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今後とも細々書いていきますので、よろしくお願いします。
今話は墓地から脱出し、とある屋敷で身を休めているところからです。
それでは、どうぞ。
○
太陽が辺りを照らし、南の空へ登り始めるころ。
住む者もいない武家屋敷に、三人はその身を寄せていた。
所々に傷が目立つ畳の上で、ボクはその瞳に魔力を通し、眠る大輝の診断を行う。
負傷も無ければ、呪いもかかっていない。
いたって正常な健康体だ。
それでも目覚めないのは……心の問題だろう。
「……大輝の様子は?」
襖に背を預け、タバコの煙を吐き出しながら、馬岱さんが口を開く。
ボクはそれには答えず、目の前に眠る彼を見る。
若い、男だった。
目つきが悪く、色白で堀の深い顔。
髪は肩にかからない程度で、Tシャツにジャケットを羽織った、大学生くらいの男。
体には薄く残る切り傷や、胴を横断する古傷があり、なるほど。戦う者の身体であるのは間違いない。
しかしそれ以上に注目すべきは、魔力量。
全身を静かに循環するそれは、人の身に流れるには過剰にすぎる。
この分では、彼に軽い不死性すら与えているに違いない。
「身体は問題ない。でも、これは」
「人の身に余る……ってんだろ?」
その言葉に頷き、改めて魔力を込めた瞳で、今度は馬岱さんを見る。
大輝と同じ膨大な魔力。
四肢へに轟々と流れ込む黄金のソレは、まるで地脈を直視しているようで……。
「思い出したぜ、そいつも俺と同じ『英雄』だ。それも、ガキ庇って一緒にくたばっちまうタイプのな」
苦虫を噛み潰したように顔を歪ませた彼は、天を仰ぐと吐き捨てるように言った。
「それで、ほかに質問は?」
正直ボクも頭の整理はできていない。それでも、大輝がこんな状態な以上。少しでも情報は手に入れなくてはならない。
「あの、グールは?」
馬岱さんは、苛立ちを隠さず吐き捨てる様に言った。
「わからねぇ、『死神』か『冥府の火』か、それ以外か……」
その言葉に間髪入れず問いかける。
「死神って?」
「……英雄だ」
少し考えるように答えた彼に、違和感を感じつつ質問を続ける。
「冥府の火って?」
「……何かの組織だ」
ハッキリ答えない彼の様子に疑問を持つ。しかし、聞かねばならない。大事な事だ。
「……死神の能力は?」
「……」
不自然に会話が途切れる。英雄の怒気を肌で感じる。
自然でいて、荒々しい魔力が彼を中心に吹き荒れているのを感じる。
軽く混乱する。一体どうしたのか、彼は何を考えているのか。
そして彼は敵なのか、味方なのか。
思わず拳を握り、馬岱さんの襟を掴む。
──彼と会ったのは危険と言われた森だった。
──彼に連れられて行った場所で敵に襲われた。
──彼は、『英雄』で、大輝もまた『英雄』だ。
勘違いかもしれない、でも、それでも。ハッキリさせないといけない。
「答えて!!」
馬岱さんが拳を握る。その手から血がこぼれるのも構わずに。ただ、怒りを込めてその腕を振り上げる。
「……わからねぇ。……わからねぇんだよ。俺じゃ!」
「馬岱!」
声がした、ボク達の後ろから。
低く、それでいて誰かを愛せる声が。
馬岱さんの手が止まる。
その手を握るのは、灰色のリストバンドをした青年の手。
「血が、出ている。落ち着け」
鋭い目を心配そうに光らせた、彼が傷ついた英雄の腕を止めていた。
●
セ──────フ!
いや、危ない所だった。
情けなく気絶した俺なんかのために、二人が喧嘩するのなんて見てられないし。俺も無事では済まないだろう。
そもそも、あの時は寝不足からか、空腹からか最悪の方向に思考を進めたが……
……魔物がいるんだ。アンデットだって居てもおかしくない!
そもそもあそこは墓地、むしろ動死体は通常モブだろ!
──そう思い込んだ。
あー本当に情けない。
それより今は2人を止めるのだ。
もしコイツらが居なくなったら、ゾンビがいる疑惑の町が、不思議パワーマシマシの霧とやらで脱出できないままになってしまう!
そうなるまえに先ずは……
「大輝!!」
レッドが俺の胸に飛び込んでくる。
「悪りぃ……取り乱した」
馬岱がバツが悪そうに顔を背ける。
なんとも言えない雰囲気だがもう二人は争う気は無いらしい。
抱きついてきた少女を撫でながら、俺は一つ思う。
あっさりしすぎじゃない??
○
心配そうな大輝に、先ずは体を休めてといい含め。
ボクは、武家屋敷の道場とも言うべき場所へ向かう。
正直大輝の事が心配ではある。
が、ボクらの『英雄』はあの程度もう乗り越えたらしい。
それよりも一つ、確かめる事がある。
「来たかよ……」
ボクが足を踏み入れるなり、座禅をしていた馬岱さんが声をかけてくる。
ボクはそれを聞き流すと、彼にただ長いだけの木の棒を投げ渡す。
「構えて」
「ヘッ」と悪態をついた彼は木の棒を拾う。
真剣な眼差しで。その頼りない槍を構える。
──違和感があった。
彼と共に歩き、そして探索したあの時……
「いくよ!」
「ハァッ!」
真っ直ぐに。
そう。真っ直ぐすぎる一撃が、ボクの心臓に迫る。
ボクは一刀目を槍の軌道へ滑り込ませ、その勢いに逆らわず身体を回転。
続く二刀目で彼の首を狙う。
「チッ……!」
しゃがむと同時に槍を手放した彼は、低姿勢のまま斜め前に駆ける。
大きく踏み込んだかと思うと、空中に浮いた槍を掴み無理矢理反転。
薙ぎ払う様にその槍を凪いだ。
「甘い……よッ!」
ボクは、それを木刀で受け止め、槍を蹴るように後ろへ跳躍。
構え直し、重心を下へ。
地を滑るようにして、彼の周りを駆ける。
馬岱さんはめんどくさそうに頭を掻くと、大股での踏み込み。
ボクの走る軌跡に槍を薙ぎ払う。
「……オラァ!!」
「!!」
ボクは目の前に振るわれた槍に、勢いを乗せ木刀を叩きつける。
軌道を逸らし、上に跳ぼうとして、あまりの衝撃に腕が痺れる。
ボクは静かにその手を離した。
「カラン」と言う乾いた音が二つ。
「チッ」っと不機嫌そうな声が一つ。
それを聞き、ボクは苦笑いと賞賛で返す。
「上手い。 力もある。 技術もある。 咄嗟の判断は並の人間以上だろうね」
「そうかよ……」
不機嫌そうな彼は続きがあるんだろとばかりにこちらを見る。
「でも、荒い。そして真っ直ぐすぎる」
ボクが断言すると少し辛そうな顔で彼は返してきた。
「わかってた事だ」
その言葉にボクは確信する。
「その技。そして力。君のものじゃ無いんだね」
「あぁ」と彼が返す。やはり、と思った。
──初めて会った時、彼は『名乗っている』と語った。
──共に歩く時、時々明確な隙があった。
──共に霧を晴らした時、力任せに槍を振るっていた。
その小さな違和感は『英雄』と言い張るにはあまりにも大きかった。
彼が扱うのは槍だ。
それも先端に刀のついた。
槍とは繊細だ、立ち回り次第で間合いを失ってしまう。
刀とは繊細だ、一つ間違いで簡単に割れてしまう。
そのどちらもが、彼の豪胆な性格に噛み合わず。明らかな矛盾を生んでいた。
そう、彼は。『英雄』では無いのだ。
第六話 いかがだったでしょうか。
著者は戦闘描写が難しかったです。
ただ、それなりに盛り上がる話しになったかなと思います。
今話は馬岱さんについて、情報が出てきましたね。
主人公達より先に、周辺情報が深掘りされる仲間…
実はこれがこの小説のスタンダードになります。
是非とも設定を予想しながら、物語を読んでいただければ幸いです。
それでは、また次話をお楽しみに!