恣意的情報非開示型整合性皆無系文体非論理的展開連続男女出逢似非軽文学 作:若かりし頃を思い出して
僕は主人公になっていた。右腕は机に、手は頬に。憂鬱そうな顔をして、僕から見て左側を、窓の外を眺める。視界に入るのは見慣れた街並み、気にしているのは周りの目。頭の中は痛々しいモノローグ。この完成された主人公ポーズはあの感性が腐ってる師匠ですら歓声を上げるだろうというレベルの主人公ムーヴだ。いや、実際に僕が"師匠"なんてのに関わっている人生を歩んでいるものなら人格形成に支障をきたしてそうだけど。
僕は後ろから二番目窓際の席に座っている。所謂主人公席。ここに座っているのが本当に主人公なら、今頃可愛い個性的な女の子に囲まれているだろうし、先日転校していった僕の隣の席の人がそもそも男子じゃなくて女子だったに違いない。違うね。だが悲しいかな。三次元にそんなイベントは参上しない。そう思っていた。
僕だっていつも頬杖突いて主人公ムーヴをかましているわけじゃない。そんな痛々しいボッチがいて堪るか。いや、たまにいるか。いつもは本格ミステリに始まり電撃文庫辺りが間に挟まり、果ては孔子の論語に至るまでの多種多様な偏った読書を嗜んでいる。由緒正しき学生の会話キャンセラーで重装備。それでLHRの時間になったらぼけっと話を聞いて、授業の時間になったらぼけっと座って、ぼけっと一日を過ごして。そんなムーヴをかましている。典型的交遊関係皆無型人間系行動。ルビを振るなら、テンプレートボッチムーヴメント。
ところが、つい三日程前に驚くべき情報がクラス中を駆け巡った。僕達高校生はその存在X、転校生なる者の襲来に震えた。こちらからすれば転入生か。いやそれはどうだって良い。兎にも角にも僕は主人公なのかもしれなかった。なにせ、このクラスからはつい先日一人転校生が出ている。だから存在Xが来るのはこのクラス。それでちょうど入れ違いだから席替えを挟む間もない。つまり、存在Xが座るのは転校生の席で、率直に言えば僕の席の隣なのだった。
僕が朝っぱらから恥ずかしげもなく、いや恥ずかしかったけど、主人公っぽいポーズを取っているのはそういう理由があるのだ。分かって頂けただろうか? 分からなくて結構カッコウコケコッコー。
そして、とうとうその時は訪れた。
「は、初めまして!」
ストライク! バッターアウト! 多分、そんな衝撃。見逃し三振だ。スコアボードには零が。いや、ワンアウトだ。まだ。
僕はその存在Xに見覚えがあった。存在Xは、とっても可愛い女の子で、転校生としては確実に当たりの部類で、その事実に周りが少々ざわついて、その転校生が僕の席の隣で。でも、そんな事は、それは全部全部が今の僕にとってはどうでも良い事だった。大事だったのは、この瞬間に僕が一目惚れをした、という事だけなのだから。
「えっと、さっきも自己紹介したけど、うおずみさな……魚住咲奈です。よろしくお願いします」
「あぁ、うん。よろしく」
隣の席に座った彼女はくるりと僕の方を向くと、大輪の花が咲く様な笑顔で改めて自己紹介をした。僕はくるりと彼女から目を逸らすと、人生初の感情達が死闘を繰り広げて更地を作り出している様な、僕のボキャブラリーではなんとも形容し難い顔で頷いた。
彼女が何でわざわざもう一回名前を言ったと思っている。しっかりしろ僕。自己紹介をしやすい会話の入りを作ってくれただろ。乗っかれよ。
脳内で自分を叱責するが、脳内と違って口は上手く動いてくれない。一目惚れ、なんて人生で初めてだった。恋すらした事がなかった。今、僕が受けている衝撃は大き過ぎる。今までの"好き"が全部霞んで、明確にライクだったと確信出来る程の衝撃だった。だから、僕は上手に話せないんだと思う。決して今まで女子どころか男子ともまともに会話した事がないから、自己紹介すら出来ないってわけじゃない。
僕はモゴモゴしながら何とか自己紹介を終えた。流れで軽く会話しようと思った。が、勿論、自己紹介一つですらもたつく僕に軽妙な会話なんぞ交わせるわけもなく、それは失敗に終わった。全ては刹那の葛藤だった。要するにコミュ障。僕はファーストコンタクトに失敗した事をコンマ2秒程の長い時間を掛けて反省し、その隙に心を静めようとした。ようとした、って事は出来なかったって事なんだけど。
その時、僕は自分が浮かれている事に気付いた。今更になって周りの会話もした事がないクラスメートからの視線が痛い、と感じる。浮かれているんじゃなくて元からクラスで浮いている、なんて事はないのであしからず。周りの女子達は僕の会話(自身と他者が言語を介してコミュニケーションを取ったから先程の一連のやり取りは会話であり、事務的なサムシングではない)に一区切りが着くと、チーターの様に転校生に突撃した。秋沙雨もかくやというレベルの矢継ぎ早の質問。ラノベ恒例の転校生質問タイムである。一体、何をそんなに質問したがるのだろうか。相手の事を知りたいなら先ずは軽い自己紹介を交わし、何気無い話題から入り、どうでもいい日常会話をするのが効果的なのに。何気無い会話程、どうでもいい会話程、相手のパーソナリティを知る最大のヒントだ。最近読んだハードボイルドな小説に書いてあった。
僕は小説の中の主人公達の様に考えながら会話をする事が出来ない。でも、会話が終わった後なら考える事が出来る。そうやって、夜に布団の中で足をジタバタさせるんだ。うん、格好悪い。
僕は横で繰り広げられる質問とその応答のクロニクルをシャットアウトするために、引き出しの中から読みかけの青春ミステリ小説を出して活字の世界にダイブした。頭の中では花の様な笑顔がループ再生されていた。時間が経つごとに積み重なっていく笑顔。まるでお花畑。勿論、僕の脳内が、だが。
あくまで『僕』の一人称ですので描写を信用しないで下さい
……とでも言えば満足ですか?(マスターロ語)
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