やはり俺が黒の組織に居るのは間違っている。 作:ひよっこ召喚士
折本かおりへの
あれが全ての始まりだった
人の視線が、心が俺は怖かった
だからこそ人一倍敏感になり
誰よりも他人を読み取る事が出来た
そして、その殆どが俺を笑い、蔑むものだった
それ故に悪意にはさらに敏感になり
無視しているだけなんて耐えられず
日常でも怯え、意味も無いのに身体を動かした
そして、疲れ切った身体を無理やり眠らせる毎日
壊れた俺を今度は痛めつける者が現れた
受け続けている内に痛みに慣れていき
無駄に鍛えた結果攻撃を防いだり避けれるようになった
それでも集団に独りが勝てる事は無かった
いや、物理的になら勝てた時もあっただろう
だが、それを周りが許さなかった
更に連鎖的に俺の環境は変化した
目は闇を映すばかり、体中に傷があり
操られているかのように体を動かし
学校に行く時以外は死んだように眠る俺
そんな異常な者を家族は受け付けなかった
小町だけは心配してくれていたが両親は俺を追い出した
きっと耐えられなかったのだろう
根本的には逃げ続けている俺と変わらない
住む場所と食費や学費など必要な物は払われていた
独りに安心感を抱く俺もそれを受け入れていた
そして、狂ったままの日常を過ごしていた
だが、ある日買い物に出た際に福引の券を受け取った
俺はついでとばかりにそれを引いてから帰る事にした
それがいけなかったのだろう
引いたくじで俺は特賞の旅行を引き当てた
それもニューヨークへの3泊4日と言う豪勢な物だった
独り暮らしとは言え、知り合いに遭遇することはある
とうに精神的な限界を超えており
理由もなく休む度胸の無い俺に丁度良すぎた
知り合いの居る訳がないアメリカに俺は独りで向かった
誰にも伝えず、必要な物だけを持って俺は日本から消えた
その解放感、たった数日だけの自由に心が躍っていた
旅行の一部にはツアーも組み込まれており
ガイドも着いていたため不安は無かった
名所巡り、食事、街を眺めるだけでも楽しかった
観光を楽しんで豪華なホテルで休んで一日が終わった
次の日も観光を楽しみ、夜はホテルのパーティに参加した
文系科目は得意とは言え、英語を扱えるわけではない
所々分かる部分もあるが、思っていたより退屈だった
それでも、歌手や女優などの姿が見られたので満足だった
立食形式の食事を端の方で楽しんでいると
急に日本語で話しかけられた
「日本人よね?パーティはどう?」
「っ!?た、楽しいです。はい」
「珍しいから声をかけちゃったんだけど、大丈夫かしら?」
「ええ、むしろ光栄です」
その人はクリス・ヴィンヤードと言うハリウッド女優だ
小町にせがまれて見に行った映画に出ていたので知っていた
怪しい所は無く、悪意は感じない
それでもどこかその人をみて怖いと感じた
だけど表に出さずにそのまま会話を続けた
その理由は会話をしていくうちに分かった
答えが出ない内は大丈夫だった
だが、分かってしまったら気になってしまった
口に出してしまった事で俺の運命はねじ曲がった
「それで、日本に行った時には 『あの』 ん、なにかしら?」
口を挟まれても優しく微笑んで聞き返す
その表情が仕草が気づいてからは恐怖でしかない
「なんで、ずっと演技してるんですか?」
「何を言ってるの?」
彼女は心底分からないと言った表情を作った
しかし、彼女は驚きと警戒が読み取れた
「気遣ってくれるのも、優しく話をするのも久しぶりです。最初は俺が人を信じれてないからかとも思ったんですけど、話続けていて分かりました。あなたの着けている仮面が怖い、自分を偽って、全てを騙し続けているその姿が怖いんです」
「…………ふぅん、何を言ってるのか分からないけど面白かったわ。機会があればまた会いましょう」
偽りの女性とはそこで別れた
俺はホッとしてため息を吐いた
恐怖からくる冷や汗で背中が濡れていた
身体が冷えた俺はパーティを後にした
俺はベッドに倒れ、死んだ様に眠った
次の日、ここで一日過ごせる最終日
昨日の事を意図的に忘れて楽しんだ
そしてホテルへの帰り道だった
俺は嫌な感覚がしてその場を飛び退いた
するとドラマなどでしか聞いたことのない音が
鋭い銃声が俺の耳に届き、俺は駆け出した
感覚だけを頼りに銃弾を避けていく
無我夢中で走った俺は路地に追い詰められた
戻ろうとも遅く、拳銃を手にした男が道を塞いだ
逃げれ無いと感じ、迫る死の恐怖に怯える
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
気づいたときには男はいなかった
地面には拳銃が転がっており
路地の向こうに男が傷だらけで倒れている
俺の手と足が少し痺れ、赤く染まっている
静かになった路地に立ち尽くす
胸の鼓動がとにかく煩い
ああ、俺がやったのかと理解した
そして拍手が鳴り響いた
「普通じゃ無いとは思ってたけど、貴方は本当に面白そうね」
そう言って出てきたのはクリス・ヴィンヤード
仮面を外した彼女は笑っていた
そして、拳銃を拾い上げると
狙いを定めて撃ち抜いた
倒れていた、襲撃した男の事を
「銃を持った男に襲われた観光客、それも男子中学生がそれを返り討ちに、ってのは信じがたいわよね。それに襲撃者は死んでいるとなれば、否応なしに犯人候補は貴方ね」
獲物を見つけた獣の方が優しいだろう
ニコニコとこちらに語りかけてくる姿は
まるで取引を持ちかける悪魔の様だった
彼女から告げられた名前で迷いは無くなった
俺はその日から彼女の部下となった
闇へとどっぷりと浸かって
裏での地位を築き上げてしまった
組織において幹部の地位を与えられた
たぶん自業自得なのだろう
あの場で死んでいれば良かった
変に口を挟まねなければ良かった
アメリカに行かなければ良かった
福引を引かなければ良かった
外へ出なければ良かった
告白なんてするべきで無かった
「フィーヌ様?フィーヌ様!!」
「……なんだ?」
「着きました。本日もお疲れさまです」
仕事帰りは嫌な夢ばかりだ
沼に沈む様に、意識が落ちてしまう
きっと何度も声を掛けられたんだろう
俺は下っ端に「ご苦労」とだけ伝えて車を降りた
仕事終わりは普通の家には戻らない
裏の力を使い用意した安全な家
今眠っても見るのは悪夢だろう
だからこそ眠ろうと倒れ込んだ
決して許されない自分を見つめて