英雄は勘違いと共に   作:風に逆らう洗濯物

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ここまで、読んでくださったあなたに感謝を。
コメント・評価もありがとうございました。

それでは第四話になります。
よろしくお願いします。


第四話 森の中で

 ○

 

 月の灯りに木々が照らされ、じんわりと闇色の広がる夜の寺。

 そんな中でも調査が終わるなり、早足に森へ向かった彼。

 その姿を見て、ボクは気を引き締める。

 

 ……魔力調査はボクに任せて、すぐさま周囲の警戒に向かった彼の事だ。

 このタイミングで急ぐ以上、何かの接近して来たに違いない。

 もしくは既に気づいていたが、あえて待っていてくれたのか…

 なんにせよ、彼は広くスペースもある寺ではなく、森の中を選んだ。

 戦闘の余波で建物が壊れるのを嫌ったのだろう。

 ──つまり、相当な実力者が相手だ。

 

「やっぱり」

 

 森へ入るとその事を証明するかの様に、あちこちに残る戦闘痕。

 ところどころ木は切り倒され。

 ここに居るのは熊などでは無い事が容易に考えられる。

 さらには数刻前に見た魔物の死骸。

 10や20では足りないソレが、乱雑に転がっている。

 

「速い」

 

 彼はソレらに目もくれず、グングンと森の中へと進んでいく。

 鎧姿で走りづらいはずの山中を、驚異的な体幹操作でむしろ利用しながら駆けているらしい。

 それは自分を救ってくれた『英雄』の背中と重なり。

 彼に羨望の眼差しを向けてしまう。

 

 そうして走り出す事数分。

 木々は一時的に途切れ、月明かりが辺りを照らす。

 ただ広い空間へとボクらはたどり着いた。

 ゆっくりと振り替えった彼は、言葉少なく声をかけてくる。

 

「レッド、刀を捨てろ」

 

「うん」

 

 その言葉に従い、太刀を地面に置く。

 武器を捨てる、つまりは対話の姿勢だ。

 ここまで待ってくれたからには、

 相手も応じてくれると判断したのだろう。

 

 ──カランと鞘が地を打つ音。

 ボクの太刀が地面に落ちると同時に、

 木々の間から故服を身に纏った、無精髭の男が薙刀を片手に現れる。

 

「ヒュー、やるねぇ。あの距離で俺の隠密を見破っただけで無く、槍の振りづらい森へ誘い込むと来たもんだ。あんた、ただモンじゃないな」

 

 ヘラヘラとした口調とは対照的な油断ない純粋な闘気。

 薙刀の鋒は低く下げられ、真剣な瞳が彼の一挙一動に注目している。

 

 対する鎧姿の彼は、構わず正面から相手を見つめる。

 ── 一見隙だらけな様に見える自然体。

 だが、ボクはあの鎧が音を置き去りにする事を知っている。

 あの油断を誘う姿勢こそが、必殺の構えなのだ。

 

 ピリピリと張り詰めた空気の中。彼の右手が動く。

 男が迎え撃つために腰に力を入れ……

 

「中村大輝だ」

 

 彼の発した言葉に、思わず力を抜く。

 男は苦虫を噛み潰した様な顔で構えを解き、胡乱げに睨みつけた。

 

「戦う前に名乗りを上げる……ってタイプでもねぇか。その様子じゃ……」

 

 彼は片手を差し出したまま、男の名乗りを待っている。

 ボクに武装を下ろさせた通り、本当に戦うつもりはないのだろう。

 

 男はガシガシと頭を掻くと、深くため息を一つ。

 彼の片手に、手を叩きつけ名乗りを上げた。

 

「はぁ……馬岱だ! そう名乗ってる」

 

 馬岱の名乗りに満足げに深く頷いた彼は、良き友を迎え入れる様に改めてその手を握り返した。

 

 ●

 

 手のひらに走る痛みに目が覚める。

 目の前にはむさ苦しい男の顔。

 半分意識が飛んでいたが、どうやら握手を求めているらしい。

 よくわからんが握り返す。

 

 ……失礼だが半分くらい寝てて覚えてない。

 確か根っこやらに躓きつつも急いで寺を離れて。

 レッドにあの禍々しい刀を捨てておけ、と言ったことは覚えているのだが……。

 

「よろしくね! 馬岱さん!」

 

「あぁ、嬢ちゃんもよろしくな」

 

 ──視界の端で会話する2人が見える。

 俺がくだらない事を考えている間にも、レッドは馬岱と言う男に話しを聞いていくつもりらしい。

 

「……座って話そう」

 

 これ幸いにと俺は2人を近くの岩場に誘導し、自分も大きめの岩にドカッと座る。

 公園のベンチには負けるがなかなかの座り心地だ。

 ……この分なら眠るにはちょうどいいだろう。

 眠気に負けそんな事を考えた俺は、そのまま目を瞑った。

 

 ○

 

 馬岱さんから話を聞く。

 過去に行われた、英雄が行う儀式決闘。

 そして万能の願望機。

 

 全く聞き覚えのない話だ。

 さらには町全体が霧に覆われ、町からも出れないと言う。

 正直信じられない。眉唾物な話だ。

 

「大輝、ほんとなの?」

 

 彼はボクの問いに間髪入れず頷く。

 それなら先に伝えておいて欲しかったのだが……まぁ、ボクを帰すだけなら教える理由もないか。

 

 一度整理しよう。

 突然ここに呼ばれたボク。

 獣とのキメラじみた魔物。

 町を覆う霧。

 そして儀式決闘。

 

 一番怪しいのは『英雄』が行うというその儀式だ。

 過去に行われたと言うソレ。

 その性質はボクがここへ来た理由になりうる。

 

「もしかして、儀式は終わってないんじゃないの?」

 

 その考察を馬岱さんに話すと、彼は大きく頷く。

 

 「まず、間違いねぇな」

 

 「やっぱり…」

 

 儀式がどの様なものか、詳しくは知らない。

 しかし、『英雄』が関係する以上、ボクに関係してくる。

 もといた場所で、英雄と呼ばれてしまったボクに。

 

「実は儀式に勝利したのが狂戦士でな、

 ……理性もない化け物同然だったから封印されたんだ」

 

 封印、か。恐らくそれが儀式を狂わせたんだろう。

 そして願望機と呼ばれる、神秘の結晶。

 空間を歪ませるくらい造作もない。

 思考を続けるボクを他所に、彼は続けて言う。

 

「それに、霧の見当もついてる。恐らくソイツの能力だ」

 

「それって?」

 

 思わず彼に問いかける。

 能力とまで言うほどだ、よほど特異な力。

 所謂、神の祝福の事だろう。

 

「異界化だ。それもかなり広範囲の」

 

 異界化、主に高位の悪魔が使うソレ。

 なるほど、人には過ぎた力だ。

 狂ってしまうのも無理はない。

 

「それが発動してるってことは……」

 

 馬岱さんが頷き、絞り出したかの様に声色を深め、告げる。

 

「封印が解けちまったんだ」

 

 解けてしまったと語る彼は、拳を握っていた。

 何者かに向けて高まる怒気。

 おそらく、いや、ほぼ確実に。

 ソレを行った者が居るのだろう。

 

 首を振って表情を戻した彼は立ち上がる。

 そして、真っ直ぐにボクらへ向かって頭を下げてきた。

 

「恥を偲んでアンタらに頼みたい。アイツを、ルードを倒すのを手伝ってくれないか!」

 

 熱い言葉だった。

 憎むべき敵を撃つのではなく、共に戦った友を救うのだと。

 言外に意思が伝わってくる。

 そして、それは。

 ボクはもちろん。彼の心も動かしたに違いない。

 

「うん!」「もちろんだ!」

 

 こうしてボクらの次の目標が決まった。

 次に目指すのは馬岱さんの友が待つ、廃教会。

 あの大通りを抜けたその先だ! 

 

 ●

 

 夢の中でネズミの国に行き、土産がいるか聞かれて「もちろんだ!」と、答え目が覚める。

 惜しい事をしたと、軽く後悔をしながら二人の会話に混ざったら……。

 ──次の目標があの化け物になっていた件について。

 

 なんでさ!? 

 どうしてそうなった!? 

 そりゃ寝てたのは俺が悪いけど。マジでアレと戦うの!? 

 多分あれドラゴンか何かだよ!? 俺ら、炎の紋章とか持ってないよ!!? 

 

「……勝算はあるのか?」

 

 発案者であろう男に目を向ける。

 薙刀に中国のものであろう民族服。

 佇まいは武人と言った感じであり。実力者である事は理解できる。

 この男が無理なら絶対無理だろう。

 俺の言葉に男は一つ頷くと懐から1丁のボウガンを取り出す。

 

「これは?」

 

「祈りの弓だ、不浄を祓い、自然に返す。そう言った力を持つらしい」

 

 断言してくれ、頼むから……。

 そう思うも仕方なく、仮にその通りの力を持つと仮定して考える。

 遠距離からの光属性攻撃かぁ……まぁ、なんとかなるんじゃね? 

 後は誰がその間敵を引きつけるかだが……。

 レッドを見る、少女は力強く頷いてくれる。

 

「任せて! 弓の扱いなら、ある程度心得があるよ」

 

 そっちかぁ……

 まぁ、少女を死地に追いやらないで済んだと喜ぼう。

 となれば……。

 俺はバイザーで見えない事も忘れて、いい笑顔で馬岱の方を向く。

 

「わかってる、共に戦おう」

 

 爽やかな顔で道連れ宣言をされてしまった。

 当然である。

 少女を働かせて、大人が働かない道理はない。

 仕方なしに一つ頷くと2人を連れ森を抜ける。

 

 朝になりルードが町で暴れては事だ。

 そう言う男の言葉に背を押され。

 2人を抱えた俺はそのまま空へと舞い上がった。




第四話、いかがだったでしょうか。
儀式決闘…いったい何杯戦争なんだ…
そして馬岱と言う男。
彼が身に纏うのは、胡服。
中国、戦国時代の騎兵服だそうです。
是非イメージ補完していってくださいね。

では次話をまた、お楽しみに!

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