英雄は勘違いと共に   作:風に逆らう洗濯物

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第三話になります。よろしくお願いします。


第三話 桐生寺

 ●

 

 月が西の空へと傾き始め、月明かりがうっすら夜道を照らす頃。

 町を抜け、立派な惣門をくぐり、緩やかな坂道を登る事、約20分。

 二人は山の上にある桐生寺へとたどり着いていた。

 

 桐生寺は入り口に巨大なイチョウの御神木が待ち構え、

 至るところに紫陽花が咲く、自然豊かな寺だ。

 本殿へは一直線に道が繋がっており、手水舎や絵馬掛所を右に。

 石畳をまっすぐ進むと、大きな常香炉を手前に置く本殿が見えてくる。

 

「おー! ここが桐生寺かぁ、スゴイね!」

 

「あぁ」と返事するのが精一杯の俺とは対照的に、レッドは楽しそうに寺を見渡し、イチョウの巨木を見上げるなりウズウズした様子だ。

 ……やはりありがちなファンタジー世界には、東洋風の建築物は少ないのだろうか。

 

「登っていい?」

「ダメだ」

 

 違った。意外と年相応なところもあるらしい。

「えーケチー」と言って拗ねるレッドに、それより何か調べるんじゃ無いのかと声をかける。

 予想できた事だが、この少女は常識がない。

 服装もあいまって、まるで物語の中からやってきたかのように思える。

 ここで何か発見があり、元の場所に帰せるといいが…。

 

 ため息をしながら、珍しく真面目な事を考えていると、石畳の上をコツコツ鳴らす足音が一つ。

 当然、騒がしく御神木を見上げる2人のものではなく。

 本殿の奥の方から眼鏡をかけた知的そうな男が歩いてくる。

 

「こんばんは、こんな夜更けに参拝ですか?」

 

「ご立派ですね」と特徴的な糸目をさらに細め、微笑む男性はスーツ姿。

 こんな時間に出歩いているとは思わないが、まさに役場か何かの公務員といった風貌であった。

 対する全身鎧の不審者が思わずと言った様子で問いかける。

 

「失礼、あなたは? ……ご住職では、ないですよね?」

 

「えぇ、まぁこう言う者です」

 

 そう言うと男性は胸ポケットから名刺を取り出し、渡してきた。

『冬木大図書館、館長:南郷 大地』

 ……冬木大図書館と言えば、襲われるまでいた川辺公園からも見えるかなり大規模な図書館だ。

 あの辺りの都市整備のシンボルの一つにして歴史保護の観点からも重要視されている観光スポットだと記憶している。

 そこの館長。つまりめっちゃお偉いさんだ。

 

「実は館長と同時に、町の重要遺産管理人もやっていましてね。数年間住職のいないここも、私の保護対象になっているのですよ」

 

 そう言うものなのだろうか? 

 よくわからないがとりあえず納得する。

 あいにくこちらは、日銭を稼ぐのもやっとなフリーターだ、少女の期待する実力も、広い情報網もお持ちではない。

 とは言え、管理人と言うからには挨拶は必須だろう。

 相変わらずの鎧姿ではあるが、背筋を正し口を開く。

 

「これは、ご丁寧に。参拝は可能ですか?」

 

 フリーターとは言え社会人。これくらいは可能だ。と誰に向けるでもない虚勢を張る俺を尻目に。

 南郷さんは眼鏡の位置を正すと、若干の思考の後に答えを返してきた。

 

「大丈夫ですよ。ただ夜の山は熊が出るといいます。参拝後は速やかにお帰りになってください」

 

 好感の持てる返しだ、全身鎧とか言う、ザ・不審者を心配する言葉。

 真のエリートと言うものは差別的な視点を持たない聖人の事らしい。

 俺は満足げに頷いた。

 

 ○

 

 数巡の会話の後、「では、私はこれで」と言って男は去っていった。

 先程の会話を思い出す。

 ──相手の立場を利用した巧みな情報収集。

 話術は得意でないだろうと思っていた彼が見せてくれた技術に、本当にたくましい味方を得たと再認識する。

 

 夜の山は危険か……つまり、何かあるなら山の中なのだろう。

 

「山は危険らしいがどうする?」

 

 引き返すか? と言う言葉を付け足す彼の表情は相変わらず見えないが、何を言いたいのかはよくわかる。

 ……つまり、自分は雇われだから、一応確認はする。

 と言うだけの話だ。

 彼の中では、既に森に行くことが決定してるに違いない。

 ボクはいたずらっぽい笑みを返す。

 

「もちろん!」

 

 一直線で寺の奥へと向かう。

 明らかに怪しそうな男が来た方向だ。

 この先にも何かあるのだろう。

 

 森の調査も視野に入れ。

 何故か整備されている湧水で水袋を満たしたボクは。

 まっすぐに本殿へと入っていった。

 

 ●

 

 こ れ は ひ ど い

 

 RPGの勇者ばりに躊躇なく。

 霊験あらたかな水を、懐に入れる少女を見て心の中で思わず呟く。

 

 まぁ、文化の差と言うだけなのだろうが。

 その内カミナリでも落ちないかヒヤヒヤする。

 

 それに。実際何かあるなら、居住スペースだろう。

 迷いなく仏殿の方に向かう少女に声をかけ、適当な理由をつけながら離れにある建物の方へ向かう。

 

 ……そもそも南郷さんが管理しているとの事だから、重要な書物は全部図書館にあるんじゃないだろうか。

 と、途中でそんな事に気づきつつ、見て回ること数時間。

 

 月は傾き、そろそろ太陽と入れ替わるだろう時間。

 流石に徹夜はこたえたのか眠くなりつつある脳にムチを打ち、少女に声をかける。

 

「何も、無いな。……どうする?」

 

「うん、予定通り森にいこう!」

 

 眠そうな俺とは対照的に。元気そうな少女は、どこで拾ったのかもわからない、年季の入った小刀を片手にそう答える。

 

 ……いや、ホントにどこで拾って来たのソレ、なんか凄い禍々しいんだけど! 

 

 小刀はまるで瘴気に包まれているかのごとく、紫色の煙が絶えずその頭身を包み隠していた。

 白木の柄と鞘がセットになっていて鍔は無く、どちらかと言うとヤクザとかが持っていそうな刀だ。

 

 そんな明らかな危険物を、気にもせず太刀と一緒に腰に括り付ける少女。

 思わず戦慄しながら問いかける。

 

「そ、それは?」

 

 少女は自慢でもする様に笑うと再び刀を取り出し、こちらに見せびらかしてくる。こわい。

 

「いいでしょー! あそこの上にあったんだ〜」

 

 少女が指差す先には、壁の高い位置に固定された一枚棚。

 その上には神社か何かを模した模型に、榊の葉が飾られていた。

 

 ーー神棚である。

 

 まごう事なき神棚である。

 何故寺に? と思わなくもないが、古来より家内安全を願い設置する神具である。

 そんな所にあった刀が普通なはずあるだろうか……いや、ない! (反語)

 

「……。いい刀だな」

 

 とりあえず褒める事にした。

 明らかに禍々しく、聖剣というより、魔剣というような風貌だが。

 触らぬ神に祟りなし。悪印象より、好印象だ。と思い込む。

 

「だよね! だよね!」と嬉しそうに刃をなぞる少女にヒヤヒヤしながら、早足に外へ向かう。

 ……これ以上ここに居ると、いつ仏さまを怒らせるともわからん。

 別に俺は信心深い仏教徒と言うわけでは無いが、居るかいないかなら、居た方がおもしろいと思う程度には日本人らしい宗教観をしてるので、余計な祟りには会いたくないのである。

 

 

 そうして、南郷さんのせっかくの忠告を忘れた俺は、小走り敷地を抜け、一度振り返り、少女がついて来ている事を確認すると。

 そのまま森に向かって行くのだった。




第三話、いかがだったでしょうか。
少しずつ、キャラクター毎のギャップを表現できてると…いいなぁ
小説自体は加筆修正して改善していくつもりですが、
ご意見等・訂正等ありましたら。よろしくお願いします。

それでは次回もお楽しみに!

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