*主人公がお城にいた期間を一週間から一ヶ月に伸ばしました。一週間だと短すぎると思ったんで...
深い闇の底から、俺の意識は浮上する。
目を覚ますと、俺は知らない場所のベッドに寝かされていた。
この状況、今なら"アレ"が言えるかもしれない。マンガや小説で沢山見るけど、現実じゃ中々言えないあの言葉が。.....よし、言おう。
「....知らーー
「知らない天井だ、なんて言うんじゃないわよ」
「誰だ!俺の人生で一度は言っておきたい言葉ランキング第四位を邪魔したヤツは!!」
俺は仰向けの体を跳ね上げるようにして体を起こす。
そして声のした方に振り向くと、そこにはナース服のような服装をした筋肉隆々のオッサンがため息を吐きながら立っていた。
後ろに見える医療機器のような物からして、どうやらここは城の医務室らしい。
「というか、このネタが分かるってことはアンタもしかして...」
「そう、あなたと同じ転生者よ。名前はジェシカ。よろしくね☆」
そう言って彼、いや彼女はバッチコーン☆という効果音が聞こえてきそうなウィンクをする。
筋肉モリモリマッチョマンがナース服でウィンク....うん、絵面が酷い。ついでに名前も酷い。ジェシカってなんだよ、絶対偽名だろ。
「アンタが俺のことを治してくれたのか?」
身体を起こしてみて気づいたが、体にあった痛みが消えている。
「そうよ、アタシのチート『治癒』で治したの。そこんとこ、感謝しなさいよね。スッゴイ大変だったんだから」
そう言って彼女は近くの回転椅子へと座り、方杖をつく。
どうしよう、コレが女だったら物憂気な表情に見えるのだが、いかんせん彼女の場合出場待ちのプロレスラーにしか見えない。
「俺はどのくらいの時間寝ていたんだ?」
窓の外を見ると、戦っていた時には落ちていた日が上がってきている。おそらく、相当長い時間寝ていたのであろう。6〜7時間、もしかしたら1日なんてこともあるかもしれない。
「3日よ」
「はい?」
「だから、アンタは3日間ずっと寝たまんまだったのよ。しかもずっと死にかけでね」
「はああああああああ!?」
え、何、俺3日も寝てたの!?しかも死にかけてたのかよ!?
「いや、なんで回復専門のチートを持ったアンタがいるのに俺死にかけたんだよ!」
「それには訳があるの。自分の右腕を見てみなさい」
「自分の右腕ねぇ...」
俺は言われた通り自分の右腕を見てみる。分かりきったことではあったが、自分の右腕は消えていた。
しかし、驚くべきことが一つあった。自分の右腕の傷口が塞がっていないのだ。正確に言えば、傷口に当たる部分にはポッカリと穴が空いているのにも関わらず血の一滴も流れておらず、その穴の中には紅黒い"ナニカ"が蠢いていた。
「...何これ?」
俺は、驚きのあまり少しの間思考が停止する。
「それは呪いよ」
「呪い?」
呪いとか言われても、俺別に誰かに恨まれることなんてしていな...いや、クレアにはしてたな。いろいろと。
「なるほど、真実は意外にも近くにあったのか...」
「違うわよ!仮にも同僚をすぐに疑わないでちょうだい。呪いを掛けたのはアナタが戦ったシュレイ...なんとかよ」
「シュレイブニルな」
「そうそれ、そのシュレイブニルって奴がアンタに放ったアレに、膨大な呪いが込められていたのよ。しかも即死級のね。なんでアンタがまだ生きてられるのか不思議でならないわ」
あの野郎、最後の最後までやりやがる。追加で一発殴ってやりたい。
「呪いっていうなら解呪できるもんじゃないのか?」
「ダメね、王都最高レベルのアークプリーストのアタシの魔法でも解呪出来なかったの。解呪はほぼ不可能よ」
コイツが王都で一番のアークプリーストとか、この国は大丈夫なのだろうか。
「今、だいぶ失礼なこと考えてなかった?」
ジェシカは、にこやかにそう尋ねてくる。目は笑っていないが。
「ヴェッ!マリモ!」
驚きのあまり変な声が出てしまった。
しかし、俺の腕は今の所治らないってことか。そう考えると大分不便だな。慣れるまで時間が掛かりそうだ。
「セイヤは!スズキセイヤはここに居るか!」
そんなことを考えて、ゆっくりとお茶を飲んでいると、突然扉が開け放たれ、鋭い声が掛かる。
「あら、クレアちゃん!久しぶりね!」
「お久しぶりですジェシカ様。ちゃん付けはやめてください」
「あらつれない」
クレアはジェシカからの挨拶に対しそっけなく返すと、俺を見てそのまま俺の方へとずんずんと向かってくる。
「ようクレア、どうしたんだよそんなに急いで?」
「着いてこい、大事な用がある」
「いや、俺重症者で今起きたばっか...」
「今来るのであれば、蔵書室での破壊及び損壊の賠償は不問とするが」
「あー!俺急に元気になっちゃったなー!」
王都クラスの蔵書室の賠償は流石に不味い!下手すれば何兆という金を請求されかねない!
俺はすぐさま起き上がると、ジェシカにお礼を言ってクレアに着いていくのだった。
「またおいでねー☆」
あの、ジェシカさん、またおいではやめて下さい。現実になりかねないんで。
「........」
「.......」
どうしよう。まったくと言って会話がない。というかどんな会話をすれば良いかが一切分からない。なんだろうこの状況、前にもこんなことがあったような気がする。すごく気まずい。やはりまた俺の方が話題を提供した方がいいのか....
「...おい」
「あ、はい!」
しかし、そんな俺の考えを裏切るようにクレアが俺に話しかけてくる。明日は王都に槍が降るかもしれない。
「ーーがとう」
え、なに、また俺怒鳴り上げられるの?怖いよ!スゲェ怖いよ!
「えっと、今なんて」
「〜〜ッ!ありがとうと言ったんだ!アイリス様、それと多くの貴族の命を救ってくれたのだろう!?その礼だ!!」
クレアは顔を真っ赤にしてそんなことを言う。
正直な所、俺は驚いていた。俺の第一印象として、コイツは絶対に俺に対して礼なんかしないだろうなと思っていたからだ。
しかし、その印象は間違っていた。コイツには確かに貴族としての嫌味ったらしい部分はある。しかし、彼女には誇りがあった。貴族としての誇りが。
「まぁ、貴様ごとき平民がそれだけ出来たんだ!私がお側に居ればもっとスマートに事件を解決出来たとは思うがな!」
「色々台無しだよ」
コイツ!人がちょっと評価を上げようかなと思ってたらこれだよ!
まぁ、コイツの発言にいちいち目くじら立てるのも時間の無駄だ。クレアだし。
「というか、俺らは今どこに向かってるんだよ」
「ああ、そういえばまだ説明していなかったな、今私達は謁見の間へと向かっているのだ」
クレアは他のどの扉よりも豪華で巨大な扉の前に止まる。
「私だ、扉を開けてくれ」
そしてクレアがそう言うと、その扉は重々しい音を立てながら開かれた。
その扉の奥には、城にある他のどの部屋よりも豪華な空間が目に入る。そして、その部屋の中には大勢の金髪碧眼の貴族達が列を成していた。
どうやら、何かの式典のようなものを行なっているらしい。
「貴様はそのまま部屋の奥へと進め」
「え?」
「行けば理由は分かる」
そう言って彼女は俺と別れてしまう。
おそらく列から外れた部屋の隅にアイリスが居たため、合流したのだろう。
というか、どうしよう。さっきは脅されたからなんとなく着いてきたけど、もしかしたら俺とんでもない所に居るんじゃなかろうか。今すぐ帰りたい。
そんなことを思っても、状況は何一つ好転しない。俺は仕方なくクレアに言われた通り、貴族の列の間を抜け、列の一番前に出る。
するとその目の前には、この部屋の中であっても一際豪華な椅子に座っている60才くらいの老人が、俺のことを鋭い目つきで睨みつけるように見ていた。
俺はそのあまりの眼光とその威圧感に飲まれ、無意識の内に跪いてしまう。雰囲気から察するに、この人がこの国の王様、つまりアイリスの親父さんなのだろう。
「よい、楽にせよ」
そう言われたので立ち上がってみたものの、迫力が凄すぎて顔が合わせられない。
「さて、まずはベルゼルグに集いし兵士達よ。此度の魔王軍殲滅、誠に大義であった。我が国の兵士達が目覚ましい活躍を見せたこと、わしは大変嬉しく思っている」
王様のその言葉に、後ろの方にいた兵士達は感涙の涙を流している。
「しかし残念なことに、魔王軍の兵がこの城に入ったようじゃな。蔵書室を中心に甚大な被害が出たと聞いておる」
一転して彼らの顔が曇る。
「そう悲観するものでは無い。結果として死者は出なかったのじゃ。スズキセイヤという男の力によってな?」
その言葉によって会場中の視線が俺へと集まる。
「さて、セイヤよ。わしと話をしようじゃないか」
勘弁してください。俺はまだ15才で、この前義務教育が終わっただけのガキなんです。
そんなことを言いたいが、言ったら間違いなく俺の首が飛ぶ。俺は全力でビビりながらもコクリと頷く。
「今回の魔王軍の侵入についてだが、お主がそれを食い止めたと聞いているのだが、相違ないな?」
「え、あ、はい!ありません!」
「そうか...」
彼はそう言うと、玉座から立ち上がり俺の方へと歩いてくる。いや待って、やめて、まだ心の準備もできていないんです。やめて下さい。
「私の娘の命を救ってくれて、感謝する」
そう言って彼は頭を下げる。俺の後ろにいる貴族達からどよめきの声が上がった。
「やめて下さい!こんな公の場で王様が頭を下げるのはまずいですよ!」
流石に世間知らずな俺でも王様がこんな場所で、しかも貴族でもない男に頭を下げることがまずいことなのは分かってる。王様のお付きの人もすごいオロオロしてるし。
「私は今、父親として頭を下げている。それに、王としてもこの国の王女の命をその腕と引き換えにしてまで救ってくれたのだ。十分頭を下げる価値はある」
それを言われると何も言い返せない。貴族達の中でも誰の口を出せる者はいなかった。
「騙されてはいけませんぞ!王!」
いや、居た。しかも俺的には最悪なタイプの奴が。
「その男は王に取り入り、この国を破壊しようとする魔王軍の手先です!」
「その通りです王!その男を信用してはなりません!」
列の右に固まっている貴族達が、こっちが言い返さないことをいいことに俺に向かって罵詈雑言をぶちまけ始める。よく見ると、その中にはシュレイブニルに直接襲われていた貴族もチラホラいる。よくもまぁ俺くらいの子供にそこまで暴言を吐けるものだ。良心とか痛まないのだろうか。
まぁ、こんな幼稚なことにいちいち怒っていたらしょうがない。見れば、会場全体の目も冷ややかだ。
そう、何も問題はーー
「どうせお前なんぞ、アイリス様の後ろで震えていただけだろう!そんな貴様が私達と同じ空気を吸うなど!悍ましい!恥を知れ!」
...コイツらはこの事件に対し、一体何をしたんだろう。そんなことを言えるほどに、コイツらは何かしたんだろうか。
「あの、すみません。あなたの持っている魔法の中で、声を大きくする魔法ってあります?」
俺は王の近くに居た魔法使いっぽい護衛の一人にそう尋ねる。
「ありますけど...。あんなの気にしなくていいのよ?言わせておけばーー
「まぁまぁ、今回は子供の癇癪ってことで、ね?」
魔法使いの人は少し考えた風にすると、やがてうなずく。
「...分かりました。行きますよ?『マイク』!」
彼女の手から放たれた光は俺の喉へと吸い込まれていく。というか、何気にこれが初めて見る魔法だな。すごく綺麗だ。
「私の立場からはあんまり言えませんがーー今なら誰も咎めるものはいないです。ぶちまけちゃいなさい」
「ーー了解」
俺は彼女の言葉に頷くと、奴らの方へと体を向ける。
そして深く、深く息を吐き、その後、肺に満タンの空気を吸い込むと...
「その目はなんだ貴様!平民ごときが!ワシらを見下ーー
「ファ○キュー!!ぶち○すぞ、ゴミめらが!!」
俺は、俺に暴言を吐いている貴族に対し、全力で喧嘩を売った。
大人になると、大々的な喧嘩って口でも中々できなくなる物ですよね...
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