恣意的情報非開示型整合性皆無系文体非論理的展開連続男女出逢似非軽文学 作:若かりし頃を思い出して
見る く(O√ON)
「19世紀後半頃、米国深南部のアフリカ系アメリカ人」
「ごめんね、わけがわからないよ」
「理科」
「社会じゃなくて?」
「もしくは道徳」
「理解出来ないね」
彼女は無駄に賢くて、無意味に博識で、無価値に碩学だから時々、僕の使用している言語と関連性が全くもってない程難解な台詞を使う。"無駄に~"の件は彼女自身の発言なので決して彼女に潰走しっぱなしの僕の暗澹とした気持ちが迂遠に婉曲に直接に直裁に表現された惨憺とした虚しい抵抗の証ではない。それがどの様な脈絡で草むらから飛び出してきたか、はともかく彼女自身が自分自身を対象として言った言葉に違いはない。でも何だかんだこれまで会話を続けられているので、IQが離れ過ぎているという事はないハズだ。いや、会話が成立した回数の方が少ないかもしれない。
とにかく、僕は今日も彼女に魚住さんとの和気藹々とした時間の1から10を詳らかに伝えた。1から10を詳らかに、と言ってもそっくりそのままじゃなくて僕の所感と誇張と謙遜が鼎立した水割り真実だったが。勿論、これは虚栄心によるものではなく、伝わり易さを重視した事によるものである。結果的に両者どっちの道を選択しても僕の言う事は変わらないが。
「で、魚住さんが――――」
「下の名前呼びの権利を得た」
「……まぁ、本人の預かり知らぬ所で下の名前を軽々しく扱うというのは何というか気が引けるというか」
「そのための権利、許可、承認」
「う"っ!!」
「下の名前で言う気がない」
「ぐさぁっ! それを言っちゃあお終いだよぅ……」
「下の名前で言う気がない」
「な、何で2回言ったの?」
「下の名前で言う気がない」
「……なるほど。僕に勇気がない、と」
彼女は頷いた。僕は彼女の慧眼に低頭した。僕はヤケになったのか、思いっきり水筒を呷った。気持ちとは裏腹に水筒は大分軽くなった。
確かに僕には魚住さんを下の名前で呼ぶ勇気がない。まぁ、それは僕の思春期の少年特有の性根だけの問題ではなく、魚住さんの下の名前を呼ぶ権利は半ば僕が強制、それこそ圧力を掛けて引っ張り出したものの様なものだったからだ。
「ん!? 圧力……?」
「気付いた?」
「どちらかと言えば現在進行形で傷付いてるね」
「乙女心どころか、人間の心を理解していない」
「言えた話じゃないよね」
「今の発言で心が傷付いた」
「……トランプで例えると?」
「はーと」
僕も彼女の表現に慣れてきた、という事か。中々に軽快で軽妙で互いを理解しあった様なやり取りが出来ているじゃあないか。同い年の可愛い女子と滔々と会話しているというこの事実は、僕の潜在的社交能力の高さを証明していると言っても過言じゃないだろう。ルビを振るなら、トークスムーズアビリティーズ。ダサい。つい先程のやり取りに含まれる"事務的率"はありんこレベルだったから鯖を読んでいる、という事はない。強いて言うなら空気は読んだけど。
「どこまで?」
「と、言いますと?」
「案内」
「昇降口まで」
「短い。しようと思えばもっと出来た」
「思わないからこそ僕が僕たりえるのだよ。それに、遠回りは論外だし、あんまし寄り道したって不自然で非効率で無意味だったよ」
「それは悲しい。急かんとすれば良かった」
「確かに……歩く速さと口数の多さは正の相関って言うし」
「都市部と田舎も含めるとより正しい」
彼女は飲んでいたパックの牛乳が空になったらしく、パックをブンブン振り回した。僕の方にいくつかの水滴が飛んでくる。まったく。僕の髪が若くして白く臭く染まって匂ってしまったらどうするんだ。牛乳まみれになって需要があるのは彼女の方だろうに。
不健全で最低な事を考えながら、僕は今日の魚住さんとのやり取りを子細に思い出す。色彩豊かな記憶が僕の花が咲き誇る頭脳にプレイバックされる。今日の僕は魚住さんと楽しい時間を過ごして、機嫌が良かったハズだ。それなのに何で彼女も僕も些か不機嫌なのだろうか。彼女の不機嫌の理由なんぞ想像も付かない。生理だろうか。まぁ、他人の不機嫌の理由なんてどうだって良い。考えても分からないのだから。彼女の振り回す牛乳が賞味期限切れじゃないかだけを確認して、僕は自分の不機嫌の理由を探ろうとする。さぁ、探索を始めようか。
「えーい」
探索終了。僕の記憶の探索は彼女の声でゲームセット。RTA走者の才能があるかもしれない。彼女は理性的な雰囲気を纏っている様な印象を受けるが、時々ひらがなにしか聞こえないふはふはとした声を出す。彼女のこの気の抜けた声は牛乳パックをポイ捨てする時に出る声だ。聞き慣れている。
こつん、と僕の頭に軽めの何かが当たる。何か、と言っても一つしかないのだけど。しかし、声は聞き慣れていた割に行動は慣れていなかった。まさか彼女が僕に向かって牛乳パックを投げるなんて。
「これは……どういう事だい?」
「憫察」
「どうせ貰うなら千円札が良かったかな」
「迷妄。捨てた」
「やる気味ってとこかな」
「…………10点」
僕は笑った。彼女は背を向けた。何点満点かは聞かなかった。見上げた空はまだまだブルーで、なんでだろう。夜でもないのに布団に入りたくなった。
『彼女』の言う事がワケワカメな方用解説
・圧力と言えばパスカルですよね
『僕』の言う事もワケワカメコンブな方用解説
・きづいた→きずついいた→こころ→はーと
さっぱりわかんないという知人用解説
・しようと思えば→sad→急かんとすれば。エレベーターよりも下らないダジャレですね
エレベーターは下るよ、と言いたそうな方用解説
・気分は上がらないけど、詰まらないのは良いでしょう? このご時世ですし
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