『あが、あぎぎ、あぎが』
俺に全力で殴られ、壁へと叩き込まれたシュレイブニルが、ギチギチとそのムカデのような身体をしならせながら気持ちの悪いうめき声を上げる。
俺のこぶしは正確に心臓を貫いた。
寄生している奴にダメージは無いかもしれないが、少なくともコイツは寄生した身体に血を流していたんだ。多少なりともコイツの動きには影響するだろう。
「ッッッ!ぐあああああ、痛ってえ!!」
「セイヤ様!」
しかし、俺が心臓の対価として支払ったのは右腕だった。
俺の右腕はさっきの攻撃の反動により紅黒く変色している。
俺が右腕を押さえ泣きそうになりながら相手を見ると、相手はその身体を軋ませながら立ち上がると、凄まじい勢いでこちらに向かい走ってくる。
俺は、再び全身に強化を掛けると、奴と相対する。
『キシャアアアアアアア!!!』
「うおおおおおおおおお!!!」
奴はこちらに向かってきながら、空中に無数の剣を配置、飛ばしてくる。
おそらくこれは、その身体の持ち主が転生する特典として持っていたチートなのだろう。そう考えると、その身体をいいように使っているコイツに殺意が湧く。
俺は、射出された剣と剣の間をすり抜けるように躱し、その中の剣の一つを左手で掴み取り、奴に振り下ろす。
すでにいくつかの手傷を負っているコイツからすれば、俺のめちゃくちゃな剣でも致命傷になりえるだろう。
『ッッ!?クソッッ!』
一瞬慌てたシュレイブニルだが、手傷を負っているとはいえそこは流石魔王軍幹部。
奴は咄嗟に自身の手の中に剣を作り出すと、それを使い俺の乱撃を受け止める。
『お前!俺を騙しやがったな!』
「お前に言われたくはないね!!」
俺は奴の剣を滑らすように上に打ち上げると、ガラ空きになった奴の腹部を手で貫く。
そして中にある内臓をモツ抜き!そのままムカデの顔面に叩き込む!
『ぐぶおおおおおおおへぶッッ!!』
「クソッ!気持ち悪いな!!」
右腕の痛みも相まって気絶しそうになる。
しかしまだだ、まだ奴を殺していない。俺が気絶していいのは、奴を殺してからだ。
俺は奴に拳を喰らわせて再び壁に叩きつけると横に引き摺り、そのまま地面へと叩き落とす。
「ハァ、ハァ、ハァ、ウグッッッ!!」
そして俺はさらなる追撃を喰らわそうとするが、無理やりな全身の強化に身体が悲鳴を上げているのか、突然の身体の痛みにうずくまる。
シュレイブニルはその隙に立ち上がると、俺と距離を取った。
『オイオイ、なンだ、ベバっちマッたのかよ』
「お前こそ、足元がおぼついてねぇぞ。その喋り方はどうした、イメチェンでもしたいのか?」
お互いに軽口を叩き合うが、自分も相手ももうボロボロだ。
しかし、奴はなぜあんなにも余裕そうなんだ?
奴の身体は、お世辞にも無事とは言えない。
全身には大量の火傷、顔は消え、心臓は潰れ、色んなものが体の外に出ている。
もうあの身体が動かせる時間はわずかも無い。しかしこの余裕はなんだ?
「オイ、奥の手があるなら、早く見せた方がいいぜ。俺にその細っせぇ身体引きちぎられて、踏み潰されたくなかったらな」
『ハハハハハ!!イせイだけは良いガキが吠エるじゃねぇカ!だったら見せてヤルよ!俺のシンの姿を!!』
そう言うと男はうめきだし、身体が膨張を始める。
そして肥大したその身体は張られたシールドもろとも蔵書室の天井を突き破ると、城を揺らすほどの大きな雄叫びを上げた。
既に人の形の面影はなく、その身体からは大量の人間の手や足、さらにいくつかのモンスターの部位が生えている。
一体コイツは今までにどれだけの生き物を吸収してきたんだろう。
そんなことを考えていると、突然、蔵書室の天井全体にヒビが入る。
どうやら、アイツの重さに耐えきれなくなったらしい。
「アイリス!逃げるぞ!!」
俺はアイリスの手を取ると、蔵書室を飛び出し、城の壁を駆け上がり、城の屋根へと避難する。
「アイリス、今お前の魔力はどのくらいある?」
「一度だけ攻撃ができるくらいです」
「そうか....」
おそらく、あの形態は先程まで凝縮していた身体の面積を全て解放した姿なのだろう。
なら、アイリスの攻撃は十分致命傷になる。
しかし、相手はあの巨体だ。おそらく、一撃では身体全てを破壊することはできないだろう。
遠距離でも十分な効力を発揮するエクステリオンとは違い、至近距離でしか効果を発揮できない俺の拳も当てなければ、完全に討伐するのは難しい。
俺がそんなことを考えていると、アイリスがある方を指す。
そこにはーー
「うわあああああああーっ!モンスターだあああああ!!」
「助けて!!助けてくれええええ!!」
「嫌だ!まだ死にたくない!!」
迫り来るシュレイブニルに対し、腰を抜かし逃げられないでいる貴族達の姿があった。
もう迷ってる場合では無い。今すぐにでも奴を殺さなければ多くの犠牲者が出てしまう。
「よし、アイリスはアイツに攻撃する準備をしていてくれ!俺が合図を出す!」
「わかりました!」
俺はその返事を聞くと、奴に向かい走り出し、叫ぶ。
「おいシュレイブニル!お前の相手はこの俺だ!余所見してんじゃねぇ!」
シュレイブニルはその言葉に反応しすると、俺の方を向き、雄叫びを上げる。
そして身体にある杖を持った手を一斉に動かし魔力を練ると、それを巨体な魔力球へと変化させていく。
あんなものが城に当たったらひとたまりもない。
それどころか、周りの街すらかけらも残らず吹き飛ぶ!
「させるかよ!!」
俺は足にパワーを集中させると、そのまま跳び上がる。
奴の魔力球は強力だ。しかし、俺の全力の拳で殴れば破壊することは十分にできる。
しかし、今ここで左腕を犠牲にすれば、奴を完全に討伐することはできなくなってしまう。だからーー
俺は空中で姿勢を整えると、変色した右腕にパワーを込める。
「ーーーー!!!」
想像を絶するほどの痛みが右腕に走るが、奥歯を噛み締めることによって、それを堪える。
気合が有れば人間大体なんとかなるもんだ。
そして俺は放たれた魔力球をその右腕で迎え撃つ。
「ッッ!!ぐうおおおおおおおあああああ!!」
凄まじい衝撃が俺の全身を襲う。筋肉は軋み、骨は砕け、気力の全てが一度に持っていかれる。
そしてそれよりも重大な問題が一つあった。それは、魔力球を受けている俺の右腕が少しずつ、少しずつではあるが崩壊を初めていることだ。
皮膚は剥がれ、肉は溶け、その下の骨は砕け散っていく。それでもーー
「負けてええええ!たまるかああああああ!!」
俺は意地で魔力球の軌道を真上に変える。そして、
「アイリスッッ!!」
「はいッッ!『エクステリオン』ッッ!!」
屋根の上で待機していたアイリスによる光り輝く斬撃が、凄まじい轟音と共にシュレイブニルの身体を真っ二つにする。それにより、大量の肉壁に覆われた奴の全身があらわになる。
『オマエッ!?』
「コレで終わりだああああああ!!」
俺は最後の力を残った左腕に込め、その拳を振り下ろした。
奴の身体が消え去り、歓声を上げる人々達の声を聞きながら、俺は構えを解いた。
そして倒されたモンスターが記録されるという冒険者カードの一覧を見ると、『人憑き シュレイブニル』の文字が書いてあった。
よかった、ちゃんと討伐はできたらしい。
しかし、まだ異世界に来て一ヶ月も経ってないのにこんなことに出くわすとか、やっぱり俺の運はこの世界に来てから下降傾向らしい。
「セイヤ様ッッ!」
すると先程まで城の屋根にいたアイリスが、こちらに駆け寄って来る。何やら顔が必死そうだ。
「どうしたんだアイリス?そんな必死に」
「あの!大丈夫なんですか!」
「えっと?見ての通り、ちゃんと生きてるし、ちゃんとアイツも倒したよ?」
「いや、あの、そうじゃなくてですね!」
アイリスは俺を指差し、
「その右腕は大丈夫なんですか!?」
そんなことを……
俺は右腕を見る。しかし、そこにはあるべきはずの右腕が無かった。正確に言えば、肩から下の一切が無かった。
そんな光景を見た俺、SANチェックです。
「」キュウ
「あっ、だっ、誰かー!!誰か医者を呼んで来てください!人がーー
俺はそんな必死なアイリスの声を聞きながら、意識を落とすのだった。
主人公のチートの1つである身体強化は、分かりやすく言うならヒロ○カのワン○ォーオールのようなものです。主人公はまだ、100%を使うと身体が大きく損傷します。
感想、評価、指摘などくださると、私のやる気がPlus Ultraします。
小説はどのくらいの長さがちょうどいい?
-
3000〜4000くらい
-
5000〜6000くらい
-
7000〜8000くらい
-
8000〜9000くらい
-
10000以上