英雄は勘違いと共に   作:風に逆らう洗濯物

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お待たせしました。第十六話になります。
よろしくお願いします。


第十六話 戦いと選択

 

 ●

 

 消えゆく洋館を後に、詳しい話を聞きに大図書館までやってきた俺たち。

 そこで語られたのは衝撃の事実だった! 

 

「この町全体が巨大な結界の中にあるだって!?」

 

 信じられないといった様子のレッドに、心の中で同意する。

 確かにこの街は霧に囲まれていたり、おかしな生物がいたりと、普通なら考えられない様な事が起こる街だが、俺を含め生活する人々が存在したはずだ。

 そんな話、にわかには信じられない。

 

「ええ、そうなのですよ」

 

 それに対して慌てた様子も無く、傍らの本を開くのは南郷さん、この図書館の管理人である。

 

「この町は、遠いどこかで行われた儀式戦争。ソレを模倣する為に結界の中に作られた。そう記録に残っています」

 

 遠いどこかで行われた儀式戦争。それどんなアニメ? と言うか、だとしたらそんな争いの記憶がないのは何故なのか。

 まさか、ファンタジーにありがちな認識阻害結界でもあるのか?

 あまりに荒唐無稽な話に首を傾げる俺とは対照的にレッドは口を開く。

 

「それはつまり……」

 

 レッドの言葉を受け、南郷さんは頷くと片隅に飾ってあった植物を千切り、ライターで炙ってみせる。

 新鮮なはずの植物はすぐに燃えつき、現実との確かなズレを感じさせた。

 

「この街は魔力で構成された異界である。と言う事です。そしてそれは我々とて例外ではありません」

 

「何……?」

 

 俺の方を見て我々の部分を強調する南郷さんに思わず聞き返す。

 てっきり人間に対しては認識阻害程度だと思っていたのだが。

 そうではなく、魔力で作られたとなると更に信用できなくなる。

 実際、俺にはフリーターになるまでの記憶もあり、原付で遠出した記憶もあるのだ。

 コレが作り物だとしたら、なんて哲学を考えたくも無い。

 

 しかしその一方で、レッドと共に歩き回ったこの街が奇妙なほど静かだったことも思い出す。

 もし、街の人間がその儀式の為作り出された者なら街の惨状を見ても何も思わないのかも知れない。

 

「大輝さん、貴方、なぜこの街に居るのか。疑問に思った事はありませんか?」

 

「それは……」

 

 彼の問いかけに言葉が詰まる。

 何故この街にいるのか……確かにその通りだ、俺はこの街の出身では無い。

 アルバイトで過ごすなら、もっといい場所もあったはず。

 間違ってもゾンビパニックやら、儀式戦争やらが起きるらしい場所に住む必要はない。それでも街から出ようともしなかったのならおかしい話だ。

 

「無い、でしょう? そもそも、自分が何者であったかすら曖昧な筈だ」

 

「……」

 

 続けざまにつげられた彼の言葉に1週間前の事を思い出す。

 何となくぼんやりして、夜の公園などへ訪れていた頃の事だ。確かにあの頃は曖昧で、バイト終わりにカップ麺を食べるだけの日々を過ごしていた。まぁ、今は違うが。

 

「大輝……?」

 

 考え込む俺がよほど危うく見えたのか、心配そうに名前を呼ぶレッド。

 だが、安心してほしい。若干胡散臭く感じてるとこだから。

 

「我々、この街に居るものは須くこの舞台の役者。自分の事など設定にすぎない。しかしそんな我々に影響を与えられる者がいます。それが『英雄』であるのです!」

 

 なるほど、意識がハッキリしアルバイト以外の事を始めたのはレッドと会ってから。

 なら確かにレッドこそが、俺と言うよくいるモブに意味を持たせた『英雄』なのだろう。

 

「そう……だったのか……」

 

「えぇ、ですが残念なことに、この舞台も終わりを迎える事になります。他ならぬ『英雄』の手によって!」

 

 大袈裟に頷く俺に対して、派手な動きを合わせて解説してくれる南郷さん。

 うん、厨二の妄想かなぁ。

 とりあえずここで言う英雄とは、ルードの事だろう。

 儀式を終わらせようとしていると馬岱が言っていた。

 

「もし、そうなったら大輝達は……」

 

「えぇ、消滅する事になります」

 

 消滅……、確かに結界によって作られているなら、役割が終わればそうなるか……

 少し安直な気もするが、実際そうなった場合どんな感じなんだろうか。

 痛みなく消えられることを願うばかりである。

 

「ですがご安心ください。英雄である貴女は消滅しません」

 

「それは、なんで?」

 

 楽観視する俺とは逆に深刻そうな顔で聞き返すレッド。

 ファンタジーが身近にある彼女にとっては、あり得る話なのだろうか。

 

「英雄は身体と共に召喚された存在だからですよ。肉体のある貴女は消滅する理由がありません」

 

「……」

 

 レッドが複雑な表情で口をつむぐ。

 確かに彼女は『英雄』だ、強靭な肉体を持つだけでなく。

 人を救って来た善人なのは間違いない。

 自分だけ生き残ると言われても良い気分にはなれないのだろう。

 しかしその一方でまだ年若い少女でもある。

 

「いかがでしょう。この街、救ってくださいますか?」

 

 正直、この話。信じても信じなくても俺にとっては変わらない。

 片やドラゴン、片や消滅だ。むしろ危険が目の前にない分、消滅の方が気楽ですらある。

 しかし、彼女は違う、片や困難に立ち向かうか。片や生き延びて『英雄』のあり方を捨てるかだ。

 思い悩む少女をチラリと見て、軽く頷くと俺は口を開いた。

 

「悪い、少し時間をくれ」

 

「わかりました。お早いご決断をお願いしますね」

 

 悩むレッドを説得するべく、俺は話を切り上げた。

 

 ○

 

 大図書館のバルコニーで街を見おろすボクら。

 大輝は何かを察したのか、時間を取ってくれたけど、ボクはどうするべきなんだろうか。

 

「レッド」

 

「大輝……」

 

「……いいんじゃないか?」

 

 突然の言葉に困惑する。

 吹きかける風に背筋を伸ばされ、ボクは白銀に輝く鎧姿の彼を、まっすぐに見つめる。

 

「無理に危険に向かう必要は無い」

 

「でも、戦わないと大輝は……この街は……」

 

 確かに危険に向かわずにすむならそれに越した事はない。しかし、それで多くの人々が困るなら、向かっていかないといけない。

 

「消えてしまうだろうな、あの洋館の様に。それを知っていれば止めたくもなるだろう」

 

 であれば、僕の求める『英雄』である君も、止めに行くのが正解とわかるはず。

 

「うん、当然大輝も……」

 

「俺なら構わない」

 

 彼の言葉に頭が真っ白になる。

 

「え?」

 

「構わない、と言ったんだ」

 

 構わない。気にしない…?多数の人々が消えるとしても?

 彼の言葉を理解が拒む、仮に作り出された人であったとしても、『英雄』らしい彼が何故。そんな事を言うのか。

 

「そんなわけ……」

 

「あるさ。……自慢じゃ無いが、俺の頭の中にある記憶では、俺はつまらない人間だった」

 

 独白。それは彼の人生だった。

 

「常に1人で日銭を稼ぎ、暇を見つけてはゲームと言う幻想のなかで戦い続ける」

 

 孤独で、ただ生きるために戦った男の姿。

 

「それは……」

 

「その程度の男だ……だからこそ、消えても構わない」

 

 覚悟を決めた英雄の姿だ。

 

「大輝……」

 

 前提が間違っていた。最初から彼は自分だけが消える事を想定していた。

 

「だから、いまは大人しく休み、全て終わった後でゆっくり探すといい」

 

 どこまでも英雄らしく、まっすぐに。ボクを元の場所に送り返すという目的のため。

 戦いは全て、自分がカタをつける為に……

 

 ●

 

 レッドの説得も終わり、あとはゆったりと終焉を楽しもうと一周回って厨二感のある思考を楽しんでいると、図ったようなタイミングで南郷さんが現れる。

 

「答えは出ましたか?」

 

「うん」

 

 迷いの消えた様子の彼女を見てコレは大丈夫だと一人頷く。

 南郷さんには悪いが、馬岱が居ない時点でコチラに勝ち目はない、そもそもあの男が諦めるとなれば何か理由があったに違いない。

 明日はゆっくりとこの町の調査でもして…

 

「ボク達は……ルードを止めるよ」

 

「おぉ!」

 

 んん? あれ? なんて? 

 感嘆の声を流す南郷さんと対照的に困惑する俺。思わず彼女に問いかけてしまう。

 

「レッド……なぜ?」

 

「ボクは『英雄』だから。知ってる? 大輝。英雄は、救う為なら勝算を考えないものなんだよ」

 

『英雄』だから……。

 その言葉に思い出すのは彼女と馬岱との短い旅路。

 あぁ、そうか。『英雄』ってやつは。

 皆、戦闘狂だったなぁ……




第十六話いかがだったでしょうか。
この町自体が某聖杯戦争の模倣品。
これは本作で重要な要素の一つになります。
と、言うのも、この物語。
明らかな偉人は基本、出てきていませんよね。
居たとして、馬岱を名乗るあの人くらい。
そんな状態で完成する願望機とは?
それでは、次回もお楽しみに!
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