これからは既存の作品も徐々にではありますが更新していきます。
「…なんですって?」
それは、チャランコがやって来た次の日。
いつものようにジェノスは皿洗いをし、こあは洗濯をし、サイタマはのんびりと漫画を読んでいる。
そんな陽気な昼下がりに、突如してパチュリーの携帯にヒーロー協会からの電話が入る。
別にそれ自体は大したことではない。
今では彼女も立派なS級ヒーロー。
これまで以上に仕事が増えるのは当然だと割り切っていた。
が、今回はそんな話ではなかった。
「それ…本当なの?」
『間違いありません』
「…いつ頃?」
『昨日の夕べ…F市の中央公園にて…』
「そう…」
普段からダウナーを決め込んでいるパチュリーが、珍しく真剣な顔でスマホを握っている。
こんな彼女を見るのは、あのボロスと戦った時以来だった。
故に、この場にいる三人も流石に気になって視線を彼女に集中させる。
通話中なので話しかけずに黙っているが。
『実は、被害にあったのは彼らだけでなく、他にも…』
「ここまで来たらもう何を聞かされても驚かないわ。教えて頂戴」
『はい』
報告を聞き進めていくパチュリーの、スマホを握る手に力が籠る。
元から超貧弱な彼女の握力などたかが知れているが。
「…洒落にならないわね」
『仰る通りです。ですので、今はS級の方々に注意喚起を促すために、こうして連絡をしているわけでして…』
「私たちに注意喚起って…それって意味あるのかしら?」
唯でさえ他よりも圧倒的に我の強い面々が素直に注意を聞いてくれるだろうか。
特に自信家であるタツマキ辺りは逆切れとかしかねない。
『出来れば、パチュリーさんの口から鬼サイボーグさんにも言っていただければ…』
「鬼サイボーグ…ジェノス君の事ね。分かったわ。伝えておく」
『助かります』
「最後に一つ聞いてもいいかしら?」
『はい。なんでしょうか?』
「彼らは今、どこにいるの?」
『今はヒーロー協会の付属病院に入院しています。基本的に協会所属のヒーローはそこに入院することになっていますので』
「成る程ね。もしかしたら、いずれは私たちもお世話になるかもしれないわね」
『いやいや…貴女ほどのヒーローがそんな…』
「普通に有り得るわよ。世の中に絶対はないんだから」
『そう…ですね』
「もう話は出来るのよね?」
『意識は回復したと聞いています』
「それだけ聞ければ上等だわ。んじゃ、そろそろ切るわね」
『はい。くれぐれも、どうかお気お付けて』
「そっちもね。じゃ」
溜息を吐きながら通話を切り、スマホをテーブルの上に置く。
そうして、ようやく皆が口を開き始めた。
「パチュリーさん。なにやら只事ではない空気を感じましたが…何があったのですか?」
「うん…それね。今から話すわ。二人とも、手を止めて聞いて頂戴。ほら、サイタマも漫画を置く」
「へーい」
気だるそうに漫画を床に置き、胡坐をかいてからパチュリーの方を向く。
ジェノスとこあも、同じように作業を中止してから床に座った。
「いい? 心して聞いて頂戴」
「「ごくり…」」
「ほー…」
少しだけ深呼吸をした後に、ポツリと呟いた。
「…昨晩、タンクトップマスターが何者かに襲撃を受け…やられたらしいわ」
「えっ!?」
「なっ!?」
「…マジか」
信じられない報告に、全員が思わずガタっと反応する。
あのサイタマでさえ、一瞬で真剣な表情になった。
「S級ヒーローが倒されるなど…そんなことが…!」
「えぇ…そうよね。ジェノス君の反応も尤もだわ。たった今話を聞いた私も未だに信じられないから…」
タンクトップマスターとはS級の中でも比較的よく話すほうで、その気さくな人柄からも個人的に好感を持っていた。
故に、今回の事でのショックはかなり大きかった。
「タンクトップって…あいつだよな。普通にめちゃくちゃ強くなかったか?」
「そうね。確かに彼はS級の中でも下位かもしれないけど、S級って時点で普通とはかけ離れた強さを持つ、常軌を逸した存在なのよ。タンクトップマスターだって、私から見てもこの世界にいる人間たちの中じゃ間違いなく上から数えた方が早い実力者よ」
「ですよね…でも、だとしたら一体誰が、そんな酷いことを…」
特に優しい心を持つこあは、この中でも一番悲痛な顔をしている。
そんな彼女を少しでも安心させてやろうと、隣にいるジェノスはそっと、その手を握り締めた。
「犯人の特定は済んでるわ。これは独自に調査に乗り出したバングおじいちゃんと、意識を取り戻したタンクトップマスターの両方からの証言から得た情報なんだけど…」
三人の顔をそれぞれに見渡したのちに、意を決して話し出す。
「今回の犯人の名前は…ガロウ」
名前を聞いた瞬間、全員の目が見開かれる。
特にジェノスとこあに至っては冷や汗も掻いていた。
「その名前って…昨日話してたじいさんの弟子の…」
「そう。ヒーロー協会で大暴れしたっていう自称『人間怪人』。そいつが本格的にヒーロー狩りを始めたってことよ」
「そんな…」
「あのシルバーファングの弟子と言うことは…そいつも…」
「えぇ。あの『流水岩砕拳』の使い手らしいわ」
実際にシルバーファングの戦いを見たことがあるジェノスには分かる。
タンクトップマスターの戦い方と流水岩砕拳とは相性が最悪すぎると。
「実際、最初こそはタンクトップマスターが優勢だったらしいけど、ガロウが流水岩砕拳を使い始めた瞬間、一気に逆転、その後は文字通り手も足も出なかったらしいわ」
「あいつが…そこまで…」
拳法を使えば、多少の力の差は簡単に補える。
それを聞き、少しだけサイタマの中に拳法への興味が湧いた。
「一緒にいた彼の舎弟のタンクトッパー達も、その殆どが倒されたって話よ」
「S級が敵わない相手に、奴らが勝てる道理はないか…」
厳しいことを言うようだが、それが現実だった。
それ程までに、S級とそれ以外との差は大きく広がっているのだ。
「しかも、被害に遭ったのは彼らだけじゃないらしいわ」
「と言うと?」
「偶然、その場に居合わせた無免ライダーも倒されたって。それと…チャランコ君も」
「無免ライダーはともかく、どうしてあいつが…」
「きっと、いてもたってもいられなかったんでしょうね。おじいちゃんの変貌振りを一番知っている彼の心境を考えれば無理ないけど…」
最近になって色んなことが一度に起きすぎている。
こういった時は静かに大人しくしているのが一番なのだが、S級ヒーローとなった今ではそうもいかない。
自分も能動的にならなくては。
昔のパチュリーからしたら絶対に有り得ない考えだが。
それ程までにヒーローと言う立場に心が浸食されているのかもしれない。
「本人達から直接話を聞くために、今から彼らが入院している病院にお見舞いに行こうと思うんだけど…皆も一緒に来る?」
「「行きます」」
「サイタマは?」
「俺も行くよ。ちょっと気になることもあるし」
「ふーん? ま、いいけど。折角だし、何か持って行ってあげましょう。何がいいかしら? やっぱり、フルーツの盛り合わせ?」
「それが一番妥当なんじゃねーか? 少なくとも、花束よりかはマシだろ。入院してるのは野郎ばっかりだし」
「花より団子ですね」
「そういうものなのか…記憶しておかなくては…」
さっきまでシリアス全開だったのに、あっと言う間に元の空気に戻る面々なのだった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
ヒーロー協会附属病院。
天下のヒーロー協会直属と言うこともあり、最も巨大で施設が充実した病院となっている。
その廊下を歩きながら、パチュリーたちはタンクトップマスターたちの部屋を探していた。
「えーっとー…受付で聞いたのは確かー…この辺よね?」
「だった筈です。あ…ありました。ここです」
ジェノスが指さした部屋の入り口には『タンクトップマスター様』『無免ライダー様』と書かれた名札があった。
「…入院してる時までヒーロー名で呼ばれるのかよ」
「もし私たちが入院した時も、そうなのかしらね」
「『ワンパンマン様』『鬼サイボーグ様』ってか? めっちゃ恥ずかしいな」
「パチュリー様と私は大丈夫ですね。殆ど本名みたいなものですし」
「そう言えばそっか。って、こんな所で立ち話をしてる場合じゃないっつーの。入るわよ」
ちゃんとノックをしてからドアを開ける。
すると、そこには包帯だらけの状態でベッドに寝ているタンクトップマスターと無免ライダーが並んでいた。
「こんにちわ。二人とも大丈夫?」
「パチュリーさんにサイタマ君…ジェノス君とこあさんも…」
「よっ。随分とこっ酷くやられたみたいだな」
「あぁ…情けない話だ…S級ともあろう者が…!」
悔しそうに拳を握り締めるタンクトプマスター。
情けないと言いつつも、その内に秘めた戦意は微塵も衰えてはいないようだ。
「これ、お土産です。よかったら食べてください」
「おぉ…感謝する。どうも病院食と言うのは口に合わなくてな…」
「健康重視の食事だからな。仕方あるまい」
こあが持ってきたフルーツ盛り合わせのバスケットを置くと、二人の目が急に輝きだす。
よっぽど病院食に飽き飽きしていたようだ。
「話は協会の人間から聞いたわ。あのガロウにやられたんですってね」
「そうか…既に聞いていたのか。なら、話は早いか」
パチュリー達が病院に来た理由を察したタンクトップマスターは、半身を起こしてから楽な体勢になる。
「今回の事件を切っ掛けにして、ヒーロー協会は本格的にガロウを怪人指定にしたようだ」
「でもそいつ…人間なんだろ?」
「そうだな…確かに奴は人間だ。だが、唯の人間じゃない」
自分の拳を見つめながら、タンクトップマスターは自分に言い聞かせるように呟く。
「自ら怪人を名乗る人間…。あるいは『まだ人間』と言うべきか」
「まだ…」
「人間…?」
まるで、いずれは人間でなくなる。
そんな風に聞こえた。
「強い…恐ろしく強い人間だった…」
「…そうか。因みに、前にパチェが倒した半魚人の王様とどっちが強かったか分かるか?」
「うーん…確かに深海王も桁違いの強さを持っていたけど…それとはまた違うっていうか…」
「多分だけど、深海王じゃガロウには勝てないわよ」
「パチェ?」
いつの間にか椅子に座って、さっき一階の売店で買ったオレンジジュースをを飲んでいるパチュリーが、この場にいる全員にハッキリと言い放った。
「そうだな。それには俺も同感だ」
「お前もか…」
タンクトップマスターもパチュリーの意見に賛成する。
二人のS級の意見ともなれば無視できない。
「シルバーファングの弟子と聞いた時点である程度の覚悟はしていたが…完全にこっちの想像を上回っていた。武術に関しては素人同然の俺でもハッキリと理解できる。奴は武道の天才だ。人体の急所を的確に突いてきた。あれは一朝一夕じゃ決して出来ない動きだ」
以前に一度、タンクトップマスターはバングの道場で彼の拳法の見学をしたことがあった。
どんなに強大な一撃も、まるで流水のように全て受け流される。
それを見て彼は本能で理解した。
これがS級上位の、世界最強の格闘家の実力なのだと。
「だが、それ以上に恐ろしい事実がもう一つある」
「それは?」
「ガロウはまだ若い…それは即ち、まだまだ成長の余地が大きく残されているということだ」
「馬鹿な…! 現段階でも既にS級と互角に渡り合える程だというのに、まだ強くなるというのか…!?」
「あくまで可能性の話だが…大いに有り得るだろう。なんせ、相手はあのシルバーファングが弟子にした男なんだ。今のままで満足するような男ではあるまい」
悪事に手を染めながらも、どこまで貪欲に、真っ直ぐに強さを求める。
ある意味で最も厄介な相手だった。
「なぁ…タンクトップさんよ。今回、アンタがガロウって奴と一番戦ったんだろ?」
「まぁな。それがどうかしたのか? サイタマ君」
「このバナナやるからさ…その時の話、俺に詳しく教えてくれないか?」
「君に? 別にそれぐらいは構わないが…またどうして急に?」
「確かにね。どうしたの?」
「ちょっとな…その『武術』ってのが気になってな」
「「「え…?」」」
あのサイタマが武術に興味を示す。
普段の彼を知っている面々は、その発言に思わず呆けた顔になった。
ガロウとタンクトップマスターとの戦いは、普通に原作通りになりそうなのでスキップしました。
期待していた方々、申し訳ありません。