夜の町を徘徊し出歩く者を見つけては攫って行く“よまわりさん”

よまわりさんは一体何者なのか?
なぜ人を攫うのか?

ソレにより助かった者。帰って来なかった者。
両者の違いは一体何なのか?

人を攫い喰らう怪異なのか?

心ある人よ、もし出くわしたならよく見て欲しい。
その巨大な一つ眼に悲しみの色が宿っていることに…

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夜廻シリーズの最新作「夜廻三」が発表されましたね。
そのニュースを見て最初はタイトルをどう読むか考えたところ「よまわりさん」だよねぇ?
となり、今回はよまわりさんメイン?とか思い、
何やらモヤモヤとよまわりさんについて考え始め、
ムラムラと話を書きたくなってしまい投稿しました。

年明け早々、何気持ち悪いもん投稿してるんだ?という感想もあるかと思ますが、とりあえず最後までお付き合い頂ければと思います。


よるをまわるもの

深夜…町は静まり返っている。一般的な町であれば車の通りがあったり、出歩く人はいないとしても何かしら人が生活する上での生活音や気配がするものだが、この町にはそれすらもない。まるで何かに見つからないように引きを潜め、息を殺しひっそり生きているかのようである。

聞こえるものと言えば思い思いに歌っている虫たちの声。そんな虫たちの合唱に紛れるようにある音が聞こえ始めた・・・。

 

ズルッ…ズッ…ズルッ…

 

何やら強大な生き物が地面を這いずっているような音である。少しして暗がりから音の主が姿を現す。見た目は巨大なナメクジと言えなくもない。が、全体をよく見ると生き物として分類していいものかどうか分からぬくらい異形な姿かたちをしている。

巨大な眼。体から無数に生えウネウネと蠢く触手。

あえて表現するなら、もやしの種(豆)部分に黒目を描き、全体から根っこが生えているような感じか。そんな異質な外見の生き物とも何とも言えない物体が地面を這っている。

ただでさえおかしな見た目であるが更におかしな印象を受ける要因がある。それは、何故か背中に大きな袋を背負っているのだ。

生き物と呼べるかどうかもわからないモノが物質的な「袋」を持っている。

組み合わせ自体理解不能である。それにしてもいったい何を入れるというのか…。

 

 

………

 

 

ソレが近づいてきた気配に虫たちが一斉にうたうのをやめた。辺りはソレが地面を擦る音が大音量に感じるほど、全ての生き物が息を潜めてソレの動向を伺っているかのような静寂が訪れた。

 

ズ…

 

ソレが動きを止めた…

頭とおぼしき部位に一つだけある巨大な眼。その巨大な眼が見ている先には恐怖に憔悴しきった表情をして、まるで何かから逃げているかのように走っている子供の姿がある。

 

ソレは子供に向き直る。一瞬、悲しみとも言えない気配をその巨大な眼にきらめかせる。

と、次の瞬間。

巨体からは想像できないような速さで子供に向かって移動。そして、体から生えている無数の触手で子供を絡めとったかと思うとそのまま背負っていた大きな袋に子供を放り込む。

ソレが移動した時の地面を擦った音、子供を袋に放り込んだ時のガサッという音。

わずかに静寂が破れた。

ソレは袋のなかに放り込んだ子供がおとなしくなったことを確認すると何処かへ去って行った。

一瞬のできごとだった。

 

ソレが去ると同時に辺りにはまた痛いほどの静寂が訪れる。

ほどなくして完全に去ったことに確信を持った虫たちが、何事もなかったかのようにまた思い思いに歌い始めていた。

それは、まるで子供の運命を憐れむかのような悲しみの色にも似た音を、奏でているように聞こえた…。

 

 

少しして、町はずれのとある場所にて…

 

ソレは子供を袋から取り出すとまるで子供をあやす時の親のように優しくそっと降ろし体を横たえ寝かせる。そしてうつむき気味に子供を見つめた。

巨大な眼しかないため表情は読み取れない。しかしわずかに、ほんのわずかに巨大な眼に慈愛に満ちたような気配がよぎる。

そうして子供を暫く見つめたのち、眠っている子供に満足したのか静かにその場から姿を消した。

 

ソレは、子供を置いた場所から少し離れたところで心配なのか立ち止まり振り返る。

すると、目を覚ました子供が走り去って行こうとしているのが見えた。

 

!?!?!?

 

ソレは怒りとも悲しみともつかない感情に身を震わせると、

 

ズルリ…

 

突如として体が裏返った。と言っていいかどうかはわからないが、そうとしか言い表せない。

普通の生き物であれば自らの意思で体を裏返す。という真似はできはしない。となればやはりコレは魑魅魍魎の類なのか。

内臓のようなものや筋肉がむき出しになり脈打っている。そして先程の姿とは違い袋はない。その代わりなのか大きな口が現れている。

先程迄の姿は特殊な嗜好の持ち主であれば「かわいい」と言えるかもしれない姿かたちであったが、今の姿は見るものに恐怖や気持ち悪さを植え付けるようなグロテスクな姿である。

 

子供は尋常ならざる気配に振り向いてしまいソレの変貌を目の当たりにしてしまった。恐怖のあまり立ち竦んだ足はもはや逃げるために動かすこともできない。

ソレは、子供が動きを止めたのを見て取ると一瞬で子供に近付き触手で絡めとる。先程は袋だったが今回は袋ではなくその大きく開いた口に…

 

グシャ…パキッ…グシュ…

 

咀嚼音が聞こえる。憐れ子供はソレの胃袋(それに該当する器官があればだが)に収まってしまった。

 

ズルリ…

 

ソレは身を震わせると元の姿に戻り、その巨大な眼にわずかに悲しみの色をたたえ、その場を去った…。

 

 

 

この国の片隅にある一地方の隣り合う小さな町。そこには夜な夜な人の命を奪おうとする怪異が彷徨っているという。

そこに住む人々は、夜になれば表に出ることはなく家の中で息を潜めるように暮らしている。

生活必需品を取り扱う店や病院などで町に住みながら仕事をしている住民はいいのだが、よその町に働きに行っている者などは普通に昼間働いて帰宅すれば帰りは「夜」になってしまう。

そういった理由から昼間は寝て、夜には別の町へ仕事に向かう。そんな仕事に就いている者が多いと聞く。

全ての住民が町で働き生活できるほど発展している訳ではないからだ。

 

夜な夜な徘徊しては人の命を奪うという怪異や生贄を求める神が存在する。そんな話は世界中どこにでもある。

その類の話は、時の権力者のでっちあげや人間(特に子供)を戒めるための迷信であることが多い。

しかし、この町に住む者はここで起こる出来事がそのような迷信じみた話ではないことを知っている。

公にこそされてはいないが、住民の行方不明者数や死亡者数は異常な数にのぼる。

公になってはいないとは言え、国は認識しているはずである。にも関わらず別段なにかしているようには見受けられない。

もしかしたら、そういった怪異が発生する「人知の及ばぬ場」として、他の町へ被害が広がらないよう結界を張るくらいのことはしているだろうが、そのほかに何かしようにもどうしたらいいのかわからず、抜本的な対策もできずに臍を噛む思いでいるのかも知れない。

そんな町であるから住民は夜表に出ず、働く者も夜に別の町へ働きに出かけ、夜が明けてから帰宅するのだ。

 

そのような怪異が跋扈する場でありながら、何故か人は住み続ける。

マンションなどの事故物件などと同様に家賃が安いという理由もあるのかも知れない。

それでも、近隣地域に噂話程度は聞こえているだろう。それなのに過疎の一途を辿らず廃村とならない程度の一定数の住民がいるのである。

人知を超えた何かが、人を惹きつけ「エサ場」として存在させようとしているのだろうか。

それは、生贄を求める悪神の類の戯れか、怪異によって命を奪われた者たちが仲間を求めるのか…

答えは誰にもわからない。

 

そんな町の夜。大人であれば自制して表に出ることはないが、問題は好奇心旺盛な子供たち。

その子供たちを守るために大人たちは、この一地方に伝わる特異な怪異。その名を使い子供たちを戒めた。

 

 

「夜、おそとに出ると、よまわりさんにさらわれてしまうよ」

 

 

この町に怪異が現れ出したのはいつからなのかは誰にもわからない。

人間の成長に例えて表現するのであれば「物心がついたとき」には既に存在していた。

この一地方がそういったよくない気を集めるような場所なのか、それとも人知を超えた何かが仕組んだことか。またその両方か…。

 

古くは邪気を祓うという柏手になぞらえて、神木を削り出し作った拍子木を打ち鳴らし、いわゆる「夜回り」を行っていた。

鳴らしている間は怪異もおいそれとは近付けない。もし夜回り中に襲われている住民を見かければ、拍子木を激しく打ち鳴らし怯んだ隙に救助するのである。

だが、それにも怯まなかったり救助できたことに安堵してできた心の隙を突かれ、命を落とすものは少なくなかった。

 

そうして理不尽に命を落とした者たちの魂は、その無念さなのか理不尽に命を奪われた事への怒りなのか、彼岸に渡り成仏することができず此岸に留まり続けた。

時代は進み、怪異によって命を落とした者の一部は町に漂う邪な気に中てられ同様に怪異となった。それらの怪異は神木製の拍子木の音の効き目が薄く数も多かった。もはやどうにもならないほどになってしまった。住民はいつしか夜回りをやめ、家の中で息を潜めて夜が過ぎるのを待つことしかできなくなってしまった。

怪異によって命を落とした者の一部は怪異となったが、ならなかった者たち、守りたい。助けたいという想いが強かった一部の者たちは、守る事のできなかった無念。命を奪う者である怪異に対しての怒り。死んでしまったことへの悲しみ。とりわけ強かったのが守る事の出来なかった無念さ。特に子供たちが犠牲になってしまった時の無念さと悲しみは計り知れない。それらの感情がないまぜとなった強い思念はいつしか集まり一体化し、ある形を造り始めた。

 

夜に出歩いている者を見逃すまいとする大きな眼。その1本1本が助けたいと願う者たちの伸ばした手であるかのような無数の触手。

どのような狭い場所であっても入り込めるようにと軟体生物のような体。助けようと捕まえた者を運ぶための大きな袋。

何も知らない住民は、突如現れるようになったその怪異に恐怖した。

 

その名も無き怪異が現れるようになってからほどなくして、住民はあることに気付き始めた。

怪異に攫われたあと匿われるかのように町から少し外れた所にある廃屋といったような場所にいることに。怪異に攫われた際に気を失い朝まで目が覚めなかった者。目は覚めたが恐怖で動けず朝を迎えた者。そうやって命拾いした者が現れるようになったことから住民は「もしかしたら助けようとしてくれているのでは?」と思い始めていた。

しかし、命からがら逃げ出して生き延びることに成功した者のなかに、新たに現れ始めた怪異の体が裏返り襲い掛かってきた。そんな証言もあり、いったいなんなのかと困惑するばかりであった。

助けるなら助ける。襲うなら襲う。どちらかであれば対処のしようもある。

助けてくれる者であるなら、出会ったら生き延びることが出来る。として害の無いものとすればいい。襲ってくるのであれば、助かるかは別としていままでと同様に逃げればいい。

だが、まるで気紛れのように助けたり襲ったりではどうしたらいいのか分からない。

住民はソレを「良い怪異」とする者もいれば、そんなことはない。そうやって油断させて皆殺しにしようとしている「少し頭の働く悪い怪異」とする者で二分された。

暫くの間住民たちの論争は続いたが、実際助かった者も少なくないことから、

「助けてくれているのかも知れないが、襲うこともあるので心を許すわけにはいかない」となり、

住民は、今までの怪異と同様に命を奪う恐れなければならない者としての畏怖と、かつて行っていた夜回りのように夜出歩く者を見守り、助けてくれる良い怪異であるかも知れないという希望的観測。結果として助かった事に対しての感謝や親しみの念を込め、いつしかこう呼ぶようになった…

 

 

 

よまわりさん・・・と。

 

 

 

町はずれの廃工場、打ち捨てられたコンテナにて…

 

(ここニ あサマデ いれバ…ダいジョうブ ダカラ…)

 

そんなことを考えているのだろうか?巨大な眼だけで表情はわからないが、わずかに優しく微笑んでいるようにも見える。

そしてよまわりさんは捕まえてきた子供をコンテナに横たえ去って行った。

が、ほどなくして目を覚ました子供がコンテナから飛び出し走り去ろうとしているのが見えた。

 

!?!?!?!?!?

 

(ナゼ?!そこニ アさマデ イレば…なゼ?ドウして?なぜ?ナゼ?ナぜ?ナゼ?……)

 

(デてしマッタら アイツらニ あいツラに…!アアアァッ そンなコト ソんナことハ…!)

 

(そウナるクライなラ…くらイならァ…!ア、あ、アァァァ あ…ア、あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛あ゛…ガァァァァッ!!!!)

 

ズルリ…

 

よまわりさんの体が一瞬身震いしたかと思うとやおら裏返り、逃げ出した子供に一瞬で追いすがる。子供は恐怖のあまり立ち竦んでしまう。

そして…

 

グシャ…パキッ…グシュッ…

 

咀嚼音が聞こえる。その人体を咀嚼する不快な音が聞こえなくなったその時にはもう子供の姿はそこになかった。

 

元々が怪異に命を奪われた人々の、住民を守りたいという思念の集合体であるはずのよまわりさんがなぜ守りたいと願う住民に害をなすのか?

それは、純粋に「守りたい」という感情だけでなく、命を奪われたことへの憤り。悲しみ。助けようとしなければ?という後悔。そして、純粋な殺意にさらされた恐怖。

そういった負の感情も同時に内包しているのだ。

それは、守りたいという感情から安全(と思える)場所へ避難させたのにもかかわらず、そこから逃げ出そうとする者に対して「なぜ?」という考えが暴走し、守りたいという思いは文字通り裏返り、怪異の手にかかって死なせてしまうくらいならいっそ自らの手で。という想いになりその歪んだ想いは守りたいと願った者へ手を下すに至る。

言うなれば「かわいさ余って憎さ百倍」ということなのであろうか。

 

(アイツらニ コロされルくらイなラ… コレデ このコも ひとつニなっタ これカラは イッショに まモッテ イキましょウ…)

 

ズルリ…

 

よまわりさんは裏返った体を元に戻すと、静かにその場を去った。出歩く子供がいないか夜回りをするために…

 

 

よまわりさんは夜を廻る…

歪んだ善意をまき散らしながら…

 

よまわりさんは夜を廻る…

わずかに残った人の心で、この町が怪異に悩まされることがなくなるよう祈りながら…




私のよまわりさん考察としてはこんな感じです。
前々から少し考えてはいたのですが、新作発表によりなんだか形になってしまいました。
当然私個人の独自解釈なので「そういう考え方もあるかな?」程度に受け取って貰えればと思います。
2年ほど前に深夜廻ベースのものを投稿しましたが、登場させると話の収集がつかなくなりそうだったので、よまわりさんはおろかとなり町さえなかったことにした設定にしていたのに何書いてるんだか…と、自分でも呆れております。

短編ですがお付き合いいただいた方、ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

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以下、投稿直後にやらかしてしまった事に気づいて追記。
ごめんなさい。よまわりさん眼ぇないじゃん!
ゲーム未プレイで小説の挿し絵でしかまともに見ていないから記憶が曖昧だったみたいです。(言い訳)
おっかしいなぁ…記憶の中では「眼」だったんだけどなぁ。何と混ざったんだろう?
まあ、アレです。実は巨大な眼で夜廻本編前くらいまではむき出しだったけど、そのままだと子供が怖がりすぎるから仮面を着けた。つまり、本作品のよまわりさんは「よまわりさん初期バージョン」みたいなもの。
そういう事にしておいて下さい。


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