やはり俺が黒の組織に居るのは間違っている。 作:ひよっこ召喚士
「はぁ……クソっ」
心理的な不調は留まることを知らない
気分の悪さは仕事にも影響が出てくる
しょうもないミスのせいで反撃を喰らった
当たり前の様に致命傷は避け仕事をこなす
こんな時だけは無駄に丈夫な身体に感謝する
失敗=死という服と同じくブラックな仕事だ
立ち止まる事なく処理を急ぐ
必要な物は抜き取り後はそのまま
今回は建物ごとで良いからまだ楽だ
俺がいた事実だけを消し去れば良い
顔に傷は作れないと腕を犠牲にしたが
流れ出る血が熱く、服を赤く染める
軽く止血だけ終えると黙々と目的を果たす
相手の使ったナイフを回収し痕跡を消し去る
そして仕掛けを施してその場を立ち去る
数十分後には何も残らず全て灰になるだろう
足が用意されてるから後は家に帰るだけ
改めて傷を確認するが支障は出ないだろう
報告だけ送ってそれでおしまいだ
「そういやシェリーに伝え忘れたか…」
この前ジンが薬を使っていたのを思い出す
組織への報告には含まれてる筈だ
となればそのうちあいつも確認はするだろう
少なくない疲れのせいで頭が働かない
昼間の生活の事も考えなくてはいけない
とりあえず休むために薬を飲むと横になる
どうせ見る悪夢に辟易しながら目を閉じた
『
嫌な記憶に身体を一気に起こした
ガタンと机と椅子が音を立てる
視線が向くが直ぐに喧騒に消える
時計に目をやると昼休みなのが分かる
登校だけして寝てたのを思い出した
元々必要なのは出席だけだ
高校程度の内容は既に理解している
いまさら起こしてくる教師もいない
仕事の夢を見たのは傷の痛みからだろう
あの言葉が出てきた原因は分かりきってる
「あたしお昼に行くとこあるんだ」
「あ、そうなん?じゃあさ、帰りにレモンティー買ってきてよ。飲み物忘れちゃって」
「ごめん、あたし戻ってくるの五限になるの、。お昼まるまる抜けるから、埋め合わせはするから」
関わりたくないという思いとは裏腹に
同じ教室に割り振られている現実
朝から時折視線を飛ばしてくるのに苛つく
無視して眠っていたのに声が邪魔をした
何を揉めているのか知らないがいい迷惑だ
気取られぬ事なく視線を向けるが
ずけずけと踏み込んできた姿はそこにない
それが余計に腹ただしく思えて仕方ない
教室を出てしまおうと扉の方に足を進め
廊下へ出て保健室に向かおうと曲がる
「あっ、ごめんなさ…なんだ貴方だったのね」
ぶつかりそうになり避けたらこの言い草だ
由比ヶ浜に用でもあるのだろう
反応も示さずにそのまま歩き去る
一瞬何か言いたげにしていたが関わる気はない
それは向こうも同じようで良かった
これ以上の面倒は御免被りたい
滅多に人の居ない保健室は好き勝手使えて便利だ
だが今日はその滅多の日であったようだ
痛みと眠気、周囲の騒がしさが相まって気付けなかった
扉を開いた時にはこちらへ視線が向く
踵を返して離れるには少々遅かった
「あれ、比企谷先輩?」
亜麻色の髪をしたその後輩に見覚えはある
先輩と呼ばれてる様にこいつは一年だ
「一色か……」
名前を一色いろはと言い、性格は打算的
サッカー部のマネージャーの一人だったはずだ
よく助っ人に行く関係で話した事がある程度
その程度であっても知り合いには違いない
無関係な人物であれば良かったが運が悪い
「どうしたんですか保健室なんかに来て」
「休みに来ただけだ。邪魔なら出ていく」
「そんな、先輩を邪魔に思う訳ないじゃないですか〜」
そう言うと頼んでもいないのにベットの準備を始めた
気に入られようとしてるのが分かりやすい
優等生で功績がある方が過ごす上で便利だが
こうなると校内で名が知れてるのも考えものだ
これが地の性格ではないのは簡単に見抜けるが
気付かない方が良い事があるのは身に沁みてる
だから決して文句は言わずに放っておく
それが互いの為と言っても過言ではない
軽く礼だけ伝えると遠慮なく横になる
これで黙る相手ならなお良かったんだがな
「そういえば先輩が部活に入ったって噂を聞いたんですよ〜それって本当なんですか?」
甘ったるい声という題目の例にできそうだ
相手をこちらに引き寄せる蠱惑とは違い
自分から強者へ擦り寄ろうとする魂胆
使おうとは思わないが一つの手法ではある
こいつがソレを扱いきれてるかは別の話だが
そんな事よりも何故その話題が出てきたのか
「何処からの情報なんだそれは……」
由比ヶ浜は部活について話した様子はない
平塚先生は回りくどい方法は好まない
雪ノ下の周りに人が居るとは思えない
軽く考えてみても予想がつかない
念のため確認するために話に付き合う
「大元は分からないんですが運動部の顧問の先生が生徒指導を理由に比企谷を平塚先生が持っていったと愚痴ってたらしいんですよ?そこから広まったそうで助っ人の話が無くならないか不安なのかと」
勧誘はあちこちから受けていた
どこの部かまで特定は難しいだろう
とはいえ教師から情報が漏れるとはな
そもそも俺に頼りきりな姿勢は間違いだろう
というかそんなに話が広まっているのか
話しかけられる事が増えそうで頭が痛い
「それでどんな部活なんですか?」
話題を広げるとなるとそれしかないか
あの部については語るのも遠慮したいが
情報提供分くらいは付き合うべきか
「端的に言えばボランティア部の一種だ。奉仕部と言い、二年の雪ノ下と由比ヶ浜が部員だ」
事細かに理念まで話してやる義理はない
概要も間違っていないので問題ない
「学年一の美少女と噂の…それに葉山先輩のグループの…そこに先輩も加わるとなると中々に豪勢なメンバーですね」
名と顔が知られている面子なのは間違いない
調べる奴が増える事がなければ良いが
取り敢えず情報分は会話をしただろう
この後も何かと聞かれたが適当な所で切り上げる
一色は多少だが奉仕部に興味を示していた
こいつ経由でさらに広まらないだろうな
そもそも辞めてしまえばいい話か
そう考えながら惰性で授業を過ごし
そのまま帰ろうとしたが行く手を阻まれる
「何処へ行くつもりだ?そちらに部室はないぞ」
やはり何かあればこの人は直接動く
こういう人物は動きも読みやすい
「行くつもりはないので当然かと」
きっぱりと告げるだけで良い
既に最低限はこの人にも付き合った
「それを許すと思うか?」
「許されなくても帰りますよ」
じっと互いの視線が交差する
だが意味がないと悟り、直ぐに終わる
「雪ノ下にも、君にとっても良い経験になると思っていたんだがなぁ……」
残念そうに告げているのが声色で分かる
それをしてなんの得がこの人にあるというのか
振り返ることもせずに学校を後にする
とっとと家に帰って休もうと考えていると
「っと、メールか……そうか……」
予定にない連絡が入り顔をしかめる
だけならばまだ良かったんだろう
手伝いを命じられたのは裏切り者の始末
書かれた名前は見知ったものだった