英雄は勘違いと共に   作:風に逆らう洗濯物

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お待たせしました。第六話になります。
感想、評価。とても励みになっております。
今後とも細々書いていきますので、よろしくお願いします。

今話は墓地から脱出し、とある屋敷で身を休めているところからです。
それでは、どうぞ。


第六話 揺らぐ心

 ○

 

 太陽が辺りを照らし、南の空へ登り始めるころ。

 住む者もいない武家屋敷に、三人はその身を寄せていた。

 

 所々に傷が目立つ畳の上で、ボクはその瞳に魔力を通し、眠る大輝の診断を行う。

 負傷も無ければ、呪いもかかっていない。

 いたって正常な健康体だ。

 それでも目覚めないのは……心の問題だろう。

 

「……大輝の様子は?」

 

 襖に背を預け、タバコの煙を吐き出しながら、馬岱さんが口を開く。

 

 ボクはそれには答えず、目の前に眠る彼を見る。

 若い、男だった。

 目つきが悪く、色白で堀の深い顔。

 髪は肩にかからない程度で、Tシャツにジャケットを羽織った、大学生くらいの男。

 

 体には薄く残る切り傷や、胴を横断する古傷があり、なるほど。戦う者の身体であるのは間違いない。

 

 しかしそれ以上に注目すべきは、魔力量。

 全身を静かに循環するそれは、人の身に流れるには過剰にすぎる。

 この分では、彼に軽い不死性すら与えているに違いない。

 

「身体は問題ない。でも、これは」

 

「人の身に余る……ってんだろ?」

 

 その言葉に頷き、改めて魔力を込めた瞳で、今度は馬岱さんを見る。

 大輝と同じ膨大な魔力。

 四肢へに轟々と流れ込む黄金のソレは、まるで地脈を直視しているようで……。

 

「思い出したぜ、そいつも俺と同じ『英雄』だ。それも、ガキ庇って一緒にくたばっちまうタイプのな」

 

 苦虫を噛み潰したように顔を歪ませた彼は、天を仰ぐと吐き捨てるように言った。

 

「それで、ほかに質問は?」

 

 正直ボクも頭の整理はできていない。それでも、大輝がこんな状態な以上。少しでも情報は手に入れなくてはならない。

 

「あの、グールは?」

 

 馬岱さんは、苛立ちを隠さず吐き捨てる様に言った。

 

「わからねぇ、『死神』か『冥府の火』か、それ以外か……」

 

 その言葉に間髪入れず問いかける。

 

「死神って?」

 

「……英雄だ」

 

 少し考えるように答えた彼に、違和感を感じつつ質問を続ける。

 

「冥府の火って?」

 

「……何かの組織だ」

 

 ハッキリ答えない彼の様子に疑問を持つ。しかし、聞かねばならない。大事な事だ。

 

「……死神の能力は?」

 

「……」

 

 不自然に会話が途切れる。英雄の怒気を肌で感じる。

 自然でいて、荒々しい魔力が彼を中心に吹き荒れているのを感じる。

 軽く混乱する。一体どうしたのか、彼は何を考えているのか。

 そして彼は敵なのか、味方なのか。

 

 思わず拳を握り、馬岱さんの襟を掴む。

 ──彼と会ったのは危険と言われた森だった。

 ──彼に連れられて行った場所で敵に襲われた。

 ──彼は、『英雄』で、大輝もまた『英雄』だ。

 勘違いかもしれない、でも、それでも。ハッキリさせないといけない。

 

「答えて!!」

 

 馬岱さんが拳を握る。その手から血がこぼれるのも構わずに。ただ、怒りを込めてその腕を振り上げる。

 

「……わからねぇ。……わからねぇんだよ。俺じゃ!」

 

 

 

「馬岱!」

 

 声がした、ボク達の後ろから。

 低く、それでいて誰かを愛せる声が。

 

 馬岱さんの手が止まる。

 その手を握るのは、灰色のリストバンドをした青年の手。

 

「血が、出ている。落ち着け」

 

 鋭い目を心配そうに光らせた、彼が傷ついた英雄の腕を止めていた。

 

 ●

 

 セ──────フ! 

 

 いや、危ない所だった。

 情けなく気絶した俺なんかのために、二人が喧嘩するのなんて見てられないし。俺も無事では済まないだろう。

 

 そもそも、あの時は寝不足からか、空腹からか最悪の方向に思考を進めたが……

 ……魔物がいるんだ。アンデットだって居てもおかしくない! 

 そもそもあそこは墓地、むしろ動死体は通常モブだろ! 

 ──そう思い込んだ。

 

 あー本当に情けない。

 それより今は2人を止めるのだ。

 もしコイツらが居なくなったら、ゾンビがいる疑惑の町が、不思議パワーマシマシの霧とやらで脱出できないままになってしまう! 

 そうなるまえに先ずは……

 

「大輝!!」

 

 レッドが俺の胸に飛び込んでくる。

 

「悪りぃ……取り乱した」

 

 馬岱がバツが悪そうに顔を背ける。

 

 なんとも言えない雰囲気だがもう二人は争う気は無いらしい。

 抱きついてきた少女を撫でながら、俺は一つ思う。

 あっさりしすぎじゃない?? 

 

 ○

 

 心配そうな大輝に、先ずは体を休めてといい含め。

 ボクは、武家屋敷の道場とも言うべき場所へ向かう。

 正直大輝の事が心配ではある。

 が、ボクらの『英雄』はあの程度もう乗り越えたらしい。

 それよりも一つ、確かめる事がある。

 

「来たかよ……」

 

 ボクが足を踏み入れるなり、座禅をしていた馬岱さんが声をかけてくる。

 ボクはそれを聞き流すと、彼にただ長いだけの木の棒を投げ渡す。

 

「構えて」

 

「ヘッ」と悪態をついた彼は木の棒を拾う。

 真剣な眼差しで。その頼りない槍を構える。

 ──違和感があった。

 彼と共に歩き、そして探索したあの時……

 

「いくよ!」

 

「ハァッ!」

 

 真っ直ぐに。

 そう。真っ直ぐすぎる一撃が、ボクの心臓に迫る。

 ボクは一刀目を槍の軌道へ滑り込ませ、その勢いに逆らわず身体を回転。

 続く二刀目で彼の首を狙う。

 

「チッ……!」

 

 しゃがむと同時に槍を手放した彼は、低姿勢のまま斜め前に駆ける。

 大きく踏み込んだかと思うと、空中に浮いた槍を掴み無理矢理反転。

 薙ぎ払う様にその槍を凪いだ。

 

「甘い……よッ!」

 

 ボクは、それを木刀で受け止め、槍を蹴るように後ろへ跳躍。

 構え直し、重心を下へ。

 地を滑るようにして、彼の周りを駆ける。

 馬岱さんはめんどくさそうに頭を掻くと、大股での踏み込み。

 ボクの走る軌跡に槍を薙ぎ払う。

 

「……オラァ!!」

 

「!!」

 

 ボクは目の前に振るわれた槍に、勢いを乗せ木刀を叩きつける。

 軌道を逸らし、上に跳ぼうとして、あまりの衝撃に腕が痺れる。

 ボクは静かにその手を離した。

 

「カラン」と言う乾いた音が二つ。

「チッ」っと不機嫌そうな声が一つ。

 それを聞き、ボクは苦笑いと賞賛で返す。

 

「上手い。 力もある。 技術もある。 咄嗟の判断は並の人間以上だろうね」

 

「そうかよ……」

 

 不機嫌そうな彼は続きがあるんだろとばかりにこちらを見る。

 

「でも、荒い。そして真っ直ぐすぎる」

 

 ボクが断言すると少し辛そうな顔で彼は返してきた。

 

「わかってた事だ」

 

 その言葉にボクは確信する。

 

「その技。そして力。君のものじゃ無いんだね」

 

「あぁ」と彼が返す。やはり、と思った。

 ──初めて会った時、彼は『名乗っている』と語った。

 ──共に歩く時、時々明確な隙があった。

 ──共に霧を晴らした時、力任せに槍を振るっていた。

 

 その小さな違和感は『英雄』と言い張るにはあまりにも大きかった。

 彼が扱うのは槍だ。

 それも先端に刀のついた。

 槍とは繊細だ、立ち回り次第で間合いを失ってしまう。

 刀とは繊細だ、一つ間違いで簡単に割れてしまう。

 そのどちらもが、彼の豪胆な性格に噛み合わず。明らかな矛盾を生んでいた。

 

 そう、彼は。『英雄』では無いのだ。




第六話 いかがだったでしょうか。
著者は戦闘描写が難しかったです。
ただ、それなりに盛り上がる話しになったかなと思います。

今話は馬岱さんについて、情報が出てきましたね。
主人公達より先に、周辺情報が深掘りされる仲間…
実はこれがこの小説のスタンダードになります。
是非とも設定を予想しながら、物語を読んでいただければ幸いです。

それでは、また次話をお楽しみに!

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