英雄は勘違いと共に   作:風に逆らう洗濯物

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第五話になります。

今回は少しシリアス路線が入ります。
皆さまを置いて行かないよう、加筆修正を行なっておりますので、読み返すと描写が増えていたりする事もあります。
拙い文章ですが、今後とも本作をよろしくお願いします。

それではどうぞ!

※主人公とヒロインの温度差は勘違い小説の華。


第五話 濃霧の気配

 ○

 

 大輝が手を合わせ祈っている……。

 目の前の獣に。

 そして荒れてしまった自然に対して。

 

 ──それは神聖な光景だった。

 明けの日差しが、彼の白銀の装甲が。

 その全てが光り輝き、彼の姿を照らし出す。

 それはまるで、彼の美しい心を表す様で……

 

「行こう、廃教会へ!」

 

 振り向く彼の芯のある声。

 

「応!」「うん!」

 

 思わず出遅れる。

 だってあまりにもカッコよかったから。

 これはきっと憧れだ、この胸の高鳴りは。

 みんながボクに重ね見た『英雄』。

 それは彼の様な人を言うのだろう。

 

 ボクは僅かに揺れた魔力を手足に乗せて、彼の隣へと駆けていった。

 

 ●

 

 時は少し遡る。

 

 寺を出発し、飛行を続けること約30分。

 俺たち3人は昨晩、獣に襲われた川辺公園に戻ってきていた。

 辺りは陽の光にうっすらと照らされ、いつも以上に閑散とした風景をさらしている。

 

 俺はその光景を見て、呆然と立ち尽くした。

 

 川や公園を彩る木々は倒れ。あたりに木片が散らばっている。

 道の上には、犬の様な生き物の死骸。

 押し潰されたかの様なそれが、草花を赤く染めている。

 

 そして辺りに散らばる金属片。

 ──俺の唯一と言っていい財産。原チャリである。

 

「なんてことを!!」

 

 俺の怒りに、レッドと馬岱が同意する様に頷いている。

 

 ……同意してくれるか! 

 日銭を稼ぐのがやっとの俺が、苦労して買った相棒。

 それがこんな無残な姿になっている。その悲しみに! 

 

 手を合わせ、かつての相棒に黙祷した俺は振り返り、力強く二人に言う。

 

「行こう、廃教会へ!」

 

「応!」「うん!」

 

 俺たちの敵は廃教会にあり! 

 

 

 

 コンクリートが剥がれ、歩きにくい大通りを進むと、うっすらと霧に囲まれた教会が見えて来る。

 

 錆びついた金属門に崩れたレンガ壁。

 敷地内には洋風の墓石が無数に広がり、まるで人の出入りを拒んでいる様だ。

 その奥に見える教会は半壊し、それがより一層不気味な雰囲気を醸し出している。

 

「霧が少ねぇ……」

 

 隣で薙刀を肩に乗せながら、大股に歩く馬岱が呟く。

 

 既に視界は狭く。足元も見えない。

 それでも彼にとっては足りないらしい、

 ……アサシンかお前は。

 半ば呆れながら俺は口を開く。

 

「なら、濃い方へ向かえばいい」

 

 その言葉に何やらハッとした2人は頷くと、その場で構える。

 

「なるほど」「そりゃわかりやすい!」

 

 ニヤリと笑う二人。

 同時に凄まじい衝撃波。

 あまりの衝撃に俺の背後にあった瓦礫が、ガラガラと崩れ落ちる。

 交差する太刀と薙刀。鋭い刃と刃がお互いの得物を映しあっていた。

 

 そう、二人はお互いの武器を目にも止まらぬ速さでぶつけ合ったのである。

 

 ……えぇ? 何ソレこわい。

 

 ○

 

「「ハァッ!!」」

 

 大輝のアイディアを受けた僕たちは。

 時々霧を晴らしながら、常に霧が濃い方へ進んでいく。

 なるほどいい案だ。

 

 発案者であり索敵能力のある大輝が敵の警戒をし、ボクと馬岱さんで敵を誘い出す。

 先程から出てくる魔物程度であれば、霧が晴れる分むしろ戦いやすくなり。

 ターゲットが来るのであれば霧の濃さで明白。

 

「嬢ちゃんまだまだいけるな?」

 

 心配なのは体力だが、さっきの話し合いで軽食も済ませた。

 十分に休むことの無かった、あの頃と比べれば何ら問題はない。

 こんなのは食後の運動にすぎないのだ。

 

「よゆーだよ!」

 

 また、ボクも馬岱さんも、武器の心配はしていない。

 それはお互いの技量を並では無いと理解している上。ボクらレベルであれば、自然と武器に魔力が回るからだ。

 魔力を纏わせる事で、武器はミスリルすらも断ち切り、炎をも跳ね返す武具へと変わるだろう。

 

「へッ、そりゃいい!」

 

 馬岱さんの豪快な薙ぎ払いに続いて、油断なく魔物を切り捨てる。

 所々で出てくる、鎌をその身に宿した獣。

 ボクを連日襲ってきた、あの魔物だ。

 ここに居ると言う事は、狂戦士と未関係ではなかったらしい。

 そんな事を考え、敵を切り捨てる事数分。

 共同墓地を抜けようかという頃に、突然彼が足を止め、背後に振り返る。

 

「戻るぞ」

 

 一体どうしたのか、そう問いかけようとしたボクを遮り馬岱さんが言う。

 

「足音だ、ソレも多数。獣じゃねぇ」

 

 足音、気づかなかった。

 ボクの探知は魔力に由来する。そのため、先ほどの霊地や、この魔力霧の中じゃまるで役に立たない。

 そう言った点を考えても彼らが先に気づくのは当然だった。

 

「敵だね!」

 

 ボクは油断なく二刀を構え、馬岱さんもその矛先を背後に向ける。

 

 そうして構えるボクらの前に、霧の中からゆらりと人影が現れる。

 それは一見、人だった。ボサボサの頭とヨレヨレのシャツだけ見れば、何もおかしな事はない。

 

 しかし、表情が違った。

 だらしなく半開きになった顔。

 ギョロギョロとこちらを見るその瞳。

 理性はカケラも感じられず、ただひたすらに獣のような凶暴さを兼ね備えたそれは……。

 

「ゾンビだと……ツ!?」

 

 彼の怒りに震えた声。

 それはそうだろう、彼にとってそれは。

 あってはならない者。

 許すわけにはいかない生命の冒涜。

 ボクの世界では『グール』とも呼ばれるそれが、僕らを囲む様にこの濃霧を切って現れた。

 

 ●

 

 恐怖のあまり動けない俺の体を、奴らの剛腕が薙ぎ払うように打ちつけた。

 人の限界を超えた力を受けた俺は、近くの墓石にその背を打ちつけ、座り込む。

 

「ぐ……はぁ……」

 

 苦しい、息ができない。肺から押し出された空気に意識が朦朧とする。

 そしてゾンビは……

 

「大輝!」

 

 首を切り落とされ、血を撒き散らしながら、そのまま後ろに倒れる。

 絶え間無く動く金の軌跡が、次々と目の前の存在達を刈り取っていく。

 

「大輝! ボサっとすんな! 撤退だ!」

 

 馬岱の声が響く。

 彼の槍はあたりの霧ごと、ゾンビを吹き飛ばす。

 それだけで四面楚歌は崩れ、退路ができる。

 

 情けない俺は、ただぐるぐると思考する。

 何かしなくては……

 でも奴らはアレだけいる……

 何で、どうして。

 訳の分からない恐怖が、俺の胸を締め付ける。

 

 今日の事を思い出す。

 

 ──ヘッドライト一つ見えない夜更けだった。

 ──閑散とした、声ひとつ聞こえない朝焼けだった。

 ──ひと1人騒ぎ立ててはいなかった。あんなに荒れた道路だったのに。

 

 吐き気がする。

 でも、昼を最後に何も食べていない喉からは何も出なくて……

 考えるのが、苦しくなった俺は。

 そのまま意識を失った。

 




第五話いかがだったでしょうか。

墓地と言えばゾンビ、王道ですね!
そして、勘違い要員にシリアスをぶち込む暴挙。
しかし、ご安心を。
何とか紡いで見せましょう。この物語。

それでは次話をお楽しみに!
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