人間がウマ娘に勝てるわけ……あれ?   作:賢さG

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タマモクロスが200連引いてやっと出てきてくれたので初投稿です(天井)
問題があれば私とタマモクロスが腹を切ってお詫びします。

世界観としてはアプリ版準拠ながらリギルだのスピカだのも存在する感じ。特別移籍を見るに、各トレーナーも存在するみたいだし仕方ないね。


メジロマックイーン、出会う

 メジロマックイーンは激怒した。

 今日、初の顔合わせとなる予定……だった、サブトレーナーが、約束の刻限から一時間も遅刻しているからである。

 

「遅すぎますわっ! 顔合わせのほかに、トレーニングの予定だってありましたのに……!」

 

 メジロマックイーン。チーム『シリウス』のエース……もとい、チームに残った唯一のメンバー。名門チームであるはずの『シリウス』は、同じく名トレーナーであったチームの監督が老齢のため引退。

 チームを組んでいないトレーナーの中に後釜を任せられる者はおらず、仕方なく()()()()()()()()()()()サブトレーナーをトレセン学園へ招集……するも、手腕とネームバリューを気にしたメンバーウマ娘たちは離散、といった状況。

 

 流石に薄情に過ぎる……が。さもありなん、ともメジロマックイーンは思う。なにせ、サブトレーナーに会ったことがあるウマ娘自体、ほとんど居ないのだから。

 実力自体は確かだろう、何せトレーナー……『シリウス』の先代トレーナーの肝煎りで、フランスのトレーナー養成施設へ留学に行くほどなのだから。テレビ通話越しではあるが、度々マックイーンへ施された指導からもトレーナーとしての腕の程は窺える。ただ……それでも、顔も見たことがないサブトレーナー、という肩書きは、本場、海外経験者からの指導というメリットを引き合いに出してなお、重いものだったのだろう。

 かのオグリキャップを始めとした名ウマ娘たちを育成してきたベテランならばともかく、そんな相手に競争ウマ娘としてのキャリアを預けられない、と言うのも無理はない。かく言うメジロマックイーンですら、『お試し』と称して彼……サブトレーナーと(通話越しに)引き合わせられ、顔や為人を知らされていなければもっと迷っていただろう――生来の人の良さを持つマックイーンならば、どんな場合でも『シリウス』とサブトレーナーを見捨てなかっただろう、という先代の思惑は、傍へ置いておいて。

 

 ともかく。そんな、沈みかけの船もとい解散しかけのチームに付き合ってくれるウマ娘を置いての、一時間の遅刻である。人の良さと同時に、生真面目さを――好物(スイーツ)に関する事柄を除いてだが――併せ持つメジロマックイーンにとって、これは看過できるものではなかった。

 通話越しに顔を見、言葉を交わしただけの相手ではあるが、そこまで不誠実そうではなかった――もっと言えば、真摯かつ思慮深そうではあったのだが。

 

「……まったく! 遅刻など(ずしん)言語道断ですわ! 遅れるならばせめて理由くらい、連絡すべき(ずしぃん)でしょうに……! あれですの、海外の方は時間にルーズだと聞きますが、それに染まってしま(ずしぃいん)ったとでも!? ……あら? なんだか地響きが」

「――すまない、遅くなった」

「……! 遅くなった、じゃありませんわよ!? 約束の時間から一時間、何をしていればこん……な……に……」

 

 メジロマックイーンは激怒していた。怒りのままに振り返り、そこにあるはずの男の顔へ恨み言のひとつでもぶつけてやろうかと振り返り――その視界に映ったのはだった。それも、自身よりも太く分厚かろう、二本の柱。

 

「こちらの落ち度だ。校内へ入るところで守衛に止められ、そこを過ぎれば理事長秘書? とやらに止められ、事情聴取を受けた。鞄から電話を取り出そうにも、怪しいものが無いかと取り上げられてな」

 

 メジロマックイーンにとって、ほぼ()()から声が降ってくるというのは初めての経験であった。そして、聞き覚えのある声が同じ場所からかけられる、と言うのもまた、輪をかけて初めての経験であった。

 声に導かれるままに、顔を上げる。

 ――鋼のごとき、胸板があった。

 

 「おまけに、それらから解放された直後……このウマ娘に捕まった。私から鞄を引ったくる速度と技は大したものであったが、それが原因で連絡が遅れたとあれば素直に賞賛も出来ぬというものだ」

 

 メジロマックイーンは上を見上げた。何故なら、顔を上げてもまだ、相手の顔が見えなかったからである。首が痛くなるほどに上を見上げ、更に少し背を反りかえるようにしてもっと見上げ――ようやく、目と目が合う。

 

 ――ソレは、男であった。

 

 ――身長、253cm。

 ――体重、311kg。

 修めた武芸は数知れず。身体に張り付いたTシャツから透ける筋肉は金剛石の如く堅く、体脂肪率は脅威の2%。

 総身に満ちる力は限りなく、金に輝く双眸は鷹の如き鋭さ。

 「ソレ」は神の創りたもうた奇跡。彫り上げた彫刻がごとき肉体。

 「ソレ」は正しく神話の英雄。無双の勇者。……誰一人知らぬことではあるが、その姿はギリシャに曰く。神話上最も有名な()()()である賢者ケイローンを射落とした(恋愛的な意味で) 世界最強の大英雄(ヘラクレス)と酷似したモノであり――

 

「どうした。私の顔に何かついているか――ああ。この芦毛は、私の鞄を狙ったものだ。追い回し、捕まえたのだが気を失ってな」

 

 ――そんな巨きな男が、肩に。白目を剥いて昏倒した、芦毛の問題児(ゴールドシップ)を担いで、メジロマックイーンを見下ろしていた。

 

「……な、」

 

 大きく、巨きく、雄々きい。生物としての圧倒的な、存在感。ウマ娘という生き物は、人間に比べ「本能」に影響されるところが大きい。自身をより速く強靭に育て上げる「トレーナー」に対し、好意を抱き易くなるのも、これが一因であると言われている。

 翻って、この男。見るだけで分かる――強い。理事長が扇子を拡げて、「最強ッ!」とでも叫びそうなほどに、強靭である。なるほど、守衛もウマ娘、理事長秘書――駿川たづなもまた。彼女らが彼を引き止めたのも、肩の問題児が珍しく()()()()のも、宜なるかな。あるいは、他のウマ娘も彼を見たならば……とメジロマックイーンの冷静な部分は、そう思考する。

 そしてそれは、正鵠を射ている。トレーナーがトレセン学園の門を潜り、校内を歩き、グラウンドに降り立ち、ターフにいるメジロマックイーンの下へ辿り着くまでに、彼を目撃したビワハヤヒデの眼鏡は割れ、トウカイテイオーは「ナンナノコノヒト-!?」と叫びはちみーを噴き出し、ミホノブルボンは宇宙ブルボン顔でフリーズし、そしてシンボリルドルフは思わず領域を展開させた。

 メジロ防衛隊が出動しなかったのは、偏にメジロライアンの「あの筋肉を見れば、彼が悪人でないことは一目瞭然!」という鶴の一声があったからである。なお、彼女の目は輝いていたし、たまたま近くにいた桐生院トレーナーは卒倒した。

 

「……なっ、」

 

 しかし、彼を目にしたウマ娘の中でも、メジロマックイーンは一味違う。彼女もウマ娘であるが、しかしながら『メジロマックイーン』である。その身に宿すウマソウルのうち、『メジロ』の部分……名家・名門としての格、あるいはゴールドシップの祖としての問題児(わけあり)部分がこの男への強い興味を示し、「圧倒的ですわ!」「彼以外勝ちませんわ!」「唯一抜きん出て並ぶもの無さすぎですわ!?」と彼女に囁き。

 ウマソウルのうち、『マックイーン』の部分……彼女個人に由来する部分が、「パクパクですわ!」「いやデカすぎますわ!?」「この人……人? をユタカの次の打者に据えれば勝ち確ですわ!」と囁き。

 そして、それら全てを統合し、かつウマソウルが暴走しないように手綱を握る理性……ツッコミ部分は、一気に溢れる情報に手いっぱいとなり。

 結果――

 

「……何が、どうなっていますのぉーーーーー!?!?」

 

 ――メジロマックイーンの叫びが、トレセン学園のターフとダートに、響き渡った。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 数分後。どうにか落ち着きを取り戻したメジロマックイーンは、改めて彼……トレーナーと相対した。

 

「お見苦しいところをお見せしましたわ。それで……確認なのですが、貴方がチーム『シリウス』の新たなトレーナーとなる方で、間違いありませんわね?」

「ああ、その通りだ。君とは少し、電話越しにではあるが言葉を交わしていたが……対面するのは、初めてだったな。これからは、サブトレーナーではなくトレーナーを務めさせてもらう」

 

 折りたたみ式のテーブルを挟んで、メジロマックイーンとトレーナー。備品のイスは彼が座った瞬間に圧壊したため、トレーナーは地べたに座っているが、それでもイスに腰掛けるメジロマックイーンより目線が高いのは、流石と言うべきか。

 メジロマックイーンは、平時の冷静さを取り戻して、トレーナーに声を掛ける。

 

「ええ、分かりました。では、これからはトレーナーさん、とお呼びいたしますわ。……遅刻に関しては、正当な理由がありましたので、今回は不問に。ところでトレーナーさんは野球(やきう)に興味はございませんの?

「すまない、寛大な配慮に感謝を。……先代から引き継いだチーム、私と君の二人になってしまったが……盛り返していけるよう、共に力を尽くそう。そして野球にはあまり興味はないな」

 

 訂正。メジロマックイーンは、まだ混乱している。

 

「そうですか……残念ですわね。チームに関しては、メンバーを新たに集め直すところから、ですわね。並行して、私の次のレースへ向けてのトレーニングもお願いしたいところです。あとトレーナーさんは野球(やきう)の経験はありませんの?

「君の次のレース……先代からも聞いている。私もまた、把握している。『天皇賞(春)』……グレード1のレース。簡単なものではないが、君と私であれば獲れる冠だろう。そして野球の経験は、友人に誘われて数回程度と言ったところだ」

 

 ターフを吹き抜ける風に、トレーナーの鬣のような豊かな髪が靡く。G1のレースを、難しいものではあるが勝てる――正確には、「お前ならば勝てるだろう」と言い切ったトレーナーのその言葉に、メジロマックイーンは知れず身を震わせた。不安はあった。あったが……それらがたった一言で、拭い去られたからだ。力のある言葉と無上の信頼は、ウマ娘を奮い立たせるものだ。故に、

 

「……ならば。そこまで期待されているのであれば、わたくしも。メジロマックイーンも、わたくしに課された使命を果たさねばなりませんね。……あなたをわたくしの、いいえ。『シリウス』のトレーナーと認めます――ともに、頂点を目指しましょう」

「無論だとも、メジロマックイーン。君は、頂点を射落とせるウマ娘だ。――ともに、頂点を目指そう」

 

 メジロマックイーンの小さな手と、トレーナーの巨大な手――というか、指が結ばれる。交わされた約束とともに、栄光への第一歩目が今、踏み出され――

 

ところでトレーナーさん。ビクトリーズに入団する気はございまして?

「いきなりトレーナーを廃業させようとしないでくれ」

 

 ――踏み出された。




この大英雄シリウスTはアプリ版トレーナーの「その時ふと閃いた!」と大英雄の身体能力をどちらも併せ持った怪物です。

容姿はヘラクレス(弓)。身体能力もヘラクレス。技能もまた同様。
ビクトリーズに入団した場合、256km/hでバクシンし、百に分裂してバッターのバットを100%へし折る魔球をぶん投げることになります。マックイーンはパクパクが止まらなくなる模様。

短編だけど、できれば、ライスのブーイングライブを単身でぶち壊すところまで書きたいな。

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