『腸狩り』になったスバル~エルザの肉体にTS憑依~   作:腸狩り

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episode.3 リンガのおっさんと迷子の女の子

「うおおおおおお!!!!やって来たぜ異世界!!!」

 

初めての異世界、夢にまで見た中世ファンタジー風の光景が目の前にあることにテンションが上がっているスバル。このあたりでも大きい都市なのだろうか。町中を歩いて回っていると洋服屋や酒場、八百屋や雑貨屋などの様々な商店が店を構えている光景が見えた。

もう少し奥に回ると、今度は大道芸人や劇場らしき施設が見えてきた。ここは歓楽街だろうか。楽器を持った吟遊詩人が音楽を奏でている光景も見えた。

 

(へえ…、異世界でもオレらの世界みたいな社会インフラが構成されてるんだな…。)

 

商店街にある八百屋や肉屋、青果屋などを見ると、基本的な社会インフラは自分の世界と変わっていないように見える。街の商店街ではスバルの住んでいた世界と同じように生活用品が売られ、宿屋などの宿泊施設もスバルの世界と変わらず存在している。

竜が引いている馬車のようなものを見る限りでは、あれらがこの世界における交通インフラを担っているもののようだ。どうやらあれがこの世界では車代わりに使われているらしい。

 

スバルは自身の服装を見ながらふと疑問を覚えた。

この服装は一体なんの職業の服装なのだろうか。

 

(にしても露出度の高い服装だなあ…。腹が見えちまってる。)

 

行き交う人々の服装を見てみても、自分に似た服装の女性は見かけない。舞台女優か旅芸人なのではないかとも思ったが、周りの反応がないのを見る限りそれもどうやら違うようだった。

スバルは腹が露出している服装が気になり、思わず自分の腹を撫でるように触った。

 

「うへぇ〜…、オレの鍛え上げた筋肉はどこに行っちまったんだか。いやこのスベスベの腹もこれはこれでいいけどよ。」

 

元の世界で、スバルはこれでもかなり鍛えている方だった。

不登校でこそあったものの、筋トレやジョギング、竹刀の素振りは日課とも言えるほど毎日欠かさずやっていた。おかげで世間一般の不登校や引きこもりと比べると、腕っぷしはかなり強い方だったのだ。しかし今のスバルの腹にはかつて鍛えた筋肉の面影は欠片もない。

 

「はあ…、それにしても腹減ったよなあ…。」

 

そういえば、ここに来るまでなにも食べていない。

コンビニに夜食を買いに出かけたものの、弁当もスナック菓子も飲料水もコンビニ袋ごとどこかに無くしてしまった。

 

「とは言ってもカネなんてもってねえし…」

 

財布が手元にないことを今更後悔するスバル。

財布がないと言っても、中に入っていた貴重品を使えばこの世界のものと交換できると思ったからだ。

 

「というか、こんなオレ腹減ってたか?この体がそんな食いもん食ってなかったんだろうか…?」

 

(どうする…。最悪、体でも売って金を…)

 

今のスバルの容姿は絶世の美女である。

体を売れば、日銭を稼ぐぐらい余裕で出来るであろう。男に媚を売り体をくねらせ男を情欲に誘う自身の姿が頭の中に浮かぶ。

 

(うげぇ〜…最悪。オレにそんな趣味はねぇっつうの…。)

 

空腹でかなり疲れが来ているからか、普段ならば考えないような最悪の想像までしてしまっていた。

 

(はあ…、空腹でどうにかなっちまいそうだ…。)

 

そんな時、スバルはふと先程通りかかった商店街エリアに青果屋があることを思い出した。

 

(商店街で青果屋見かけたしあそこまで戻るか。ここから少ししか離れてねえっぽいし歩いて向かうとするかね。)

 

記憶を頼りに、スバルは青果屋のある場所まで向かっていった。

 

 

「よう姉ちゃん。うちで買い物かい?」

 

青果屋の構える場所まで行くと、そこにはスバルより少し身長の高い大柄な男性がいた。髪色は緑色で黒色のバンダナをしており口には枝を加えている。

スバルの世界でいう江戸っ子気質を感じさせるご主人だった。

 

「ね、姉ちゃん…?」

 

「?まだおばさんとか婆ちゃんって年じゃねえだろ?もしや嬢ちゃんって言ってほしかったのか?」

 

「あっいや…、そういうワケでは…」

 

(そうだ、今のオレは女なんだった…。)

 

『姉ちゃん』と呼ばれ、今の自分の姿が女だったことを思い出すスバル。

怪しまれないようにするために、高校一年生時代の女装経験を思い出しながら、スバルは見よう見真似で女性口調で話し始めた。

 

「おっおう、じゃなかった。、え、ええ…そうなの…よ?」

 

(こんな感じでいい…のか?これなら怪しまれないよな…。)

 

取ってつけたような女性口調で話し始めるスバル。

 

(けどなんだろう、この口調…。妙にしっくりくるような…。)

 

妙に口調がしっくりくる謎の感覚に襲われるスバル。

 

 

「店主さん、これはなんていうのか?…しら?」

 

青果店の店主に話しかけ、果実の一つを指差した。

 

「なんだ姉ちゃん、そんなことも知らねえのか。一体どこの田舎から来たんだが。」

 

その果実はどこからどうみても林檎そのものだ。

スバルがその果実のことを知らないことに驚く青果店の店主。

 

「あ、あはは…、少し世俗に疎くて…。この国に来たのは初めてなんです。」

 

(嘘は言ってねぇ…もんな。この国…というかこの世界に来たのは初めてだし。)

 

この世界にやって来たのは初めてなので世俗に疎いのは仕方ないということにして開き直るスバル。

しかし店主は、それでも少し怪しんでいるようだった。

 

「いや流石に田舎にもこの果物はあるだろ?砂漠とか雪国の出身か?いや雪国ならあるよなあ、これ。」

 

(だよな…冷てえところで採れない林檎とか聞いたことねえし。林檎の名産地も青森県だしな…。)

 

すると店主が、林檎によく似た果実の名前を口にした。

 

「これはな、『リンガ』っていうんだよ。パイとかキッシュとかに加工して食うもんだ。美味ぇぞ。」

 

その林檎によく似た果実の名前は「リンガ」と言うらしかった。

店主の口ぶりから察するに、この国では、加工して食べるのがスタンダードらしい。

 

「勿論生で食っても上手いが、この国以外ではあまりオススメ出来ねえな、衛生観念的に。」

 

(衛生観念か…。そうか食中毒とかあるもんな。)

 

「もっと向こうにカララギっていう国もあるんだが、あっちは魚も卵も生で食っちまうらしい。あいつらの食への執念は図りしれねえな。」

 

スバルの出身の日本と同じように、どうやらこの世界の一部の国でも生食文化は浸透しているようだった。

 

「あら、じゃあおひとつくださる?私もうここ最近一つも食べ物を口にしていなくて。」

 

(なんだ、だいぶ女口調が様になって来たんじゃねえかオレ…?)

 

「なんだって、そりゃあ大変だ。姉ちゃんが餓死しちまったら大変だ。」

 

「いいぜ、銅貨二枚と交換だ。出しな。姉ちゃんは美人だから一個おまけしといてやるぜ。」

 

どうやら店主は、今のスバルの容姿を見て贔屓してくれたのか。

銅貨二枚を交換条件にリンガを売ってくれるようだった。

 

「ど、銅貨?に、二枚…?」

 

銅貨二枚という言葉を聞き、スバルは固まってしまった。あまりの空腹で忘れていたが、今のスバルは金を一銭も持っていなかったのだ。

 

(銅貨二枚か、ギザ十じゃだめだよな…。)

 

スバルはポケットから財布を取り出そうとする。

10円玉なら銅貨代わりになるのではないかとスバルは考えた。

 

「…少しだけ待ってくださるご主人?今から希少価値の高い銅貨をお出ししますから…それで勘弁。」

 

(し、しまった!!そもそも財布自体がねえじゃねえか!!どうするオレ!!)

 

「ギ、ギザ十っていうのがあるのだけれど、マニア価格ならそれはもう高く値がついて…。紙とペンはあるかしら?」

 

スバルは紙とペンを貰い、絵に日本円硬貨を書き出した。

 

「な、なんだこりゃ?こりゃ一体どこの国の硬貨だよ?」

 

「う、嘘だろ?まさか一文無しなのか?ここまでどうやって来たんだよ姉ちゃん。関所もあるだろうに。」

 

一文無しのスバルに対し怪訝な目を向ける青果屋の店主。

 

「そりゃあオレ…わ、私は『天下不滅の無一文』だからな!!…わよ?」

 

「……??なんだそりゃあ?変わった姉ちゃんだな…。」

 

青果屋の店主は訳の分からないことをいうスバルの言動に呆れていた。

 

「……。はぁ。」

 

ため息をつく店主。

 

「金ねえのかよ!だったら帰った帰った!…って言いたいところだが…」

 

「アンタがヤローだったらその高そうなマントを売って金にして来いっていうところだが…、流石に俺もそこまで鬼じゃねえ。」

 

「いいぜ、おまけしといてやる。今回だけはタダでそれくれてやるよ。姉ちゃんに食い倒れられたりしたらこっちが困るからな。それに姉ちゃんは美人だ。別にそういう職業があることを責めてるわけじゃねえが…うっかり体売られたりしてもこっちが悲しくなる。」

 

「その代わり、次来た時はちゃんとカネ払ってくれよ。」

 

「ほれ、リンガ三つだ。大切に食えよ。」

 

「すまね…すみません店主さん。大事にしますね。」

 

「おう!気をつけていけよ!」

 

店主からリンガを貰うと、スバルは店主を背に青果屋から去っていった。

 

「はあ…よかった。ひとまず食い倒れずには済んだわけだが。」

 

青果店の店主からもらった林檎によく似た果実のリンガを見つめるスバル。

見れば見るほど林檎にそっくりだ。

するとスバルは、リンガに丸ごと噛りついた。

 

(……!!なんだこれ、無茶苦茶美味ぇじゃねえか!!)

 

リンガに噛り付くとそこから果汁が口の中にブワッと広がった。

この世界に来て始めて食べた数刻ぶりの食事は、初めての異世界探索で疲労したスバルの心身共の疲れをこれでもかというほど癒してくれたのだった。

 

(ふぃ~!!身体じゅうに染み渡るぜ~!!)

 

 

 

 

 

 

 

去っていくスバルの背中を、青果店の店主は不審そうに見つめていた。

 

(雪国出身…女…土地勘無し、土地柄を無視した露出度の高い服装。おまけに一文無しと来たか…。)

 

(いや、まさか『アイツ』じゃねぇよな。危険人物として指名手配犯の…)

 

(けどあの女が『アイツ』だったら、不用心にも町中を歩く理由が分からねえ。それに『アイツ』ならルグニカの地理にもそれなりに詳しいはず…流石に俺の思い過ごしか。人違いだよな…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

スバルがリンガを食べながら通りを歩いていると、迷子になっている女の子がいるのが見えた。

片方は緑髪のおかっぱの女の子で、もう片方は藍色のおさげの髪型の女の子だった。

おかっぱの女の子の方は泣いており、もう片方のおさげの女の子がそれをなだめているようだった。

スバルは生憎、小さい子が困っているのを見ると助けずにはいられない性分だった。それに見かねたスバルは、その子ら二人に話しかけることにした。

 

「どうしたんだ?二人とも。迷子なのか?…しら。」

 

「え…」

 

ぎこちない女口調で話しかけるスバル。

突然話しかけられ少女二人は驚いていた。

すると、おかっぱの少女がスバルに対してことのいきさつを話し始めた。

 

「…あのね、私。お母さんと離れちゃったの。」

 

どうやら彼女は、母と別れて迷子になってしまったようだった。

 

おかっぱの髪型の子は、下をうつむいて泣いている。

一方のおさげの子は、スバルの顔をじっと見つめていた。

 

「どうしたの…?かしら?」

 

「っ…!!…いいえ、何も。私なんかより、この子のお母さんを探してあげて。」

 

藍色のおさげの髪型の女の子は、自分よりもおかっぱの子を優先してほしいと言っているようだ。

 

「じゃあ兄ちゃんと一緒に…お姉さんと一緒にお母さんを探そうぜ…探しましょうか。」

 

「なあおま…あなた?お母さんの見た目の特徴とかは分かる?」

 

スバルはおかっぱの女の子のお母さんの特徴を聞いた。

 

「ぐす…、あのね。お母さんはね、お姉ちゃんよりも少し身長が低くて髪は私と違って紫色で…。」

 

スバルはひとまず、辺り一面をぐるりと見渡した。

 

(しまった、紫色の髪の毛の女の人結構いるじゃねえか…。オレの世界じゃかなり珍しいのに…。)

 

周りを見渡すと、紫色の髪の毛の女性がそれなりにいた。これでは、誰がおかっぱの子の母親なのか分からない。

 

「どこらへんではぐれたの?」

 

スバルは更に詳しい情報を聞くために女の子に聞いた。

 

「えっとね、あの、向こうの商店街のあたりで。」

 

向こうの商店街。それは先ほどスバルがリンガを貰った青果店がある商店街があるところだった。

 

「分かった。それじゃあお姉さんと一緒に行きましょうね。」

 

「そっちのおさげの子も。この子を送り届けたらお母さんを探してあげるからね。」

 

「………。」

 

 

 

 

 

しばらく歩き続けて商店街を回っていると、先ほどスバルがリンガを貰った青果屋の近くまで来ていた。

すると女の子が何かに気付いたのか、青果屋のところに向かって走り出した。

 

「あっ見つけた!おかあさ〜ん!あ、お父さんもいる!!」

 

するとおかっぱの女の子はお母さんらしき人物に抱きついた。

 

「すみません親切な方、娘を見つけてくださりありがとうございます。」

 

おかっぱの女の子の母親に感謝されるスバル。

久しぶりに純粋に他人から感謝され、スバルは気分が高揚していた。

 

「よかったわね、お母さんもお父さんも見つかって…あれ?」

 

スバルはおかっぱの女の子のお父さんの顔を確認し左を向いた。

 

「おっとすまねえな、娘を見つけてもらってよ…あれま。」

 

 

 

 

 

「おま…あなたこの子のお父さんだったのかよ…!…のね?」

 

するとそこにいたのは、先ほどリンガを恵んでくれた青果屋の主人がいた。

なんとおかっぱの女の子の父親は、青果屋の主人だったのだ。

 

「なんだあ姉ちゃん、アンタがうちの娘を見つけてくれたのか。ありがとよ。」

 

「いえいえ別に、当然のことをしたまでですよ。」

 

ふとおさげの子に注意が向くスバル。

 

「そうだ、キミも…。キミもお母さんと迷子に…あれ?」

 

しかしそこにはおさげの子の姿はもう影も形もなかった。

 

(あれ…?どこに行ったんだあの子?)

 

「あのご主人?これくらいの身長のおさげの子を見ませんでした?」

 

スバルはおさげの子を行方を青果屋の店主に聞いてみた。

 

「おさげの子?その子ならさっきどこかに走って行っちゃったぜ?知り合いなのか?」

 

「いや、その子も迷子みたいだったので保護者の方を見つけたら送って差し上げようと思って…。」

 

「…そうなのか?姉ちゃんの方チラチラ見てたからてっきり知り合いかと。」

 

「にしても、何度も何度も済まねえな姉ちゃん。娘の件のお礼だ。さっきのリンガの件はこれでチャラだ。その代わり、次からは客として来てもらうからな。頼むぜ。」

 

「あばよ!!」

 

「ばいば~い!!お姉ちゃ~ん!!」

 

スバルは青果屋の主人とおかっぱの女の子と母親と挨拶を済ませ、再び街の探索を始めたのだった。

 

 

 

 

 

それから数分後、青果屋の屋台にて。

青果屋の店主は一人考え事をしていた。

 

(あのおさげの子、前にメイザース辺境伯の管理する村に果物を売りに行った時に見かけたような気が…。けど一人で来たのか?あんな小さい子がこんな遠い王都まで?)

 

(いや流石にそりゃねえか。母ちゃんや姉ちゃんとかといっしょに来たんだろ多分。)

 

(にしてもあの子、なんで何度もちらちらと姉ちゃんの方を見てたんだ?まさか身内とか…。けど姉ちゃん違うって言ってたしな…)

 

(俺の思い過ごしか…。顔も全然似てなかったしな…。)

 

(はあ、杞憂だといいんだが。)

 

 


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