やはり俺が黒の組織に居るのは間違っている。 作:ひよっこ召喚士
既にあいつはジンの指示で動いてるらしい
持ち逃げした奴を探して回ってるだけだが
組織の仕事でミスしたのは紛れもない事実だ
目的も相まって焦りまくってる事だろう
自身を除いて関係者がいないからこそだが
行方を調べるために探偵まで雇ってると言う
適当な理由を用意してやってるだろうが
部外者を使うというのはリスクが高い
俺なら末端だろうが構成員を使うな
探偵には良い思い出がないが軽く調べる
毛利探偵事務所と言うらしく
どうやら警察上がりの探偵
伝手こそありそうだが知名度はない
受けた依頼とやらも数えられる程度
好奇心任せに絡まれれば面倒だが
金の行方だけ分かれば言葉通り儲けもんだ
そんな事を考えていると新たにメールが一件
「……ベルモットか」
仕事の最中に呼び出しをかけるか
まだ動きがないから良いが……
いや、だからこそ連絡を寄越したのか
嫌なことほど重なるもんだな
とりあえず詳細を確認していく
〜Close〜
近くを通る人々はみな目を向けている
ホテルの真ん前に立ち続けている女性
その容姿に老若男女問わずに振り向く
声をかける事さえも戸惑う様な美しさ
そんな彼女へと真っ直ぐに向かう人影
携帯電話を覗いていた彼女も頭を上げ
互いの顔がはっきり見える距離となる
「あら、やっと来たの。遅かったわね?」
「本来なら待機中の所に来たんですよ。勘弁してください」
男は丁寧な口調と裏腹に不満を隠しておらず
「どいつもこいつも…」と小声で文句を言う
その様子が面白い様でクスクス笑い声が響く
誰もが勘違いしそうな笑顔にも靡くことなく
居心地悪そうに相手は視線を払い除けている
「とりあえず入りましょう」
逃しはしないと相手の腕を取り歩き出す
相手も嫌そうにしつつ振り払う事はない
ホテル内に入るとエレベーターに乗った
目的は落ち着いた雰囲気の個室付きバー
注文だけパパっと伝え、足早に席に着く
互いに話す事なく、黙ったまま酒を待つ
沈黙の数分の後に届いた品に手を伸ばす
グラスを持ち上げ目礼を交わし口に含む
「良い夜ね。貴方もそうは思わないフィーヌ?」
「確かに良い夜に良いバーに良いグラスに良い酒ですね」
「あら、良い女の文字が足りないんじゃない」
「良いの後に
憚ることなく皮肉を吐き捨てる男
ソレを聞き、満足気にほほ笑む女
部外者が見るならば異様な光景だ
殺伐としたやり取りが常の二人組
喧嘩前にジャブを打つのとは違う
彼女と彼での戦いは成り立たない
かつて彼がしていた抵抗の名残り
形骸化した結果、挨拶の様な物だ
「宮野明美を始末するそうね」
「えぇ、ジンに手伝いを頼まれまして」
世間話をするのと変わりない口調
零れるのは闇に住まう人間の日常
脅し、騙し、奪い、殺し、生きる
彼らにとってなんてことない日常
彩りがあるとすれば血の赤の世界
「友人の貴方がわざわざ?」
「裏切りはご法度、組織の共通認識でしょう」
「まぁ、良いわ。しくじらないようにだけ気をつけなさい」
注意を口にすると再び酒を傾ける
それ以上何もないのか会話は止む
許可を貰った男も静かに酒を嗜む
〜Open〜
どうにも磯の香りが強くてかなわないな
ここで待ち続けるのは少々苦痛に思える
漁港ではなく生臭くないのがせめての救いか
いや、もうじき血生臭い事になるのに違いはない
静かな港にカツカツと歩く音が響いてきた
ジンもそれを聞いて嘲笑を浮かべる
「行くぞ」
端的に合図を出し移動を開始するジン
俺も一歩遅らせてそれについていく
そしてついにその時がやってきた
「ご苦労だったな広田雅美…いや…宮野明美よ…」
行く手を塞ぐように現れたジン
合流は予定の内だから慌ててはいない
俺が顔を見せた時、あいつは驚くか
そんな下らない事を考え影から機を窺う
「一つ聞いていいかしら?あの大男を眠らせるためにあなたにもらったこの睡眠薬…飲んだとたんに彼、血を吐いて動かなくなったわ…どういうこと?」
「フ…それが
むしろ素直に渡された物を使うとはな
その行動の方がこちらとしては正気を疑う
他人は何処までいこうが他人だ
これは表裏関係ない摂理だろうに
「さあ、金を渡してもらおうか…」
「ここにはないわ…ある所に預けてあるの…」
まぁ、見るからに荷物は無いからな
わざわざ聞くあたり性格の悪い事で
「その前に妹よ!約束したはずよ!この仕事が終わったら、私と妹を組織から抜けさせてくれるって…あの子をここへ連れて来れば金のありかを教えるわ…」
無策でやってきた訳では無い様だが
ジンを相手にそれは悪手でしかない
移動経路から考えれば予測は簡単だ
そして端から金だけが目的ではない
「そいつはできねー相談だ…奴は組織の中でも有数の頭脳だからな」
「な!?」
何を驚いているんだか…
「あいつにコードネームが与えられてる意味を考えろよ。宮野……」
「え!? フィーヌ…あなた…」
コンテナの影から姿を現すと
宮野はそれはそれは驚いてみせる
色々な予測が頭の中で渦巻いてる事だろう
「愚痴聞きの時にも言っただろ。組織はこれっぽっちも甘くないと」
「まさかあなたが手引したの…」
シェリーや宮野とはよく話していた
組織に対する不平不満、愚痴話はざらだ
それ故に簡単に行き着く答えだが
「それこそまさかだな。俺はただ裏切り者の始末の手伝いに来ただけだ。組織を抜けようとした裏切り者をな」
「そう…金のありかはどうでも良いのね……」
金は集めようと思えば方法など幾らでもある
だがシェリー、あいつの換えは何処にもない
それを連れ出そうとするお前の存在は邪魔だ
ヘマを繰り返したから大義名分は十分足りる
なのに安易な餌に飛びつき処刑台に上がった
組織だけじゃない俺も、あいつも裏切る行為
「最後に言い残す事はあるか?」
「ごめんね…とだけ」
こっちの目をじっと見るんじゃねぇよ
誰への謝罪なのか分からねえだろうが
一瞬の後合図と共に引金に指を掛けた
「なんでどいつもこいつも謝るんだよ」