせいでいちいち行動が消滅したはずの記憶に引っ張られるから日常的に得体の知れない違和感に悩まされることになる。

そもそも、俺は記憶を失っているのだろうか。この葛藤は呪いの中に取り込まれた記憶が俺の脳へと干渉しているだけで、俺は最初から何者でもなかったのではないだろうか。

....嫌なことを考えているからか、思考がどんどんマイナスの方向へと進んでいく。せっかくリフレッシュしようと思っていたのにこんなんじゃダメだな。

俺は自身の両頬を叩くようにして気合いを入れる。

 

「よし、アイリス。そろそろ次の場所に行ーー」

 

「お、これの竹とんぼを買うのかい。お嬢ちゃんは可愛いからまけとくよ?今ならなんと100万エリスだ」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

.....まあ、そりゃあると思ってましたけどね?

少し目を離した隙に起きたあまりに予想通りすぎる展開になんだか張り詰めた空気が霧散してしまう。

俺は張り詰めた空気を排出するようにしてため息を吐くと、アイリスの元へと歩き、店員へ代金を渡そうとする手を掴む。

 

「ど、どうしたんですかシロ?そんな急に.....」

 

「どうしたはこっちのセリフだわ。なんでこんなところで大金を出してんだよ」

 

念のため商品を確認してみるが、魔道具のような気配は感じられないし、どう見ても100万エリスほどのお金がかかるような買い物とは思えない。

いきなり高級硬貨を出されて固まっている店員を尻目に、俺はアイリスに説教をする。

 

「さっきのはこの店員の冗談だ。というかこんな普通の雑貨屋に100万エリス越えの商品があったらヤバいだろ?」

 

「そ、そうなのですか?すみません。私、初めてのお買い物なので相場がよくわからなくて....」

 

と、それまで固まっていた店員が真面目な顔で竹とんぼを袋に入れ、

 

「いや、100万エリスで合ってるよ。本来なら500万エリスだけどお嬢ちゃんは可愛いから特別にまけてあげよう」

 

「そんなにまけていただいてもよろしいのですか?ありがとうございます!」

 

「やめろイリス信じるな!コイツの目を見ろ!完全に¥のマークになってるじゃねぇか!テメェも無垢な少女だまくらかして金せしめようとしてんじゃねぇ!おら、俺のも含めて代金の7000エリスだ!受け取れ!」

 

俺はアイリスの持つ袋の中から硬貨を5枚ほど取り出し、身体強化を手に掛けてその硬貨を店員の顔面目掛けて打ち出す。

 

「え......ぐわばらッッ!」

 

打ち出された硬貨は確実に店員の顔面を捉え、店員はその衝撃により壁へと突き刺さる。

俺はそれを確認すると、これ以上のトラブルに巻き込まれないようアイリスと共に店内を後にした。

 

 

 

しばらく歩いた先にあったベンチで俺とアイリスは腰を下ろす。

 

「頼むからこんな街中で大金を使わないでくれ。お前は国宝でも買うつもりなのか?平民は基本的に万を超える買い物はあんまりしないんだよ」

 

雑貨屋で買った透明な容器に入っている飲み物をアイリスに手渡しながら、俺は彼女に対し再び説教を初める。どうしよう、さっきから説教ばかりでさすがのアイリスもストレスになってたりしてないだろうか?

 

「なるほど、そうなのですね。勉強になります.....」

 

どうやらその心配は不要らしい。よかった。

 

「次は冒険者ギルドに行こうか。あそこにはこの王都の中でも比較的高レベルな人達が集まってるから国力の勉強になるからな。.....一応言っておくが、いざこざに巻き込まれない限り戦ったらダメだからな?」

 

「そうなのですか....」

 

「残念そうな顔をするな!本当に狂戦士(バーサーカー)じゃないんだよなお前!?」

 

そういえば、コイツの父親も城に居ない時は戦場の前線に出たがりだってハイデルさんがこの前愚痴ってたな.....やはり血は争えないのか。

まぁ、とりあえずはアイリスの理性を信じることにしよう。

俺はそう結論付けると座っているベンチから立ち上がる。そして振り返ると、アイリスを立たせるために手を差し出した。

 

「ほら行くぞ。城の外に居られる時間は短いんだ。素早く行こうぜ」

 

城を出た時には横にあった太陽も今や上へと登っている。城の連中もここまで長時間王女の姿を見ていないのであれば何かしらの疑問は抱くだろう。もう少し経てば城の兵達が俺達のことを探し初めるかも知らない。いくら減俸が嫌だからとはいえ、クレアとレインも連中をそこまで長く抑え込むことはできないだろうからな。

ならせめて、俺はこの短い時間の中でより多くのことを彼女に学ばせてあげたいのだ。

俺はアイリスが俺の手を使い立ち上がるのを確認すると、彼女と手を繋いだ状態のまま歩き始める。

 

「あの、シロ?手が.....」

 

「少し目を離すと何をしでかすか分からないからな。こうして繋いでやれば少しは大人しくなると思って....なんだその顔は?」

 

「いえ!なんでもないですよ!なんでも!」

 

アイリスはそう言って首を激しく振ると、ぎこちなくこちらに笑いかけてくる。勢いよく振ったからか息は少し上がっており、俺もほのかに赤くなっていた。

 

「しかし、こうして手を繋いで歩くのも随分と久しぶりだな。たしか、一番最後にこうしたのは食糧庫でつまみ食いをした時だったか」

 

「あれは手を繋ぐというより一緒に逃げたという表現が正しいのではないでしょうか.....あの後、料理長がへそを曲げてしまって大変でしたよね」

 

「今思えばあの時素直に『アイリスが小腹を空かせているので何か軽い物を』と頼めばあんなことにはならなかった気がするけどな。まぁ、あれだ、それも経験ってやつだ」

 

「経験というにはいささか使い道が限定的過ぎませんかね?」

 

「奇遇だな。俺もそう思うよ」

 

一瞬の間の後に、俺とアイリスは顔を見合わせて笑い合う。

この先、アイリスの周囲は悪い方向へと変わっていくだろう。もしかしたらその変化によって多くの人間が死んでしまうかもしれない。

それでも、俺はアイリスには幸せになって欲しい。どこの間者ともわからない俺に対し、優しく手を差し出してくれた彼女には。

俺はそんな思いを悟られないよう表情を隠しながらアイリスと共に冒険者ギルドへと向かうのであった。




小説のストーリー自体はもう完全に出来上がっているんだ!後は時間を!時間をくれえええええ!!

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