やはり俺が黒の組織に居るのは間違っている。   作:ひよっこ召喚士

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見透かす目:File.2 Page.4


 

目的の人物である雅美さんを探して、確かに入った港の中を駆け出した。

 

見失ってからかなりの時間が経つが諦めることはなく、血眼と言う言葉通りの姿となってコンテナの並ぶ通路を走り続ける。

 

物音の一つでもないかと耳をすませていると船の汽笛が遠くから聞こえてきた。鳴り終わった後も足音一つ聞こえず、見つからない不安の中でようやくその姿を捉えた。

 

また逃げられる前に彼女を捕まえなければとその方法で頭を巡らせているその瞬間、彼女が膝から倒れ、俺の思考が真白に染まった。

 

「ま、雅美さん!?」

 

「どうしたの雅美さん。しっかりして!!」

 

何が起こったのかと周囲を見渡すと地面には拳銃が一丁転がっており、血が流れている事から撃たれたのだろう。

 

「蘭ねえちゃん、早く救急車を!!それにおじさん達にも!!」

 

「う、うん、わかった!!」

 

とにかく治療を急がなくては雅美さんが死んでしまう。蘭に指示を出して、何か出来ないかと簡単な応急処置の方法を思い浮かべる。

 

「む、無駄よ…もう手遅れだわ…」

 

「しゃべっちゃダメだ!!しゃべると傷口が…」

 

そう言おうと思ったが既に雅美さんから流れる血の量は多く、苦しげに咳き込む口からも溢れる様に出てきている。応急処置どころか救急車が来るのを待つ時間も残されていない。助からないのが分かってしまう。

 

「…心臓を狙ってたみたいだから……多少逸れたとはいえ、死は免れないわ……」

 

雅美さんは苦しげにしつつも服の下からアクセサリーを取り出し「曲がっちゃったかしら?」と残念そうな表情を浮かべている。

 

「ボ、ボウヤは確か…探偵事務所にいた子だったわよね…? どうしてここがわかったの?」

 

俺は死にゆく彼女につまらない嘘を吐きたくなかった。博士に貰った発振器の事も本当の名前の事も全てを話し、逆に彼女から広田さんや大男の事も聞かせてもらった。

 

「10億円はホテルのフロントに預けてあるわ…もしかしたら回収済みかもしれないけど…組織の中でも彼はかなり優秀だから……」

 

「組織…?」

 

大きな事件であることや拳銃の入手等を考えれば手引した存在がいるのはおかしくない。おそらく雅美さんもその組織の手にかかったのだろう。

 

「謎に包まれた大きな組織よ…ま、末端の私にわかっているのは組織のカラーがブラックって事だけ…」

 

「ブラック!?」

 

その言葉を聞いた瞬間にトロピカルランドで出くわしたあの黒ずくめの男が脳裏に浮かんだ。

 

「そうよ…組織の奴らが好んで着るのよ…カラスのような黒い服をね…あぁ、でも一人だけ黒以外も普通に着る人も居たわね……」

 

「そ、そいつらの中にフィーヌって人はいる?」

 

「…?! ええ…居るわ……幹部はみんなお酒の名前のコードネームを与えられてる」

 

死に瀕しているにも関わらず言い寄る様に尋ねてしまったがその質問に対して雅美さんは目を大きく見開いて驚きつつも肯定した。

 

「……そうだ思い出したわ…工藤ってフィーヌが嫌いだって愚痴をこぼしてたっけ……その身体も組織のせい…ゲホゴホガホ……」

 

「雅美さん、無理に喋らないで!?」

 

また大きく咳き込むと血を吐き、さらに顔色が悪くなっている。それでも何故か雅美さんは笑みを浮かべている。だが既に目に力はなく、今にも閉じそうだ。

 

「…あぁ、気遣いを無下にしちゃったわね……苦しまない様に心臓を狙って……あのこにも悪いことを……」

 

「雅美さん!!雅美さん!!」

 

「…これで良いのよ…あいつらに利用されるのはごめんだもの……あなたもありがとう…小さな探偵…さ……」

 

最期に俺の手を握り、視線を合わせてそう言い残すと彼女はそっと息を引き取った。

 

彼女のいったとおり10億円はホテルのフロントに預けられていた様だが警察が確認した時には彼女の代理を名乗る者によって引き取られた後だった。

 

死んだ広田さんが家を借りた際に使われたというピン札の札番号を調べた事で犯行は証明されたがついに10億円の行方は途絶えてしまった。

 

彼女の近くに落ちていた拳銃から彼女の指紋が発見され罪に耐えかねて自殺したかと思われたが衝撃が加わり、ひしゃげたアクセサリーから他殺であると断定された。

 

しかし、代理人や現場周辺の目撃情報等を集めても事件の首謀者へと繋がる情報は見つからず、事件は迷宮入りとなって幕を閉じた。

 

 


 

 

「なるほどのお…そんな事がおきておったのか」

 

「あぁ、組織の連中を捕まえる理由がまた増えたよ」

 

雅美さんの依頼からの経緯を博士に話していた。組織について話せるのが博士だけなのに加えて、偶然だが発信機が役立った事の報告だ。それに情報共有はしておいて損はないからな。

 

「組織を嫌っていたであろう女性にしてはそのフィーヌと呼ばれている幹部と親しそうじゃのう。それになんでも君の事を嫌いだと言う愚痴を聞いていたそうじゃないか」

 

「俺と面識のある人物…とまでいかなくとも関わりがある人物かもしれない、だろ?」

 

その可能性は一番に考えた。単純に新聞やニュース等でも知られている高校生探偵の工藤新一が嫌いなだけかもしれないが、警戒しておいて損はない。

 

「所でそのフィーヌという名前はトロピカルランドで聞いたのか?」

 

「そういや殴られた事と黒ずくめだった事しか話して無かったっけか? 殴られた後、朦朧としてたけど『こんなガキにつけられやがって…見張っていたフィーヌに感謝するんだな』って言ってたのを朧げだけと覚えてたんだ。そいつは声を聞いてなきゃ姿も見てないけどな」

 

逆に姿も声も覚えてる奴らはコードネームが分からない。近くに居るかもしれない姿の分からない奴と何処にいるかも分からない姿の分かる奴とどちらが追いやすいか……

 

「なるほど、彼女の話が確かならフィーヌってのも酒の名称なんじゃな」

 

「あぁ、フィーヌは基準に満たないぶどうや品質の悪いワインから作られたブランデーだ」

 

「そう聞くと幹部の名前にしてはなんとも微妙じゃのう」

 

由来を考えると確かに博士の言うとおりだ。フィーヌというブランデーにも高級な物はあるらしいが、名前として使うには少々縁起的にも良くないとか考えないのか。いや、そんな事に意識を向けるだけ無駄か。

 

「由来なんて関係ねぇ。どんな奴だろうと闇から引きずり出して、白日の下に晒してやる!!」

 

 


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