よろしくお願いします。
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衝撃と共に霧が晴れる。
その中心で対峙するのは二人の英雄。
槍と剣。二つの武器がぶつかり合い、その衝撃波で辺りの霧が吹き飛ばされていた。
「む……」
男が眉間に皺を寄せ、鍔迫り合いながら異変に気づく。
……霧が出ない。
常に彼を支え、彼に祖国を思い出させるあの霧が。
「貴様……何をした……?」
静かな怒りを感じさせる問いかけ。
しかし、彼女はただ無言でその刃を押し込んでいく。
境内での弾きあいとは比べ物にならない力。
如何に魔が有利な濃霧の中とは言え、これほどまでに力が変化するとは思えない。
これではむしろ、自らの力が弱まっているような……
「まさか!」
咄嗟に十字槍を見る、十字の中心に埋め込まれた巨大な魔石。
魔力に反応し、如何なる魔も貫き共に戦ってきたソレが、その輝きを徐々に失っていた。
「クク。アハハ! ……ルード、その名は良く聞いたよ!」
敵が、語り出す。
決して油断なく、しかしどこまでも楽しそうな声で。
瞳は赤に染まり、徐々に髪から色が抜けていく。
その手に持つ二刀は十字を押さえつける様に並び、紅く染まった刀身が槍と接する面から溶け、固まっていた。
「持たざる者として生まれ、敵を倒すほど強くなる『英雄』。その物語には憧れた!」
「ぐぅ……」
徐々に力を失う自らとは対照的に、強く。乱雑に力押しをしてくる敵。
魔力強化が奪われているのか、それとも別の理由があるのか計りかねる己とは反対に。
ギラギラとした灼眼が真っ直ぐに己を……そして赤十字を睨みつける。
「でも、なんでお前は強くなれた?」
「な、に……?」
イヤに耳に残る言葉に思わず聞き返す。
己は知っていた。
自らが魔術を扱えない事を。
それを補う為、魔石を通して魔術を使っている事を。
「伸び代があった? 物語ゆえ誇張された? いいや、違う」
魔術の適正とは、そのままに才能の縮図だ。
人は生まれながらにしてその器が決まり。そして、才あるものはすべからく、なんらかの魔術の適正を持つ。
しかし己は、その事実を否定するように、あらゆる魔術に適正を持たなかった。
その事に不満は無い、現にこの槍一本で戦い続けていたからだ。
「何が……言いたい?」
これは意地だと、もはや消えかけの魔力補助をこの身に宿る力のみで補い、敵の剣を押し返す。
もはや剣は半分が同化し、槍と結晶を侵食するかの様にまとわりついていた。
「共に仇を打ち、お前を悪魔狩りへ変えた名もなき十字槍」
敵の剣は二本が纏まるように、徐々に近づき……その中間、十字槍の結晶を巻き込んでいく。
何が狙いかはわからない、しかしこのまま押し切られる訳にはいかないと、薙ぎ払う様に無理矢理力をいれ……
ついに紅が、魔石に触れる。
「この槍こそが、魔を喰らい力となす、生きた魔槍だったのさ!」
鋭い閃光と、爆発。
ぶつかり合いの衝撃波とは比べ物にならない力の波が身体を打ち、無理に振るったままの槍と共に吹き飛ばされる。
途端、相手から放たれる濃霧。
あまりに濃すぎる魔力に、空中で結晶が生まれては、ギラギラと光り、地に落ちる。
己の手には十字槍、しかし、中心には菱形の結晶が弱々しく光るのみ、その頼りない姿にようやく気づく。
「お前が。成長していた……のか」
「アハハハ! その通り! そしてその力は……今! 我が元に!」
荒れ狂う魔力が、そして結晶が。俺を、そして、敵の身体すらも傷つける。
龍である俺の頬にすら血の線が走り、敵のポーチが千切れ弾き飛ばされる。
そんな状態でありながら、彼女は一つとなった紅の大剣をこちらへ向ける。
「さア! 狩りノ時間だ!!」
●
薄暗い洞窟の中を、しっかりとした足取りで進む。
忘れていたがこの鎧、超テクノロジーで作られた、ファンタジーアイテムである。
当然、暗視機能も搭載されている。
──“どこ行ったのかなー”
「本当にな……」
少女の呟きに適当な相槌を打ちながら進む事数十分。先程から一向に変わらない景色に嫌気がさしながらただ足を進めていた。
洞窟の中には横穴すらなく、徐々に下がる下り坂だ。
当然、新たな発見も無く。できることは時折見かける光苔を記念にむしり取る程度である。
「ん? あれは……」
──“何か見つけたの! ”
光苔を拾うため、屈んだ視線の先に居たのは固い鈍色の甲殻で守られたずんぐりとした生き物。
サイズは野ネズミ程度の小さな物であり、いわゆるアルマジロとでも言えそうなソレが光苔の生えた岩石の陰から、こちらの様子を伺っていた。
──“か! かーわいいー! ”
脳内で騒ぐ少女とは対照的に、じっとこちらを見つめたソレは、一つ鼻を鳴らすとコロコロとコチラへ転がってくる。
「ぐぁな!」
転がって勢いをつけるなり、俺の足に尻尾を叩きつけてきた。
「いてっ……」
相手が小動物で、鎧ありなため痛みはほとんどないが、気分的に反応すると、楽しそうに鳴きながら足にぶつかってくるアルマジロ。
なかなかに可愛いやつである。
──“なんか楽しそう! ”
時々足を上げたり、逆に動かさなかったりしながら、小動物と戯れる。……癒しだ。
ここまで、コウモリの一匹も見つけられ無かった事で生き物は居ないのかと思っていたが、しっかり自然に生きる者もいるらしい。
「ぐぁら、ぐなな!」
ひとしきり転がり終えると、ようやく地に足をつけるアルマジロ。
一言二言、自らの言葉でこちらに話しかけた彼は上機嫌に後ろを向くと、着いてこいと首を振り、駆け出して行く。
──“あ! 待ってー”
いくら暗視があるとは言え、相手は20cmに満たない小動物。見逃す訳には行かないと追いかける。
真っ直ぐに見えた洞窟を右へ。左へ。ところどころで実体のない壁を越えながら、奥へ奥へと進んでいく。
そうして進んで行くとたどり着いたのは大広間。洞窟の中であるにも関わらず光に溢れ、天井から、まるで木漏れ日のように光の差し込む神秘的な空間。
そんな空間の中心、大きな切り株の前で彼は振り返る。
「ぐぁん!」
光は彼と切り株、その両方の周りにフワフワと浮かび、ゆっくりと吸い込まれるように集まっていく。
──“きれー! ”
「あぁ……」
幻想的な風景に感嘆の声を漏らす俺たちを前に、少し誇らしげにした彼は再び背を向け、ゆっくりと切り株の根元へ向かっていく。
「あれは……ジオラマ?」
そこにあったのは、小さなジオラマ。スノードームの様に半球で仕切られたそれは、痩せ細った根に覆われ、木漏れ日の光彩とは異なる黄金色の輝きを放っていた。
──“ダイキさん、これって……”
そのジオラマは山々と海に囲まれ、川を跨ぐ古びた街並みとビル群など見覚えのある景色が広がっていた。
「儀式結界、の基点か?」
レッドや南郷さんが言っていたがこの町は魔力で生み出されたものであるらしい。
今、目の前にある物は半球こそ確かな実体を持っているが、中にある街並みはホログラムの様に半透明でところどころにノイズが走っていた。
「ぐぁわ!」
俺の呟きを肯定するように、鳴く足元の彼。
彼が何故この場所に案内してくれたのか問いかけようと口を開き……
『Activate “Porta metastasis”』
聞き覚えのある機械音声と閃光に思わず閉口し振り返る。
「さすがお兄さん。こんなに早くここを見つけるなんて」
『えぇ、さすがは……』
俺たちがこの空間へ入ってきた横穴。
壁を偽装していたそこが半透明になり、光輝く。
そして見えるピンクのパーカー、宙に浮かぶ藍色の魔導書。
この洞窟に俺を送り込んだ張本人がようやく、その姿を現した。
第十九話いかがでしたか?
視点を分けてるせいでサブタイトルが付けにくい今日この頃。
…てか、本作の勘違い要素どこいった…?
それでは、次話もお楽しみに!