英雄は勘違いと共に   作:風に逆らう洗濯物

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お待たせしました。
第十七話になります。
よろしくお願いします。


第十七話 戦いの地へ

 

 十分な休息の後、鎧の自動修復が終わっている事を確認した俺たちは、太陽の光に目を擦りながら緩やかな坂道を登っていた。

 

「まさか、ここに願望器があるとは……」

 

 紫陽花の花が咲く道を進み、遠目にある大きなイチョウの木へ視線を向ける。

 

 ここは桐生寺、レッドと共に最初に訪れた。この街有数のパワースポットだ。

 南郷さんの話によれば、この寺のさらに奥、裏山の中に願望器はあるらしい。

 

「うん、だからこそ馬岱さんもここに居たんだろうね」

 

 俺の呟きに続くレッド。

 たしかに、初めて会った時、馬岱はこの寺の近くにいた。

 馬岱はその時からここに願望機がある事を知っていたのだろうか。

 

「……霧が出てきたな」

 

 そんな事を考えていると、あたり一面を覆う薄霧。

 考えるまでも無いだろう、この寺で奴が待っているのだ。

 俺は鎧を見に纏い、レッドと視線を交わす。

 

「行こう」「あぁ」

 

 俺たちは頷くと、同時に鳥居を潜った。

 

『Activate “Porta metastasis”』

 

 ○

 

 寺へ足を踏み入れて最初に感じたのは、むせ返るほどの濃い魔力。

 そして途方もない高揚感だった。

 理性が危険を訴え、過剰に高まった聴力が、既に隣には彼がいない事を教えてくれる。

 

 思わず口角が上がる。

 この気持ちが霧の持つ作用か、それとも別の何かか。そんな事はどうでもいい。ただ抑えきれない衝動に身を任せ、地面を踏み直す。

 

 ボクを中心に広がる地割れ、石畳をも砕くそれに全能感を感じられる。

 

「アハハハ! 1体1とは、気が効くね!」

 

 狂ったようなボクの呼びかけに応え、霧の中から出て来たのはボロボロの鉄鎧。

 肩に紅に染まった十字のエンブレムをつけ、十字槍を掲げた青年が姿を表す。

 

「……人か、……悪魔か。問う必要は無さそうだな?」

 

 紅鬱金色の結晶を埋め込んだ十字槍の柄で地面を叩いた彼は、脈動する様に輝くそれを見つめ、視線と共にその穂先を向ける。

 

 その姿にボクはますます笑みを深める、鉄鎧に赤十字、そして、失われたはずの十字槍。間違いない。

 

「ボクは人なんだけど……キミにはわからないよねぇ、護国の英雄さん?」

 

 ルードと名乗る彼は、ボクの世界の英雄。

 滅びゆく祖国を、弱き人を守るため、悪魔を狩り続けた者。

 英雄ルークに違いない。

 

「……戯言を、人が地を砕けるものか」

 

 人を守った『英雄』の言葉だ。

 途方もなく憧憬の念が湧き上がりニヤニヤとした表情が止まらなくなる。

 

「ふーん、意外とできると思うけどねぇ」

 

 闘いに向かう高揚感より、『英雄』と話したい欲求が強くなる。

 当然だ。彼もまた、ボクの憧れなのだから。

 

「いいや、その様な者は存在しない。有るとすれば、魔に魂を売った者のみよ」

 

 強い意志を感じる目だ。

 自分の戦う道は間違っていない、そう信じる者の輝きだ。

 その道が如何に歪んでいても、曲がらない。そんな魂の輝きに心が高揚する。

 

「なら、竜に堕ちたらしいキミは魔。そのものと言う訳だね」

 

 装甲が完全に砕け、露わになっている右腕を見つめる。

 そこには彼の英雄譚には似合わない、鱗に覆われた腕。

 鈍く光を反射する黄土色のソレは人の腕と言うには余りに太く、鋭利な爪をも携えていた。

 

「否定はしない。だが、俺が俺としてここに有る以上、魔を狩らぬ理由も無い」

 

 静かに告げると彼から向けられる殺気、敵を怯ませる意味も有る魔力の重圧がコチラへと真っ直ぐに叩き付けられる。

 ……もう話す気は無いか。

 

「そっか……なら。行くよ!」

 

「英雄ルード、民草が為。参る!」

 

 ●

 

 みなさんいかがお過ごしでしょうか。大輝です。鳥居を潜ったら何故か洞窟に居ましたが俺は元気です。

 

 ──"ダイキさん、大丈夫? "

 

 凛花ちゃんの声に現実逃避をやめ、ひとつ頷いてから辺りを見渡す。

 

 目の前に広がるは巨大な横穴。大小様々な石が転がり、茶色く湿った土の上に蛍光色の苔が生い茂っている。

 背後には中型車ほどの大岩、その隙間からは裏山で見た杉の森林。どうやらここは裏山の中らしい。

 

「裏山。洞窟か……」

 

 ……"ここってもしかして"

 

 裏山にあると言う願望器。それを隠してある洞窟なのだろう。

 そしてここに自分を送ったのは恐らく……

 脳裏に一人の女性を思い浮かべ、辺りに呼びかける。

 

「いるんだろう? 出てきてくれ」

 

「……ほう? この私に気づくとは、天晴。大した者よ」

 

 ……。誰? 

 

 岩場の影から静かに姿を表したのは、藍色の下地にぼんやりとした桜の描かれた着物姿の女性。

 長い黒髪は腰ほどもあり、ゆったりとした足取りで歩く彼女は次の瞬間には手の届く距離に立っていた。

 

 ──“ダイキさんどうやって気づいたの!? ”

 

 驚き騒がしくなる少女をよそに、自分を落ち着かせる意味も込め右手を前に口を開く。

 

「……中村大輝だ」

 

 挨拶は大事、古事記にもそう書いてある。と言うのは冗談で、知らん場所にいきなり飛ばされて、瞬間移動もできる強そうな姉ちゃんが出てきたらそりゃ様子見一択である。

 

「ステラだ。見たところ英雄の様だが、なにゆえここにきた」

 

 英雄、やはりこの戦いの関係者ではあるらしい。

 とはいえ、何故ここにいるのかは俺も知りたいところ。

 失礼かもしれないが質問で返させてもらおう。

 

 ──“なんでだろう? ”

 

「わからない、ここは?」

 

 俺達が心底困惑した様子で返すと彼女は眉を顰めると。少し離れ、腰に差した刀の鍔をトントンと指で弾きながら答える。

 

「冬木の大空洞、君たちが言う願望器の存在する場所である」

 

 ──“願望機! ”

 

 願望器、ルードが壊そうとしている儀式の起点である。

 やはり、とは思うがだからといって俺はここで何をするべきなんだろうか。

 

 ──“見てみようよダイキさん! ”

 

 脳内に響く凛花の声。なるほど、確かに見るだけならタダだ。

 ここは頭を空っぽにして観光に徹するも悪くない。

 

「……見せてもらってもいいか?」

 

 ──“わくわく”

 

 俺の言葉にさらに眉を顰め、ついに刀に手を掛ける女性。

 彼女は引き続き指でリズムを刻みつつ、俺の顔を見て言葉を返す。

 

「いいわけなかろう。貴様、正気か?」

 

 ──“あ、そうだよね……”

 

 その様子に選択を間違えたことを薄々感じる俺。脳内でしょんぼりする凛花。なんとか軌道修正を図ろうと口を開く。

 

「……、冗談だ」

 

 修正しようと言う気のかけらも感じない言葉が口から出た。もうダメかもしれん。

 

「そうか、そうか。なら構わぬ。……ぶぶ漬けでもくれてやろうか」

 

 ……なぜか許してくれた? 

 振り返り洞窟の奥に向かって歩き出す女性。

 ぶぶ漬けが何かは知らないが、せっかくなのでご相伴にあずかろうと一歩踏み出す俺。

 

 それに気づいたのかゆっくりと振り返った彼女。

 

 ──“ダイキさん……ぶぶ漬けって言うのは。”

 

「貴様は! 遠慮と言う言葉を知らんのか!」

 

 怒りの言葉と共に懐に現れた彼女は、鎧を物ともせず、綺麗なアッパーカットを決めたのだった。

 

 

 

 




第十七話いかがでしたか?
舞台は再び桐生寺へ、ここから一気に完結まで!
後5話ほど、どうぞお付き合いくださいませ。
それでは次回をお楽しみに
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