よろしくお願いします。
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膝が震える。
人と言う存在を超え、悪魔とも地龍とも言える存在を前に心がどうしようもなく悲鳴をあげていた。
「勝てると思うか?」
夢の中の俺が呟く。
ソレに答えるのは何処か聞き覚えのある電子音。
バイザーの点滅と共に響く声はいつに無く饒舌であり、まるで人間のようだった。
『ご謙遜を……マスターは神速の英雄。相手がいくら推定ランクSSを誇る存在であっても、理性なき獣な以上。恐るるに足りません』
「そうか……まぁ、お前ならそう言うよな。うん、知ってた」
バイザーの中の俺がどんな表情をしているのかはわからない。
しかし、確かな事は、諦めていない事。
そして、目の前の存在を見て照準を合わせた事。
「狙いは……アイツの武器だ! 外すなよ? 全弾発射!」
『Ready──―Bind anchor!!』
装甲から発せられた4つの錨は一斉に地龍の背に突き刺さる十字架を模した槍に絡みつく。
地龍は気づいているのか、いないのか。大きく吠えたかと思うと地面を砕きながら、こちらへと突進してくる。
「ぶつかる! カウンターブースト! 急げ!」
俺の叫びに呼応する様に、鎧が変形。
鎧からは蒸気が吹き出し、肩には砲身が2門灰色の光を充填し始めていた。
『Ready──―Counter Burst!!』
響く轟音、吹き飛ぶ身体。
強力な圧力と共に流れる視界では、濁った色の結晶片と共に、紅鬱金色の結晶が埋め込まれた十字槍が宙を舞っていた。
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──“ダイキさん! ”
凛花の声に意識が覚醒する。
視界には薄暗い階段。
下段では武器を構え飛び出していったレッドの姿。
先程と違うのは、不自然な姿勢のままその動きを止めている事。
──“なんだかわからないけど気をつけて! ”
凛花の声に無言で頷くと、静かに階段下へ視線を向け、歩みを進める。
何が起きたのかは分からないが、何かされたのは確かだ。
もはや、一般人とは言い切れない。
階段の奥からは相変わらず戦闘音が聞こえ、未だに馬岱は戦っているのだろう事が察せられた。
「あれ? 凄いねお兄さん」
階段下。レッドの対面で本をめくる女性、翔子。
彼女は自身の命が危険に晒されたにも関わらず、平然と少女の横を通り抜け、こちらへ近づいてくる。
先程の光景はなんだったのか。
今いったい何をしたのか。
まるで分からないが故に思わず言葉を返す。
「……いまの光景は?」
彼女は脈絡の無い俺の言葉に面白そうに微笑むと、言葉を返す。
「お兄さんの記憶ですよ? 覚えがありませんか?」
──“記憶? ダイキさんは何か見たの? ”
凛花の不思議そうな声が響く、どうやら彼女にはあの光景は見えていなかったらしい。
……俺の記憶?
先程鎧姿で対峙してたのは、いつか見た化け物だろう。
確かに、見た事はあるが、戦った覚えはない。
それに鎧もあんなにも饒舌に喋らないし……
そして何より、俺自身が夢の中の自分を自分だとは思えない。
「どんなものが見えたんです?」
翔子は興味津々といった様子で、何処からか万年筆を取り出す。
純粋に好奇心を向けてくる彼女に他意は感じず、敵かもしれないのに言葉を返す。
「ドラゴンの様な化け物だ」
──“それって……”
凛花が驚いた様に呟き、ソレに続く様に翔子がペンを走らせる。
そして数秒の後、ペン先をこちらに向けながら小首を傾げ、口にする。
「もしかして……ルードさん?」
彼女が口にした名前にドキリとする。
それは一般人では知り得ない名前だし、仮に見たことがあったとしてその名前までは知ってるはずもない。
悲しいことだが、やはり彼女は無関係ではないのだろう。
「なぜ、その名を?」
俺と同じ事を思ったらしい凛花が、警戒しながら視線を向ける。
「まぁ、本人に聞いたので」
本人に聞いた。
ソレはつまり、あの化け物に会話が通じると言う事だろうか?
それとも、狂う前のルードを知っていると言う事なのだろうか?
途端に彼女が計り知れなくなる。
「改めて聞かせて欲しい。君の目的は?」
答えてくれるだろうか?
少なくとも敵じゃなければそれでいい。
純粋な笑顔の彼女が、誰かを不幸にしようとしてるなど、思いたくは無い。
もし、敵だった場合、俺は戦えないだろう……まぁ元々戦力外もいいとこだが。
数秒の長い沈黙が過ぎる。
パタンと言う音が耳に響き、本を閉じた彼女が口を開く。
「んー、強いて言えば……『正義のため、ですとも』……。割り込まないで」
長い沈黙の後に届いた、彼女の返答に混ざる電子音声。
──“えっ? この声……? ”
何かに驚いた様子の凛花を余所に。
翔子の本がその腕からするりと抜け出すと、彼女の前に浮かび上がった。
『しかし、翔子様。あなたは時に回りくどすぎる。それでは誤解されてしまいます』
彼女は本の言葉に、軽く額に手を当て、ため息を一つする。
その動作は悪びれようとする少年のようで……
彼女に悪意がない事が言葉以上に感じられた。
安堵感から息を吐く俺の元に彼女の魔導書が、浮かびながら近づいてくる。
『そして、はじめまして神速の騎士よ。私はメモリアル。しがない魔道具でございます』
藍色を基調とした銀飾りの付いた魔導書が、空中で45度傾く。
お辞儀をしているつもりなのだろう。
思わず釣られて頭を下げる。
「あぁ、どうも。中村大輝だ」
──“凛花です”
何処か釈然としない様子の凛花が、俺のあいさつに続く。
……しかし、あまりに人間味のある本だ。
俺の鎧の様に機械的な返答では無く、しっかりとした意思を感じられる動き。
本来の魔道具とはこう言う物ばかりなのだろうか。
先程の夢を思い返し、そう思う。
『さて、翔子様。ご歓談の所申し訳ないのですが、蟲の群れがこの洋館に近づいているようです。撤退された方がよろしいかと』
俺の返答に満足したらしい魔導書が、彼女の元に戻り、そう提案する。
蟲と言うのは何かわからないが、敵であるのは間違いないだろう。
「手伝うか?」
──“えっ⁉︎ダイキさん? ”
自然とそんな事を口にする。
まだ、馬岱とも合流できていないが、彼女は正義のためと言っていた。
僅かな時間でも共に行き、その目的の一端でも知っておきたい。
「い『いえ、お気になさらず、貴方様はそちらの少女を守るのが最善です』……まぁ、そう言う事なので」
会話に割り込む電子音。
確かに、レッドが正気に戻らない以上。ここから離れるわけにはいかない、それでも、彼女が何をするつもりなのか、知っておきたいのだが……
そんな事を長々と考えていると翔子がこちらへ、笑いかける。
「じゃ、帰るね」
そう言葉にした彼女は何故か奥の扉に近づいて行く。
俺の記憶が確かなら、そこは馬岱が何かと戦っている場所のはずだ。
帰るつもりじゃなかったのか? 困惑しながらも、急いで俺は彼女を止めようとする。
「まっ」
「『Activate “Porta metastasis”』」
彼女が扉へ手をかけた瞬間、眩い閃光。
彼女は光の中へと消えていった。
第十三話いかがだったでしょうか。
今話は大輝のみの視点となります。
次話では、レッド視点になりますが、
今回同様。あまり進展は無いかもしれません。
ですが、貴重なレッドの過去編になります。
どうぞ、お楽しみに!