英雄は勘違いと共に   作:風に逆らう洗濯物

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大変長らくお待たせしました。
第十四話になります。
実は、現在の形式では無く、一話完結で書けないかと。
悩みつつノートに駄作を量産しておりました。
そんな折、感想を残して下さった方がいた事に気づき…
忘れたままではいけないと筆をとっております。
リメイクなど後。今は一章完結まで走れるように全力で参ります。



第十四話 かつて憧れた者

 

 ──────────────────────────

 

「レッド? どうした? ボーっとして」

 

 満天の星空の下。古い民家の屋根の上。

 大きく赤く輝く月を見上げる私の隣に、金髪でミスリル鎧を着た、螺旋状の装飾の入った大剣を背負った男が腰掛ける。

 

「勇者……」

 

 彼は『勇者』かつて魔王を倒し、邪神をも倒そうと旅立った英雄だ。

 そして、私を救い。共に戦う仲間でもある。

 

「……ほっといていいの? 聖女様とか」

 

『聖女様』は勇者の婚約者だ。

 優れた治癒術師であり、神の祝福を宿す事ができる。

 そして、仲間の危機には自らが前に出て庇ってしまう、完全なお人好しでもある。

 

「お堅い魔導師さんが、「初めての決戦に緊張してるあのこのとこに行って、話でも聞いてやれ!」だってさ」

 

『魔導師』は勇者の親友だ。

 魔王討伐の際には、魔力視を用い少ない軍勢で都市を守り切った名軍師でもある。

 ここに故人である『剣聖』を入れると、魔王を討伐した生きる伝説のチーム『ディア・ガーディアン』となる。

 

「あはは、それ言っちゃったら台無しでしょ!」

 

 気の回らないまっすぐな勇者の言葉に、思わず笑みがこぼれる。

 

「えー? そうなのかー?」

 

 勇者は納得いかなそうに頭を掻く。

 そう、この人はどうしようも無く真っ直ぐで、だから人助けなんかを生き方にしているんだ。

 そんな彼らしさを思い出し、彼ならば、と。言葉を紡ぐ。

 

「ありがと、何か元気出たよ。……それじゃ少し、聞いてもらっていい?」

 

「おうよ!」

 

 勇者のニカッとした笑い方に心地よいものを感じながら、私は口を開く。

 

「私ってさ、記憶が無いんだよね……」

 

「あぁ、知ってる」

 

 勇者の相槌に自然と口が開く。

 

「気づいた時には檻の中でさ、たまたま通りかかったキミに救われた」

 

 古び、人の姿がない神殿、その跡地にいつからか存在した私は、何をするでも無く、あの檻の中で空を見上げていた。

 そこにズカズカと入り込んで来たのが勇者だった。

 

「びっくりしたぜ? あんな遺跡の真ん中に、ぽつんと鉄檻があってさ。もーどんな猛獣が入ってるのかとヒヤヒヤした」

 

 勇者は檻を見つけるなり全力で駆け寄るなり、「大丈夫か!」なんて声をかけて、檻を斬り飛ばしたんだ。

 そんな心配はしていたとしても一瞬だろう。

 

「あはは、もし猛獣なら開けなかった?」

 

「いや? 猛獣なら開けてから、一刀両断よ」

 

 勇者が自慢げに大剣の柄を弾きながら笑う。

 恐らく嘘ではなく、彼なら被害が出る前に一人でも戦ったのだろう。

 

「キミらしいね。……それからしばらくは迷惑もかけた、右も左も分からず。旅の途中では私のせいで町に入れない事もあった」

 

 あれは旧魔王領、古の森に邪神の文献を探しに行った時だ。

 あの森には隠れ里があり、そこの住人とは少しトラブルが起きた。

 

「ありゃ、あの街の奴らが悪いだろ。髪と目の色が昔の魔王に似てるからって。そんくらいがなんだってんだよ!」

 

 彼らの恐れる魔王は白銀の髪に、真紅の瞳をしたヴァンパイア。

 限りなく人型に近く、なんらかの伝承があったとすれば。

 外見の近い人間など、里に入れたくも無いだろう。

 

「仕方ないよ、それだけの恨みを買う何かがあったのさ」

 

「そんな事お前には関係ないだろ」

 

 思い出し、少し腹を立てているのか、勇者が投げやりに言葉を返す。

 結局、彼らは文献を見ることを許されたのに、私のために怒ってくれている。

 本当に優しい、真っ直ぐな人だ。

 

「あはは、そうだね。……そんな風に言ってくれるキミ達だから、私もここまで頑張って来れた」

 

 私が感謝を込めて口にすると、勇者は感慨深けに頷いてくれる。

 

「あぁ、2年ちょっとで、俺たちに追いつくんだから大した奴だよ。お前は」

 

「ありがとう。……ねぇ、勇者。私、『英雄』に近づけたかな?」

 

『英雄』それは憧れだった、勇者の様に誰かを守り、聖女様の様に人を救う。

 古き英雄達の様に、未来を信じ国を切り拓いた者も居れば、滅びゆく国を生かすため悪魔を切り続けた者もいる。

 そのどれもが、強く、真っ直ぐで。それでいて誰かを思う優しさがあった。

 

「もちろんだ、そして、次が最後の一歩。勝つぞ、レッド!」

 

「うん!」

 

 そしてそんな彼らを追いかけてきた私だからこそ、世界は美しいと想えるし、誰かを守る事ができる。

 

 そう思っていた……。

 

 ────────────────────────

 

 夢の場面が切り替わる。

 

 空には暗雲が渦巻き、絶え間なく雨が吹きつける。

 大地は荒れ、巨大な大穴に足を取られそうになる。

 宙には曖昧な人型が認識出来ない言葉を喚きながら、次々とその体を結晶に喰われ、聖なる光に焼かれ、消滅していく。

 そんなものには目もくれず、私は3人の姿を探す。

 

 そして見つける、血に染まり深紅に色づく花畑の中心地。

 あの激闘の地とは離れ、唯一残った安息の地。

 そんな戦いとは無縁な景色の中で、3人が力無く倒れ伏していた。

 

「……たおし……ですね」

 

 血溜まりのなか、空を見上げる聖女様が言う。

 本来なら死者蘇生すらも可能とする、奇跡の体現者は、ただ静かに空を見上げていた。

 

「……。……」

 

 夢の中の私が何かを言う。

 嗚咽の様な小さな言葉が、聞こえているのかいないのか。

 穏やかに微笑んだ聖女様は口を開く。

 

「よい……です。貴女は……、……生きて」

 

 涙を流し、拳を握りしめる私の前で。

 血溜まりに浮かぶ美しい花が、一つ散った。

 

 ────────────────────────

 

 ○

 

 薄暗い階段で意識が覚醒する。

 正面には木造の扉。

 隣には鎧姿の大輝が静かに並び立っていた。

 

「! ……目覚めたか?」

 

「うん……。何、してたんだっけ」

 

 夢を見た気がする。

 内容はまるで思い出せないが、こんな所で目覚めたんだ。何らかの幻術でも受けたのかもしれない。

 

「……馬岱を探していた」

 

「馬岱さんを……」

 

 そうだった、この屋敷に住む死霊術師を倒して……、地下で馬岱さんが戦っているのを感知して……

 

「あの女性は?」

 

「敵ではなかった、だから逃した」

 

 敵では無かった……まぁ、彼の見立てだ。間違いないだろう。

 となれば、防衛の為の幻術か。

 誰も傷付けない、良い判断をするものだ。

 実際、あの時点のボクは切り捨てるつもりだったのだし。

 

「そっか……じゃあ、後は馬岱さんだね」

 

 呟き、扉越しに魔力視を行う。

 見えるのは見慣れた黄金の魔力、どうやら彼も敵を倒し切ったらしい。

 安堵の息を吐いたボクは大輝に目配せをして、目の前の扉を開いた。

 




第十四話いかがだったでしょうか。
本編とは関わりの薄いレッドの過去回ではありますが、
レッドの特異性がなんとなくわかる回になっております。
おかげで筆者自身も文字と一緒に世界観が戻ってきて…
問題なく次話が紡げそうです。
それでは、また次回をお楽しみに!
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