「もう直ぐか……」
「にゃぁ……旦那様、考え直した方が」
「いいや、これは俺の
修練場、巨大な蛙型傀儡の目前にて小太郎は呟く。右手にガンランスを、左手にプライドを握り締め、己にとって唯一無二の存在を待ち続ける。絶対にやって来るという確信があった。前回も、前々回も、その前すらも――己たちは此処で鎬を削ったのだ。
足音がした、軽やかな――散歩の様な足取りだった。
「来たか」
言葉を零し、ガンランスを持ち上げる。脇に挟み、矛先を地面に向けながら暗い洞窟を歩いて来る人物に目を向ける。影は小柄だ――ほんの百三十か、四十か、矮躯と云って差し支えない。
右手に剣を、左手に盾を。腰まで伸びた髪を一つに縛り上げ、吹き抜けから差し込む日光に晒された彼女の顔は――憎たらしい程に笑顔だった。
「よぉ……三ヶ月ぶりだなぁ」
告げ、ガンランスの矛先を彼女に向けた。
「……香ッ!」
「あはッ♡」
間髪入れずに突撃、地面を踏み砕いて迫る最速の刺突を、彼女は何でもないかの様に盾で上に弾いた。互いの視線が交わり、整った顔立ちが視界一杯に映る。しかし、片や満面の笑みを浮かべ、片や鉛を飲み下したが如く苦々しい表情。顔立ちは兎も角、表情は対照的であった。小太郎の黒と、香と呼ばれた少女の金が交差する。
「わぁ、突然だね、お兄ちゃんってば情熱的♡ 私の姿を見て我慢できなくなっちゃった?」
「はッ! 我慢なんざ微塵も出来るかッ! こちとらお前に叩きのめされたあの日から、今日までテメェを叩きのめす為に鍛えたんだからなァ!」
「嬉しいなぁ、それって毎日香の事を想って過ごしてくれたって事だよね♡ もしかして私達って相思相愛?」
「ぬかせェ!」
距離を取らず、一方的にガンランスを振り抜く小太郎。香が持つのは片手剣、盾と剣を合わせた小型の武装であり、リーチは小太郎に軍配が上がる。間合いの外から一方的に攻めに転じる小太郎の姿は傍から見れば少女を虐める青年の姿ではあるが――肝心の少女は一撃として被弾を許さない。
逸らす、弾く、いなす――矛先が上下左右にぬるりと行き先を失い、切っ先が届く事はない。常に矛先は天上か虚空を突く。小太郎が必死になればなる程、少女の笑顔は深まり余裕を見せた。
「よわよわお兄ちゃん、また私にやられたいのね? 良いよ♡ 何回だって、何十回だって、何百回だって相手をしてあげる、お兄ちゃんが立ち上がる限りね♡」
「お生憎様だな、それだったら勝負が始まった瞬間から俺の勝ちは決まっている――何せ俺は、勝つまでやめない主義だからなァ!」
小太郎は己を鼓舞する為に吼えた、それを力に変え全力での刺突を繰り返す。しかし――しかし、一向に崩せない。小さな盾がまるで岩石の如く、巨大な城壁の如く聳え立つ。その場から一歩も動かず、まるで赤子の手をひねるかの様に。
ランスやガンランスの大盾を相手にしている訳でもないというのに、小太郎は悪態を吐いた。
「糞が、何で片手剣の盾がこんなに堅いんだッ!?」
「んー、お兄ちゃん相変わらず武器を持った状態で対人戦苦手みたいだね?」
強引に盾を崩そうと横薙ぎに払った一撃が、タイミングを合わせたシールドバッシュにて弾かれる。両手で支えるガンランスから伝わる凄まじい衝撃に、小太郎の体が後方へと後退った。体格には大きな隔たりがあった、しかし彼女の前では体格差など微塵も問題にはならない。
パリィされた小太郎は忌々し気に香を睨みつけながら再びガンランスを構える。
しかし、彼女は対照的に剣と盾を指先に引っ掛け――そのまま挑発する様に両手を広げた。その無防備な姿に、小太郎は眉を顰める。
「良いよ、素手で相手をしてあげる♡ 教官と素手での対人訓練は続けているのでしょう? ほら、お兄ちゃんもそんな使えない武器なんて捨てなよ」
「は、何を云ってやがる、長物と剣のリーチの差を誰が捨てるかって――」
「――え~、なに、お兄ちゃんもしかして怖いのぉ?」
ぴくりと、小太郎の肩が震えた。香は片手剣を地面に落としながら指先で口元を隠し、下から伺う様に小太郎を見上げる。その瞳は三日月を描いていた。
「こんな年下の女の子に組み敷かれて、何も出来ずに負けちゃうのが怖いのかなぁ? あーぁ、残念だなぁ、でも仕方ないよね♡ お兄ちゃん、私に勝てた事なんて一回もないもんね♡ 怖気づいて逃げちゃっても仕方ないよ♡」
「テメェ……」
小太郎は激怒した――必ず、かのメスガキを分からせなければならないと奮起した。
小太郎には女性が分からぬ。小太郎は村のハンターである。修練し、モンスターを狩って生きて来た。しかしメスガキに関しては、人一倍敏感であった。
「来なよお兄ちゃん、ガンランスなんて捨てて掛かって来なよ♡ それとも――本当に怖いのかな?」
「女郎ォ――ぶっ殺してやるッ!」
ガンランスを放り投げた小太郎は拳を握り締め、そのまま恍惚とした笑みを浮かべる香へと躍り掛かった。
■
結論から言うと、ぶっ殺せませんでした。
「あはははッ、お兄ちゃんよわーい♡ ざっこ♡ ざっこ♡」
「ぐぉぉおおオオオッ……!」
戦闘時間凡そ二十秒、勇んで挑んだ徒手空拳は歯牙にもかけられず地面に沈んだ。ガンランスを手放しリーチを捨てたから負けたのか? 否、恐らくあのまま挑んでいたとしても何も出来ず完封されたに違いない。それならばまだ彼女の云う様に素手での決闘の方が勝機があった。己を押さえつける万力の様な圧力は、多少の技術差では埋められそうにない。
「お兄ちゃん、ギルドで頑張っているって聞いたよ、前の百竜夜行でも大活躍だったんだって? 偉いねぇ♡ 凄いねぇ♡ 頭撫でてあげようか?」
「くっそがァ! この、舐めやがってッ……! メスガキめッ……分からせてやるッ…!」
「がんばれ♡ がんばれ♡」
腹と顎に強烈な一撃を貰い、そのままマウントを取られた小太郎は見下ろされ、好きな様に弄られる。抜け出そうにも両手足を鉄糸で固められてはどうしようもない。無様に足掻く小太郎を楽しそうに、或いは嬉しそうに見つめる彼女は指先で蟲糸を弾き乍ら告げた。
「その糸、ほんの少しお兄ちゃんが【本気】にならないと解けない強度で縛ってあるから、自由になりたかったら頑張れ♡ じゃぁね、ばいばーい♡」
「ぐぁぁぁあアアア!」
「にゃあ……やっぱりこうなったにゃぁ」
小太郎が地面に縫い付けられ足掻く姿を見せられるキャットとドッグ。二匹は、「まぁこうなるだろうと思った」と呆れ半分、納得半分という様子。二人の戦闘とも云えぬ蹂躙を見ていた感想はいつも通り。そんな二匹に香は小太郎から降りるや否や近寄ると、キャットの頭を撫でながら静かな声で告げた。
「お兄ちゃんの事お願いね、もし解けないようだったら助けてあげて、キャット、ドッグ」
「にゃ、畏まりましたにゃ」
「バウッ」
先程とは毛色の異なる笑みで二人を見つめると、そのまま来た道を戻る。その背中を二匹はそっと見送った。
カムラの里が誇る正真正銘『最強』のハンター。あのウツシ教官をして、「ちょっと理解出来ない位に強い」と云わしめる怪物。その腕前を見込まれギルドに於いてあらゆる特別災害、古龍や特殊個体の討伐に駆り出される【G】の称号を持つ者。
故にこそ、彼女が生まれたこの里は『英雄の守る里』と呼ばれたのだ。
■
小太郎を軽く捻って転がした香は、そのまま修練場を後にすると小太郎の住む家へと足を運んだ。道中気軽に声を掛けてくる里人、ギルドでは遠巻きに見られながら宛ら珍獣の様な扱いを受ける為、此処の人々との触れ合いは香にとって癒しだった。そして、前人未到の己に追いつかんと足掻く存在も。
手を振って笑顔で挨拶を交わしながら、慣れた手付きで戸口を潜る。見慣れた小太郎の家、小さい頃から何も変わっていない。微かに残る彼の香りを肺に取り込み、宛ら自宅の様に寛ぐヒノエとミノトが囲炉裏を囲んでいるのを見て、香は静かに框を跨いだ。
「あぁ、香ちゃん、お帰りなさい」
「お帰りなさい、香」
「はい、只今戻りました、お姉ちゃん」
他人の家なのに「お帰りなさい」で正しいのだろうか? 正しいのである。この三人に至っては小太郎の物は私の物、私の物は私の物と云って憚らない。下着だろうと食器だろうと布団だろうと自宅であろうと、彼の所有物ならば己の物同然。その理論で長年過ごして来た為に、身に馴染んだ習慣は相手に違和を抱かせない。恐らく小太郎がこの理論を聞けば、「そうかなぁ」と酷く震えた声で疑問を呈するだろう。尚、聞き入れられるとは云っていない。
ヒノエとミノトに勧められるがまま、香は座布団の一つに腰を下ろす。背筋を伸ばして正座を見せる三人は容姿も相まって傍から見れば眼福であろう。しかし全員、その瞳は昏く淀んでいた。
茶を啜っていたミノトは一息吐き、対面に坐した香を見る。
「相変わらずの様子ね、ギルドの方で報告は聞いていたけれど、こうして自分の目で見て安心したわ」
「そうねぇ、少し背が伸びたかしら?」
「まぁ、はい、多少ではありますが」
「修練場で小太郎と組み手をしていたの?」
「……良く分かりましたね」
「張り切っていたもの、小太郎……それと」
不意に足を崩したミノトが、香の髪の傍で鼻を鳴らし嗤った。
「微かに小太郎の匂いがするわ」
「汗は水で流した筈なのですけれど」
「小太郎の香りを私達が見落とす……いえ、嗅ぎ落す筈がありません」
「当然ね」
「流石お姉ちゃんです」
然も当然の如く宣う姉の姿に、香は深い敬意を覚えた。
「それで、小太郎の仕上がりはどうですか」
「上位としては破格の腕前かと、単独でも古龍や伝説級のモンスター相手に立ち向かえます、余程理不尽な相手か情報不足でもない限り落命する事はないでしょう――今の腕前であれば、お姉ちゃんであっても苦戦するかと」
「へぇ……流石小太郎君ですね」
「まぁ、相変わらず本気ではない様子ですが」
微かに肩を落とした香を見て、二人は顔を見合わせる。
その表情は何とも言い難い、難題を前にした人そのものであった。
「ナルハタタヒメとイブシマキヒコ以来ですか」
「はい、お兄ちゃんが鬼気迫る戦いを見せたのは、あの一戦が最後です」
「狩りに出たばかりの頃は、常に本気というか、鬼気迫る勢いを感じていたのだけれど」
「慢心は良くありません、いつ強大な敵が現れるかも分からないのですから」
「そうね、その通りだわ……だからこそ、小太郎には常に本気を出して欲しいのだけれど」
三人は互いに顔を突き合わせながら溜息を吐く。風魔小太郎――彼のハンターとしての素質は本物であると、この三人は腹の底から確信していた。しかし、現状の彼には過去存在した『必死』とも云える熱意が存在しない。
襲来する百竜夜行、マガイマガドの討伐、ナルハタタヒメとイブシマキヒコの出現、そしてその撃退。その激動の中で、風魔小太郎という人間は確かに【本気】であった。後先考えぬ全力での狩猟、あらゆる手練手管を用い、己の全てを使い、オトモ一丸となって戦うあの姿。
その熱に過去、香も心打たれたのだ。
しかしイブシマキヒコとナルハタタヒメの撃退以降、その様な死闘を見る事はなくなった。百竜夜行や掃討任務で危機に陥る事はあっても、『死線』は潜っていないと断言できる。どこか余裕がある、どこか手を抜いている、どこか楽観視している――それを通すだけの実力があるのは、勿論否定出来ぬ事実ではあるが。
或いは、彼の古龍に並び立つだけの存在が現れるのならばと考え、香はミノトに問いかけた。
「そういえばお姉ちゃん、村周辺の生態系が乱れていると聞いたのですが」
「あぁ、警邏から報告が上がっていましたね、ギルドの方にも寄せられた情報ですが私は小耳に挟んだ程度で……姉様?」
「そうねぇ、確かに此処最近モンスターの活動が減って来ているわ」
ミノトの疑問に、ヒノエは肯定しながら茶を揺らした。里の警邏、及び調査はヒノエの管轄。当然ギルドとも情報のやり取りはあるものの、その伝達には多少の誤差がある。
「【何かから逃げる様にモンスターが集まる】、逆に【唐突に縄張りを放棄して居なくなる】――風神と雷神を退けて以降、この手の異常は耳にしなかったのだけれど最近ぽつぽつと報告が上がっているの」
「原因は」
香の言葉に、ヒノエは頭を振った。分かっているのならば既に対処班が出来ている。何も手を打っていないという事は、打つ必要がないのか、そもそも打つ事が出来ないのか。
ヒノエの答えを聞いた香は眉を顰め、静かに、しかし強い口調で告げた。
「……古龍位の主が現れたのかもしれません、百竜夜行の事もある、警戒は厳にするべきです」
「勿論、既に里長には報告済みよ」
「成程、最近ギルド側の依頼を断って欲しいと云っていたのはそういう事でしたか」
「ごめんねぇ、ミノトには心配を掛けたくなかったから」
「姉様、私とて立派なハンターです、この里を守る責務もあります」
胸を張ってそう宣言するミノトに、ヒノエは内心で吐息を零す。本当ならば、この可愛い妹にも危険な事はして欲しくないのだ。
原則として百竜夜行が近い時期となると、一時的にカムラの里ではギルドの機能が停止する。里人が一丸となって防衛に当たる為だった。それは今回の異常を『百竜夜行』と同程度――即ち里が総出で対処すべき問題と見据えたという事に他ならない。
「……まぁ、分からない事を云々しても仕方ありません、新しい情報が齎されるまで待つべきでしょう、無論備えは必要でしょうが」
「えぇ、その通りね」
「ところで香ちゃん」
「はい」
「小太郎君の篭絡は上手くいっているの?」
「――それは寧ろ私が聞きたいのですが」
香の鋭い視線が姉妹を射貫いた。
「私が里を離れている間、一体何をしていたのですか? 次に私が里に戻って来た頃には調教され切ったお兄ちゃんが全裸で抱擁の一つでもかましてくれるものかと期待したのですが」
「そうは云っても中々小太郎君は奥手で、此方の恋愛攻勢行為を悉く躱してしまうのよ」
「攻略は難航しているわ、香だってそうでしょう?」
「それは……」
姉妹の問いかけに、思わず香は口を噤んだ。確かに己も順調とは言い難い、本来の計画であれば既に自分は小太郎とサタデーナイトフィーバーでアレがアレして結ばれている筈だったのだ。
しかし香は先程まで剣を交わしていた小太郎の姿を思い返す。そして断固とした口調で云った。
「しかし、勃起はしていました」
「それは私達が迫った時も同じよ」
「えぇ、そうですね」
勃起はしているらしい。
香はそっと舌打ちを零した。
「……おかしいですね、もしそうならそろそろ押し倒されても問題ない時期なのですが」
「
「姉様、やはり此処は
「でも、カゲロウさんからは『それ以上はいけない』と云われているし……」
「因みにどんな薬を使おうとしたのですか?」
「感度三千倍の薬と、媚薬の薬グレートと、睡眠薬と……使えそうなものは一通りね」
感度三千倍とか死ぬのでは? 香は訝しんだ。
仮に小太郎に感度三千倍を使ったとして――香はその果てを想像する。
呼吸をして絶頂、団子を食べて絶頂、ガンランスの竜撃砲で絶頂、己に罵倒されて絶頂、翔蟲を使って絶頂……あれ、存外悪くないのでは? 香は胸の中が暖かい感情で一杯になった。
「……どうにもその手の物は眉唾に感じてしまいますが、効果の程は?」
「グレートではない媚薬をお茶に混ぜて飲ませたら、翌日から一週間位修練場に籠っていたわね」
「岩場の影に張り付いて観察していましたが、その時の小太郎は肌も赤く吐息荒く、常に勃起状態を維持していました、とてもえっちでした、目の法楽です」
「成程、効果は覿面という訳ですか」
どうやら紛い物ではないらしい。確かな効果があると分かる。今度、お茶に感度三千倍を仕込んで飲ませよう。香は強く頷いた。
「でも、その効果を確かめる一回で媚薬は使い切ってしまったし、新しいものを購入しようにもカゲロウさんが頷いてくれないから」
「説得すれば宜しいでしょう」
香はそう云って拳を掲げて見せる。どんな人物でも殴れば一発である。何なら香が全力で殴ればラージャンですら地面に埋まる。媚薬や感度三千倍を手にする為ならば多少の犠牲は厭わない。所謂コラテラルダメージと云う奴である。己の平穏と幸せの為の、致し方ない犠牲だ。香はどこまでも
「駄目よ、彼とはこれからも良い関係を築いていきたいもの」
「そうですね、カゲロウさんは為になる書物や薬を提供してくれる善人です、なるべく穏便に済ませたいと思っています」
「左様ですか、そうなるとやはり正攻法しか」
己の提案が否決され、心なしか香の肩が下がる。
「私が生意気な態度で『ざぁこ♡』と云うと小太郎は嬉しそうに股間を大きくするのですが、お姉ちゃんが迫っても同じ状態、ならばアプローチの仕方自体は間違っていない筈です、お姉ちゃんや私の性格、態度、容姿は魅力的に感じている筈なのです――それでも尚、手を出さない理由がある筈」
「もしかして、衆道なのかしら?」
「いえ、何度かその手の確認も行いましたが反応がありませんでした、小太郎は異性愛者です」
「それを聞いて安心したわ、万が一小太郎君が衆道であっても全力で性癖を此方側に捻じ曲げるつもりだけれど、手間が無いに越したことはないものね」
「流石です姉様」
「もういっその事、夜這いを仕掛けますか?」
「それはもうやったわ」
「小太郎の勘が鋭いのか、夜這いを仕掛けようとするとウツシ教官と夜通し修練をしているのよね」
「むぅ」
頬を膨らませて不満を露にする香、本当に何をやっても受け入れないではないかと内心で憤慨していた。
尚、これは夜這いを検知したウツシ教官が深夜に小太郎の自宅に突撃し、「やぁ愛弟子! 深夜特訓の時間だよッ!」と修練場に拉致しているからである。彼もまた、影より小太郎の貞操を守る守護者なのだ。しかし当の本人には全く理解されていない模様。一時期意固地になった姉妹が何度も夜這いを仕掛けたせいで、一週間連続深夜の突撃敢行を受け小太郎は本気でウツシ教官に殺意を抱いた。恐らく微塵の躊躇いもなく教官を殺そうとし始めたのはこの頃からである。
「……流石は小太郎、本当に崩れない」
「そうね、全く何が不満なのか、姉様と私がこんなにも想っていると云うのに」
「ミノト、そんな風に云うものではないわ」
爪を噛むミノトをヒノエが窘める。
「しかし、こうも靡かないとなると本当に――」
「うらぁァッ!」
「! あらあら」
香の言葉を遮るようにして荒々しい声と騒音が室内に響いた。全員が音の出所へと視線を向ければ、肩で息を繰り返す小太郎が自宅の戸を勢い良く開いていた。多少土に塗れている様子だが、怪我らしい怪我もない。その視線は一点に集中しており、香は先程までとは異なる嗜虐的な表情を浮かべる。反し、小太郎は憤怒の表情。
「見つけたぞっ……香ォ!」
「お兄ちゃん、あの鉄糸から抜け出せたんだ、ふぅん、やるじゃん♡」
メスガキの仮面を被った香は静かに立ち上がりながら称賛の言葉を口にする。そこまでして小太郎も室内に香以外の人影が在る事に気付いた。ヒノエとミノト、見慣れた二人の姿に小太郎は僅かに狼狽する。何故自宅にいるのか、自分は何の連絡も受けていないというのに。
「っ、ミノトさんにヒノエさん!? 何で此処に――」
「……お姉ちゃん、さっきの話の続きなのだけれど」
――もうこれ、無理矢理既成事実を作った方が早くない?
「は?」
「へぇ」
「ふぅん」
この音声の内約は順に小太郎、ヒノエ、ミノトである。小太郎は一体何の話か分からずに本気での困惑の声。対してヒノエ、ミノトは目を細めながら「悪くない」と云った風な反応。小太郎は自身に注がれる二人の視線を感じ、鳥肌が立った。普段とは異なる獣の目――それこそ正に、狩猟対象を見つけた狩人の如く。
何か、途轍もない嫌な予感がした。背後からけたたましい音、素早く背後を見れば独りでに扉が閉まっていた。良く見れば蟲糸の光――ヒノエの指先から糸は伸びていた。思わず、小太郎は引き攣った声を零す。
「一体、何を……云っているんだ」
「お兄ちゃん、もう分かっているんでしょう? 散々二人にアピールされたよね? 私達がお兄ちゃんを『そういう目』で見ているって分かっているよね? だから――」
「抱かせて♡」
「ッ……!」
小太郎は思わず両手で自身の体を掻き抱いた。自分が姉妹をそういう目で見ている様に、彼女達も自分をそういう目で見ている。薄々気付いてはいた、何となく察してはいた、秋波を送られた事は何度もある。それでも尚答えなかったのには理由があった。故に小太郎はこの様な手段を取った三人を睨め付け、叫んだ。
「女の人っていつもそうですよねッ! 男の事を何だと思っているんですか!?」
「愛玩弟」
「愛護対象」
「愛棒♡」
「倫理観の欠如ォ!」
叫びは誰にも届かなかった。唯々、情欲に塗れた瞳だけが小太郎に向いていた。
「しかし、まぁそうですねぇ、確かに最近千日手になっていた実感はあります、ならばこそ行動を起こすべき、理解は出来ます、納得も出来ます――既成事実、何と良い響きでしょうか」
「ふぅむ、しかし私としては小太郎に嫌われる行為は余り……」
「大丈夫だよお姉ちゃん、だって――」
香の視線がすっと、小太郎の顔から下へと向かう。それをなぞるように姉妹の視線もまた落ちた。その視線の先には――小太郎の、小太郎が。
「あら」
「まぁ」
「ふふっ」
思わず小太郎は退いた。宛らそれは生まれたての小鹿の如く。そりゃあ美(少)女三人に妖しい雰囲気など出されたら、そうなるだろう。本能は素直だった。しかし、小太郎は素直ではなかった。
「ば、馬鹿な、何を考えているのだ香! ヒノエさんッ、ミノトさん!?」
「そうは云っても、ほら、お姉ちゃんも随分待ったかなぁって」
「据え膳食わぬは男の恥とも言います」
「男は度胸だよお兄ちゃん♡」
「香は未成年だしっ、お二人は俺の姉でしょう!? 大人として恥ずかしくないのですかッ!」
「でも~、最近小太郎君はお姉ちゃんって呼んでくれないし~?」
「ひ、ヒノエお姉ちゃんッ!」
「はーい、お姉ちゃんと一緒にくんずほぐれつしましょうねぇ♡」
「クソァ!」
この姉を名乗る痴女は駄目だ、小太郎は即座に矛先を変えた。
「み、ミノトお姉ちゃんッ! ミノトお姉ちゃんは違うよねッ!?」
小太郎の必死さすら感じる訴えに、そっと目を瞑るミノト。
固唾をのんで見守る小太郎。傍から見れば本能と戦っている様に見えなくもない。小太郎は期待を抱いた。
「どちらかと云えば」
「ど、どちらかと云えば……?」
「大賛成」
「滅茶苦茶ノリ気じゃねぇか!」
期待した己が馬鹿だった。小太郎は思わず打ちひしがれ、その場に崩れ落ちると何度も地面を拳で叩いた。涙が零れそうになる。駄目だ、此処には誰も味方がいない。
「香! 香ッ! 知っているか、女性でも強姦罪は適応されるのだぞッ!?」
「でもお兄ちゃん勃起しているよ? という事は和姦だよね? 合意♡ 合意の上だから♡」
「只の生理現象だろうがッ! くっ、鎮まれ俺のヤマツカミ……ッ!」
「――大体さ、何が不満なのお兄ちゃん? ミノトお姉ちゃんも、ヒノエお姉ちゃんも、私も、かなりの美人さんだよ? こんな三人に言い寄られて欲情しないなんて可笑しいよね?」
「いや、勃起はしているんだ」
「なら何で受け入れないの? ホモなの?」
「いや、ホモじゃないし」
「――本当かなぁ?」
香がわざとらしい声を上げた。どこか平坦で、含みを持たせていた。小太郎の視線が彼女へと吸い込まれる。その瞳に何か、嗜虐的な炎が灯った様な気がした。
「お兄ちゃんっていつもウツシ教官と一緒に居るよね? ヒノエお姉ちゃんともミノトお姉ちゃんとも、顔自体は合わせても一緒に過ごす時間はそんなにないって云っていたし、一日の大半を一緒に過ごす人って、やっぱりウツシ教官だよね?」
「だって、修練の教官だし……」
「ウツシ教官もお兄ちゃんと一緒に居る時は妙に元気だよね」
確かに、小太郎は内心で同意した。あの修練大好きウツシ教官は普段も元気溌剌であるが、自分の修練となると妙に活き活きとし始める。無論、それは他人の修練に手を抜いているという訳ではない。ただ、小太郎の時にだけ妙に体に触れる事が多いとか、手合わせが多いとか、それだけの事だ。
何が言いたいのだこいつは、小太郎は頭を振った。
「いや……気のせいだよ」
「それだけじゃないよ、お兄ちゃん――夜な夜なカゲロウさんに会っているよね?」
会っている、薬を貰う為だ。主に姉妹の恋愛攻勢行為に耐える為の。勿論それだけではない、基本的に狩猟で使用する回復薬や罠、爆弾の類は全てカゲロウさんから卸して貰っている。道具の整理中に不足品に気付いた時は早い内に購入する事を心掛けているだけだ。
「しかも小耳に挟んだのだけれど、カゲロウさんの前で半裸になっていたって」
なっていた、触診の為である。別にやましい意味はない、喉を開いて見せるとか心音を聞かせるとか形式的なものだ。カゲロウさんは医術の心得もあるので狩猟の最中怪我を負った際は多少深いものから軽いものまで、彼に診てもらうのが習慣になっていた。
「里長のフゲンさんとも、一緒に温泉に入りに行ったんだって?」
行った。お互いに温泉が好きだから誘われてユクモの方まで遠出した。修練漬けも良いが偶には息抜きも大事だと云われ、ウツシ教官に断った上で行った。あの日は唐突な修練に怯える事もなく心の底から安らぐ事が出来た貴重な一日だった。
「その後、ゴコク様とイオリ君とも合流してマッサージも受けたって」
受けた。フゲンさんと温泉に出かけたという話を聞いたゴコク様が、イオリ君を連れて酒を片手に合流したのだ。イオリ君とはお互いに背中を洗い合って、お風呂上がりは按摩の技術を持つアイルーを雇ってマッサージを受けた。風呂上がりの按摩は格別であった。
「それにお兄ちゃん、自宅にゴコク様の描いたウツシ教官やカゲロウさん、フゲンさん、イオリ君の写し絵飾っているよね? 他の男性陣もお兄ちゃんの写し絵持っているし、何なら懐に大事そうに持ち歩いているし……」
「――――」
持っている、里の男陣は何だかんだ言って仲が良い。だから宴会の時などにゴコク様に似顔絵を描いて貰い、お互いに持っていたりする。里の主要な絡みのある人員ならば全員そうだ。
「………」
冷汗が垂れた、頬から顎先に向けてゆっくりと。
何だ、これは、小太郎は狼狽した。何が起こっているのか分からないが、第三者から見て自身がホモであると言い掛かりをつけられている事だけは分かった。問題なのはその言い掛かりに対して自分は反駁の術を持っていない事であり、反駁がない場合はホモと断じられても仕方ないという事だった。
三人の見る目が、「まさか本当にホモ?」みたいな目になっている。違う、全く違うが、事実だけ並べると自分はホモだった。少なくとも自分は違うと宣ったとしても、全くの第三者からこれらの証言を述べられた上で、「この対象はホモですか?」と問われたら小太郎はあっさりと頷くであろう疑いようのない順然たる事実がそこにあった。
小太郎は思った、自分はホモだったのだろうか。違う筈だ、しかし状況証拠が揃い過ぎていて傍から見れば己は完全無欠のホモであった。俺は、ホモ? 小太郎は三人を見た。それから自分の下半身を見た。勃起していた。
「お兄ちゃんは男の人が恋愛対象なのかな?」
「そ、そんな訳ないし」
小太郎は否定の言葉を口にした。声は震えていた。
「信じられないなぁ、小太郎君、お姉ちゃんとしてはちゃんと証明して欲しいなぁ~」
「さ、三人に迫られて勃起しているでしょう!?」
「それは只の生理現象なのでしょう? 自分で云った事です、そんなモノで証明したって言われても、心の底から信じる事は出来ません」
「なら、どうしろって……」
「分かっているよね、お兄ちゃん♡」
三人の瞳が再び小太郎の股間に集中した。小太郎の両足が内股になる。目が口以上に雄弁過ぎてどうしようもなかった。小太郎の顔が恥辱に歪む。
「……抱いて証明しろと、そう言いたいのか」
「とっても単純で分かり易いでしょう?」
嬉々としてそう宣う香。
しかし此処で女性を抱いたとしても、それは
小太郎と香の視線が交差する。その瞳が語っていた、「ホモじゃないなら抱けるよね?」と。彼女の背後に佇む姉妹もまた、何処か落ち着かない様子で小太郎を見ていた。期待しているのだ、この後の展開に、小太郎が屈する事に。
事、此処に至って小太郎は悟る、彼女たちは真実、己がホモかどうか等どうでも良いのだと。唯々、小太郎と云う人間を組み敷きたい、それのみを目的としているのである。そして恐らく、此処で小太郎が否を突きつければ「やっぱりホモじゃないか」と嬉々として里中に言い触らすに違いなかった。
何という奴だと小太郎は憤慨した。自身の目的を果たす為にある事ない事言い触らし、あまつさえ人の性癖にけちを付けよう等と――確かに傍から見れば己はホモに見えるかもしれない、しかしそれは彼女達の策略であり、きちんと実態を把握した上で確認すれば何気ない日常の一頁である事が分かるだろう。小太郎はホモではないのだ。固唾を呑んで見守る姉妹を他所に、小太郎は力強く宣言する。
「――いいや、俺は違う道を選ぶ」
「へぇ?」
香の瞳がすっと絞られた。
何故彼女達を抱こうとしないのか。それは自身の信条に反するからだった。他人と愛し合うという行為はもっと、純粋なものでなければならない。それは何らかの代償行為や条件を伴ったものではならないと信じている。彼女達が相手ならば、猶更。
三人に対して好意を抱いていないのか? 抱いているとも。
劣情は覚えないのか? 覚えるとも。
しかしそれは、もっと純粋で己から切り出さなければならないという理想がある。
だからこそ譲れない、だからこそ頷けない。何より。
――性交渉しなければホモなんて未来を己は認められない。
小太郎の体から武威が迸った。それは武器を手にしていない人間は纏うには余りにも禍々しく、鋭く、重い。古龍も斯くやと云わんばかりの圧力に、対峙する三人の瞳に剣呑な色が宿る。彼女たちにとっては小太郎の答えなど、どちらでも良かったに違いない、力づくか、そうではないか、それだけの違いだった。
「ふぅん、そっかぁ、じゃあ初めては無理矢理だね♡」
「久々の手合わせですね小太郎、大丈夫です安心して下さい、予習は完璧です」
「大丈夫だよ小太郎君、優しく手解きしてあげるからね? まずはお尻の開発からかな」
六つの瞳が立ち向かう小太郎を射貫く。
昏く、粘着質な瞳だと思った。
是が非でも組み敷いてやるという強い意志が覗いている。此処で敗北すれば、恐らく小太郎の思い描く理想とは真逆の結末を辿るに違いない。布団の上で畳が軋むような大運動会が決行される事間違いなし。
負けられない戦いであった、故に小太郎は悟った――そうだ、己が鍛えた力は全て、この時、この瞬間の為にあったのだと。すとん、と小太郎の中に納得が落ちた。
どれだけ強大なモンスターを倒せても、どれだけの困難を乗り越えられても、それは小太郎にとって通過点に過ぎなかったのだ。すべてこの時、この瞬間の為。
どれだけの力を持っていても、どれだけの修練を積んでも。
「――救うべき時、救わなくちゃいけない時に勝てなきゃ、何の意味もないッ!」
叫んだ、それは正に未来への咆哮であった。
無我夢中の本気、必死。等身大の小太郎が、己の全てを賭けて、全てを用いて戦う時に見せる気迫。此処で己が退けば里が、大切な人々が、家族が犠牲になる。そう戸口に立つ小太郎が発する、死んでも退かない意思表示。
香の口角が本人の意志とは関係なしに吊り上がる、ヒノエとミノトの頬に紅葉が散った。役満であった。
小太郎の全身より噴き出す闘志が全身全霊で叫んでいた。
俺はホモじゃない、後そういう事はもう少し生活基盤が整ったり、清い交際を経てから至るものであると。
それは、正しく未来を賭けた戦いであった。
「諦めなよお兄ちゃん、三人に勝てる訳ないでしょう?」
「馬鹿野郎、お前、俺は勝つぞお前ッ!」
小太郎は自分に発破を掛け、拳を握り込む。
此処で勝利し、綺麗なまま異性愛者の称号を手に入れる。右手に尊厳を、左手に矜持を。
妖艶な笑みを浮かべながら足を踏み出す三人に挑むように、小太郎もまた一歩足を進めた。
「この戦いが終わったら俺は休暇を貰うんだ、如何に進化したとは云え至近距離から竜撃砲を叩き込めば……こんな所に居られるか! 俺は修練場に帰らせて貰うッ! 扱い辛いって話だが最新型が素手なんかに負ける筈ねェだろいくぞォオオッ! 今この瞬間は力こそが全てだ! マッハでハチの巣にしてやんよ、故に――別に倒してしまっても構わんのだろう?」
■風魔小太郎
三人の事は好きだけれど、ハンターは危険な職業だし、収入も安定しないし、軽々しい気持ちで子供なんて作ったら絶対に後悔するし、もっとお互いを知ってから……というか複数人に好意を向けるって男性としては塵屑では? ともじもじし続け早十余年。相手の方が先に爆発した。
男女観は純粋であり、恐らく里の中でも真っ当な部類。お付き合いするなら結婚前提、結婚するならば纏まった資金が出来てから。せめて子供が育つまでは百竜夜行のある里ではなく、大きな街に居を構えたい。その街でギルドから依頼を貰える様に今の内から名前を売って――と将来設計を描いていた。
尚、それらは全て机上の空論となった模様。
この世界に来る前は殆どの時間、ずっと白い天井を眺め続けていた。
享年十歳。
■ヒノエ
そろそろ食べ頃なのでは? もう食べちゃっても良いよね? そんな誘惑を毎年毎年乗り越えてきたが、小太郎の方が全く恋愛攻勢行為を仕掛けて来ないので、フラストレーションが爆発しあらゆる手を使って篭絡しようとする女性となった。目の前にとっても美味しそうなうさ団子があるのに、何年も待てをさせられている様な気分とは本人の言。もしかしたら誰かに盗られてしまうかもしれない、味が変わってしまうかもしれない、その前に口一杯頬張るべきでしょう。
だから私は悪くない。
夢は小太郎を相手に赤ちゃんプレイに興じる事。
香とは共同戦線を張る仲。
因みに小太郎の懸念する資金問題や住居問題等は全て自分が解消するつもりでいる。結ばれた場合、「ヒノエお姉ちゃんが全部何とかするから、小太郎はお家でお利口に待っていてね♡」とハッピーエンド間違いなし。何せ小太郎と出会った日から今日まで報酬の大半を貯蓄に回しているし、出費はうさ団子程度のもの。またハモンやフゲンと協力し、里の警邏の強化や近隣里との連携に取り組んでいる。
■ミノト
昔はお姉ちゃんお姉ちゃんと何処にでも付いて来た少年が、いつの間にか凛々しい青年に成長し、余りにも自分好みに育ったものだから、「まぁ、ちょっと位食べても……バレへんか!」の精神で手を出す事を決意した。姉妹なので性癖も似る、ただし此方は姉よりも多少は理性的。なるべく穏便な手段、かつ正しい男女交際を経て結ばれたい願望を抱いていたが、「そもそも二人、三人と交際する時点で正しいも何もないと思うよ?」と姉に諭され、それもそうかと開き直った。
夢は小太郎を全裸に剥いてわんわんプレイをさせる事。
香とは共同戦線を張る仲。
姉と同じく小太郎の懸念する資金問題、住居問題に対して対策済。ギルド管轄の人間として窓口対応の合間に内緒で自らクエストに赴き報酬を荒稼ぎしまくった。他、ロンディーネと秘密裏に内通し、カムラの里と王国間での技術交流を開始し里の防備を強化。ギルド上層にカムラの里の重要性を根気良く説き、万が一最終門を破られた場合に備えロンディーネを説得し王国より出資を引き出した後『カムラ空援隊』を組織、気球艇を利用した防衛戦力の確保に成功した。
■朱仁 香
三姉妹の末っ子。ヒノエ、ミノトと血は繋がっていない。
幼い頃、自分よりも背丈も筋力もあった癖に組手で負けた小太郎に向かって、「ざっこ♡」と揶揄った所、彼の息子がスタンダップしていた為、その路線で攻める事を決めた。
小太郎の為にメスガキの仮面を被ったものの思いの他楽しくて小太郎限定のメスガキに気付いたらなっていた難儀な少女。本来の性格は軽薄で冷徹、悪い意味で情が薄い。
しかし、規格外の力を持つ自分を暖かく迎えてくれるカムラの里には感謝の念を抱いている。何だかんだ云って、里の人間に対しては温厚。
本当は小太郎の事を独占したいと思っているが、ミノトとヒノエには幼少の頃から世話になっていたし、小太郎は小太郎で二人に小さくない恋慕の情を抱いている様子だし――まぁ、三人でも良いかとなった。三姉妹扱いされているが、それはそれ、これはこれ。
彼女の中で判断基準になるものは『小太郎が幸せか否か』であり、如何に倫理的、道徳的に否定される行為であっても小太郎にとってその行為が幸福であるならば躊躇わず実行出来る。
それが己の隣に立つ為に、どれ程険しく高く困難であるか理解した上で茨の道を行く、文字通り血反吐を吐いて歩き続ける想い人に対して差し出せる唯一のモノだと信じている。
どれだけ人らしい感情を見せても、その根底は幼い頃より欠片も変わっていない。
風魔小太郎と、それ以外だ。
■里長 フゲン
この世界に於いて『継伝の太刀』は、まだ彼の背に在る。