英雄は勘違いと共に   作:風に逆らう洗濯物

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お待たせしました。第十一話になります。
よろしくお願いします。


第十一話 死を纏った男

 

 ○

 

「戻ったな」

 

 大輝の素晴らしい一撃に吹き飛ばされ、扉を抜けた先は洋館の廊下だった。

 どうやら、屋敷全体の神域化はされていないらしい。

 コレなら媒体を破壊する事で、神霊の現界を防ぐことはできるかもしれない。

 希望の持てる景色に安堵感が高まり。大きく深呼吸をして身体を落ち着ける。

 

「はぁ……ふぅ……」

 

 加減の効かない拳、昂ぶる血潮……

 過剰な魔力に呼応して高まるソレを感じ。

 魔力を太刀へと流す。魔力を受けた二刀は淡く光り、刃渡りが伸びる。

 刃文は蘇り。刀にかけられた祝福が、その効力をより強い物にする。

 

 危ない所だった。素直にそう思う。

 共に居たのが彼でなければ、先に切り捨ててしまったかもしれない。

 

「大丈夫か?」

 

 大輝が文句の一つも言わずに、心配そうな様子でこちらを見る。

 彼の鎧は僅かに凹み、あの時に彼の一撃が無ければ。

 …十分な加速で二刀を叩きつけていれば。

 相当な手傷を負わせていたに違いない。

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 ボクは変わらず優しいままの彼に、深く感謝し前を向く。

 耳をすませば、遠くから聞こえる戦闘音。

 どうやら馬岱さんも、既にこちらへ戻って来ていたらしい。

 

「大輝、行こう」

 

 歩き出すボクに続く足音。僕らは洋館の奥へと向かって行った。

 

 ●

 

 俺たちは、恐らく馬岱の物である戦闘音と、幽霊少女の案内を頼りに洋館を進む。

 洋館のいたるところには肉塊が散乱し、それを狩りきった男の強さに驚愕する。

 ……コレが一騎当千ってやつか……。

 

「敵影はなし。馬岱さんも、槍でよくやるね」

 

「ちょっとくらい残してくれても……」と戦闘狂じみたことを呟く少女に戦々恐々としながら曖昧に頷く。

 興味が敵に向いている以上、余計なことは言わぬが花である。

 

 ──“ダイキさん、多分ここ! ”

 

 戦闘音はまだ近づいていないが、幽霊少女が何の変哲も無い扉の前で声を上げる。

 

「ここか……」

 

 隣で首を傾げる少女を尻目に、装飾が欠け錆び付いたドアノブを捻る。

 軋む扉を開けると、そこには真っ暗な書斎が広がっていた。

 

 傾いた本棚には、医学書や剥製、瓶詰めなどが並べられ。

 ソレを支えるかの様に、錨のような物やホースのついた機会など用途不明なガラクタが立てかけてある。

 

「ついに迎えが来てしまった、か……」

 

 扉の開く音を聞いたのだろう。

 優しげな雰囲気のある、男性の声が部屋の奥から聞こえる。

 

 ──“おじさん! ”

 

 凛花が声を張り上げるが、男性からの返事はなく、片脚を引きずる様な足音が近づいてくる。

 

「さて、迎えは誰か……な?」

 

 本棚の奥から姿を現したのは、白髪の男性。彼の瞳は白く澱み、ソレを覆う様に黒い闇が顔の半分を覆っている。

 片足に頼る様に立った彼は、右足の太腿が闇に置き換わり。病的に細かった。

 そんな彼が突然笑い出す。

 

「ははは! ははははは! そうか! 君が! 君がいたんだな!」

 

 ……何この人、怖。

 彼は真っ直ぐに俺を見つめ、次に背後に浮かぶ、凛花へとその顔を向ける。

 闇で見える部分も少ないその顔は、穏やかに微笑み、呟く。

 

 ──“おじさ……”

「ギルティだよ、二人とも。だから、僕を殺してくれ!」

 

 呟きと共に彼を覆う闇。ソレは不安定なまま、ローブへと変わり、彼の手元に巨大なカマを生み出した。

 

 その光景に一気に悪寒が走る。先刻の鎧以上の恐怖が身体を、心を縛り付けた。

 

 ──“……ッ! ……”

 

 ゆっくりと進む視界の中で、闇が大鎌を振り上げる。

 闇を纏ったソレは、揺らぎの中で鋭く輝き、

 コマ送りの視界の中で、確かな実態として振り下ろされる。

 

 そして、視界に入る金の残滓。

 

「それは、ボクが許さない!」

 

 ──衝撃が響く。

 棚が倒れ、何かが割れる音が幾度となく続く。

 目の前には小さく、華奢な背中。

 頼もしい仲間が、敵の攻撃を受け止めていた。

 

 ○

 

 死霊術師が姿を変え、呪いのような魔力が大輝の周辺を包み込むのを認識し、ボクは彼らの前に滑り込む。

 

「それは、ボクが許さない!」

 

 太刀を交差させ、敵の振り下ろしを下から跳ね上げるつもりで踏み込む。

 が、想像以上に重い一撃。太刀に込めた魔力は削られ、少しずつ押し込まれるのを感じる。

 

「く、ぅ!」

 

 鎌が太刀を削るたび、魔力が四散し魔力波が発生する。

 部屋の中にあった本棚は倒れ、投げ出された瓶詰めが割れる。

 中の死骸は無惨に潰れ、薬品が魔力波と反応する。

 

 ボクはソレを感じ取り、大きく、息を吸った。

 生命の残滓を感じる魔力を肺に留める。

 ……少しずつ送っても削り切られるだけ、なら! 

 

「く、らえぇ!」

 

 魔力を片方の太刀へ集中。傷つき、不安定な鎌との接触点へ一気に送る。

 瞬間、爆発。

 太刀の刀身は吹き飛び、先程までの魔力波とは違う強力な衝撃が、周囲を襲う。

 ボクと大輝はその勢いを利用して、廊下へと吹き飛ばされた。

 

 ●

 

「大輝、動ける?」

 

 レッドが声をかけてくる。

 不思議と先程までの恐怖は無く、問題なく体も動く。

 開いたままの扉からは、ゆっくりと立ち上がる男の姿が一つ。

 流暢に話してる時間はないだろう。

 

「あぁ」

 

 こちらも立ち上がる。見ると少女は片腕を負傷し、残った片腕でなんとか武器を手にしている状態だった。

 

「ごめん、ちょっと戦えない」

 

 俺が頷くと少女は腰から白木の刀を投げ渡す。

 禍々しい煙を纏っていた、あの小刀である。

 

「奴の呪いを緩和できるはず、持ってって」

 

 ……毒を持って毒を制する的な? 

 

「わかった……」

 

 改めて部屋を見る。

 男はややふらつきながら、大きな鎌を引きずり、真っ直ぐに俺の方へと向かってくる。

 歩きながらも、その身体は闇に呑まれ、何かを堪えるようにその顔を歪ませていた。

 

 ──“……ダイキさん。”

 

 凛花が悲しそうに呟く。

 不安そうな声が頭の中に響く。

 ……無責任な事を言ったザマがこれだ。

 甘かった。そう思わざる得ない。

 

 仲間は負傷し、助けるはずだった男は苦しみながら、その刃をこちらに向けてきて居る。

 恐らくは死神とやらに、乗っ取られつつあるんだろう。

 

「ごめん、凛花ちゃん」

 

 少女が頷くのを感じる。

 賢い子だ。もう、男を救う手段が無い事を察してしまったのだろう。

 

 俺は白木の鞘を引き抜き、相変わらず神聖さを感じられない刀を構える。

 武器としての刀など使った事はなく、せいぜいが土産で買った木刀くらい。

 そんな俺が構える以上、正しい型になるはずも無く。

 ただ小刀を両手で構え、脇を締める。

 それは振るうのではなく、突くための構え。

 

「来てくれ、ダイキ君」

 

 男から無数の見えざる力が発せられ、身体が重くなる。

 大鎌はゆっくりと振り上げられ、その形が徐々にはっきりとする。

 

 ──タービンを蒸す。

 男は嬉しそうに笑うと大鎌を振るうため一歩踏み込む。

 

「フォーカス・ブースト」

 

 一言呟く。

 電子音が響き、身体に空気の壁が襲い掛かる。

 ソレに負けないように、小刀をしっかりと前に構え……。

 

「ゴフッ……。あぁ、ありがとう」

 

 衝突音、そして感謝の言葉。

 大鎌は空中で消え、男の体は書斎の壁に叩きつけられる。

 闇に染まる魔力が四散し、身体の節々を干からびさせた男性が、俺の目の前で胸を小刀で貫かれている。

 

「凛花、を……よろしく……」

 

 その一言を最後に男は動かなくなった。

 自らの手を見る。

 赤く濡れた装甲。しかしソレが歪んで見えない。

 何故か俺は泣いているらしい。

 見ず知らずの相手の死に、自らが手を下した事実に。

 心が悲鳴を上げていた。

 

 ──“ダイキさん。ありがとう。”

 

 少女の声が聞こえる。

 本当なら、自分より泣きたいはずの声が。

 俺は静かに頷いて、手を伸ばす。

 安らかに眠れるように、ゆっくりと男の眼を閉じた。

 




第十一話いかがだったでしょうか。
少しずつ主人公サイドの設定がわかってきたのではないでしょうか。
音速に耐えうる頑丈な体を持つが一般人でしか無い大輝に。
魔力に異常な親和性を持ち、経験を活かし戦う剣士レッド。
両者共に戦うには申し分ないですが、違和感があるのも確かです。
ぜひ、考えてみてくださいね。

では、次回をお楽しみに!
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