人間がウマ娘に勝てるわけ……あれ? 作:賢さG
評価も感想もここすきも沢山いただいて、有難い限りです……!!
全員書き出したかったのですが、ありがたい事に数が多かったので断念。ここでみなさまにお礼申し上げます!!
でももっと評価欲しいな!!!!(強欲)
※一話で何故か春天を天皇賞(秋)と書いていたのをサイレント修正。時系列ガバガバかよギリシャ神話か。
メジロ家の悲願にしてメジロマックイーンの使命である、天皇賞のひとつ……「天皇賞(春)」の開催が間近に迫った、とある日のこと。四月の風の吹き抜けるトレセン学園ターフコースを駆ける、一人のウマ娘とそれを見守るトレーナーの姿があった。
「――よし、そこまでだ。最後までスタミナ切れもなし、上がり三ハロンのタイムも上々。仕上がっている、と言うに不足はないな」
「はぁっ、はぁっ……当然ですわね。わたくし自身、以前に比べても遥かに手応えがあります。……無茶をしたことは反省していますが、結果、『無茶のしようがないほど』限界ギリギリまで追い込んでいただけるようになったのは……けほっ」
「座って息を整えなさい。しばらくは脚を休める必要がある」
ターフの端に――他のウマ娘の邪魔にならない位置だ――に広げられた、折り畳み式のテーブルとイスが二脚。うち、片方はキングサイズ――もちろん、駿川たづなの用意した、特注の、トレーナー専用のもの。
メジロマックイーンの着席を待ってから、トレーナーがそれに腰を下ろす――粉砕しない。たづなが素材を手配し、アグネスタキオン――どうしてもトレーナーのサンプル・データが欲しかったらしい――が耐荷重構造を設計した、特注品だ。対価として、たづなには食事一回、タキオンにはデータ収集一回が約束されているが……彼女らの努力が身を結んだ形となる。
なお。無事な椅子の横に山積みにされた無残な残骸と折り畳まれた複数の予備、そして更にその横で倒れているアグネスタキオンを見ればわかる通り、消耗品である。三回、あるいは連続五分以上の着席で、この椅子は爆発する。完成品のデータをウキウキで採取しに来ていたアグネスタキオンは、高笑いの末昏倒した。既に慣れきった二人は、彼女をそのまま寝かせてミーティングを続けている。
「まだ、走り始めてそこまで経っていませんが……それほどですの?」
「ああ。そこからもう一本走れば……そうだな。ラスト一ハロンに入る前には、『身を削る』域に入るだろう」
トレーナーは、眉間に皺を寄せて固い表情のメジロマックイーン……正確には、その脹脛のあたりを注視する。その射抜くような視線には、はっきりと……過度の熱を持ち
「疑うわけではありませんが。よく分かりますわよね? わたくし自身、自分の脚ですが、見たところで何も分かりませんのに」
「ただ単純に、表皮の上から筋肉の動きを見るだけだ。腕に力を入れて力こぶを作ったとき、小さな動きでも筋肉の収縮がわかるだろう。それと同じだ」
「流石に無理がありますわよ」
チーム『シリウス』トレーナー、あらゆる物事から「その時ふと閃いた!」ができる発想と観察眼、そして卓越した自身の筋肉の成せる技であった。
なお、この筋肉による判定は、やや過剰気味にトレーニングの抑制をしてしまう弊害はあるが――それ故に、ウマソウルに悲劇を抱えたウマ娘に対しては、その悲劇を未然に防ぐ手立てとなる。起こらないが故に評価されることも無いが、それは確かに偉業であった。
「……ところで。脚を酷使は出来ないが、それ以外ならばできる。故に尋ねたいのだが……ウイニング・ライブの準備は進んでいるか?」
「勿論ですわ。メジロ家のウマ娘たるもの、ライブを疎かにする訳はありません」
「ならば良いのだ。私も教えられぬということはないが、やはりメジロ家専属の指導員がいるというのは大きい」
「はい……はい? えっ? ライブ指導できますの?」
「出来るが」
メジロマックイーンは、思わず真顔になって聞き返した。返ってきた言葉に、それが聞き間違いではないことを理解した。
「いや、しかし、でも……えっ? トレーナーさんが、ライブ指導を……?」
「そもそも、だメジロマックイーン。地方については知らないが、この中央トレセン学園のトレーナー資格を獲得するためには、トゥインクル・シリーズで開催されるレースのウイニング・ライブ、その歌詞と振り付けを習得しておらねばならない」
「
「
メジロマックイーンは、知れずごくり、と唾を呑み込んだ。
己が、開けてはならない箱の蓋を開けようとしている、と予感したからだ。
「……ちなみに、ですが。サブトレーナーのみ可能な準二級から始まって、二級、準一級、一級……とライセンスがありますわよね?」
「うむ」
「……一級、となると、何を踊れなければならないのです?」
「全部だ」
「全部!?!? あの、それはつまり……」
「ああ。『Make debut!』に始まり 『うまぴょい伝説』、果ては『彩 Phantasia』まで、全ての振り付けと歌唱を習得している」
メジロマックイーンは、このトレーナーと会ってから何度目かになる大きな衝撃を受けた。トレーナーが踊っている情景は想像できない。至極当然であった。
「……し、信じられませんわね。しかし何故、そんなことに……?」
「なんでも、ウマ娘を育成し導く責務のあるトレーナーは、たとえレース外のことであっても彼女らから頼られ、信頼される必要があるため……だ、そうだ。私としても、これには賛同できる……現に、『リギル』の東条トレーナーなどは自身でダンスレッスンを担当していると聞く」
「……なるほど。わたくしとしても、あるいは一人のウマ娘としても。ダンスレッスンの相談が出来る相手がいる、というのは安心できますわね」
「あとは、同僚と二人でショッピング・モールにて実施されるウマ娘関係のイベントを担当することになり、そこで懇意の記者から半ば無茶振りで『うまぴょい伝説』を踊らされるような状況に陥っても対応できるように、だそうだ」
「そんな限定的すぎる状況設定が起こりうるはず有りませんわよね!?」
残念ながら、事実は小説よりも奇なり……である。
「……しかし、トレーナーさんが……ですか。……ふーむ」
「疑うのも無理はない。客観的に見れば、どうしてもな。……ああ、ならば証拠でも見せようか」
「……えっ?」
「ではゆくぞ。刮目するがいい――コメくいてー(でも痩せたーい)」
「うわっ」
筋骨隆々、強靭無比、天下無双の肉体を収縮させ、肩をすくめ掌は上向き、手は肩の横。少し斜めに沿った体幹は全身の筋力でがっちりと固定し、一切のブレなく上体を傾ける。少し浮かべた右脚やつま先、胸の張り方、どこをとってもお手本のようなポーズに――浮かべた表情は、迫真の『コメくいてー顔』であった。
ようやく意識を取り戻していたアグネスタキオンは、その顔を見て再度昏倒。たまたま同じグラウンドを使用していたマヤノトップガンは真顔で「マヤ分かんない」と呟き、駿川たづなは何処かへと駆け出し、桐生院トレーナーはやはり精神にダメージを負い、気を失い
「……こんなものか。どうであった、メジロマックイーン」
「びっくりしましたわ」
「驚くことではない。一級ライセンスを持っているトレーナーならば誰でもできることだ」
「誰でもですの!?」
「うむ。留学へ出る前、見送りの酒の席で先輩方……沖野トレーナー、黒沼トレーナーと三人でうまぴょいしたのは良い思い出だ」
その言葉を裏付けるように、トレセン学園資料室の持ち出し厳禁コーナーには、当時の映像が残っている。たづなが駆け出したのは、シリウスのトレーナーの話を聞いて駆け出したウマ娘達から、それを死守するためであった。
「……トレーナーって凄い職業なんですのね。わたくし、勉強になりましたわ」
「それがトレーナーというものだ。私たちは、君たちウマ娘の為ならば『なんでもする』……ならば、昔の話を持ち出して、君の強張りを和らげるくらいは、してみせるとも」
「あ……」
メジロマックイーンは、己の眉間から力が抜けていることを自覚した。そして少しだけ、ばつが悪そうに頬を染める。
「……緊張するな、と。仰って下さればよかったのに」
「君が力を入れるのも無理はない。理解はしている。緊張してはいけないのではなく、不要な力が入り過ぎるのが良くないだけだ――実力を発揮できれば、勝つのは間違いなく君なのだから」
トレーナーの大きな手が、メジロマックイーンの頭を優しく撫でる。それは少しの間の事であったが、その言葉は、彼女が最後の一押し、限界ギリギリのところでもう一度加速する力となり――
◆ ◆
――天皇賞(春)、その終盤。最終コーナーを回って、直線へ差し掛かろうか、と言うところ。
スタミナの切れかけたマックイーンの脳裏に閃いたのは、トレーナーと積み上げたトレーニングの日々であった。
確かに、あのトレーナーは色々と規格外ではある。冷静なように見えて、抜けているところも多い。何故か掛かっているウマ娘も多いようだが、それを跳ね除けて自分と二人三脚で、走ってくれる。
練習した通り、そこで前のウマ娘を躱せ。外に出たら一歩踏み込め。コーナーを曲がればあとは、と。だから、そう。
「――突き抜けろ、マックイーンッ!!」
聴こえる――貴賓席からここまで何
人バ一体。その一端を体感した気がして、視界の端に一瞬だけ映った貴賓席の方へ目をやる――ガラスは声の圧で罅だらけになっていたし、見学に来ていたらしい
ガラスの罅で心が繋がっていることを理解する、というのも締まらない。けれど、そんな彼にも慣れてしまいましたわね――そして。初めて、わたくしのことを『マックイーン』と呼んでくれましたわね、と。
「――や、ぁ、ぁあああああああっ!!」
ガラスの奥、腕組みをして仁王立ちをするその威容。トレーナーの応援を背に受けて。
ターフの名優、メジロマックイーンは、最終直線にて更に後続を突き放し、問答無用の一着を勝ち取った。
ドキドキってもっとファンタジア(重低音)(バリトンボイス)(キレ味抜群のダンス)
みなさんそういえば、やっぱウラライス好きみたいですねえ……ストーリーシナリオとは別だけど、ウララや他のウマ娘の登場も考えようかしら。
あ、次回はついに「例のあの人」が出ます。
2022/01/17:トレーナーの声が普通にマックイーンまで聴こえていたのを修正。確かに走行妨害だし……指摘くださった方、ありがとうございました!