人間がウマ娘に勝てるわけ……あれ?   作:賢さG

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だいたい手癖で書くと2000から2500文字くらいになるので、やっぱり文字数足りないなあ……などと思いつつ執筆をしている。

???「ちょわっ!? つまり、手癖で二回書けばよろしいのではっ!? またお悩みを解決してしまいましたねっ!! バクシンバクシーン!!」

だいたいこんな感じです。


メジロライアン、共振する

 寮の門限をとっくに越え、日も変わろうかという深夜。生徒の一人たりとも存在しない筈のトレセン学園敷設グラウンドに、ターフを駆ける足音がひとつ。

 

「はっ……っ、はっ……! もう、一本! 勝つためには、まだ……!」

 

 メジロマックイーン。チーム『シリウス』唯一のメンバーであり――使命である天皇賞(春)が間際に迫った、ウマ娘。彼女が、鬼気迫る表情で脚を動かしている。

 名家であるメジロ家のウマ娘らしく、お嬢様然とした――ごくごく一部(やきうとスイーツ)の話を除いてだが――彼女。しかし、その裡に秘める根性は並のウマ娘の比ではない。悲願である天皇賞、その一帖の盾を得るためならば、限界すら越えられる闘志を持つ。

 ただし――今のこれは、明らかなオーバーワークだ。メジロマックイーン自身ですら、オーバーワークを半ば自覚しており、またトレーナーの指示を破っていることに対する罪悪感も覚えている。覚えていてなお、走らざるを得ないほどにプレッシャーを感じている。

 

「……ま、だ……っ、あうっ!?」

 

 だが、無茶は長くは続かない。前に出そうとした脚が突っ掛かり、態勢を崩す。

 

「――危ないッ!」

 

 夜闇を切り裂くトレーナーの大音量。メジロマックイーンが倒れながらも振り向くと、そこには慌てた顔で駆け寄ってくるトレーナーの姿が――

 

「……???」

 

 ――そんな可愛らしいものが映っているはずもない。

 メジロマックイーンの視界……少なくとも、ターフを数周する際に視認できる範囲にトレーナーの姿はなかった。見落としている、という可能性はない。いくら夜が暗かろうと、253cmの巨体を見落とせる筈がない……その筈だったのだが、その男はどこからともなく現れ――メギョンッ、という形容し難い破砕音。

 その音に従い、倒れながら目線を動かす――必要は、全く無かった。グラウンド脇、模擬レースの際に観客席として開放されるそこを蹴ったのであろう。蜘蛛の巣状に無惨な罅の入った、爆砕という単語も斯くやの状態となった観客席を背に、いや足に。

 地面と並行になって、一直線にカッ飛んでくるトレーナーの姿

 メジロマックイーンの思考が止まる。

 

「――ぬゥんッ!!」

 

 しかし、射出角――人間相手にこの表現も可笑しいが――からして、彼の飛距離はメジロマックイーンまでは届かない。ならば、とトレーナーはターフに着地すると同時、その大木のような脚を地面に深く深く突き立てる――震脚。

 局所的に、大地が揺れる。トレセン学園校舎の窓ガラスがビリビリと振動する。踏み抜いた脚から指向性を持って、一直線にメジロマックイーンへと放たれたのは――そう。

 

 衝撃波だ

 

 メジロマックイーンは生まれて初めて、『倒れながら浮かび上がる』という体験をした。貴重な体験であった。メジロマックイーンの真下で炸裂した衝撃波は、さながらゴムボールのように、159cmの身体を完全に浮かび上がらせる。疑似的な無重力状態。それが続くのは三秒か、その程度であるが……トレーナーにとっては、それだけあれば充分であった。一歩、二歩、そして最後の一足で、彼はコース上に落着するメジロマックイーンの下に滑り込み、その身を抱き止めた。

 

「無事か、メジロマックイーン」

「……トレーナーさん。どうして、ここにおられますの」

「私は、君のトレーナーだ。君が私に隠れてトレーニングをしていることも、君の調子も。分からない訳はない」

「……そう、ですか」

 

 トレーナーは、人知れず息を吐いた。疲労は蓄積しており、暫く休養させるべきだが……怪我はない。それだけは、喜ぶべきことだった。

 

「ああ、そうだ。それに……君が倒れそうになったならば、必ず飛び出して支える。何処にいてもな。それが、人バ一体のトレーナーというものではないかね」

「……もうっ! ……分かりました、わたくしが……悪かったですわ。申し訳ございません、トレーナーさん」

 

 メジロマックイーンは観念したように、こてん、と頭をトレーナーに預けた。少しばかり気恥ずかしい気もするが、今更だし……誰も見ていないのならば、と。

 

「さて。話し込んでも構わんが、まだ夜は冷える。部屋まで送っていこう」

「歩けますわ、降ろしていただいても……」

「今日はもう、無茶は控えておくべきだ。違うか?」

「……仕方ありませんわね。では、お願いいたしますわ」

 

 トレーナーに横抱きに抱かれ、メジロマックイーンは運ばれてゆく。彼はマックイーンを部屋まで運び、少し会話をした後、彼女を眠らせ……その足で、駿川たづなの元へ出向いた。観客席を破壊し、震脚からの衝撃波で校舎の窓ガラスを爆砕し、最後の滑り込みでターフを抉り取ったことの謝罪のためだ。

 一部始終を説明し、謝罪し。課された沙汰は――「それだけウマ娘のことを考えておられるならば、言うことはありません。次からは、気をつけてくださいね?」という言葉と、数枚の始末書のみであった。

 それだけか、と問うトレーナーに、たづなは頷くだけ。その横に薄ぼんやりと現れたイマジナリー理事長も、『豪快ッ!』と扇子を広げ、呵呵大笑するのみであり、トレーナーは二人の好意に甘え、もう一度頭を下げるのであった。

 

 余談ではあるが、大型の獣が暴れた跡のようになったグラウンド周辺は、夜のうちにメジロ防衛隊工兵科とトレセン学園工作部が修繕した。これが、これから長い付き合いとなる両者の、初めての共同工事であった。

 

 一夜明けて、翌朝。大事をとって休養日とし、部屋にて休まされているメジロマックイーンと、その世話をしているトレーナーのもとへ、来客があった。爽やかな笑顔、ベリーショートの髪のメジロライアンである。

 

「いやあ……それにしても聞きましたよ、トレーナーさん。昨晩、凄かったらしいって」

「面目ない。トレセンの事務課へは謝罪と、感謝を伝えたのだが。君たちのお抱えには会えずでな」

「気にしないでください! 防衛隊のみんなも、マックイーンを怪我させないでくれたぶん、むしろ感謝してましたから。……驚いてはいましたけど。『こんな足跡、ヒトどころかウマ娘のものでも見たことがない』って」

 

 ベッドにマックイーン、椅子にライアン。トレーナーは当然の如く、床である。礼儀として座布団は用意されているものの、完全に押し潰されたそれは最早、以後鍋敷きとしてしか使用できないだろうが。

 

「しかし、それにしても……トレーナーさん」

「何かね、メジロライアン」

「……また、キレが増しました? 特にその上腕と、肩の筋肉」

「わかるか。しかし、君もまた……仕上げてきたようだな」

「あなた達がなんの話をしているのか、わたくし、時たま分からなくなりますわ」

 

 メジロライアンが、トレーナーの……無地に黒の筆文字で”メジロマックイーン”とだけプリントされたダサTから伸びる上腕三頭筋と、三角筋、僧帽筋を指して言い、対するトレーナーはメジロライアンの前腕とトモを賞賛する。

 

「上半身、下半身共によく鍛えられている。しかし特筆すべきはやはりトモか。筋肉として鍛えられてありながら走る為の機能を損なっていない――否、逆か。走るために最適化されているにも関わらず、君の全身の筋肉は優れたパワーも秘めている。強靭かつしなやか。柔らかいが、密度が高い。良い筋肉だ」

「あ、あはは……何か恥ずかしいですね」

「失礼。レディに向ける視線では無かったかな」

「ちょっ、レディだなんて、そんな……!」

 

 顔を赤くしたライアンがぱたぱたと頬を扇ぎ、マックイーンは微笑ましげにそれを眺める。マックイーンの視線に気付いたライアンは、こほん、と咳払いして立ち上がった。

 

「いやー……慣れないです。マックイーンのトレーナーさんのことですから、冗談とは思えないんで……それは、嬉しいですけど」

「ならば良かった。世辞を言ったつもりはないからな」

「もう。……さて、私も次の用事があるんで」

「あら、もう行かれますの?」

 

 メジロライアンはにかり、と明るい笑みを浮かべた。

 

「やりますか」

「うむ」

 

「……えっ?」

 

 メジロライアンと、トレーナーが立ち上がり相対する。二人の間に敵意はない。ないが、集中力が高まってゆく。それが、最大に達したところで――

 

「――レッツ!!」

「――アナボリック!!」

「!?」

 

  作麼生(そもさん) 説破(せっぱ)。ツーとカー。阿と吽。同様に、メジロライアンがレッツ、と唱え、トレーナーがアナボリック、と返す。そして二人同時に――

 

「ふんッ!」

「ぬんッ!」

 

 メジロライアン――アブドミナル&サイの構え。

 トレーナー――モスト・マスキュラーの構え。

 

 メジロライアンのトモが光る。ウマ娘と言えば脚だろう、と言わんばかりのポージング。そこにボディビルが如き隆々の筋肉はない、と侮るなかれ。見るものが――ウマ娘のトモには一家言あると噂の有名人、沖野トレーナーなど――見れば、息を呑むほどの張りが、そこにはある。

 

「はぁ……ッ!」

 

 基本的に、ウマ娘は人間よりも優れた種である……と言われる。そしてそれは、間違いではない。間違いではないのだが、その「優れている」にも程度がある。

 瞬発力、筋力などは人間など及びもしないが……頑強さは、多少上、程度。ウマ娘という種族全体が、出力に対してハードが追いついていない。軽自動車にターボエンジンを載せているようなもの――端的に言えば、ウマ娘は全員ターボ師匠なのである。それ故に、ウマ娘の『仕上がった筋肉』の定義は、ヒトのそれとは異なる。

 

「ふん……ッ!」

 

 対して、トレーナーの筋肉は、まさしく『筋肉とは此れ斯くあるべし』と言わんばかりの頑強さ。ヒトがヒトのままウマ娘と並び立つならばこうなるだろう、という想像を、そのままヒト型に彫り出したのが『シリウス』のトレーナーだ。最早ボディスーツと見紛うほどに引き伸ばされ、パツパツになったTシャツが、それを如実に表していた。

 

 そんな二人が、方向性の異なる筋肉を引っ提げ、見合ったまま暫し硬直。ぎしり、と筋肉の軋む音が聞こえて来そうなほど、それは堂に入ったスタンディングであった。

 

「――???」

 

 なお、二人の間に挟まれたメジロマックイーンはと言えば。トレーナーの肥大した大胸筋の上に横一文字に鎮座する、己の名前を見ながら……機能停止したミホノブルボンと同じ顔で、宇宙へ意識をやっていた。

 

「――……これまでか。やはり、見事なものだ」

「あ、終わりましたの? 二人して急にアナボリックしないでくださいな。混乱しますわ」

 

 暫くしてトレーナーが、そしてライアンがポーズを解く。それに伴い、脳内でユタカへエールを送っていたマックイーンも、宇宙から戻ってくる。彼女の脳内に限っては、ビクトリーズに敗北はない。

 

「……ふうッ! ごめんねマックイーン。いつもやってることだからさ」

「いつもやっていますの!?」

 

 いつもやっているのである。目と目が合えばポージング、先日は偶々居合わせた桐生院トレーナーがそれを目撃し、意識を失い医務室へ運ばれた……が、ヒトはともかくウマ娘にはウケが良かったようで、その際の写真が出回っているとか。

 

「それにしても……トレーナーさん。やっぱりとんでもないですね。トレーナーさんがもしウマ娘として生まれてたら、どんな娘だったのか気になっちゃいますよ」

「ふむ……そうだな。メジロマックイーン」

「? なんですの、トレーナーさん」

 

 トレーナーは、至極真面目な顔をして担当ウマ娘へと向き直った。

 

「私もメジロムナイタとしてヒト息子デビューすべきだろうか」

「メジロブライトみたいなイントネーションで言うのやめてくださいまし流石のあの子も泣きますわよ」

「メジロジョークだ」

「あなたはメジロではありませんわよねえ!?」

 

 メジロマックイーン、迫真のツッコミであった。




・余談そのいち
シリウスTのクソダサTは他にも「皇帝の肯定」「中山の直線」「ユタカしか勝たん」などがあります。なお、先日皇帝の肯定Tシャツを着ていたところカイチョ-と遭遇し一気に仲良くなった模様。

・余談そのに
前半のシリウスTが突っ込んでくるところはだいたい映画HFでヘラクレスが飛んでくるところを想像していただければOKです。最初はトレセンの鐘撞き塔から飛んでくる予定だったけど流石に変えました。

・余談そのさん
ライアンも若干掛かり気味です。

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