英雄は勘違いと共に   作:風に逆らう洗濯物

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お待たせしました、第十八話になります。
よろしくお願いします。


第十八話 戦いと

 

○

 

日の光も遮る濃霧の中。魔力の残滓で霧を照らしながら、十数合と切り結び、弾かれる様に距離を取る。

 

相手は槍、馬岱さんとの稽古のお陰で間合いに入るのは慣れている相手だ。

しかしながらその速さも、力も比べ物にならない。

『英雄』故に、油断も隙も見受けられず、ただ武器の相性によって大きな差が生まれていた。

 

「はぁあ!」

 

ボクの気合いの入った一撃も、意図も容易く弾かれる。

 

彼の武器は十字槍。

その名の通り刃が十字となっている特殊な槍だ。

その特異な形状は元来の突き、払いだけでなく斬る事も可能とし…それ以上に厄介な事が一つ。

 

「参ったなぁ、その槍。どうやって受け流せばいいの?」

 

そう、十字と言う形状故に、刃を滑らせて受け流す事ができないのだ。

下手に受け流せば、そのまま刃が肩口を抉るか、その刃に刀が引っかかり、押し込まれることになるだろう。

現状は魔力を身体に回しなんとか受けきっているが…間違いなく長くは持たない。

 

「…受け切った上で言うなデーモン。人であれば既に死んでいる。」

 

「いや、人なんだけど。」

 

軽口を叩きながらも、次の手を考える。

正面からの斬り合いは不利、ならば奇襲する他ない。

幸いにもここは一度探索した桐生寺。

ボクなら上手く利用する事ができるだろう。

素早く判断したボクは、本殿へ向かう石畳を強く踏み締めた。

 

●

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

巨大な結晶が鎮座する共同墓地。

夢の中の俺はややふらつきながらもそこに立っていた。

見に纏う鎧はボロボロで、視界にノイズすら走っている。そんな有様だ。

 

「ライダー!!」

 

焦った誰かの声が聞こえる。

次に激痛。

ゆっくりと下を向いた俺は、達観したように呟く

 

「っ…そりゃ、そうだよな…」

 

胸に突き刺さる黒曜石を引き抜き、投げ捨てる。

鎧は消え、出血でふらついた俺は。

遠くから打ち込まれる石槍にその体を縫い付けられる。

 

「ははは!やりましたよ王!我々は勝った!」

 

愉快そうな誰かの声が聞こえる。

聞き覚えのある男の声だ。

 

仰向けで倒れる俺の視界に、蛍の様な淡い光が映り込む。

徐々に狭まる視界に誰かの悲鳴。

何もできない自分に虫唾が走り、視線の先、空から黄金の球体が降ってくるのが視認できる。

 

「まだ…死ねない。」

 

『…yes。……死…。…EXAM起動』

 

腕が、足が光へ代わり、空へ立ち昇っていく。

残ったのはその右手。灰色のリストバンドは、煙を上げ、その右腕から順に、装甲に覆われる。

 

「…グラ、ビティ…。……スト」

 

『―――re…。y. 〝Gravity Boost〟』

 

背中のタービンが回る音、何かが弾け飛ぶ振動。

見える空には巨大な魔法陣が浮かび、黄金の球体を削り吸収しながら、少しずつ輝きを増していく。

 

その輝きは辺りを照らし、そして大きく、輝いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

●

 

ーー“ダイキさん起きて!”

 

凛花ちゃんの声で目が覚める。

相変わらずよくわからない夢だ。俺ではない誰かの記憶。いったい何を伝えたいのか。

変な夢のせいか酷い痛みを感じる体に気を使い、ゆっくりと体を起こす。

目に入るのは薄ぼんやりとひかる苔の壁。

どうやら、まだあの洞窟の中にいるらしい。

 

「あの女は…?」

 

見渡せばそこによく目立つ着物姿はなく、ただの薄暗い洞窟が続いていた。

 

ーー“え?うーん。アッパーカット決めたあと、しばらくはこの辺りにいたんだけど…”

 

「…気づいたらいなくなってた。か」

 

いきなり人を殴り飛ばしておいてそのまま立ち去るとは…

とは言え、それだけで済ませてくれたとも取れる。

こんな場所にいるくらいだ。彼女が願望機の守護者と言う可能性は高く、本来なら不法侵入した時点で切り捨てられてもおかしくはない。

 

「どうするか…」

 

ーー“うーん…”

 

悩む幼女とフリーター。完全に知力不足である。

わかることは、何故か俺が切られなかったと言うこと。

そして、何故か彼女は、俺を『英雄』と呼んだことだ。

 

……そろそろ、コッチの記憶にも目を向ける時がきたのだろうか。

 

「…行こう。」

 

ーー“えっ?まさか、まだ願望機を?”

 

驚き、脳内で問いかける幼女。

何か勘違いしてるようだが、そうではない。

 

「話したい事ができた。」

 

静かに立ち上がった俺は、ぼんやりとした光を頼りに、洞窟の先へと進んでいった。

 

○

 

ただ広い本殿の一角。柱の陰に身を隠しながら息を整える。

 

「くっ…ふぅ…」

 

コンディションは最悪…辺りの魔力濃度が高すぎて、常に消費しておかないと内側から弾け飛びそうな気さえしてくる。

無意識に駆け出そうとする脚を押さえつけ、自らの失策と敵の戦術に当たりをつける。

 

……霧による魔力酔いだけじゃない。これは、鼓舞魔法!?

 

全体鼓舞魔法、通称『ウォークライ』

経験を積んだ人間の戦士なら誰もが身につけられる一般的な魔法だ。

本来なら、声に魔力を乗せ、恐れを打ち消す。ただそれだけの魔法。弱い人間であればこそよく知る、弱者の魔法だ。

 

「こんなの…ッ…あり?」

 

だからこそ。

強き者にとっては、意味がなく。

永続的に使うものでもない。と思っていた。

 

「…これが、知恵だ。デーモン。」

 

しかし、違った。

民草の代表として、騎士まで昇り詰めた『英雄』にとっては。

魔法を知る、強靭な悪魔を狩り続けた『英雄』にとっては。

最も重要な戦術魔法であったに違いない。

 

「くぅ…ァァ!」

 

熱く燃える鼓動が、敵を狩れと告げている。

奇襲など捨て、真っ直ぐに立ち向かえと告げている。

その全てを押さえつけようとするボクの耳に、足音が届く。

視界の先、本殿の入り口。ゆっくりと人影が向かってくる。

 

「さぁ、全力で来るがいい」「ッァァアアア!」

 

その言葉を合図に魔力は二刀へと流れ込み。音を置き去りにしたボクは、限界まで高めた二刀を振り下ろした。

 




第十八話いかがでしたか。
ここからしばらくは完結まで視点がかなり変化していきます。
無事完結してリメイクする際にはこの辺りも整理していきたいですね。
それでは次回もお楽しみに
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